申し訳ございません、今日ご飯作りたくありません《週刊READING LIFE Vol.303 面白い反省文》
*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
2025/4/7/公開
記事:パナ子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
車に戻ってきた兄弟が、助手席に置いてあったビニール袋の中をのぞいてテンション高く声を上げる。
「やったぁああああー!! きょうセブン飯!?!?」
うん、まあね、ははは……私は相反する感情のなか、乾いた笑いで応えた。
セブン飯(めし)とは、我が家の兄弟が勝手につけたネーミングだ。
二人が通う「くもん」がある日、ごくたまに、教室のそばにあるセブンイレブンで夕飯を買い込む。
いっ、いや……ち、違うんですよ。
本当、ごくごくたまに……の話ですよ??
いつもはね、ちゃんと、家族の健康を考えて料理してますから!!
本当ですってば!
誰に何を言われたわけでもないのに、どうも責められている気分になるのはなぜなのか。
自他共に認めるズボラ主婦の私でも、いにしえから継承されている日本人特有の勤勉DNAがきっと体内で暴れているのだろう。
などと言いつつ、セブン飯という最強カードをいつ出すか密かに狙っている私がいるのも、これまた事実なのである。
授業参観などの行事で午後の自由が拘束された、夫が出張で今夜は帰ってこない、今日は金曜パァーッと華金の気分を味わいたい……
これだけ条件が揃ったら、もう行くしかないっしょ! てな感じで、私は勤勉DNAを抑え込み、最強カードを切るのだ。
はい、もう正直に言いますと、家族のご飯を作るのが面倒くさくて面倒くさくて仕方ない時があります。本当に申し訳ございません。どなたでも構いません、誰かうちの夜ご飯作っていただけないでしょうか?
そんな気分の時、どっしりとした貫禄で降臨なさるのがセブンイレブンに始まるコンビニ様なのである。その姿には後光が差していて、思わず目を瞑るほど眩しい。
兄弟たちがくもん教室にいる隙に、私はいそいそとセブンイレブンに入店する。
ピロピロピロ~。
入店を知らせる音も、心なしかいつもより軽い。だって、ここで「夕飯全買い込み」という荒技をキメれば、今夜私は一切台所にたつ必要がないのだ。そんな素敵な事ってあるだろうか。
店員に怪しまれないくらいのルンルンとした足取りで店内を物色する。
お肉が大好きな次男のお気に入り「冷たいまま食べるチキン南蛮」をカゴにいれる。この商品は熱々の白ご飯にのっけて食べたらおいしい。温める手間もいらないなんてズボラ主婦を感涙させにきているとしか考えられない。
野菜大好き長男のためには「たことブロッコリーのバジルサラダ」を選んだ。これがまたオシャレな味で舌を楽しませてくれる。他にもお腹にたまるよう焼き餃子やたんぱく質が摂れるサラダなんかをカゴに入れてレジに並ぶ。
支払いを待つ私の耳元にアイツの声がささやくように聴こえてきた。夫だ。
(パナちゃん? お金って使ったらなくなるんだよ……なくなるんだよ……なくなるんだよ……)
わかってる! ごめんて!! エコーやめて!!
脳内で詫びる。
浪費癖のある私に、夫が過去実際に言った言葉だ。ごもっとも過ぎてぐうの音も出なかった。計画的かつ丁寧で慎ましい暮らしを心掛ける夫が、コンビニの総菜でいっぱいの買い物カゴを見たら何と言うだろうか。想像するだけでも怖い。
コンビニの商品はすぐに食べられて便利な反面、やはり値段は高い。しかもこの物価高も相まって、コンビニの商品はおにぎり一つとっても値上がりする一方だ。
実際、レジにて表示された金額を見たら、今度は後光とは違う意味で目を瞑りたくなった。
でも今日は、日頃の家事から解放されて華金を楽しむと決めているのだ。許してくれ。
シャラ―――――――ン。
キャッシュレス決済の音がレジで響く。
楽はしたい。でも高い。家で手作りした料理に比べて栄養価はどうなのかと問われれば少し言葉に詰まるところも確かにある。しかも、兄弟が手放しで喜ぶ姿をみると(おい、お母さんのご飯とどっちが好きなんだい)と少々の不安に襲われるという気持ちもある。
だがしかし、この混じりあった複雑な感情も、清らかなシャランの決済音は全て消し去ってくれた。さて、帰るか。
兄弟を連れて自宅に戻ると、早速リビングのテーブルに本日の戦利品を並べていく。
うんうん、いいじゃない。企業努力の賜物である黄金に輝くお惣菜たちを美味しくいただこうじゃない。ビール缶をシュポッと開けて私は華金の気分を思う存分味わったのであった。
作りたかったら何か適当に作ればいいし、面倒な時はどこかで食べて帰ろっと。
一人暮らしだった頃は、ズボラで気まぐれな私にとって天国のようだった。
結婚し夫や子供に食事を作るようになって約十年、料理は楽しい一方で多少の義務感は否めない。仮に一日2食を作るとして一ヵ月で60食、一年だと720食を作ることになる。改めて主婦ってすごいなと思う。
だが、毎日の献立や買い物に苦労する多くの主婦を救う男が、実は日本にいる。
それが料理研究家の土井善晴(どいよしはる)先生だ。NHKの「きょうの料理」など長年に渡りテレビ出演も多数で、ご存知の方も多いのではないだろうか。
土井先生は両親揃って料理研究家であり、まさに料理界のサラブレッド。ご自身もフランスや日本で修行を積まれたのちに独立された。優しい関西弁が耳に心地よくファンも多い人物だ。
父の勝氏が提唱していた「一汁三菜」を、「主婦にとっては重荷やないか、家庭料理はもっと楽で簡単でいいんや」と、『一汁一菜』という提案をした。
主婦にとってなんと優しく大胆な提案だろうか! 土井先生は具沢山のお味噌汁にご飯、それに少しの漬物があれば、それでいいとおっしゃっている。プロが言う「もっと簡単でいいよ」は本当に嬉しく肩の荷が降りる。
しかも、ここからがすごい。
「だしなんか取る必要ないんですよ」とのたまう。
先生いわく、肉、練り物、野菜なんでも水の中で煮れば、それが旨みのある水溶液、いわゆるだし汁になるのだから改めてだしを取らなくてもいいよという考えなのだ。
実際に土井先生がみそ汁を作っている動画がYouTubeにあがっているが、プロセスは小学生でもわかるほど簡単で、しかも出来上がったものが本当においしそうなのだ。その時はピーマンを種つきのまま入れたり薄切り肉を入れたりして煮えたら味噌をといていた。最後に卵をポトンと落とす。お椀いっぱいに盛られた具沢山のみそ汁は湯気と共にエネルギーを放出していた。あれを一杯食べれば元気が出るだろう。
そういう事でいいのだ、毎日の食事はきっと。
土井先生の上品で温かみのある関西弁と、簡単なみそ汁を見て、私はまた頑張ろうという気持ちになれたのだった。
さて、各自お気に入りのセブン飯をたいらげ、ご満悦の兄弟と、今日は完全にご飯作りから解放されて気が休まった私。あとは風呂に入って寝るだけだ。
土井先生の影響を受けて、これからは毎日簡単でもいいから料理をするかと言われたら……そこはごめんなさい。
休みがないと言われる主婦だからこそ、月に一度くらいは晩ごはん作りを断固拒否してコンビニのもう既に出来上がったお惣菜をありがたく利用させていただこうと思う。
手作りする日と既製品利用の日、ハイブリッド精神で主婦業を乗り切っていくのだ!
□ライターズプロフィール
パナ子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
鬼瓦のような顔で男児二人を育て、てんやわんやの日々を送る主婦。ライティングゼミ生時代にメディアグランプリ総合優勝3回。テーマを与えられてもなお、筆力をあげられるよう精進していきます!押忍!
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