どうせなら、いっそ覚悟を決めて潔く進めたらいいのに。《週刊READING LIFE Vol.31「恋がしたい、恋がしたい、恋がしたい」》
記事:藤原華緒(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
「なんかさ、みんな疲れてるよね……」
40歳を過ぎたころから、なんとなく友人たちとそんな話をするようになってきた。
子育てや仕事、その他さまざまなしがらみや人間関係、そんなことでみんな疲れている。
私もなんとなく毎日会社に行って、仕事をしてなんとなく帰ってきて。
それでも1週間はまたたく間にす過ぎていくし、その流れで1か月、半年、1年があっという間だ。
先日、テレビを見ていたら「生活にときめきがないと時間の経過が早く感じる」というのを見てゾっとした。
時間の速さは、「心がどれだけ動かされるか」で変わるらしい。
私だって、うすうす感じている。
人生100年時代。
「このまま何かに心焦がすことなく、人生の終焉向かっていって本当にいいんだろうか?」
社会人になりたての時、オーストラリアでのワーキングホリデーから帰ってくるとき、私はとにかく仕事がしたかった。
なんだかよくわからないけれど、仕事が好きで、働いている自分のことも好きだった。
お給料うんぬんじゃなくて、自分が認められていくこと、自分の知らないことを知ることが楽しかったような気がする。
「あの気持ちはどこにいってしまったんだろう?」
そして、私は気がついてしまった。
もう一度、私は、仕事に恋をしてみたいのだ。
仕事に恋い焦がれてみたいのだ。
先日、10年ぶりに前職の後輩に会った。
もともと独立志向があって、自分の会社を作りたいということは言っていた。だから、いつかはやるんだろう、と思ってはいたのだけれど、自分の会社を起こして数年。元来、行動力の塊みたいな人だったし、フットワークも軽くて、私が持っていないものをたくさん持っている。そして、シンプルに、自分のやりたいことに突き進み、軽やかに自分の目的を達成しようとしている。そこは10年経っても変わっていなかった。
そう、彼はまさに仕事に恋をしている状態なのだ。
それも、ずっと変わることなく。そして、傷つくことも恐れず。
「失敗したら、失敗したでまたやり直せばいいですしね」
恋をするということは、相手の気持ちが離れていくかもしれない」いうリスク、もしくは、自分の心がそこから離れていくかもしれないリスクを常にはらんでいる。
そしてその時には、必ず何かしらの痛みが伴う。
年齢を重ねるにつれ、この痛みがだんだん怖くなっていく。
どうしたら失敗しないかもなんとなくわかっているし、失敗したときのリスクやそこからどれぐらいの熱量をかけて自分が復活していけるかもなんとなく経験値でわかっている。それが大人というものなのだし、そうあるべきだとも思うのだけれど、その分やっぱり怖くなっていくのだ。あのフットワークの軽さがなくなっていくのだ。どんどん重くて動きにくくなっていく。
でも、だけど、それでも。
私がこのライティング・ゼミを始める時、課題の提出をちゃんと続けられるかどうか自信がなくて、相談した人に言われたのがこんな言葉だ。
「できなかったとしても死ぬわけじゃないし」
そう、確かにそうなのだ。
相手の心が離れていっても、自分の心が離れていっても命までは取られない。
別に死ぬわけじゃないんだと思えば、なんだってできそうな気がする。
どこかの本のタイトルにあったとおり、究極を言えば、「死ぬこと以外かすり傷」なのだ。
この言葉を聞いて、私はライティング・ゼミをスタートした。
彼以外にも、私のまわりにはいつも仕事に恋をしている人がいる。そして、最近はよくそんな人たちに出会って話をする機会に恵まれるのだ。みんな仕事を通して、人生を楽しんでいる。もちろんそこにはつらいことだってたくさん起こるのだろうけど、どこかで少し何かを少しだけ楽観視しているから軽やかに進んでいけるのだと思う。
……グダグダこんなことを書いてしまったのだけれど、実は私は今、仕事という恋に落ちてしまいそうなのだ。
この文章は自分の弱さが書かせたブレーキ。「このまま落ちてしまいそう、だけど、大丈夫かな、私。また体を壊してしまったりしないかな」
そんな弱い自分が書かせている。
いっそ覚悟を決めて潔く進めたらいいのに、ここまで書かないと恋に落ちてしまうことを自分に許可できない。
でも、その一方で私は知っている。
恋はしたくてするものではなくて、突然そこに落ちてしまうものなのだと。
「恋がしたい! 恋がしたい! 恋がしたい!」
私は、いま、これから出会うかもしれないその仕事に、恋焦がれている。
❏ライタープロフィール
藤原華緒(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
1974年生まれ。2018年より天狼院書店のライティング・ゼミを受講。20代の頃に雑誌ライターを経験しながらも自分の能力に限界を感じ挫折。現在は外資系企業にて会社員をしながら、もう一度「プロの物書き」になるべくチャレンジ中。
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。
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