週刊READING LIFE Vol.31

恋の歴史は黒歴史《週刊READING LIFE Vol.31「恋がしたい、恋がしたい、恋がしたい」》


記事:西後 知春(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
※この記事はフィクションです
 
 

恋といえば、桜と同じようなピンク色。
恋をしているときに見えている私の風景の色、ピンクフィルターともいうそうだ。
「先生、彼氏いたことあるんですか?」
生徒に聞かれる。
現在、未婚であること、子供もいないことと彼氏がいないことも生徒には言っている。
だから、彼氏がいない、いたこともない、まるで生娘のような存在だと思ってしまうようだ。
もちろん、キスもしたことないような。
中学生、ちょろいな。そう思う。
 
中学校の教員をしている私のような40歳過ぎても結婚していない人を、奇異の目で見てくる。不思議な存在のようだ。
中学生の頃は私だってそう思っていた。
30歳過ぎて結婚もしないなんて頭おかしいんじゃないか、くらいに。
 
「勉強は嫌いだから、中学校卒業したら就職する。」
そう、豪語していた私は見事に自分の予想を裏切る人生を現在、送っている。
ハタチくらいで結婚して、24歳くらいまでには一人くらい子どもが欲しいな。
勉強は嫌いだから、もうしなくてもいい。そんな安直に。
 
「高校くらいは行っておけ。」
そう両親に言われて、大ゲンカ…するわけもなく。争い事はあまり好きではない。
えー、嫌いなんだけど…。
そう思いつつ、高校を受験し合格。
高校に行く。これがすべての間違いである。
後悔することが今までにあるかと聞かれれば、高校に行かなければ違う人生だったかもしれない。それくらい、私にとって高校に行くことは自分に人生設計を大きく狂わせることになる。
 
中学生の頃、恋をしていた。
隣の席にいた男子。安直だ。
初めてきちんと話ができた程度だったように思う。それでも特別だった。
それまで好きな子はいたと思う。けれども、ちゃんと会話をするというよりも、アイドルが好きというように外見だけでその人を見ていたように思う。
話をするのが楽しい。嬉しい。
何もかもがピンク色に見える。
誕生日にプレゼントを渡して…もらった。自分で上げるのは恥ずかしい。だから友達に渡してもらった。クリスマスも。バレンタインも。手作りの手袋をあげた。
でも、使ってくれる様子はなかった。
こんなもんなんだろうな。そんな風に思っていた。
なんとなく風景がピンク色していたのが、グレーになっていった。
 
高校生になった。
告白してくれる人がいた。ちょっとかっこいい人。イイなと思った。だから付き合ってみた。
でも、恋愛のグチャグチャしたものを初めて知った。
私にその彼を紹介してくれた友達が実はその彼を好きだったというやつ。
あんまり、複雑な関係というのが苦手な私。
最初は彼氏ができた! っと喜んでいた。
最初は出会うと手を振ったり。友達のような感覚で。
楽しい。嬉しい。スキップしちゃう!
でも、その友達のこととか。いろいろあって。それは1ヶ月くらいのことでその後、なんとなく恥ずかしいという感覚に襲われる。
私、何かとっても恥ずかしいことをしていたんじゃないか? そんな感覚になっていく。
気付けば廊下ですれ違っていることも気がついていなかった。
北側にある廊下のようにどんどん暗い風景になっていく。
あれ。彼氏ができるってピンク色なんじゃなかったの? 全然違うや。
 
彼を紹介してくれた友達に「もう彼と別れな」と言われた。
なんで? と聞くとその友達が言った。
「彼は他に好きな人ができたみたい」
なんとなくショック。今思えば当たり前だ。
廊下ですれ違って無視するような彼女なんていらない。
話をしようとしても避けていく彼女。私が男なら欲しくない。
そして、別れた。
後日、聞くとその一週間後に彼は、好きな人に告白していたらしい。
うわ。なんか、私って恋愛向いてないのかも。
風景が色褪せていく。
そう思って勉強にのめり込んでいった。
そして、私は数学とともに生きるべきであると勘違いをする。
 
大学に入った頃、恋をした。
同じ下宿のような場所にいた人に。
その人とは、ちゃんと付き合うことができた。
風景はピンク色だけじゃなかったからだ。
5年付き合って、就職のために離れることになった。遠距離恋愛。
「束縛はしないことにしよう」
そう彼に言われたが、離れるつもりはなかった。でも、就職して社会人劇団にも入り、毎日がやっとで忙しくなっていった。
「こっちに来る?」
と言われても、なんとか仕事も演劇も軌道に乗り始めた頃だ。行けるはずがない。
行かないことを決めた。でも、なんとなくズルズル。
 
夢を見た。
彼が「別れよう」と言ってきたのだ。
なかなか自分でハッキリ言えるタイプではない彼だから、何かが伝わって夢を見たのだろう。
「彼女、できた?」
「うん。実はそうなんだ」
そうして彼と別れることにした。
 
かれこれ8年その彼とはズルズル続いていた。
もう、恋はいいや。お腹いっぱい。私には向いていない。
そう思って仕事と演劇に夢中になっていった。
 
恋愛が絡んでくると、仕事がままならない状態になってしまう。
それこそ、スキップしてしまうほど宙に浮いてしまう。
ドラえもん。
そう、気分は5センチ浮き続けているドラえもんのような状態になってしまうのだ。
頭が働かなくなる。何と言っても四六時中彼のことを考えてしまうからだ。
 
仕事が面白くなってきた。
ちょっといいなと思う人は、彼女がいたり、奥様がいたり。
彼女たちが作ってきたカッコイイ人を見ているのだろう。だからカッコよく見えてしまうのだろう。そう思うようになっていった。
 
「幸、薄そうだよね」
働いていた時に同僚にそう言われた。
ムッとしたものの、確かにと思ってしまった。
その頃、またしても三角関係という恋愛のグチャグチャに巻き込まれていたからだ。
三角じゃないかも? 四角? 五角? そのくらいのグチャグチャだ。
恋愛のグチャグチャは、好きじゃない。でも、なんでだろう? そういう時、男の人ってまんざらでもないような態度が多い気がする。
ハッキリせい! 言い切ってしまいたいが、好きだという感情が邪魔をする。
 
なんか、邪魔だ。この感覚。好きって気持ちが。
仕事もままならなくなるし。ご飯が食べられなくなりそうだ。
病気をしたこともあって、恋愛から遠ざかっていくようになっていった。
 
私は一人で生きていこう。そんな人生があってもイイはずだ。
別に一人きりで生きていくわけではない。誰かと繋がっては行けるはずだ。
結婚は、人生で一回できたらラッキーかも。
そう思って生きてきて40歳を過ぎた頃、そのラッキーもないかもと思い始めている。
どうにもドラえもんになってきた。見た目が。
 
中学生の頃に好きだった人に去年会った。
フェイスブックで繋がって、ちょうど二人とも東京にいることだし。
会って、話をして。
ピンク色を予想していったのに、そうじゃなかった。
昔の恋をしていた頃の話をしていてもピンク色じゃなかった。
どうやら両思いだったらしい。それはわかった。
手袋は学校外で使っていてくれていたらしい。
でも、なんだかまたあの、恥ずかしいという感覚に駆られてしまったのだ。
そして、あたりの景色がまたグレーになっていったのだ。
まさしく黒歴史というのはこういうものを言うのだろう。
ピンクの楽しい感じじゃないや。
「また飲もうね」
と言って連絡しなくなってしまった。
 
素敵だなっという人には出会う。でも、もうハッキリ言ってわたしはおばちゃんだ。
「付き合って」なんて恥ずかしくて言えない。見た目、ドラえもんだし。
ちょっとイイなと思う人には、素敵な恋愛をしてほしいと思うし、家族を作ってほしいと思う。同僚が産休や育休を取っているのを見ると、わたしの分まで頑張って未来そのものである子どもたちを丈夫に育てていってほしいと心底から思うようになった。
 
女性は父親のような人と結婚するとうまくいく。そう聞いたことがある。
私はそんな人とは出会えないような気がする。
父も母もべったりだった。アツアツだった。子どもである私の前でも。
父親のような男性には出会えないだろう。
私の両親はものすごい喧嘩をしたこともあった。
離婚になるのではないだろうかというほど子どもたちである私たちの目の前での大ゲンカだった。そんなことがあっても。
「一週間口聞いてあげない」そんな風に母が言っても。
なんだかんだ仲良しだった両親。
私が実家に帰ると、途端に喧嘩を始める両親。
何かと私を味方につけたがる二人。なんだかめんどくさい。
父が亡くなって。「置いていかないで!」と棺桶にすがった母。
それくらいの人とは出会えないだろう。
 
多分、私は「置いていかないで」ということを人前では言えないだろう。恥ずかしい。黒歴史だ。その感覚の方が先に来る。
 
なんだかんだと勉強は向いていないと思っていた私が。
勉強を教える仕事をしている。
夫も子どもも作らない人生を選んでしまった。それでも後悔はしていない。
勉強も楽しい。
それでも、いつかまたあのピンク色した景色、ピンクフィルターをまたもう一度見てみたいと思っている。
 
 
 

❏ライタープロフィール
西後 知春(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

北海道生まれ。
大学卒業後、数学の教員になる。
私立の高校から始まり、北海道の教員、青森県の常勤講師。
そして40歳を過ぎてからの上京。そして教員生活を続けている。
現在は、映像関係と文章を書くことについて勉強中。
 


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2019-05-06 | Posted in 週刊READING LIFE Vol.31

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