週刊READING LIFE vol.315

“普通”に憧れて、生きづらくなった私が見つけた幸せ《週刊READING LIFE Vol.315 『普通』って何だろう?》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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2025/7/17/公開
記事:アオノスミレ(READING LIFE編集部 ライターズ倶楽部)
 
 
子供の頃から、私はずっと憧れていた“普通の家庭”に。
 
私には生まれた時から、父親がいない。なぜなら、私の母は未婚で私を出産したからだ。今でこそ、芸能人が未婚で出産したり、夫婦別姓を貫くための籍を入れないパートナーシップなどで、“未婚の母”は珍しくなくなりつつある。
 
うーん、でもそれも都市部だけの話であろうか。
 
とりあえず言えるのは、40年近く前の保守的な地方都市では、“未婚の母の子供”はとても肩身が狭いと言うことだった。
 
そもそも、バツイチのシングルマザーの段階でかなり珍しかった。一番、辛かったのは、小学校時代。家族の絵を描くと言う宿題で、家族の絵を描く時。他の子は、お父さんとお母さん、兄弟たちの絵を描く。離婚家庭の子だって、離れて暮らしているお父さんの絵を描いていた。
 
しかし、私は父に会ったことがない。会ったことがないだけではなく、名前も知らなければ、どんな顔をしているのかすら知らない。私の家族の絵だけ、私と母の2人だけしか描かれていなかった。
 
明らかに、他の子と違う自分の家庭が嫌で嫌で仕方がなかった。だから、私は思った。
 
「大人になったら、絶対に“普通”の家庭を作るんだ」
 
 
 
そんな経験から、私は人一倍“普通”に、こだわるようになった。進学先だって“普通”を選んできた。偏差値の高い有名な高校、大学にないっておけばなんとかなるだろう。就職先だって、安定したそこそこの“普通”の会社に入っておけば間違いない。そう思って生きてきた。
 
ただ、“普通”に生きる上で、一つ困ることがあった。それは私がオタクであったと言うことである。
 
今でこそ、アニメやコスプレなどのオタク文化が、一般的になってきたが、30〜20年前の地方都市では全くそんなことはなかった。ハロウィン文化の広がった現代日本では、コスプレなんて珍しくないが、20年くらい前はスーパーアングラな世界だったと思う。
 
オタクなんて“普通”じゃないと思った中高時代の私は、自分がオタクであることをひた隠しにして生きることにした。
 
アニメの話で盛り上がっているオタクの子達を見ると、仲間に入りたいなと思ったこともあった。しかし、“普通”になりたい、“普通”に生きたいと思っている私は、どうしてもその輪に入ることができなかった。正直、とても楽しそうで自分の大好きなアニメキャラについて話したかったのに。
 
好きな歌は、某アニメの主題歌なのに、人気アーティストの曲と偽った。服も化粧も、自分が好きなデザインのものではなく、周りからいかに浮かないかを考えた無難なものになった。
 
“普通”にこだわりすぎると、“自分”と言うものがなくなってくる。
 
「自分がどうしたいか」ではなく、「どうするのが普通か」をまず考えてしまう。
 
これが続くと、自分が何したいのか分からなくなってくるのだ。
 
 
 
それが変わったのが、夫との出会いである。夫とは婚活中に結婚相談所で知り合った。何かというと「どうするのが“普通”か」を考える私が選んだ“普通でない”相手だ。
 
お見合いの時に、白いスーツでやってくるのも意味が分からない。後に、この白いスーツは、機動戦士ガンダムに出てくるシャアが着ているのに似ていて、かっこいいからという理由で着ていたと判明した。しかし、お見合いの場所にアニメのキャラと同じ格好で現れるというのは、“普通”ではない。
 
初めてのデートの時も、ボロボロの赤いスエット上下にサンダル姿で現れ、私の度肝を抜いた。夫は“超”のつくゲームオタクだ。基本的に家でずっとゲームしている。そのため「会社行く時のスーツとお見合いの時のスーツ以外で持ってる服はこれだけ」とのことだった。究極のミニマリストだ。正直「ユニクロで適当な服を買って来てこいよ」と思った。しかし、本人が「ユニクロだなんて、あんなにおしゃれでキラキラした店に俺は入れない」と言っているため、それは無理な話だった。
 
デートで行く先も、アニメショップ・ゲーム屋・ゲーセンであった。だいぶ、“普通”のデートから離れている。
 
私は“普通”がいいのに、なぜにこう“普通”から外れた男子といる方が居心地がいいのか?
段々、“普通”がなんだか分からなくなってきた。
 
進学、就職と無難で普通であることを目指して進んできたが、結婚という大事なイベントで、“普通”でない相手を選び、“普通”から外れてしまった。
 
 
 
なんでそんなに夫が良かったのかなと、今でも考える。
 
超”のつくゲームオタクの夫は、ボードゲームでもカードゲームでも、ゲームと名のつくものはなんでも強い。長年やっているオンラインゲームの仲間からは、「気持ち悪いくらいゲームが上手い」と評判である。同じくゲーム好きの人々からは、“ヤバいくらいゲームが上手い男”として尊敬を集めている。
 
私は、オタクは恥ずかしいものと思っていた。しかし、夫はそんなオタクである自分を恥じることもしなければ、隠すこともせずに堂々としている。
 
その堂々と自分の好きなことを貫いてる姿は、確かに魅力的だ。
 
そして、オタクというものにとても良くないイメージを持っていたが、夫と夫のオタク友達を見ていると、そんなことはないのかもしれないと思えるようになってきた。
 
オタクと呼ばれる人たちは、凝り性で何かを極めようとする人が多い気がする。だからか、夫のオタク友達は難関国家資格を持っていたり、手先の器用さを活かし繊細な作品を作るアーティストとして活躍していたりする。
 
 
 
人間にはいろんな面がある。その人を理解するには、一つの面から見るのじゃなく、様々な角度で見ることで、その人の“本当の魅力”が見えることもある。
 
“普通”と言うものは、誰かの一方的な視点で作られた幻想なのかもしれない。
 
親や周りの期待、世間の常識、SNSにあふれるキラキラした投稿たち。それに合わせようとするたび、自分がどんどん薄くなっていく。
 
今の私は、“普通”じゃない夫と一緒にいて、自分自身の「好き」や「安心できる感覚」を取り戻している。
 
夫と過ごす、オタク全開のゆるゆるな毎日。それは世間が言う“普通の家庭”とは違うかもしれない。でも、“無難”と“普通”から離れた今の生活は、とても快適だ。私は、人生で一番自分らしくいられているのかもしれない。
 
 
 
そもそも、“普通”ってなんだろうなと思う。
 
子供の頃は、お父さんがいて、お母さんがいる“普通”の家庭に憧れていた。でも、両親が揃っていれば“普通”なのかなと思うようになってきた。
 
両親が揃った家庭で育つのが“普通”と言うのだって、きっと誰かが作り出した幻想だ。
 
「多数派の意見」や「世間の基準」に合わせることが、“普通”なんだろうか?常識にしだがって「ちゃんとした」ふりをすることがそうなんだろうか?
 
それは今でもよく分からない。でも、今の私にとって“心地よく自分らしくいられる”今の生活が“普通”の生活だ。
 
子供の頃、周りと違う家庭で育ったせいで、人一倍“普通”にこだわっていた。“普通”に縛られていた。
 
しかし、夫と出会って“普通”じゃない選択をしたことにより、私は自由になった。やっと“本当の自分”に会えた気がする。
 
 
 
“普通”から外れたっていいのだ。私が今幸せなら、それが私にとっての“普通”だ。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
アオノスミレ(READING LIFE編集部 ライターズ倶楽部)
2025年1月にライティングゼミ、5月よりライターズ倶楽部に参加。
元・リケジョ。ずっと数式と戦ってきたけれど、今は文章の方が好き。
アニメと漫画、オンラインゲームが好きな超インドア派。
オタクの夫とゆるゆるまったりなオタク暮らし。

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2025-07-17 | Posted in 週刊READING LIFE vol.315

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