遠い異国の人々に思いを馳せる。 《週間READING LIFE テーマ ‘国際社会’》
*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
2025/7/31/公開
三輪 和泉(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
2週間の滞在を終えてインドから帰国する日、私はうんざりしながらインディラ・ガンディー国際空港(デリー空港)の一角の長い列に並んでいた。
不運にもランダムチェックに選ばれたのである。周りを見回すとチェックインの時に見た顔があちこちにいる。スーツを来た男性の日本人も見える。ここからどうやら性別・国籍は関係なく、私を含め一人旅が多かった。
一向に進まない順番にしびれを切らして前の男性が調査員は何人いるかと聞いたら、なんと一人。そりゃ進まないはずである。私が「これ終わったら選ばれた人は優先的に荷物検査を通れるの?」と能天気に聞いたら、普通に列に並べ(ここも長蛇の列)と言われて、件の男性と「えーっ!」嘆いた。
そういえば、入国の時にも時間がかかった事を思い出した。
インドは観光でもビザが必要である。このビザは電子申請も可能で、問題なければ数日で取得できる。
申請用紙に記載する内容が面白い。旧姓、宗教、学歴、婚姻状態、両親や配偶者の氏名・国籍・出生国、結婚の有無、会社名、役職などなど。まるで履歴書か身上書である。
無事ビザを発行してもらっていよいよ入国の時にも一波乱あった。
パスポートコントロールでパスポートやビザを確認されたり、顔写真とられたりする時に、指紋も取られるのだが、この機械がまぁ反応が悪いのだ。ヒマそうな係員が読み取り画面や指! を拭いたり、温めたりしても全然だめ。皆ワァワァ言いながら何度も試していた。
帰国して知り合いにこの話をしたら、最近アメリカへの入国が難しくなっていると言っていた。そういえばネットでも日本の若い女性が少人数で入国する際に、拒否されたり、別室に連れていかれたりするという記事を読んだことがある。以前からその傾向はあったが最近更にひどくなっているらしい。仕事でもない限りアメリカに行く気なんかないし、若くないし関係ないなと思っていたのだが、「そういえば。」と思いだしたことがある。私は海外旅行が好きで、特にハードな旅をよくしていた。旅先は以前は中近東ばかりだったが情勢が悪化してからはもっぱら南米を旅していた。変わらんだろ! の突っ込みもあるが。
私は名古屋に住んでいる。名古屋から南米へは20時間以上かかり、少しでも短時間で行くためにはアメリカ経由しか選択肢がない。アメリカへの短期旅行にはビザの代わりにESTA(ビザ免除プログラム)の取得が必要だ。トランスファーでも同じで問答無用で一旦入国させられる。
トランスファーのみならず、入国でも何も必要のない国が多いにも関わらずだ。
費用は21ドル。行きたくもない国に入国させられて、お金まで取られるなんてセキュリティのためとはいえまったく腹立たしい。そうやってブーブーいいながら仕方なくESTAを取得したにも関わらずアメリカに入国できないため、本当に行きたい目的地に行けなくなる可能性もあるなんてますますやってられない。
若い女性が入国を断られる理由は不法移民や売春目的と警戒されるからとのことだが、アメリカには住みたくないし、不法移民と思われるなんて失礼極まりない。しかし、そう思われるくらい日本も没落したのかな、治安も悪くなったしなと悲しくもなる。
日本のパスポートは2020年に世界最強と認定されている。世界最強とは世界191ヵ国にビザなしでの渡航、到着ビザで入国できるということで、私達は気軽にパスポートだけで旅行するのが普通と思っているが、それができない、渡航には様々な手続きが必要、場合によっては入国すらできない国があるということだ。何故かというと日本のイメージが良好だからとのこと。
それは海外へ行くと本当によく感じる。知らない我が同胞達よありがとうと思う。
以前カリブ海の国でクレジットカードで支払おうとしたら身分証明書を出せと言われた事がある。
この場合パスポートになるのだが、ホテルに置いてきてないと言ったら、「日本人?」と聞かれた。「そうだ」と答えると「じゃぁいいよ」と言われ、「え、そんなもの?」と驚いた事がある。
また、イギリスにホームステイに行ったときステイマザーから自分の家には娘がいるから、日本人の女の子しか受け入れていないと聞いた。日本人はマナーがよくて、大人しいからだそうだ。
イランでもビザは必要だ。しかも女性は単独で入国できず、現地の人からの招待状を持っているか、結婚していなければ入国できない。また女性は外国人でも髪を隠し、肌や身体のラインが出ないようにしなければならない。
私がイランに行った2002年は強権的とはいえまだ自由で、私が周った大都市では若い女性は髪を隠すと言っても本当にちょっとだけで、皆オシャレを楽しんでいた。濃い顔にガッツリメイクなので皆さんとても美しい。私は「なんでメイクしないの?」と聞かれたので、「してるよ!顔が薄いからわかんないんだよ!」と言ったことがある。またカップルをあちこちで見かけ、女性でも英語を話し、大学に通っていた。まぁ大学に通えるような人だから英語がしゃべれて、リベラルだからカップルでイチャイチャするんだろうけど。
イランではあちこちで声をかけられ一緒に写真を撮るように求められたりした。ちょっとした有名人になった感じで気分よかった。またイランでは男の子が産まれるとお祝いをするらしく、そのパーティーに参加しないかと声をかけられた。赤ちゃんを抱っこしろしろ! と言われたり、楽隊の人達にも一緒に写真撮ってと求められたりした。お酒! を持ち込んでいて、千鳥足で帰っていくのを見て、「大丈夫か」と心配しながら見送った。ヒッチハイクした時のドライバーは日本人に会えた事に興奮してずっとこっちを見て話しかけてくるから、「頼む前を見てくれ」とお願いした。
イランはサッカーが人気で滞在中に日本xイラン戦があって日本が負けた。おかげで皆「日本負けたね、でもいい試合だったよ」と満面の笑みで話しかけてきた。前日長距離列車のチケットを買う時、カウンターの人が何度もテレビの方に行ってしまい、一向に列が進まなかったのは、これか!と気づいた。ただその時出会った日本人と負けてくれてよかったねと話した。
シリアでもビザは必要だ。私は2003年にシリアに行った。私が泊まったホテルは現地で活動している日本人の遺跡発掘隊が利用するとこだったらしく、とても歓待された。
首都ダマスカスにはキリスト教地区がある。そこには小さい石造りの可愛らしい建物があちこちにあり、その中にマリア像が安置されていた。私が通りかかると皆がニコニコしながら中に入って見ていけとしきりに勧めてくれた。シリアは当時すでに強権的な政府に支配されていた。強権的な国の方が外国人を狙った犯罪が少なくある意味安全な印象がある。
ヨルダンでもビザは必要だが、アライバルビザ(入国する際に取得できるビザ)で良く、この恩恵に授かれるのは日本人やドイツ人といった限られた国の人達だ。
シリアからヨルダンにバスで陸路で入国した。
私の隣には当時アメリカと戦争をしていたイラク人のおじさん。ちらっとパスポートを覗いたら、フセインの写真が載っていた。その時既に政権は崩壊しており、このパスポートは有効なのかなと思った。
審査は問題なく済んでバスに戻ると隣のイラク人のおじさんが戻ってこない。
バスはそのまま出発するし、席でオロオロしていたらちょっと恥ずかしそうに微笑みながら戻ってきた。
どうして入国できるのだろうと不思議だったが、よかったねとこちらも微笑む。
ヨルダンに到着して、さぁホテルに行こうとしたら同じバスにいたラガーマンみたいなガタイのいい団体の一人が私の前に立ちはだかった。顔は真っ赤で、ちょっと震えている。何か言いたいのかなと待ったが、ただ震えているだけ。こいつに抱き付かれたら骨が折れるかもしれんし、結婚前の男女の交際には厳しいイスラム圏、ちょろいと思ってそのまま立ち去った。私達の真ん中で一部始終を見守っていた彼の連れがぷぷっと笑っていた。
ヨルダンはインディ・ジョーンズのロケ地にもなったペトラ遺跡と死海が有名。
そこへ行ったときのガイドはパレスチナ人だった。
ここでもやっぱり「日本人って大人しいよね。なんでアメリカにノーと言わないの?」と質問された。
ヨルダンは街中に遺跡が普通にあり、市民の憩いの場になっている。
そこでチャイを飲んでいたらまた囲まれて、当時まだ若かった私は色んな人に結婚を申し込まれた。そしてみんな名前はフセインだった。「フセインって名前、多いんだよね」とおばちゃんが笑ってた。
ヨルダンではシーシャ(水タバコ)を買った。
「いいとこない?」とホテルのオーナーに聞いたら、日本人だとボッタくられるからと働いていた子を付き添わせてくれて、無事に正規価格?で買うことが出来た。
持ち歩いていると周りの人達が喜んでいた。
ミャンマーでもビザは必要だ。私がミャンマーに行った2003年当時は軍事政権下でアウンサンスーチー氏が海外に亡命していた。
ミャンマーの車は日本と同じ左ハンドルのため日本の中古車がいっぱい走っていて飛行機を降りてから空港施設までの移動も日本の市バスだった。これで日本まで帰れたら面白いなと思った。
ミャンマーは日本軍が占領していたため、当時の日本軍が残していった日本紙幣の印刷機で古い紙幣を印刷しては日本人観光客に売っていた。つい買ってしまったけど。
フラフラ歩いていたら日本語を教えているミャンマー人の先生に声かけられ生徒さんに合わせてもらった。高校生くらいかな皆キラキラしてお行儀がよかった。
現在はもっとそうだが当時でも弾圧は厳しく、外国人との接触も見張られていた。インターネットは検閲され、新聞は1紙のみでしかも2枚。
人々は軍事政権への批判を周りに誰もいない所で英語でそっと話してくれた。
ちなみに生活が困窮してまともな教育や食事を受けられないミャンマーでは親は子供を出家させる。お坊さんだと英語といった教育を受けられ、食事もとれるからだ。
ここまで読んで気づく方もいるだろう。私が行った当時よりも国際社会は更に混迷を極め、これらの国の多くは現在は気軽に渡航できない。外務省の海外安全ホームページを見るとイラン・シリアはレベル4の退避勧告、ミャンマーはレベル3の渡航中止勧告になっている。シリアでは丸ごと世界遺産のような美しい首都ダマスカスやオーガニックとかに興味がある人なら知っているだろうオリーブオイルだけで出来たアレッポ石鹸(髪から体まで全身に使える!)で有名な古都アレッポが爆破され、イランではイランの京都と言われている水の都古都イスファハーンも先日アメリカによって核施設が爆撃された。どこも私が訪れた場所ばかり。ミャンマーでは私が毎日フラフラと徘徊していた当時の首都ヤンゴンの外国人にも人気の場所で日本人ジャーナリストが射殺された。こんなはずではなかった。以前アラビア語を一緒に習っていた生徒さんがカダフィ体制崩壊後のリビアに旅行に行くと嬉しそうに言っていたのを聞いて、これからはもっと色んな国に行けるようになるのだろうと期待でワクワクした。世界遺産が好きな私は子供のころ本やテレビで見た世界中の色んな不思議なものを見てやるぞ! と意気込んでいた。なのに……。あの時出会った人、おしゃべりした(恋バナとか)、親切にしてくれた人達が無事にいてくれる事を祈り少しばかりの支援を送るばかりだ。
≪終わり≫
□ライターズプロフィール
三輪和泉:みわいずみ(READING LIFE編集部 ライターズ倶楽部)
名古屋在住。舞台役者を35年やっています。これでは食べていけないのでフリーのWebディレクターで生計を立てています。元エンジニア。Webディレクターがオンラインなのをいいことに舞台の合間に他拠点生活を実施中。日本を制覇したら海外も狙っています。ミュージカル出演を目指して歌にダンスに奮闘中
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