週刊READING LIFE vol.318

パンツ一丁で汗だくになったアラフォー女子が、人生で一番ときめいた話≪週刊READING LIFE「恥ずかしい人」≫


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2025/8/7/公開

記事:アオノスミレ(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

 
ある日の夏の夕方の話である。

パンツ一丁で汗だくになりながら“あること”をしていたアラフォー女子の私は、ときめきと恥ずかしさの間にいた。

え? パンツ一枚で何をしていたのかって?

大好きなゲームキャラのセクシーコスプレ服を着ようと、頑張っていたのですよ。
 
  

ずっと昔からしてみたかったこと、それは『コスプレ』である。

やりたいやりたいと思いながら、恥ずかしくて今までできなかった。

お腹周りがだいぶふくよかになってきたアラフォー女子が、果たしてコスプレなどやっていいものか。若くてスタイルのいい人しかやってはいけないものではないのか。そう思って、今まで手が出せなかった。

しかし、ずっと受け続けていたとある講座の卒業パーティがあった。そのパーティでは、受講生が思い思いの仮装で参加する。

一緒に受講している友達からも「コスプレするなら、今だよ」と背中を押された。
よしよし、せっかくのチャンスだ。コスプレをしよう。ここでコスプレをしなかったら、おそらく一生コスプレなんてしない。

私は覚悟を決めて、Amazonでコスプレ服を購入した。
 
 

私が購入したのは、某ゲームの女性キャラのコスプレ服だ。強くてかっこいい戦闘系のキャラである。

こんなに強くて、おまけに美人で……憧れないわけにはいかない。好きにならないわけがない。大好きでグッズまで集めた推しキャラである。

コスプレが恥ずかしいと言ったが、いい年してゲームキャラのグッズを集め、課金しまくるというのも恥ずかしいのかもしれない。

世間一般には恥ずかしいかもしれないが、推しへの愛は止められない。

さて、届いたコスプレ服の包みを開ける。そっとコスプレ服を持ち広げる。

ああ、これはまさしく推しの衣装。ただのコスプレ服なのだが、推しの服だと思うと、感慨深い。

早速、着てみる。

ただいま、猛暑の日の夕方。クーラーをガンガンにかけていても、暑い。

その中で、パンツ一枚になり、汗だくになりながら、コスプレ服と格闘するアラフォー女子。

なかなか、すごい絵面である。

感想は、着づらい。暑いであった。

そんなの当たり前だ。真夏に人工レザーのミニスカワンピに、膝上までのニーハイブーツは暑い。胸元と背中がばっくりと開いているが、それでも暑い。

コスプレ服なんて、着心地や着やすさなんて考えられて作られてはいない。大事なのは、デザイン。キャラの再現性。ただ、それだけである。

ふんっとお腹の肉を引っ込め、ミニスカワンピのチャックを上げる。余分なお肉をワンピースの中に押し込むことに成功した。ふっと安堵の息を吐く。

寒かったり暑かったり、コスプレする人って大変なんだろうな。

しかし、そんな不快な思いをしても、推しの格好をすると気分が上がる。
 
 

子供の頃、魔法を使って戦うアニメキャラにハマった。親から買ってもらったおもちゃの魔法のステッキで変身の呪文を唱えて遊んだ。あのステッキを持つだけで、自分も魔法が使えるような気分になって楽しかった。

ウキウキ、ワクワクするあの感じ。子供時代を思い出す。
あの頃は、自分が好きなことに恥ずかしいだなんて思わなかった。
堂々と魔法のステッキで、呪文を唱えていた。

「こんなことをしたら恥ずかしい」
「いい年して、こんな事をしてはいけない」

そんなことは微塵も考えなかった。
好きなものは好き。ただ、それしかなかった。

人の目を気にして、それを恥ずかしいと思う。
人はいつから、そう考え始めるのだろうか。
ふとそんなことを考えた。
 
 

コスプレ服を着て、ウィッグをつける。その他、小物をつけて鏡の前に立つ。そこには憧れのキャラの姿が映っていた。ゲームの中でしか会えない推しが、現実の世界にいる。私は感動した。……実物より、だいぶ横に広いという問題点はあるけれど。

もうすぐ夫が帰ってくる時間だ。この格好でお帰りーと出て行ったら、夫はどんな顔をするだろう。考えているだけで楽しい。

ピンポーンとチャイムが鳴った。

夫だと思い、ドアを開けると、そこには……佐川急便のお兄さんがいた。

(なぜ、このタイミングで宅急便が届くのだろう……)

さーっと頭の中が真っ白になった。しかし、佐川急便のお兄さんはプロである。おかしなコスプレ姿で出てきた女に対して動揺することもなく、いつも通り荷物を渡して帰っていった。

リビングに戻った私は、激しく動揺した。恥ずかしい。恥ずかしい。穴があったら、入りたいとはこのことだ。

しかし、よくよく考えれば、佐川急便のお兄さんに笑われたわけでも、「いい年して恥ずかしいですね」と言われたわけでもない。

佐川急便のお兄さんは、心の中で私のことを笑っているに違いないと勝手に思っているだけである。もしかすると、本当に笑っているかもしれないし、そうでないかもしれない。他人の頭の中は分からない。コントロールできない。気にするだけ無駄なのかもしれない。

そう思うと気が楽になってきた。
 
 

そして、玄関からガチャっとカギが開く音がする。今度こそ、夫だ!

玄関に走る。コスプレ服を着た私を見て、夫は固まった。文字通り、固まったのである。口を開け、目を開き、典型的な驚いた人間の表情で固まっている。

(あれ? 私のコスプレおかしかったのかな)

頭の中を不安がよぎる。うう、なんか恥ずかしくなってきた。

家に帰ってきたら、嫁がセクシーゲームキャラのコスプレで出迎えてきたら、そりゃ驚く。

固まっていた夫だが、ようやく状況が飲み込めたらしい。

カバンからスマホを出すと、私のコスプレ姿を撮影し始めた。

「可愛い、可愛い」「すっごい、いいよー」と言いながら、コスプレ写真を撮る夫。

のってきて、ポーズを決める私。家の中では、コスプレ撮影会が始まった。

ひとしきり写真を撮影し終わった夫は、私のコスプレ写真をオタク友達に送りまくっていた。

そんな写真送られた方だって、困るのではないか? 美人コスプレイヤーの写真だったらともかく、アラフォーぽっちゃり女子のコスプレ写真なんぞ、喜ぶ人間がいるのか?

しかし、夫はとても楽しそう、嬉しそうであった。

その楽しそうな夫を見て、今まで恥ずかしいと思っていたのがバカらしくなった。

恥ずかしいと言う気持ちのために、私は今までやりたいこと、面白そうだなと思うことを諦めてきた。

それって、とってももったいない。

恥ずかしいと言うのは、たぶん私が勝手に決めていたこと、思い込んでいたことだったのかもしれない。

恥ずかしさを捨てて、推しの姿になった私は、間違いなくときめいていた。

このときめく瞬間を忘れたくない。そして、これからもときめきたい。
 
 

さて、講座の卒業式の日。

私は、もちろんコスプレ姿で参加した。恥ずかしいなあと思っていたが、周りの人たちからは「可愛い」「かっこいい」と好評であった。

そして、私にコスプレを勧めてくれた友人は、花柄にフリルのついたとても女性らしいドレスで参加していた。いつもボーイッシュな格好の友人が、そんな女らしい格好をするのは、とても新鮮だ。そして、友人にとてもよく似合っていた。

「……おかしくないかな?」

恥ずかしそうに言う友人に、「全然、そんなことないよ」と言った。

そして、「もっと恥ずかしい格好している私に、そんなこと言わないでよー」と言って笑い合った。

自分が考えているより、世界は優しいのかもしれない。

何をするか、どうしたいかは、自分で決めていいのかもしれない。
 
 

私は恥ずかしかった。でも、だからこそ覚悟ができた。

コスプレって、ただ服を着るんじゃなくて、自分の“好き”を全力で表現することなのかもしれない。

そして、自分の“好き”に、恥ずかしいなんて思わなくていいのだ。

いくつになっても、好きなものは“好き”。それだけでいいのだ。

「いい年して」なんて言葉で封印しないでよかった。

私の人生、まだまだ遊べる。
 
 

❏ライターズプロフィール
アオノスミレ(READING LIFE編集部 ライターズ倶楽部)
2025年1月にライティングゼミ、5月よりライターズ倶楽部に参加。
元・リケジョ。ずっと数式と戦ってきたけれど、今は文章の方が好き。
アニメと漫画、オンラインゲームが好きな超インドア派。
オタクの夫とゆるゆるまったりなオタク暮らし



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2025-08-07 | Posted in 週刊READING LIFE vol.318

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