週刊READING LIFE vol.328

 運がいいとか悪いとか考える暇があったら待ってないで動けよ自分といってやりたい  《週間READING LIFE Vol.327「あなたは運がいい? それとも悪い?」》 


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

2025/10/16 公開

記事 : 志村 幸枝 (READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

 

たとえば風邪をひいたとき。「昨日隣の人が咳してたから、あれをもらった」と言う人。花粉症でくしゃみと鼻水が止まらないとき。「今日はいつもより花粉の量が多いから」と言う人。多少はいい。でもことさらに、もっともそうな顔で言う人。──私は、そういう人がちょっと苦手だ。全部を周りのせいにしているように聞こえるからだ。もちろんウイルスや花粉が引き金であるのは間違いない。でも、本当にそれだけだろうか? 寝不足だったり、夜遅くまで飲み歩いたり、ストレスを溜め込みすぎたり。そういう積み重ねで免疫力が揺らいでいた可能性だってあるはずだ。私は漢方相談の仕事をしているから余計にそう思う。免疫力って、結局は自分でつくるものなのに、と。

 

人は何かあると「環境のせい」にしたがる。風邪も花粉症も、仕事がうまくいかないのも、人生が思い通りにならないのも。最近では「親ガチャ」なんて言葉まで出てきて、まるで自分の運命を全部くじ引きで決められたみたいに言う。そういう話を耳にする度、思い出すことがある。

 

 

 

キッチンの片隅で芽を出し、さらに葉っぱまで伸びた玄米を見たことがあるだろうか。私はある。ハッとした。たった一粒の玄米がそこに生きていた。袋にガサッと入っているときは、「穀類の集合体」にしか見えなかった米粒。実は一粒一粒、ちゃんと命を抱えているんだと突きつけられた気がした。僅かな水と光。条件さえ揃えば、シンクの隅っこででもしっかり育ち始める。そういう逞しさに、ちょっとした畏怖を感じた。

 

植物の可能性って、そういうところにある。ツタンカーメンの副葬品から見つかったえんどう豆が、三千年の時を経て発芽したという話もある。物珍しさに、自分も買って豆ご飯にしてみたことがある。本当かどうかは知らない。専門家によると「科学的に疑わしい」とか「都市伝説だ」とか言うらしい。でも植物には「そんな気がする」と思わせる何かがある。乾いた土の中に眠っていた蓮の実が、水に浸されると芽吹くように。まるで可能性を封じ込めたカプセルだ。未来へのタイムカプセル。そう思わせるものが、植物には確かにある。

 

 

 

けれど、一方で動物はどうだろう。動物は動ける。芽を出すとか、条件が揃うまで待つとか、そんな悠長なことはできない。空腹なら動く。危険を察知すれば逃げる。愛する相手を見つければ近寄る。行動そのものが生存戦略だ。植物が「可能性を抱いて待つ存在」だとしたら、動物は「こちらから掴みに行く存在」だ。

 

ここで出てくるのが、人間が大好きな占いだ。動けるからこそ、人生の選択肢が沢山あるが故にすがりたくなるのだろう。星占い、手相占い、血液型占い、動物占い。挙げればきりがない。私が学ぶ中医学にだって似たような匂いはある。「陰陽五行」という哲学だ。占いも、中医学も根底ではこの哲学と繋がっている。身も蓋もない話だが、言ってしまえば、統計確率論だ。「当たるも八卦、当たらぬも八卦」とはよく言ったもので、この哲学にすべてを求めるのは間違っている。あくまでも、傾向を知る術であって、物事を決定づけるものではない。人間の身体だって「養生七分、治三分」なんていうくらい、自分の持ち分が大きい。つまり運がどっちを向くかなんて、最終的には「自分がどう動くか」にかかっている。そう考えるのが自然のように思う。動ける、というのはとんでもないことだ。条件が揃っていなくても、無理やり揃えに行けるのだから。

 

それでも植物だったらどうだろうか。条件が揃うまで、ひたすら待つしかない。誰かが水をくれるのを待つ。太陽が差し込むのを待つ。偶然の環境変化にすべてを委ねる。ツタンカーメンのえんどう豆のように、千年単位で眠り続けることすらあるかもしれない。可能性は秘めている。でも、待つしかできない。

 

 

 

「運がいい・悪い」という曖昧な言葉。だからこそ様々な解釈が生まれる。運がいい人とは、たいてい「動いている人」だ。石橋を叩きすぎて壊す人もいれば、叩きもせずに飛び込む人もいる。結果はまちまちだが、少なくとも動く人には、植物には絶対にないチャンスが巡ってくる。

 

では、動かない人はどうか。「私って運が悪いんです」と言う人ほど、だいたい動いていない。いや、厳密に言えば「動いていないふりをしている」。きっと怖いから。失敗したくないから。笑われたくないから。安全地帯に根を張って、「水と光が来るのを待つ」スタイルを続けている。

 

だからこそ、私は思う。「運をまっとうさせたいなら、動物らしく動いた方がよくない?」と。植物のように可能性を抱いて待つのは美しいのかもしれない。でも、動物として生まれたからには、動けることをフルに活用しなければもったいない。

 

結局、運がいいか悪いかなんて、自分で引き寄せるものじゃない。掴みにいくものだ。占いが示す何かに怯えるより、自分の足で動いてしまえばいい。玄米がシンクの隅で勝手に葉っぱを伸ばすように、自分の場所で勝手に動けばいい。条件なんて揃ってなくていい。揃えてしまえばいい。

 

そうやって動いた先で、「ああ、私って運がいい」と笑えるかどうか。それだけだ。

 

 

 

❏ライタープロフィール

志村幸枝:しむらゆきえ(READING LIFE編集部 ライターズ倶楽部)

京都在住の道産子。2025年1月より、ライティング・ゼミに参加。天狼院メディアグランプリ66th Season総合優勝。2025年5月より、ライターズ倶楽部へ。神戸で漢方相談に携わる。わかりやすいたとえ話で「伝わる漢方相談」をするのがモットー。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

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2025-10-16 | Posted in 週刊READING LIFE vol.328

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