週刊READING LIFE vol.329

育児ってまじで想像を超えてくる時あるからな~小1男子の恋愛スキル~ ≪週刊READING LIFE Vol.329「フリーテーマ」≫


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

2025/10/30 公開

記事 : パナ子 (READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

 

教室の前までやって来たはいいが、少々身構えていた。

というのも、前回、小学校に入学して初めての授業参観にウキウキワクワクで来てみたら、次男6才は最大の照れを発揮しているのか、「やっほー」と手を振る私をシカトしたのだ。

 

授業が始まる前の5分休みにお友達と連れ立ってお手洗いに行くときも、目の前を含み笑いしながら通り過ぎていった。

(おい! 無視すんな!)

 

君の大好きなお母さんやぞ。夜、寝るときは必ず「だっこ」と私を求めてくるくせに。

まあいいだろう。授業が始まったらお手並み拝見といこうか。

 

人生で初めての授業参観とあって、教室内の子供たちは浮き足立っていた。

「あ! ぼくのおかあさん、来た!」

「ねえねえ見て、あれが私のママ!」

 

子供たちはピーチクパーチク、まるでひな鳥が餌を待つあいだ鳴くみたいにおしゃべりは止まらない。見兼ねた先生が、大きな声で言った。

「みんな! 今日はお母さんたち来てくれて嬉しいね。落ち着かないね。じゃあ今から特別に後ろを向いて『おかーさーん』と手を振っていいですよー!」

 

ボーナスタイム来たー!!!!! これ絶対可愛いやつ!!

椅子に座っている子供たちが一斉に後ろを振り返り「ママ―!」とか「おかあさーん!」とか「おーい!」とかやり出して、おい息子、君もこっち向けと思っていると、息子は予想外の行動に出た。

 

なんと先生が立っている教壇の方を向いたまま、手で大きく「バツ」を作ったのだ。

(おい! こっち向けよ!)

少しのぞく横顔を観察すると含み笑いをしているではないか。覚えとけよ。

 

というわけで、前回の授業参観は終始無視されるという前代未聞の結果に終わった。家ではあんなに「おかあさん」「おかあさん」と追っかけかというくらいに私のあとをついてまわるのに、学校では甘えん坊の一面を意地でも見せるかという気概に満ちあふれていた。いや、どんな気概だよ。

 

あれから約半年が経ち、今日はどんな感じになりますことやら……とおそるおそる教室の前方の窓から覗き見ていると、しばらく経って次男は私の存在に気づいた。「おっ」という顔でほほえんだ後、小さく手を振った。ほう、もう変な気概ブームは終わったのか。

 

おそらく学校中を巡回していると思われる先生から声を掛けられる。

「お母様方、良かったら教室の中にお入りください。お子様の声もよく聞こえますよ」

 

教室内が結構混み合うので若干遠慮もあったが、やはり次男を近くから観察することにして中に入らせてもらった。前回は恥ずかしいのか、発表の場面でも手をあげず、動きがないまま終わった。しかし、今回は「これ、わかる人いるかな?」という先生の質問に対して手をあげて発表したりしてなかなかの活躍ぶりであった。前回の参観からしたら、大きな進歩である。

 

さて、度肝を抜く行動を次男が取ったのはこの後のことだった。

授業も無事に終わり、保護者は続いて懇談会がある。子供たちは帰り支度をするのだが、その最中に次男が廊下で待機していた私に話しかけてきた。

「おかあさん、おれが前に、かわいいって言ってた子おるやろ? 今つれてくるから」

 

え? え? えーーーーーーっ!!!!?????

き、君は急に何を言うてるんや!?!?

いや確かに「アイドルみたいなきれいな顔の女子がいる」とは聞いていたけども。

 

私がドギマギしてアタフタしているのを全く気に留める様子もなく、次男は教室にいったん戻って行った。

「おーい、〇〇さん。ちょっとごめんけど、こっち来てくれる?」

次男の好意など微塵も知りそうにない女の子が、顔にでっかくハテナマークをつけながら首を傾げてやってきた。次男が女の子と私を交互に見ながら言う。

「この人が〇〇さん。ね?」

 

いや、「ね?」じゃないのよ。

急に知らん保護者の前に連れて来られて明らかに困惑しているじゃないの。私は何の準備もなく女の子とご対面してしまい、額にうっすら汗をかきながら「こんにちは」とぎこちなく笑った。

確かに綺麗なお顔立ちだ。あなたのように美しいひとはうちの次男にはもったいない。どうか息子のいうことはお気になさらないでください。

 

それにしても、だ。

息子はいつからこんな陽キャみたいな人間になったのだろうか。

私も暗い方ではないけど、「この人、私の好きな人!」とあけっぴろげに紹介などしたこともないし、どちらかというと恋心はひっそりと秘めるタイプだ。

 

では夫はというと、私の何倍も大真面目な学生生活を送ってきて、大学生になり「自己紹介に一発ギャグを込めろ」「ビーチで女の子をナンパしてこい」平成という時代感もある先輩方の鍛え方でやっと社交性を身に着けたという、いわゆる大学生デビューの口なのだ。

 

今でこそ、夫も私もそれなりに世間を渡っていくギリギリの術を覚えたが、根っからのパリピでは決してない。だから夫と私のDNAしか持ってないはずの次男が、突然放出してきた陽キャでパリピのエネルギーに戸惑いを隠せなかったのである。

 

しかも、この話には続きがあって、なんと次男にはもう一人好きな女の子がいるのだ!

ふ、二股ぁああああああ~!?

 

もう一人の方は、入学してからわりかしすぐに「よくお話する子がいる」と聞いており、家が近いこともあってよく一緒に帰ってきていた。何度かお迎えに行った際、二人を見かけたがコロコロと笑い転げたり、急に二人でかけっこしたりして、その様子はじゃれあうミニオンみたいで非常に微笑ましかったのだ。

 

もちろん小学一年生の恋(恋と言っていいのか定かではないが)、というか好意なんて、そんな大人が考えるようなものじゃない事は百も承知だが、次男のパリピ要素のせいで、女の子を泣かせるなんてことしないでほしいと思ってしまっている自分もいる。まあ考え過ぎか。

 

いや、しかし、幼稚園に通っていた頃から考えると、次男の右肩上がりに成長している積極性には驚かされるばかりだ。早生まれで小柄な事もあり、どちらかというと周りのお友達に手を貸してもらいながらの幼稚園生活であった。

タレ目で元から上がった口角が親和性を生むのか、やたらと女の子が世話を焼きにきてくれていた。

「くつ、はかせてあげるね」

足を差し出すだけで、次男の足に靴が装着される。おかげですっかり楽を覚えてしまった次男である。囲んでくれていた女の子のうちの一人ユキちゃんが、ある日、次男にお手紙をくれた。まだ文字の読めなかった次男に代わり、僭越ながら私が代読させていただいた。

 

「〇〇くんへ。 いつもいっしょにあそんでくれてありがとう。これからもなかよくしてね。あかちゃん」

 

あ……赤ちゃん??

 

幼稚園の年少さんにしては驚愕の美文字であったが、最後に追記された「あかちゃん」という言葉で、お手紙が一気に謎めいたものになった。

きっと、お世話を焼いているうちに彼女の中に母性にも似た感情が生まれ、つい「あかちゃん」と心の声がお手紙に漏れてしまったのだろう。彼女のママさんにお礼と共に「あかちゃん」の話をしたらめちゃくちゃ笑っていた。

 

そして、無事? 次男はユキちゃんの事が好きになった。

3つ上のおませな長男に「幼稚園で誰が好き?」と聞かれるたび「ユキちゃん」と答えるようになったのだ。次男の初恋だった。

 

本当に雪のように白い肌でお人形さんみたいに可愛いユキちゃんが、次男に好意を持ってくれたことは奇跡的な出来事だったが、この頃の次男は好意を持ってくれた人を好きになる……みたいな受け身の人間関係が多かったように思う。

 

それが、小学生になって、自分がどんな人といると楽しくて、どんな容姿に惹かれるのか、きっと自覚したのだろう。小学一年生といえどもしっかり好みはあるようだ。

 

授業参観で急に女の子を紹介されてからというもの、私の中にひとつの気づきが生まれている。子供は親の想像を超えてくる、ということだ。

夫と私の間に生まれてきたからといって、なぜ二人に似ている要素だけで子供が構成されるなんて思っていたのだろう。とんだ勘違いだし、思い上がりもいいとこだ。

きっと十月十日という割と長い期間をお腹で育んだおかげで、私の細胞が分裂して出来た子供が外の世界に出てもそのまま生きているという錯覚に陥っていたのかもしれない。

 

違う。

子供は、言わずもがな、それ単体で成り立っている一つの個体であり、親とはまったく違うひとりの人間なのだ。近い距離で子供と触れ合えば触れ合うほど、たまにその大事なことを忘れそうになる。

 

これからますます成長にするにあたって、豚玉だと思って焼いていたお好み焼きがひっくり返したら海鮮デラックスでした! みたいなイリュージョン級の変貌を見せてくる時が来るかもしれない。それがどんなにびっくりすることであっても、この人の個性が今爆発しているのだ、と思えるだけの心の準備だけは常にこっそりしておこうと思う。

 

❑ライターズプロフィール

パナ子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

鬼瓦のような顔で男児二人を育て、てんやわんやの日々を送る主婦。ライティングゼミ生時代にメディアグランプリ総合優勝3回。テーマを与えられてもなお、筆力をあげられるよう精進していきます! 押忍!

 

 

 

 

 

 

 

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2025-10-30 | Posted in 週刊READING LIFE vol.329

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