LOVE・ヤマタノオロチ ≪週刊READING LIFE Vol.329「フリーテーマ」≫
*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
2025/10/30 公開
記事 : ひーまま (READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
令和7年10月18日
広島の世界遺産でもある宮島の花火大会が6年ぶりに開催された。
厳島神社の大鳥居を背景に、水中で花火を点火し、夜空と海を照らす他では見ることができない花火大会なのだ。
以前は夏の終わりの風物詩として、宮島の海を彩っていたのだが、今回は秋の初めの開催で、夜が早く訪れる季節となった。
前回よりも約2時間早いスタートだ。
神社の大鳥居を背景に数々の花火が打ち上げられる。海の中で点火された花火が、半円を大鳥居を見事にライトアップするような美しさで海中から現れる。
今年は娘と孫が観覧にチャレンジした。
夕方、広島市内では大雨が降り、開催を心配したが、無事に雨も上がり、水中に咲く大倫の花のような花火を見ることができたようだ。留守番だった私は、夫と共にYoutube越しにそれをみたあと、娘と孫を迎えにJRの駅まで車を走らせた。
車を出そうと家の前に出ると「金木犀の香り」なんだか気持ちがウキウキする季節の匂いだ。
最近新しくなった最寄りの駅は、私が住んでいた60年前とはすっかり様変わりして、まるでどこか都会の駅前のようになりつつある。
それでも目をつぶると、私が小学校3年生のころ通っていた駅裏のバプテスト教会の「日曜学校」が浮かんでくる。
私はキリスト教者ではないが小学校3年生になったころ、父の命令でなぜか教会の日曜学校へ行かされていたのだった。
今も思い出すと聖書の一句が浮かぶ。
「互いに愛し合いなさい」(ヨハネ13:34)
「常に喜んでいなさい。絶えず祈りなさい。すべての事について感謝しなさい」(テサロニケ人への第一の手紙)
そんな一節がうっすらと記憶の中に畳み込まれていた。
その古い教会もすっかり撤去されて、駅の裏口のあたりは何もなかったかのように更地になっている。
それでも、その時の記憶の「常に喜んでいなさい」が思いだされるのだから、まったく人間の脳はどうなっているのだろう。
そんなことを思い浮かべていると、今までは建物に隠れて見えなかった「旭山神社」のあたりに煌々と明かりがついていることに気が付いた。
(へえ~今年は暑かったから秋祭りの事を忘れていたけど、もう秋祭りの準備かなあ?)
そう思った瞬間山頂の神社から「どんどこどんどこ」と太鼓の音。
続いて「ぴ~ひゃらら~」と笛の音が聞こえてきた。
この音は!! 「神楽だ」
小学校3年生、家庭が崩壊寸前で私がヤングケアラーとして頑張っていた時のころ、秋祭りの「神楽」の音に、いかに元気をもらい励まされていたことだったのか?! 一気に記憶がよみがえってきた。
そのころは、毎年秋祭りの神楽は夕方に始まり、夜が更けてもその太鼓と笛の音は鳴りやまず、まさに夜明けまで神楽が舞われていたのである。
そんな記憶に浸っているところへ、花火大会から帰ってきた二人が車に駆け寄ってきた。
「おかえり~」
「ただいま~花火! すごかったよ」と孫。
「いまねえ、旭山神社から秋祭りの神楽の音が聞こえて来たんじゃけど、行ってみる?」
きっと疲れ切って帰ってきて、行かないよ~と言われると思っていたら、意外にも「行こう! 行こう!」となった。
行こうと言ったものの、この旭山神社の階段はかなり急なのである。
実はこの神社、那須正幹作の「ズッコケ三人組」のお話の舞台になった神社なのである。
現在も地元「西広島駅」前にその三人組の石像が立っている。
ズッコケ三人組に出てくる神社を知っている人もあるかもしれない。
是非一度現地を訪ねてみてほしい。
はあはあ、と息を切らしながら、その長い石段を登る。
私がひとりズッコケ組として小学校のころ駆け回っていた石段だ。
こんなに狭い幅の石段だったのか! と驚きながら山頂まで登ると小さな開けた神社の境内は、8歳の私が駆け回っていたころと少しも変わらない。
そこに小さな舞台が作られており、すでに神楽は一幕終わったところだった。娘と孫と参拝を済ませて、舞台の前に来ると「本日最後の演目は、大蛇、ヤマタノオロチです」とマイクの声。
なんともタイムリーなことだろう。
昔なら、23時を過ぎるまで粘ってやっと見ることができる演目だ。
「ヤマタノオロチ」
きっと皆さん知っていると思うが、天照大御神の弟であるスサノオノミコトが、高天の腹を追放されたことから始まる物語である。
追放されたスサノオノミコトは出雲の国の肥の川のほとりをとぼとぼと歩いている時、その川に一本の箸が流れてきたことをみて、この川上には人が住んでいるのだなと思い、川を上っていったのです。
そこに一軒の家があり、老爺と老婆が若い娘を間に挟んで泣いております。スサノオノミコトが話を聞くと、老爺の名はアシナヅチといい、老婆はテナヅチ、娘の名をクシナダヒメと言いました。
なぜ泣いているのか尋ねると、老爺がこう言いました。
「私にはもともと8人の娘がいたのですが、毎年、ヤマタノオロチが娘を一人づつ食らっていきます。残る娘が一人だけになってしまい泣いております。また今年もヤマタノオロチが来る時期が来ているのです」
それを聞いたスサノオノミコトは、「ではクシナダヒメを妻にくれればヤマタノオロチを退治して見せる」と言ったのです。
二人の老爺と老婆は承諾するのでした。
この話を思い出しながら舞台を見ていると、昔見たように、老爺と老婆が酒の樽をよたよたと運んできた。
今年も神社の境内は人でいっぱいだった。
大人も子供も境内に広げられたブルーシートの上に座って、舞台を食い入るように見入っている。
最近の子供たちには話が分からないのではないか?
と、心配になりながら見ていると、演出がすごかった。
おじいさんとおばあさんはまるでコントのように話を進めていきます。
「ばあさんや、あのひげの濃いひとが娘をくれえ、ゆうんじゃがどがいなもんかいのお?」
「へ? なんで? むすめをあがいな人にあげるんかいねえ?」
「そうじゃのお、むすめよりもばあさんが嫁に行ったらどうじゃ?わしゃかまわんで」
そういわれたおばあさんは結構乗り気で、立ち上がって嫁に行こうとします。
そこでスサノオノミコトが「ばあさんより姫がええ」
で、娘のクシナダヒメが嫁に行くとおもいきや、スサノオノミコトが「ばあさんだけじゃいやじゃが、焼き芋のええ匂いがするけえ、焼き芋つきならばあさんでもええで」と言ったので会場は大人も子供も大うけの大爆笑でした。
なんと時代が変わったものだとおもいつつ、こんな風に次の世代に「神楽」を継承していこうという神楽団の熱意が伝わってきた。
酒樽の準備が整って、ヤマタノオロチが酒を飲みに来ました。
ごくごくと酒を飲み干して酔っぱらったヤマタノオロチは寝入ってしまいます。
そこへ、こっそりと現れたスサノオノミコト。
次々と剣でヤマタノオロチの首を切っていく。
クライマックスです。まつりの太鼓も笛も勢いを増してヤマタノオロチとスサノオノミコトの舞を盛り上げる。
見ている私たちもやんやの喝さい。
いけえ!! 負けるなスサノオノミコト!!
大拍手のなか、見事にヤマタノオロチの首を切り、最後にヤマタノオロチの尾から神々しい剣を取り出す。
この剣がのちに「三種の神器」の一つとなる「草なぎの剣」だ。
孫もおお喜び!!
「やった~!!」「すごいカッコいい!」と大拍手。
そしてさらに私はびっくり!!
今年の最後のセリフに「この取りいだしたる草薙の剣。 つつしんで旭山神社に奉納し奉る~」と述べたのでした。
私は8歳のころにみたスサノオノミコトを思い出して、そうなんだよ! 悪は必ず滅びるんだ! 最後には善が勝つんだ!
そう思って、苦しかった毎日を頑張ってきたことを思いました。
今年のスサノオノミコトは一味違ったぜ!
「LOVEスサノオノミコト」
日本の原点に愛があるんだって大拍手の夜だった。
□ライタープロフィール
大阪生まれ。2歳半から広島育ちの現在広島在住の66歳。2023年6月開講のライティングゼミ、10月開講のライターズ倶楽部に参加。2025年9月からの新ライターズ倶楽部を受講中。様々な活動を通して世界平和の実現を願っている。趣味は読書。書道では篆書、盆石は細川流を研鑽している。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
お問い合わせ
■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム
■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。
■天狼院カフェSHIBUYA
〒150-0001 東京都渋谷区神宮前6丁目20番10号
MIYASHITA PARK South 3階 30000
TEL:03-6450-6261/FAX:03-6450-6262
営業時間:11:00〜21:00
■天狼院書店「湘南天狼院」
〒251-0035 神奈川県藤沢市片瀬海岸二丁目18-17
ENOTOKI 2F
TEL:04-6652-7387
営業時間:平日10:00~18:00(LO17:30)/土日祝10:00~19:00(LO18:30)
■天狼院書店「京都天狼院」
〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00
■天狼院書店「名古屋天狼院」
〒460-0002 愛知県名古屋市中区丸の内3-5-14先
Hisaya-odori Park ZONE1
TEL:052-211-9791
営業時間:10:00〜20:00
■天狼院書店「福岡天狼院」
〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00







