酔いたいのに酔えないあなたへ。ライティングはいかがですか?《週刊READING LIFE Vol.332「酔」》
*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
2025/11/20 公開
記事 :松本 萌 (READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
酔っ払って陽気におしゃべりをしている人を見ると、「いいな」と思う。
「飲まなきゃ、やってられないよね」とぶつくさ言いながら、いざ飲み始めるとさっきの愚痴はどこへやら、ポンポンと口から出てくるのは楽しい話ばかりな様子を見ると、「いいな」と思う。
旅先で郷土料理と地酒を口にしながら「うまい!」と舌鼓を打つ姿に、「いいな」と思う。
なぜなら私はお酒に弱いからだ。
全く飲めない訳ではない。
とは言っても、ビールは苦くて飲めない。夏の暑い盛り、一気飲みの勢いでゴクゴク飲む姿に憧れるが、私の場合ちょっとのゴクで終了だ。日本酒やウイスキーの香りは好きだが、一舐めで十分だ。
カクテルなら2杯ぐらいいけるが、大体1杯で終わって、あとはウーロン茶やジンジャーエールを飲んでいる。
「えー! 飲まないの?」とか「遠慮しなくていいのに」と言われるが、飲まないのではなく、飲めないのだ。
私だって飲めるのであれば飲みたいし、ホロ酔い気分でおしゃべりもしたい。
でも適量を超えると頭がガンガンし始め、おしゃべりどころではなくなり、突っ伏して寝たくなる。遠慮しているわけではなく、ましてや飲み会の場が楽しくないわけでもない。でも飲まないことで場をシラケさせてしまうような気がして、ヒソヒソ声で「ウーロン茶お願いします」と店員さんに注文をしている。
お酒で酔えない、でも酔って楽しい気分になりたい、そんな葛藤を抱える私は今、とあるもので酔うことができるようになった。
私の家系は総じてお酒に弱い。
父は瓶ビール1本で顔が赤くなる人だ。外食の時は何かしらお酒を頼むが、家で晩酌することはほとんどなかった。姉に至ってはほぼ飲めず、梅酒ゼリーを食べただけで顔が赤くなり、「体がポカポカする」と言う始末だ。
そんな家族の姿を見て、私もたいしてお酒には強くないだろうと思っていたが、本当にそうだった。
お酒を飲める年齢になり、友人とレストランでご飯をしたとき、一口二口飲んだだけで顔が赤くなり、ずいぶんと心配されてしまった。いくら飲んでも顔色の変わらない友人達は「お酒飲んで顔が赤くなるなんて、かわいい」と言ってくれたが、鏡に写るゆで蛸のような自分の顔を見るたびに恥ずかしさを覚えた。
父には「社会人になったらビール一杯ぐらい飲めるようになっておいたほうがいいぞ」と言われたが、一杯どころか一口でギブアップだった。飲める友人からは「ビールはこの苦さがいいんだよ。暑い日に飲むと本当に美味しいんだから」と言われたが、理解できなかった。
カクテルならいけるものの、甘い物を飲みながらご飯を食べるとご飯の美味しさが半減するように思い、色々試した結果「カシスウーロン」に辿り着いた。ウーロン茶が入ることで甘さが緩和され、カクテルの中でも酔いが回りにくいように感じたからだ。
それでも1杯飲めば十分で、私がアルコールが苦手なことを知っている人とご飯をするときは、最初からノンアルコールにしている。「無理に飲まなくていいよ」と言ってくれる人は、私がお酒を飲んでいなくてもその場を楽しんでいることを分かってくれているので、有り難い。
アルコールで酔えない、と言うよりも、酔って楽しい状態になれないと分かりつつも、でもやっぱり「酔い」を楽しみたい気持ちはある。
アルコール以外で「酔いを楽しむ」にはどうすればいいか。
思いついたのは「自分に酔う」だ。
例えば仕事を頑張って成果を出したとき、資格試験に受かったとき、趣味で続けている弓道で良い成績を出せたとき…… 高揚した気分、自分を誇る気持ちを堪能することも「酔い」と言える。これなら苦手なアルコールを摂取しなくても、酔うことができる。
そう思い、職場で目標を達成したときや合格率の低い資格試験に受かったとき、弓道の段級審査に受かったとき、「自分はすごい!」と褒めてみることにした。そして自分へのご褒美として、その時に自分の食べたいもの、たいていはハーゲンダッツのアイスクリームを買って楽しむようにした。
その日一日は充実した気分で過ごすことができた。ただ次の日には高揚した気分がしぼんでいた。
目標は達成したものの、次の日にはもう新しい目標が設定されている。いつまでも浮かれた気分ではいられない。気を引き締めないと、「この前達成できたのはたまたま」ということになってしまう。
弓道の段級審査に受かったとしても、もっと上の段がある。そして弓道を極めるということは段が全てではない。一つ段が上がったからといって課題が克服できたことにはならず、舞い上がることなく更なる精進が必要だ。
自分に酔おうと思っても、寝て覚めれば消えてしまう酔いに、むしろ虚しさを強く感じる。
それと同時にアルコールで酔うことも、一時の高揚感であり、数時間で愚痴を言っていた気分に戻ってしまうことに気がついた。
アルコールで酔うことも、自分に酔うことも、どちらも虚しいことに気がついた。
それでも酔いの起こす高揚感というのは捨てがたい。
どうしたらこの「酔い」を体の負担や虚しさを感じずに体感できるだろうかと考えたとき、2年以上続けている「ライティング」が自分に酔いをもたらせてくれていることに気がついた。
天狼院の「ライティング・ゼミ」に参加した当初は、毎週2000字の課題に取り組んでいた。
2000字の文章を「最後まで読もう」と人に思わせるにはどうすればよいかの術を学びながら、自分の書きたいことや伝えたいことは何だろうかと考えたとき、私は自分の考えや経験したことをノンフィクションで書きたいと思った。特段有名人でもなく、人より秀でた才能があるわけでもないごくごく一般人である私自身のことを書いて、人は読みたいと思うのだろかという不安はあったが、それでも書きたいと思うことを書き、それに対して人はどう思うのかを知りたかった。
自分のことを書くとなると、過去に経験したことを深掘りしなければいけない。当時の自分の行動や考えに留まらず、そうなった経緯にも思いを馳せる必要がある。自分の考えを書くためには、「なんとなくそう思ったから」ではなく、「なぜ自分はそう思ったのか」「それはどうしてか」と何度も何度も自分に問う作業が必要だ。
平日の仕事帰りに「今週はどんなことを書こうかな」「どんな構成にしたらいいかな」と考え、週末に1日かけて書く期間が4カ月続いた。最初は何を書くかを思いつくまで時間が掛かった。そして週末は朝から晩まで2000字をひねり出すのに四苦八苦した。今から思えば2000字で書ききるのは難しいと思うほどになったが、当時は数百字書くだけでグッタリしていた。
課題を提出した瞬間は達成感に包まれる。
その後講評及び合格か不合格かをソワソワしながら待つ。合格すれば、何と自分の文章がウェブに掲載され、自分のことを知らない誰かが読んでくれるのだ。
不合格だとテンションは下がるものの、「絶対16回の課題全て出す」と決めていたので、4カ月間書き続けた。16回の課題を提出し、合格になったのは10回だ。合格数としては多いとは言えない。それでも16回を出し終わった時の達成感は、ここ数年の中でもそう感じる事はできないものだった。
ライティングは仕事に直結することではなく、ただ興味があったから始めたものだ。16回の課題を全て出したからと言って、そしてウェブに掲載されたからと言って、何か特別なことが起こるわけではなく、ただ自分の気持ちが満たされるだけだ。
それでも高揚感はあった。
継続して2000字の文章を16回出せたこと、そして自分の文章を「良かった」と言ってもらえたことが嬉しかった。子供の頃も、そして社会人になってからも文章を褒められることはなかったが、書き続けることで「読まれる文章」を書けるようになった
2023年6月からライティングの講座に参加し、当初ほどの提出はできていないものの、2年以上続けることができているのは、自分でもビックリだ。
書き続けることに加え、自分のことを深掘りしていることも高揚感に繋がっている。
「私の人生なんて、たいしたことはない」と思っていた自分の人生を振り返ると、色々な出来事を乗り越えてきたことや、家族や友人を含めたくさんの人が私のことを見守ってくれていたことに気がついた。中には二度と経験したくない出来事もあるが、それがあったからこそ自分は変われたのだということにも気がついた。
「人生に失敗はない。全て経験」と言うが、まさにそうであることをライティングが教えてくれた。
今では毎週5000字の文章を書くのが課題だが、なかなか5000字まで到達できない。2年前は「絶対毎週課題を提出する」と意気込んでいたが、出せずに終わる週もある。
それでも「書き続ける」という思いがあるのは、2年前の4カ月があるからだ。もしかしたらあの4カ月間の「酔い」を幻にしたくないのかもしれない。
もしあなたが満足感のある「酔い」を体感したいのなら、ライティングはどうですか?
❏ライタープロフィール
松本萌(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
兵庫県生まれ。東京都在住。
2023年6月より天狼院書店のライティング講座を受講中。
「行きたいところに行く・会いたい人に会いに行く・食べたいものを食べる」がモットー。趣味は通算20年以上続けている弓道。弓道と同じくらい、ライティングも長く続けたいと思い、奮闘中。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
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