週刊READING LIFE vol.338

カモフラ柄の袋であえてクシャクシャに包んだ、お母さんだけの秘密のおやつ《 週刊READING LIFE Vol.338 「 こだわりの一品 」 》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

2026/1/8 公開

記事 : パナ子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

 

喉元過ぎれば熱さを忘れる、というわけではないが寒くなってくると夏の暑さを忘れてしまう。昨年の夏の猛暑は本当にすごかった。

 

エアコンの効いた部屋から一歩外へ出たなら、まるで熱風の壁みたいなものがやってきて顔にモワッとまとわりつく。あまりの暑さに息もしにくい。

 

私が住む街でも35℃を軽く超えてくる日々が続き、子供たちはランドセルと背中にはさまれたTシャツを(川にでも飛び込んできたんか)というくらいビッショビショに濡らして毎日帰宅した。 

 

どおりで早く無くなるわけだ、アイス。

 

スーパーやドラッグストアで子供たちの好きそうなアイスをみかけるたび買う。買うのはたいていファミリーパックの棒つきアイスだ。だいたい毎日食べることを想定すると、本数が稼げるファミリーパックの方がありがたい。

                                            

「ねえ、もう一本だけ食べていい!? おねがい!!」

暑さで頬まで赤くし、額にじんわり汗をにじませている子供に懇願されると、つい許してしまう。3~4日も経つとアイスはまた底をつき、冷凍庫のなかで色とりどりに賑やかしかった場所は更地と化すのだった。

こうして子供たちとアイスのイタチごっこは猛暑が過ぎる9月末頃まで続いた。

 

さて、ここまでは、子供たちの目に映る「すべて」の物語だ。

この話には続きがあることを、彼らは知らない。

 

洗濯物の取り込み、宿題の丸つけ、夕飯の準備と、主婦の怒涛の夕暮れ時をなんとか乗りこなし、ご飯と風呂を済ませた子供たちをお布団に滑り込ませる。時計の針はもうすぐ九時をまわりそうだ。

 

「暑い暑い」と言いつつ、お布団のなかでぎゅうぎゅうに詰め寄ってくる兄弟は暑苦しくて可愛い。3才になる頃まで私以外のヒトというものを一切受け付けなった超絶マザコンであろう9才の長男と、まだほんのり頭皮から赤ちゃんの匂いを漂わせている小学生になったばかりの6才の次男を両手に抱っこする。

 

消灯した後もしゃべりだしたりしてなかなか寝ない兄弟に「明日も学校なんだから早く寝なさい」ともっともらしいことをいうが、それはもちろん建て前だ。

 

モゾモゾモゾモゾとまだ少し動きのある兄弟に向かって、母は寝たフリをして呪文を唱える。

(ハヤクネロ、ハヤクネロ、ハヤクネロ、ハヤクネロ、ハヤクネロ、ハヤクネロ……)

母には、このあと一大イベントが控えているのだ。

 

両隣からスース―と漫画にでも出て来そうなわかりやすい寝息が聞こえ出して待つこと約3分。間違っても寝息が聞こえたからと言ってすぐに布団から這い出してはいけない。彼らの嗅覚は探偵並みで、母の体温がなくなったことに気づくやいなや「おかあさん、どこいくの?」と背後から話し掛けられサスペンスばりの悲鳴をあげそうになったことも一度や二度ではないからだ。

 

彼らがおそらく本当に夢の国への汽車へ乗車したあたりで、私は布団からそろーり逃亡することに成功したのであった。

 

ヒッヒッヒッ。お楽しみはこれからだよぉ~。

魔女のおばあさんになった私は、抜き足差し足で廊下を移動し、リビングの灯りを点けた。

 

イッツ ア ショーーーターーーーーーイムッ!!!!!

 

次に開けるのは、台所にある秘密の扉だ。

台所奥に鎮座し、神々しい光すら放って見える冷蔵庫さまの冷凍庫部分の引き出しをガラガラと引いた。

 

待たせたね。

子供が給食で残してきて尚まだ食べるといった黒糖パンだとか、みそ汁のお供に欠かせない柚子胡椒なんかがバラバラと入れてある透明の浅い引き出しをそっと奥に押す。冷凍庫の心臓部分といっても過言ではない深い引き出しの、一番奥に手を伸ばした。

 

取り出したのは、赤と白のカモフラージュ柄のようなビニール袋だ。あえてクシャッと大雑把に包んでいる。もちろん、これは狙いあってのものだ。私がO型生まれのO型育ちだからでは、決してない。

 

誰にも中身を悟らせない。

赤白のめでたいカモフラージュ柄の袋は、そんな気迫さえ感じさせる。まあ、包んだのは私なのだが。

 

紅白のカモ柄袋とお気に入りのティースプーンを持って、私はテレビのある畳の部屋に移動した。ミニテーブルの上に、紅白のカモ袋の中身を置く。

 

やっと、会えたね。

頬ずりしたくなるほどの気持ちを抑え込み見つめるは家庭用高級アイスの最高峰、ハーゲンダッツの「ショコラ デュオ」だ。

ミルクとビター、二つの本格的なチョコレートがカップのなかで混ざり合う。そのさまは、陰と陽をあらわす太極図みたいで美しい。

 

スプーンでひとさじ分、口のなかに入れてみる。

はぁ~~~、これよこれ、これなのよ。うっとりしながら成分表示を確認する。

氷菓はもちろん、ラクトアイスにもアイスミルクにも出せない、濃厚でクリーミーな「アイスクリーム」のこのコク!!

食べすすめるうちにカップのまわりがほどよく溶けてきて、チョコソースみたいな味わいがまた嬉しい。

 

大変申し訳ないが、質より量の兄弟に、下手したら一日に2個食べる兄弟に、この高級アイスはまだ食べさせられない!! お母さん、アイスはたまにでいいんだ。その代わりと言っちゃあなんだが、質のよい本当に美味しいアイスをちょっとだけ食べたいんだ!! 

 

すまん、許してくれ……。

背徳感も手伝ってハーゲンダッツがさらに美味しくなってしまった。

この世界で起きているのは私だけなのではないか、そんな気さえしてくる静まり返った畳の部屋で私はアイスクリームの濃厚なうまみに溺れていった。

 

ここで忘れてはならない影の尽力者、紅白の袋を再度拝むことにする。

君がいてくれたおかげで、このミッションは達成したんだ。改めてお礼を言うよ。

 

しわくちゃになった紅白の袋を丁寧に伸ばすと、「しまむら」という文字がお目見えした。

「ファッションセンター しまむら」は全国になんと約1500の店舗を持つ総合衣料品店だ。

老若男女すべてを対象としている「しまむら」には、特に兄弟が生まれてからお世話になる機会が増えた。兄弟の下着や靴下、洋服に始まり、買うつもりのなかった私がアウターを買ってしまったこともある。すべての値札にもある通り「しまむら安心価格」という良心的な値段設定がそうさせてしまうのである。

 

SNSでは「しまパト」といって、定期的に掘り出し物がないか巡回する熱心なファンも多く見受けられる。流行りのキャラクターグッズなど目にも楽しい商品が、所せましと並ぶ「しまむら」は行けば時間を忘れるワンダーランドなのである。

 

少し背伸びすれば手が届く高級アイスのハーゲンダッツと、すぐにサイズアウトする成長盛りの兄弟を助けてくれるしまむらは、庶民派の我が家を支える二大巨塔だ。

 

一人でニマニマしながら「ショコラ デュオ」を食べ終わると、愛してやまないSNS「X」で事前につぶやいておいた二大巨塔の写真つきのポストを確認する。

「さてと……全てが寝静まった夜に、しまむらの袋で隠しておいた高級アイスでも食べるとするか」

 

相互のフォロワーさんが「本気じゃん笑」というリプライをくれた以降、特に変化がなかったこのポストはひと晩寝た翌日にまさかの結末を迎えることとなる。

 

私が夢の世界にいる間にどうやら子育て中の主婦の共感を得たらしいこのポストは、最終的になんと15万を超えるいいねをもらう結果となった。二大巨塔もびっくりの数字だ。

 

止まらない通知と共に寄せられたリプライには同士の心の声が詰まっていた。

「やり方が天才」「絶対バレないやつ」「まねしてもいいですか?」

なかには既にやっている猛者から「色移りの可能性あるので、この袋もオススメ」ととあるドラッグストアの緑色の袋を教えてもらったりもした。

 

このやりとりから、子育て中の主婦が私のほかにも、子供にはまだ早いだろう高級なアイスやお菓子などをこっそり堪能しているということがわかった。

 

時には子供の癇癪に耐え、疲れたカラダに鞭を打ちつつご飯を作り、泥だらけの洗濯物の山と格闘する。自分が好きで始めた子育てだからこそ、公に愚痴を言うことはなんだか憚られる。子供はもちろん好きだ。大事だ。愛している。それでもどこか疲労がにじむ自分をねぎらう一品として欠かせないのが、部屋の秘密の場所に隠し持っている高級アイスだったり、高級菓子だったりするのだ。

 

母の、母による、母のための聖域があることに、どうか目をつむってほしい。

君たちが寝静まった夜に一人ほくそ笑みながら食べるハーゲンダッツがあることを、どうか許して欲しい。

その時間があれば、母は明日また君たちを笑顔で迎え入れることができるのだから。

 

今日も私はスーパーで子供用の棒つきアイスファミリーパックとは別に、自分を抱きしめ慈しむためのハーゲンダッツをカゴに入れる。

 

パナ子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

鬼瓦のような顔で男児二人を育て、てんやわんやの日々を送る主婦。ライティングゼミ生時代にメディアグランプリ総合優勝3回。テーマを与えられてもなお、筆力をあげられるよう精進していきます! 押忍!!

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2026-01-08 | Posted in 週刊READING LIFE vol.338

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