週刊READING LIFE vol.338

岡山デニムが、世界をちょっとだけ良くする話 《 週刊READING LIFE Vol.338 「 こだわりの一品 」 》

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

2026/1/8 公開

記事 : 茶谷 香音(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

 

私は、毎日大学に岡山のデニムを履いていく。

元々デニムやファッションへのこだわりなんて全くなかった。今も、お洒落よりも睡眠優先の毎日である。

それでも私は、岡山デニムを履くことだけには、強いこだわりを持っている。

 

毎朝クローゼットを開けて、数本あるデニムの中からその日の気分にあったものを選び、そのデニムに合わせて服やメイクを選ぶ。それが、毎日の私のルーティーンだ。

 

 

 

岡山県の倉敷美観地区。

モネやゴーギャンを飾った大原美術館や、赤煉瓦の倉敷アイビースクエアのある、歴史と趣の染み込んだ町。

白鳥が川の中から顔を出しては潜り、出しては潜りを繰り返している。中橋の側には頭にタオルを巻いたお兄さんが立っていて、いつでも人力車を走らせる用意が整っている。

雪が降っていて寒いのに、日本人心をくすぐるような、あたたかい景色だった。

 

そんな倉敷美観地区の一角に、デニムストリートがある。路地みたいな道にお店が並んでいて、ジーンズやデニム色のグルメ、デニムの雑貨が売られている。

 

私は新しいデニムとの出会いを求め、東京から倉敷デニムストリートを訪れた。

目当ては倉敷限定の「和蔵」というブランドのデニムだったけれど、色も形もたくさんあって迷っていたら、店員さんが声をかけてくれた。

 

「デニムお好きなんですか?」

「岡山のデニムが好きで。実は今履いているのも岡山のものなんです」

「あら! 岡山デニムが好きなんて、お目が高いですね!」

 

いやいや、休日は高校時代のジャージで過ごしているような人間ですよ、と心の中で思った。

 

店員さんは優柔不断な私に付き合って、一緒にデニムを真剣に選んでくれた。「この形の方が似合うと思います」とか、「このデニムはココがすごいんです!」とか。

お会計の時には「たくさん可愛がってあげてくださいね」とにこやかに言われて、あぁ、この店員さんも本当に岡山デニムが好きなんだなぁと思った。

 

岡山が国産デニムの発祥地であることを、知らない人は意外と多いかもしれない。

そもそもデニムなんてどこで買っても一緒だと、私自身が昔はそう思っていたのだから、デニムの産地なんて気にしたこともない人がほとんどだろう。

 

学生の私にとって、岡山デニムは少し値段が高い。

それでも納得するほど、手触りも色も品質も完璧なのだ。天然藍で染められた、瀬戸内海のような深い青色は、私にとって史上最高の色だと思う。

 

お洒落をほとんど気にしてこなかった私が岡山デニムを知ったのは、「世界を少しでも良くしたい」と思ったことがきっかけだった。

 

 

 

大学1年生の時、国際協力についての授業を受けた。

「世界には、安い賃金で学校にも行かず働いている子どもたちがいます」

先生が、実際に発展途上国の現地に行って撮った写真がスクリーン上に映し出された。子どもが働いている写真、整備されていない道路の写真、そして、ゴミの山の写真。

 

「この写真はゴミの山のように見えますが、実はすべて洋服なんです。私たち先進国が寄付として洋服を大量に送っていますが、中には着られないものもあり、途上国で不法投棄されています」

 

寄付だと思っていたものが、実はゴミの山と化している。そんな衝撃的な事実に、私は思わずメモをとる手が止まった。

先生はさまざまな発展途上国の問題について、その仕組みや構造について説明してくれた。子どもたちの労働によって作られたものが、安く買い取られていること。ファストファッション産業の急成長や大量生産・大量消費などによって多くの洋服が途上国に送られ、その一部がゴミのように投棄されていること。

 

企業や国が取り組むべきことについて、様々な観点からの説明を聞いた。そして授業終了のチャイムがなった時、先生が言った。

 

「今日の授業の出席として、リアクションペーパーを提出してください。ネット上に提出箱を作っておきますから。様々な問題に対してどのような取り組みができるかを考えて書いてくださいね」

 

どのような取り組みができるのか。

リアクションペーパーは家に帰ってから書こう。そう思って、私は大学を出た。

 

家に帰る途中、新宿のサブナードを歩く。

JR新宿駅と西武新宿駅を繋ぐ地下道で、食べ物や洋服のお店がたくさん並んでいる。朝から夜まで活気にあふれていて、頻繁に店頭に並ぶ商品が入れ替わるから、それらを眺めながら歩くのが毎日の楽しみになっていた。

 

ふと、そろそろ冬物の服を買おうと思った。

その頃は肌寒くなってきた時期で、去年冬服を大量に断捨離したことを思いだし、ふらりと洋服のお店に足を踏み入れた。

 

私は寒がりだから、あたたかいズボンを買いたいなぁ。

そんなことを考えながら洋服を手に取った時、授業で見たゴミの山の写真がふと脳裏をよぎった。

 

大量生産・大量消費。

様々な問題に対してどのような取り組みができるのか。

 

“私”は、どのような取り組みができるのか。

 

簡単だ。たくさん買ってたくさん捨てるのを止めればいい。

頭で考えると当たり前のことだけれど、私はそれを実践できていただろうか。

 

小学生の頃から何度も、環境問題に関する授業を受けてきた。いつも「あなたは何ができますか?」と問われ、グループで話し合ったり発表したりする場がある度に、みんな口を揃えて「不要なものは買わない」と言ってきた。

「児童労働をなくすためにはどうしますか?」と聞かれると、「フェアトレード商品を買う」と言うのもお約束だった。

 

それでも、授業が終わるとそんなことは忘れてしまう。

環境問題に取り組もう。児童労働をなくしたい。そう言いながら、自分の消費行動が問題の構造に加担していることに気づけない。いや、気づけるのに気づいていない。

 

私は何でも企業や社会や国のせいにしてきたのだと思う。私一人が行動しても意味がないと考えるばかりで、企業や国にばかり変化を求めてきた。色々なことを学んできたのに、「あの政治家は……」とか「この企業は……」というばかりで、自分はなにもしてこなかった。結局、社会問題を他人事のように捉えていたのだろう。

 

問題について知るのは大切だけれど、知るだけでは解決しないのも現実だ。

私はなにかしたい。社会を変えるとかボランティアをするとか、そんな大層なことはできなくても、日常のちょっとしたことを変えたい。

家に帰ってリアクションペーパーを書きながら、そんなことを考えた。

 

 

 

岡山デニムと出会ったのは、その後のことである。

値段が多少高くても良いものを長く使おうと決心した私に、岡山デニムは最適だった。とにかく質が良いし、見た目も好みなので飽きない。使えば使うほど味が出るというのも、断捨離好きの私にとっては重要だ。

おかげで衝動買いをすることも、大量に服を捨てることもなくなった。

 

そして国産デニムであるという点も、私が岡山デニムにこだわる所以である。

私の消費行動が、社会に小さな影響を与える。

それなら、「私はこんな社会がいい」という理想を、消費という行動によって理想を少しは現実にできるはずだ。

 

私は、日本の産業を守りたい。

だから、なるべく日本で作られた物を買いたい。

海外製品や国際的な企業を批判するつもりは一切ないし、私の生活の大部分は海外製品に依存している。ただの、一人の大学生の小さなこだわりである。

 

私は日本が大好きだから、日本の人たちや地域が産み出したものをなるべく買いたいと思う。岡山デニムをつくる職人さんや、それを売る人たちのことを思うと、より一層デニムがあたたかく感じられる。

 

 

 

そんなきっかけで履き始めたのだけれど、今では理屈を超えて、私は岡山デニムを愛用している。

ちょっとだけスタイルが良くなったように見えるし、履き心地抜群で、しかもどんな服と合わせても似合う。最初は少し固かった生地が、だんだんと馴染んでくるのも良い。ふと鏡に映った自分の足元が、岡山デニムだと嬉しくなる。

 

岡山デニムが、世界を劇的に変えるわけではない。

それでも私は、何を選び、何を買い、何にこだわるかという日々の積み重ねが、世界や社会をつくっていると思う。

 

デニム一本が、誰かの生活や環境と繋がっている。

岡山デニムは、私のこだわりが詰まった宝物だ。

 

 

茶谷 香音(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

 

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2026-01-08 | Posted in 週刊READING LIFE vol.338

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