週刊READING LIFE Vol.34

新選組にまた会いたくなってしまったよ《週刊READING LIFE Vol.34「歴史に学ぶ仕事術」》


記事:藤原華緒(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 

平成から令和へ。新しい時代が始まった。
昭和から平成の時とは違い、とても晴れやかで穏やか、そしてお祝いムードの幕開けとなった。
 
しかし、今から約150年前。慶応(江戸時代の最後の元号)から明治への移行は、幕末の混乱、そして大きな内戦の末になされた時代の移り変わりだった。
現在も幕末の物語は人気が高く、テレビや映画、マンガ、さらにはゲームなどたくさんのコンテンツの題材となっている。教科書で習っただけでなく、多くの日本人がそういったコンテンツから、幕末の志士たちの名前を知っているだろう。そんな多くの幕末ストーリーの中で私が特に興味を抱き、好きなのが新選組だ。もともとは大河ドラマの影響だったけれど、好きが高じて数年間、京都に通いつめ、新選組の縁(ゆかり)の地を歩き回り、挙句の果てには京都の世界遺産を完全制覇してしまった。
 
さて。
もともと新選組は、京の治安維持を目的として結成された警察のような組織。彼らは倒幕を目的とする尊攘派を見つけ出しては、殺害、逮捕するなどし、京の町で恐れられ、その名をとどろかせた。この新選組があったことで、明治維新が数年遅れたとまで言われている。
そんな彼らが現代の「仕事」という視点で残してくれたメッセージ。私なりに考えてみることにする。

 

 

 

新選組には、局中法度(きょくちゅうはっと)と呼ばれる決まりごとが存在した。有名な鉄の掟(おきて)とも呼ばれるルールだ。現代の言葉になおすとこんな感じだ。
 
¬ 武士らしくない行動をしない
¬ 新選組から脱走しない
¬ 勝手にお金を稼がない
¬ 裁判沙汰を起こさない
¬ プライベートで喧嘩をしない
 
大したことなさそうに思えるけれど、新選組はもともと武士ではなかった者たちが集まって結成されたため、当たり前のように思えることもルールとして決める必要があった(実際に、近藤勇や土方歳三なども百姓出身であった)。そして、最も恐ろしいのが、この法度に背いたものは全員死罪であるということ。つまり、切腹をし、自分の命で償うという厳しいものだった。事実、京の警備などの実務で命を落とした者よりも、この法度に背いて亡くなった人数の方が多いと言われている。また、組の統制を図るために、見せしめのような切腹なども行われていたため、半ば新選組は恐怖政治のような状態になっていった。
一方で、そんな武士ではない彼らだからできた組織づくりもあった。もともと剣術の達人たちを集め(その代表格が沖田総司)、さらにその剣術を磨く稽古も日々行っていた。その中で実力やスキルの高さが認められたものは身分に関係なく出世させ、実力主義の人材登用を行い、強固な組織を作っていったといわれている。だからこそ、禁門の変や池田屋事件などの大きな戦いでも勝利を収めることができたのかもしれない。
 
そんな新選組から「組織(チーム)づくり」を学ぶことはできないだろうか?
 
新選組の時代は鉄の掟である意味縛り付けることが必要だったのだろうか? しかし、それで肝心のメンバーが減ってしまっては到底意味がないし、そもそも恐怖で統制することにはやはり限界がある。
チームの作り方、運営のしかたは様々な考え方があるし、トレンドもあるが、わりと共通しているのは、「チームや組織の目標を共通化し、それを達成するために、個々の能力を最大限に引き出すこと」のように思う。
新選組の鉄の掟は、恐怖をあおる「掟」の形ではなく、「目標の共通化」に置き換えることでポジティブに機能したように思うのだ。前述のとおり、近藤勇は実力主義の組織づくりといった先進的な方法も取っていたのだから、「個々の野力を最大限に引き出す」ことはすでに行っていた。だからこそ、掟や恐怖ではない、前向きな目標化といった統制方法も考えられたような気がするのだ。
事実、その掟によって新選組のナンバー3で古くからの友人でもあった山南敬助(やまなみけいすけ)を失っている。彼が逃亡・脱走したことで、組の掟を守り、切腹をしたのだ。当時、近藤勇は彼の逃亡を見逃すために、沖田総司たった一人を探しに向かわせたといわれている。通常であれば何十人態勢で捜索をするのだが、そうはしなかったところに彼らの仲間への思いがあったに違いないし、その時ほどあの掟を憎んだことはなかったに違いない。
 
そしてもう一つのキーワードは「変化」だ。
 
江戸末期は、薩摩・長州からの迫りくる討幕の波、諸外国からの開国の圧力で揺らいでいた。
その中で、新選組は幕府を信じ幕府を守り続けていた。もちろん、会津藩の預かり組織であった新選組なのだから、幕府のために働くのは当然であった。しかしそれ以前に、彼らの信念は固く、強固なものであったことは、さまざまな文献からもわかる。
 
それでも、彼らはその迫りくる時代の変化の波を感じてはいなかったのだろうか?
 
いつもどんな時代でも変化に対応できなかったものは次第にその影を失っていく。彼らだって、変化の波は痛いほど感じていたはずだ。特に、鳥羽伏見の戦いで敗れたころからは。それでも彼らが戦い続けたのは、「固定化された思考」があったからのように思う。信じたものを信じ続ける。それは、時に素晴らしいことであると同時に、変化への妨げとなって現れることもある。彼らは変わることはできなかった。だから歴史の中に消えていったのだ。
生き残るには変化の道を選ぶ。
これこそがいつの時代も生き残る組織の条件なのだ。
 
多くの血が流れた幕末、江戸末期。
変わることはできなかったけれど、だからこそ語りつかれるドラマもある。歴史の中にはかなく散った物語だからこそ、人々を魅了し、今でも語り継がれ、多くのファンがいることも確かだ。
 
歴史は、私たちに多くこのことを語り掛ける。
 
そして、新選組という組織とその物語は、「組織(チーム)の在り方」と「変化」という2つのキーワードを私たちに残してくれているように思う。
 
また京都に行こうかな。
彼らのたどった軌跡にまた会いたくなってしまったよ。

 
 
 

❏ライタープロフィール
藤原華緒(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

1974年生まれ。2018年より天狼院書店のライティング・ゼミを受講。20代の頃に雑誌ライターを経験しながらも自分の能力に限界を感じ挫折。現在は外資系企業にて会社員をしながら、もう一度「プロの物書き」になるべくチャレンジ中。
 


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2019-05-27 | Posted in 週刊READING LIFE Vol.34

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