覚悟が人を大人にする《週刊READING LIFE Vol.343「あのとき、私は大人になった」》
*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
2026/02/12公開
記事:松本 萌(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
「マイペースだね」とよく言われる。中学生の時にも言われた記憶があるので、子供の頃からそう思われる節があるようだ。なぜそう見えるのか聞いたところ「自分の意見をもっているから」とか、「しっかりしている」「芯が強そうに見える」と答えが返ってくる。
最近夫にも言われたので「なぜそう思うのか教えて」と聞いてみた。すると「ハネムーンでニュージーランドに行ったとき、相手が英語で何言っているかわからなくて不安になってあなたを見ると平然としているから、『何を言っているのかわかるの?』って聞いたら、あなたは表情も変えずに『分からないけど』って言っていてね。『分からないけど、それがどうかしたの?』っていう、いつもと変わらない顔をしているあなたを見て、どんな時も動じずに冷静でマイペースなところが、あなたらしいなと思った」と言われた。
確かに。幼い頃は実年齢より上に見られることがあり、大人になってからは童顔のせいで若く見られがちなものの、動じない姿勢から「年齢不詳」と言われたことがある。私としてはただのポーカーフェイスなだけなのだが……
そんな私も先日44歳になった。外見のみではなく、内面においても私を大人へと成長させてくれたのは、「やるか、やらないのか」そして「やり切るか、やり切らないのか」を自分で決める覚悟を持たせてくれた仕事との出会いだ。
私は新卒以来銀行に勤めている。入社時は街中にある支店に配属され、来店されるお客さまに向かって「いらっしゃいませ!」と毎日声を張って接客をしていた。
今でこそ新卒1年目も2年目もさほど変わりがないように思えるが、社会人になりたての頃の1年差は大きく感じられ、1年上の先輩が神々しく感じ、「1年後にあんなにも仕事ができるように、私はなれるのだろうか……」と不安を感じていた。
日々覚えることばかりで必死だったが、周囲に恵まれ、上司や先輩色々な人達が教えてくれることを必死にメモをとり、自分でできることを一つずつ増やす日々が続いた。
半年ほど経った頃、とあるものに興味が出てきた。営業成績がよかった社員や、非効率な事務を削減して業務の負担を減らす等、工夫しながら業務にあたる社員に送られる「支店長賞」だ。月初めに行われる会議で、前月優秀だった社員に贈られるものだった。
まだまだひよっこではあるものの、できる業務を増やし、時に上司や先輩に「ありがとう! 仕事が早いね」と褒められるまでになってきた私も、そろそろもらえるのではないかと思い始めた。会議の度にいつ私の名前が呼ばれるのだろうとソワソワしていたが、呼ばれることもなく、月日が流れるばかりだった。
「こんなにも私は頑張っているのに、なぜ私は支店長賞に選ばれないのか」とウツウツと思っていたある日、上司と先輩の会話している風景を見ていて、ハッとした。
そろそろ勤続30年はいくであろう上司に対し10年目の先輩が「これは絶対にこうすべきです」と意見をし、上司が「そうか。君がそう言うならそうだね」と、先輩の意見を受け入れていた。社会人歴を考えれば上司のほうが圧倒的に上であるものの、先輩の意見が勝っていることを目の当たりにし、先輩と自分の間にある大きな差に気づいた。
入社時の自分と比べればできるようになったことはたくさんあるものの、先輩のように周囲を納得させられるほどの能力もスキルも皆無の自分が、周囲に対して「私のことを評価して!」と思っている自分が恥ずかしくなった。
今の自分にできることは何だろうと考えた結果、「できるか、できないか」ではなく、「やるか、やらないか」のマインドで仕事に取り組むと決めた。社会人駆け出しの私ができることは極小的だけれども、「やること」ならいくらでもできる。やり続けていれば、いつかできるようになる。
会社では「できる」ことが求められ、できなければ評価されない。ただ評価に気を取られていては、「できる」の前提である「やる」ことに対し、及び越しになってしまう。
「評価されたいという気持ちを一切捨てる」と決め、「やる」ことに集中することにした。そうすると自然と「なぜ私は評価されないのか」という不満が消え、例え誰も褒めてくれなかったとしても、昨日やらなかったことを今日やったなら、自分に「よくやった!」とOKが出せるようになった。
そして、一生もらえないじゃないかと思っていた支店長賞を、2年目になる前にもらうことができた。
「できる、できない」ではなく、「やるか、やらないか」のマインドチェンジをするまでの私は、学校生活での頑張りと、仕事での頑張りとの違いを理解できていなかった。
学校では先生から教わるという受動的な行為があり、中には自主的に学びを深める人もいるが、受動的な姿勢で留まる人が多くいる。しかし仕事では自主的に動かなければ成果を生み出すことができず、結果「できない」人になってしまう。学校では受動的であっても成績がよければ問題にならないが、会社は学校ほど手厚く教育をしてくれることは少なく、一度「できない」レッテルを貼られてしまうと、抜け出すのは難しい。
社会に出てお給料をもらうことで大人になった気分でいたが、心までは大人になりきれていなかった私は、「やるか、やらないか」のマインドになることで、大人になることができた。
私も一つ大人になった……
と言っても、20代の話だ。人生まだまだ続く上で、「『やるか、やらないか』マインドだけでは足りないよ」と教えてくれたのも仕事だった。
30代に入って、初めて異動をした。新卒以来10年同じ支店にいてからの初の異動は、「これは転職ですか?」と思うほどだった。同じ仕事でも支店によってやり方が違い、そして上司も同僚も違う。以前の支店はのんびりした雰囲気だったのに対し、新しい赴任先は求められる実績とスピード感が半端なかった。異動して数ヶ月後にあった友人に、「顔がやつれているけど大丈夫?」と心配されてしまった。
私が異動した半年後、支店長が交代した。新しい支店長は穏やかで笑顔でいることの多い人だったが、高い意識を持って仕事に取り組むことを社員に求める人だった。
今でも当時の支店長の言っていた言葉を思い出すことがある。
「ベストエフォートではだめです。頑張ったとしても結果が出ていなければ、頑張ったとはいえません。」
「王貞治さんの有名な言葉を知っていますか? 『努力は必ず報われる。もし報われない努力があるならば、それはまだ努力とは呼ばない』どうですか? 皆さんの努力は実績に表れていますか?」
毎朝行われる朝礼の度に、胸に刺さる言葉の雨が降ってきた。目の前にある仕事をこなすだけでもお給料はもらえる。でもその働き方は本当に正しいのか。ただ漫然と「やる」になっていないか。私は頑張ったと、誰に対しても胸を張って言えるほど、私はやっているのか。
「やるだけではだめだ。やり切ってこそ、仕事をしたと言える」
そう思った私は、目標を達成するためにどうすればよいかとことん考えること、そして一人一人のお客さまにとことん向き合うことを自分に課した。
やり切ると決めた数年間は、プライベートよりも仕事を優先した。休日に開催する相談会にいつでも出勤できるよう週末の予定を控えたり、友人と会う約束をしていたのをキャンセルしてもらったこともある。結果、その支店で過ごした最後の年に、なかなか達成することができなかった年度目標を達成することができた。
「やり切る」と覚悟したことで、仕事そして自分の行動への責任感を強く意識することができた。大人らしい大人になるために必要な覚悟だった。
今も同じ会社に務めているが、「やるか、やらないか」「やり切るか、やり切らないか」を自分に問うたときとは違う仕事をしている。以前は会社が作った仕組みを形にしていく仕事だったが、今は仕組みを作る側の仕事をしている。
時間もお金も未曾有にあるならばいくらでも作り込むことができるが、そんなことは叶わず、いくつもの制約の中で作り上げていく日々だ。今までは「やる」「やり切る」ことにフォーカスしていたが、今は「やらない」「やり切らない」と判断することも必要になっている。
「これさえできれば……」と歯がゆい気持ちになることもあるが、できないことを受け入れ、「やらない」覚悟をもつことも、人を大人にさせるのだということを学んでいるところだ。
覚悟を決め、結果から逃げない深みのある大人への道のりはなかなか険しいが、それを楽しむユーモアを忘れない大人でありたいと思う。
❏ライタープロフィール
松本萌(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
兵庫県生まれ。東京都在住。
2023年6月より天狼院書店のライティング講座を受講中。
「行きたいところに行く・会いたい人に会いに行く・食べたいものを食べる」がモットー。趣味は通算20年以上続けている弓道。弓道と同じくらい、ライティングも長く続けたいと思い、奮闘中。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
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