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週刊READING LIFE Vol.38

会社以外の関係性を通じて見える、新しい社会《週刊READING LIFE Vol.38「社会と個人」》


記事:なつむ(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 

「あぁ、なんか、休みたい……」
 
私は最近、一人で空回りして、ジタバタしている。
 
原因は、自分でも、よくわかっている。
変化を急に起こしすぎて、心や体が、ついていっていないのだ。
 
1年ちょっと前まで、私は、ほとんど、家と会社の往復しかしていなかった。
仕事が基本的に好きなので、ついつい長時間残業。
休みの日に出かけることはあっても、平日は判を押したように似た暮らしをしていた。
 
でも、好きな仕事も慣れが出て、徐々に、停滞感が漂ってきた。以前は異動続きだった中、ここ数年同じ仕事をしているのが自分にとっては主な原因だった。
部門異動の希望は、その年は通らなかった。転職するほどの理由や勇気はなかった。
 
そんな中、以前から、気になっているものがあった。
自分でも、いつ、どうして、登録したのかもよく覚えていない、メルマガ。
会社のメールアドレス宛に届いていて、内容が営業関連だから、多分、営業部門に在籍した1年間の間に、どこかで登録したものと思う。
そのメルマガの中で、たびたび紹介され、「目標達成意欲のある人だけ来てください」と挑戦的な勧誘が書かれていた、朝会があった。
自分にはちょっとハードルが高いな……と思っていたが、その朝会から派生した女性だけの勉強会のイベントに、以前一度だけ参加したことがあった。初めて経験するような、キラキラと素敵な場で、いつか、定期的に通うようになりたいとも思っていた。
 
2018年の春、意を決して、入会。その朝会と、女性の勉強会に、定期参加するようになった。
 
それから1年。あれよあれという間に、生活が変わった。
 
今になって、振り返ってみて、初めて分かるが、大きな変化の最初の引き金になったのは、「女性の勉強会の初参加時に、運営のお手伝いもしますと申し出たこと」だったかもしれない。
その申し出自体は、私にとって自然なことだった。小学校でも中学校でも高校でも、学級委員や、文化祭のときの文化委員などをやらせてもらってきた私だ。素敵な女性の集まりがあって「運営はボランティアでやっています。よかったらサポータになってね」といわれて、手を挙げる判断をするのに時間も葛藤も必要なかった。
 
でもそれが、思いがけないところへつながっていた。
 
成り行きで、初めて、Facebookにアカウントを、持つことになったのだ。
 
「運営関連の連絡は全部Facebookのメッセンジャーを使用しているので、ないとかなり活動しづらい」と教えられたためだった。
 
それまで、Facebookは避けてきた。当時、自分の周りにはFacebookに対して肯定的な見方と否定的な見方とが両方あって、この時代にFacebookを避けて通るというのは「時代に置いて行かれているよなぁ」とわかっている一方で、正直、何に使えばよいのか、わからなかった。やりはじめて楽しくなるとのめり込んでしまうのではないかという恐れもあった。
 
でも、ここでは、ないと、活動しづらいという。
せっかく、新しい場に来たのだ。これも、挑戦のうち。最初は本当に、渋々、登録をした形だった。
 
右往左往しながら、なんとか登録を終えて、迎えた翌月、初めての朝会で、私は驚いた。
初めてご挨拶する人が、みんな、「Facebookはやってますか?」とおっしゃるのだ。
あぁ、今って、そういう時代なんだ、と、感じた。
行きがかり上、仕方なく作ったアカウントだったけれど、ここでは、大げさではなく、これが「インフラ」、皆さんとの繋がりのベースになっているようだった。
はじめの数人ではまだ新しいツールとしか感じなかったが、「友達」が増え、いろんなグループに入り、イベントの情報などがそこで管理されるようになった頃に、ソーシャルメディア、ソーシャル・ネットワーキング・サービス、と言われる名前の通り、自分の目の前に、今までは知らなかった「社会」が、出現しているのを感じた。
 
その後、参加している人ともっと仲良くなりたいなと思っていたところに、これまた成り行きで、いや、勢いでという方が良いかもしれないが、世界最高峰の障害物レース、スパルタンに、その団体の皆さんと一緒に参加させてもらい、挑戦することになった。運動することには一生縁がないだろうと勝手に思っていたのに、スパルタンのために、ランニングや筋トレを始めた。
そのスパルタンに興味を持つ一番最初のきっかけも、Facebookでの知人の投稿だった。
 
ちょうど、初スパルタンに向けて、初めて本格的な筋トレを習い始める頃だった。
Facebookで、とても気にある広告を見た。そこには、こう書いてあった。
 
「人生を変える ライティング・ゼミ」
 
私が所属しているその朝会や女性の会がある団体も、十分インパクトのあるネーミングなのだが(一般社団法人「絶対達成社長の会」という)、天狼院書店の「”人生を変える” ライティング・ゼミ」というネーミングも、相当にインパクトのある名前だった。
しかも、ただの広告ではなく、朝会で知り合った、私がすごいなぁと思っている人たちの名前と、「○○さんが天狼院書店に いいね! しています」という、Facebookならではの「推し」が、ついていた。
 
気になって仕方なくて、悩んで悩んで悩んだ末に、飛び込んだ。
その時のコースは、課題締切が毎週月曜日の夜中。土日に書けば良いものを、いつも間際まで書けず、月曜の夜中に悪戦苦闘。書き終わると、今度は興奮して、寝られない。早寝早起きをしたいところ、一週間の平日のスタートで見事に生活リズムを崩してしまう。自分の取り組み方だけの問題なのだから、どうにかすれば良いのに、結局、コース修了の最後まで、その状態をうまくコントロールできなかった。
そういう苦しさはあったものの、ゼミや書くこと自体はとても面白く、天狼院の三浦さんやスタッフの方だけでなく、受講生でも顔見知りになった人ができた。
 
例の団体のほうでは、無事に人生で初めてのスパルタンレースを終えた。いつも会っている東京の人だけでなく、全国の会員の中からレースに参加した仲間とのつながりも得ることができた。合同の練習会などもあって、別の団体の方とも繋がりができた。誘われて、滝行に行ったり、読書会に出たりと、活動の量は増え、関わる相手も増えていった。
そんな中、まだ会員になって半年もたたないうちに、本格的に団体の運営をする側のメンバーに参画することを打診された。もちろん、ボランティアだ。何をするのかよくわからないので断る理由もなく、引き受けてみた。
 
そして、今、考えればうかつだったとも思えるが、同じタイミングで、天狼院のライターズ倶楽部も、始めてしまった。初めての企画会議、初めての5000字。毎回毎回、ウンウン言って書く。企画はなかなか、ひねり出せない。
 
本業の忙しい時期と、団体の運営での仕事がやってきた。
そこからの3ヶ月は、恐ろしい時間だった。
 
もう、はっきり言って、全然、ダメだった。
 
心も、体も、現実についていけていない。
変化が激しいと言っても、もうちょっと適応できるんじゃないかと勝手に自分に期待していたのだが、全然、うまく行かなかった。
 
考えてみれば、もしかすると、今までが、サボりすぎて来たのかもしれなかった。
 
会社の中で部活をやっていて若い頃は熱心に活動していたけれど、最近それも下火。
ほぼ「家と会社しかない」生活にどっぷりと浸かっていた。会社の中での所属は、管理系。社会と接することが少ない環境。
 
もちろん、管理系の仕事だって、大変な面が多数あるし、会社を回していくために必要な重要な仕事だし、とても尊いもので、私は仕事には悪い印象は一切持っていない。
他方で、自己裁量が効きすぎる、もしかしたら緊張感が不足気味になる、刺激の少なめの、ゆるっとした環境に、自分が慣れてしまったことも、紛れもない、事実だった。
 
新しい環境で、慣れない行動を取ることを要請されることに、心が拒否反応を示した。
インプットもアウトプットも足りなすぎて、何からやればいいか、わからなくなった。
今まで接してきた社内の人達とは、当たり前だが全然違う価値観で、全然違う背景で、どうしてそんなことをそんなふうに言うのかわからない人と会話することに、戸惑った。
 
次から次へ、自分にとって新しいものが入ってきて、翻弄され、自分の考えが持てなくなり、何をしているのか、よくわからなくなってきた。
 
休みたい。でも、休んだらまた遅れをとる。
常に何かに追いまくられている。
いつでも、求められている結果を出し切れいていないという感覚が抜けない。
 
日によっては、布団から、出られなくなった。
起きるとまた、対応しきれない現実が襲ってくるような、そんな感覚だ。
 
自己肯定感が恐ろしく低い。気がつくと泣いていることがある。
いろいろ、おかしい。
 
家と会社を往復していれば良かった頃は、本当に、楽だったし、穏やかな毎日だったなぁと、思う。
 
でも。
 
その状態に戻りたいかと言うと……?
 
こんなに苦しいことを味わっておきながら、不思議なことだが、それは、違うんだよな、と思う自分がいる。
 
そう感じるのはおそらく、自分の接する世界や、社会が、この期間にものすごく広がったのが、紛れもない事実だからだろうと思う。
それ以前は、今の感覚から言えば、閉じこもっていたに近い。当時は、閉じこもっていたつもりもなかったけれど、とても閉鎖的な環境にいたことには、変わりがないだろう。
 
今、確かにしんどい。
特に、単に参加する立場から、運営を意識するようになって、単にワイワイキャーキャーという楽しいやり取りだけでなくなった。
ある意味、急に「真面目な議論」も出てくるし、価値観のすり合わせ、ときにぶつけ合い、これまでになかった種類の、ある種非常にストレスフルなやり取りが、とても増えている。
一山越えて、二山越えて、何度か、少し先が見えたような気がする瞬間が訪れるのだが、進んでいくと、また、先が見えない。その繰り返し。
様々な不慣れなものが流れ込んできて、ひたすら、困ることばかり。
自分でコントロールできなくて、とても、ストレスが大きい。
 
でも、そこでまた、新しいつながりが、それもまた強いつながりが、生まれていくのも、感じている。
 
今、私には、会社・勤務先という「社会とのつながり」の他に、一般社団法人と、そして天狼院書店でのいろいろと言う、複数の、「社会とのつながり」がある。
個人としての動き方次第で、今後、もしかしたら、地域という場所でのつながりもあるかもしれないし、人生の動きによってはさらに違う世界とも接していくことになるだろう。
 
一気に変化を経験してきて、今はしんどいことが楽しいことを上回ってしまうようなバランスになっているところがあるが、「個」にも焦点が当たる今の時代に、会社以外の形で、社会との接点を持てていること自体は、楽しいし、面白い。
いつまでもジタバタしていないで、もう少し冷静に、関わり方をきちんと考えながら、色んな人と、素敵なご縁をどんどんと紡いで行ける自分に早くなりたいなあと感じる、今日、この頃だ。

 
 
 
 

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2019-06-24 | Posted in 週刊READING LIFE Vol.38

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