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週刊READING LIFE Vol.42

仕事の名前で探していては、新しい仕事は見つからない《 週刊READING LIFE Vol.42「大人のための仕事図鑑」》


記事:井上カヲル(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 

「自分に合った仕事」「自分らしく働けること」
今まさに、私は探している。
新卒で13年働いた会社をやめ、運よく入れてもらえた2社目をたったの2ヶ月半でやめた。
 
私は、13年間、求人広告の営業をしてきた。
規模も違えば業種もエリアも違う。
札幌駅周辺を担当していたときは、東京本社の採用担当者と話すことも多く、聞いたことない横文字が出てくると焦った。函館周辺を担当していたときは、浜言葉が聞き取れず、息を殺して全神経を耳に集中させていた。
どんな場所でも、どんな業種でも、だれかがやらないといけない仕事で、だれかが繋いできた仕事だ。どの仕事も、やったことのない私にとって、「すごい」と言えるものばかりだった。
 
1社目をやめて、転職活動をし始めると、まず、自分の価値を自分で見つめ直す必要がある。
履歴書や職務経歴書は、どこかに所属するための最低限の持ち物で、ここで自分を見つめ直す必要があるからだ。
正直、もっと書けると思っていた。
曲がりなりにも、採用に関する仕事をしていて、ある程度しっかり書かれている求人広告を見れば、「どんな人がほしいのか」イメージできる。
だから、企業が求めている人物像のイメージと自分が合っていれば、自分のやってきたことをありのまま書いておけばいいと思った。
が、これがものすごく難しい。
「すごいことやってましたよ」なんて自分の性格じゃ書けないし、かと言って、「大したことないんです~」テンションのやつなんて、だれが採用したいだろう。それに、自分の経歴やアピールしたいところを言葉にするのが、どうにもうまくいかないのだ。

 

 

 

 

「営業時代って何社くらいまわってたんですか?」
ひょんなことから知人のAさん仕事に同行させてもらうことになり、目的地に行く道すがら、ふいに聞かれた。
「いやいや、営業って言っても、わたし内勤だったので、電話がメインですよ。たまーに打ち合わせとか取材で外出したりしましたけど」
いつもの通り答えた。
すると、Aさんは残念そうな顔をした。
 
日本人は謙遜することを美徳としている。
求人広告の営業時代に、採用担当者に仕事内容について話を聞き、「へぇー。そういう仕事なんですね!  すごいですね!  大変ですねぇ」と言うと、「いやいや、たいしたことないよ。うちの仕事なんてだれでもできるよ」
そう言って謙遜する人が多かった(まれに、「でしょ?」と言う人もいるが、それは笑いを取ろうとしている人だった)。
私は友人に経理事務を新卒からずっとやっている子と看護師を全国いろんな病院でやっている子がいるが、「経理も看護師もすごいよねぇ。私にはできないよ」と言うと、「いやいやいや!  営業こそ(経理こそ!or看護師こそ!)できないよ」と、お互いが自分がやっている仕事以外は大変そうでできない!  と言う。
 
そういう「私がやってる仕事なんてたいしたことないです思想」が、自分を前に進ませる足かせになっている。
 
聞かれることに対し、「いやいやそんな」と答えていると、残念そうな顔でAさんは言った。
「井上さん、それって日本人として美しいことだと思うんですけど、損してますよ」と。
そして、
「電話で営業なんて僕、やったことないですもん。それに13年もやってたら、もうプロですよ、求人の」
はぁ、そうですかねぇ、と私。
「僕はいま、僕らが始めている事業に共感してくれる人を探していて、そして足りないピースは電話対応できる人だったりする。それに企業に入りこんでいくから、自ずと採用に関する知識も必要になる。それに、思ってることを言って会社やめたなんて最高じゃないですか。言える人ってなかなかいないですよ。もっと、自分がやってきたことに自信を持ったらいいですよ」
 
「自分がやってきた仕事」と捉えると、「営業」とか「経理」とか「看護師」とか名称がついている。
求人広告をつくるとき、意外と悩む要素になったのは、仕事に名前をつけること。
広告のタイトルに、だれもが聞けばイメージできそうな言葉にあてはめないといけない。
「こういう仕事なんだけど、一般事務?  総務?  うーん……」
「新しい部署が立ち上がるからそのメンバーを募集したいんだけど、なんでもやるから職種は……うーん」
 
名前をつけるからイメージが固定される。
名前があるから、伝えるのはひと言で済む。
 
けれど、これから自分の仕事を見つけるには、そのひと言では足りないのだ。
「これはセーターです」と言われて渡されたものは、ほどくと当然ながらたくさんの長い毛糸でできている。
毛糸をほどいて、手袋やマフラーをつくることができる。
 
やってきた仕事をほどいて、自分にはどういう色の毛糸があるのか。どういう特徴のある毛糸なのか。短かったり長かったり、細かったり太かったり。
それを言語化していく必要がある。
そうすると、手袋やマフラーができるように、今持っている自分の要素から新たな仕事が生まれる。
これまでの自分の中に、新しい仕事はあるのだ。
 
私は、Aさんがこれから掲載する求人広告の導入文を書かせてもらった。
どうして募集するのか。どういう人を求めているのか。
電話営業で鍛えられた聴く力と、求人広告をやっていた経験と、いま学んでいる文章で、新しい仕事ができた。
この仕事に名前をつけるとしたら、なんだろう?
おそらく、ひと言では言い表せない。
けれど、「それでいい」と思えるようになることは、自分らしく働くための、第一歩なのかもしれない。

 
 
 
 

◻︎ライタープロフィール
井上カヲル(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

札幌市在住。元・求人広告営業。
2018年6月開講の「ライティング・ゼミ」を受講し、12月より天狼院ライターズ倶楽部に所属中。
IT企業のブログにて、働く女性に向けての記事を書いている。
エネルギー源は妹と暮らすうさぎさん、バスケットボール、お笑い&落語、映画、苦くなくて甘すぎないカフェモカ

 
 
 
 

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2019-07-22 | Posted in 週刊READING LIFE Vol.42

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