週刊READING LIFE vol.47

キョンキョンとコミュニケーションがとれないなんて《 週刊READING LIFE Vol.47「映画・ドラマ・アニメFANATIC!」》


記事:丸山ゆり(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 

「恋を何年休んでますか」というドラマをご存知だろうか?
 
かれこれ、18年前の放映だったのだが、このドラマを毎週、録画もしながら、楽しみに見ていたものだ。
 
初めてドラマのタイトルを見たときに、私はドキッとしたのを覚えている。
当時、主婦で、子育て真っ最中だった私には、縁遠い言葉だった。
 
「恋」
 
懐かしい、恋愛模様を想像していたのだが、そうではなかったのだ。
 
主役は、なんと、平凡な日常を過ごす三人の主婦の話だった。
 
登場人物、一人目、小西有子役のキョンキョンこと、小泉今日子。
その夫、小西良平役の仲村トオル。
夫は、一流企業のサラリーマン。
住まいは、夫の両親の家と同じ敷地内に建つ、新築の一軒家。
一女一男の子どもにも恵まれ、はた目からすると何の不自由もない幸せな家庭そのものだ。
 
二人目、会田まゆみ役の飯島直子。
その夫、会田一郎役は、山口祐一郎。
まゆみは美容室を経営するオーナーで、その夫一郎は役者としてなかなか目が出ない。
いわゆる、「髪結いの亭主」だ。
 
三人目、堀川咲子役の黒木瞳。
その夫、堀川和雄は大手銀行の支店長で単身赴任中。
東京で高級マンションに娘、矢田亜希子演じる理沙と二人暮らし。
セレブな生活を送っている。
 
何気ない日常を送る、三人の主婦とその家族たち。
その家族が暮らし、物語の舞台となっていたのが、東京の用賀という街だった。
閑静な住宅街がドラマにさらに優雅な印象を落としていた。
 
何不自由のない生活を送る、一見幸せそうな三人の主婦。
ところが、それぞれの女性には、心に秘めた思いがあったのだ。
 
その中でも、特に当時の私とリンクしたのが、有子だった。
 
有子は、学生時代の恋人と、ちょっとしたケンカが原因で、別れてしまったという苦い思い出がある。
その恋人から誕生日のプレゼントに贈られた詩集が捨てられず、新居に越してきたときにも持ってきていた。
ふと、思い出す、学生時代の古い恋の思い出。
 
それが、良い思い出で終わればいいのだけれども……。
どこかで、「あの時は良かったな……」と胸によみがえるのは、多少の未練が残っているのと、今の生活に満足していないということではないだろうか。
そんなシーンを見ると、私自身もキュンとなったものだ。
 
夫婦とはつくづく面白いものだと思う。
最初はお互いに恋愛感情を募らせ、やがて結婚というカタチを選んだのだ。
そして、同じ人生を共に歩み始めるのだが、どこからか男と女の関係を超えたものになってゆくのだ。
 
それは、子どもが生まれ、「パパ」「ママ」という新しい称号を受けたところから始まる。
それまでは、名前で呼び合っていたはずなのに、子どもからだけではなく、お互いに共通の役割の呼び名で呼ぶようになってしまうのだ。
 
このドラマでも、印象に残ったのは、有子の夫、良平が放った、「ボクは君のパパじゃない」という言葉だ。
 
「パパ」という言葉には、妻がいて、子どもがいて、その大事な人たちを養わなければいけない重みを感じる。
毎日、会社で仕事をし、ストレスすらも家に持って帰ることができないのだ。
だって、「パパ」だから、弱音も吐けないのだ。
 
そんな生活の中で、やがて有子の夫、良平は咲子の娘、理沙と関係をもってしまう。
どこかで、「パパ」ではない自分を取り戻したかったのか。
どこかで、何もかも忘れてその時の思いにおぼれたかったのか。
 
当時、私自身も主婦だった。
夫とは、ドラマと同じような関係性、同士となってしまっていたのだ。
それは、日々の生活に追われ、仕方のないことだと思っていた。
そんなふうに思い始めていた私に、もう一度考えるきっかけをくれたようにも思う。
自分の置かれた環境と似ているような、そんな夫婦の距離感に心が動いたものだった。
 
そう、だから18年も前のドラマなのに、いまだにあの時の感動を覚えている。
そして、このドラマを超えるストーリーにまだ出会えていないのである。
 
夫婦になると、恋愛感情は薄れてしまい、やがては「パパ、ママ」という関係に収まってしまう。
そうなると、お互いの役割分担のみを要求するような関係性に陥り、もはや男女ではなくなるような気がする。
 
結婚すると、その途端に役割が増えてしまうのだ。
妻であり、母でもある。
夫であり、父でもある。
 
父として、母としてのコミュニケーションは取れるのに、夫として妻としてのコミュニケーションが薄れてしまうようだ。
 
そんなとき、ふとした優しさに惹かれ、自分を男として、女として見てくれる存在に走ってしまうのかもしれない。
束の間の心地良さ、そう、「恋」を求めて。
 
それを、決して「不倫」ととらえていないところに、このドラマが醸し出す優しさや心温まるストーリーを感じる。
 
それにしても、このドラマの主役のキョンキョンは、相変わらずキュートな存在感があった。
昔の恋人に思いを馳せ、悩みながらも、やがては走っていってしまうような大胆さもある有子。
 
そんなキョンキョンとコミュニケーションが取れないなんて、素に戻るとありえないような、もったいないような。
 
ドラマの中の設定の有子と、キョンキョン個人の印象とが行ったり、来たりして。
 
「恋」という言葉には、いくつになっても胸がキュンとなるものだ。
結婚しても、パートナーに対しての「恋」する気持ちを持ち続けたいものだと痛感したドラマだった。

 
 
 
 

◻︎ライタープロフィール
丸山ゆり(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

関西初のやましたひでこ<公認>断捨離トレーナー。
カルチャーセンター10か所以上、延べ100回以上断捨離講座で講師を務める。
地元の公共団体での断捨離講座、国内外の企業の研修でセミナーを行う。
1963年兵庫県西宮市生まれ。短大卒業後、商社に勤務した後、結婚。ごく普通の主婦として家事に専念している時に、断捨離に出会う。自分とモノとの今の関係性を問う発想に感銘を受けて、断捨離を通して、身近な人から笑顔にしていくことを開始。片づけの苦手な人を片づけ好きにさせるレッスンに定評あり。部屋を片づけるだけでなく、心地よく暮らせて、機能的な収納術を提案している。モットーは、断捨離で「エレガントな女性に」。
2013年1月断捨離提唱者やましたひでこより第1期公認トレーナーと認定される。
整理・収納アドバイザー1級。

 
 
 
 
http://tenro-in.com/zemi/86808

 


2019-08-27 | Posted in 週刊READING LIFE vol.47

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