週刊READING LIFE vol.49

この夏、タイムスリップ詐欺に遭いました《 週刊READING LIFE Vol.49「10 MINUTES DOCUMENTARIES〜10分で読めるドキュメンタリー特集〜」》


記事:射手座右聴き(天狼院公認ライター)
 
 

あなたにとって懐かしいアーティストは誰ですか。
その人のライブを数十年後に見てみたら、どうでしょうか。
それは、音のタイムスリップではないか。
と思ってこの夏、私は旅に出ました。
 
2019年7月13日17時すぎ。北海道いわみざわ公園。
何度目かのタイムスリップの時が迫っていた。
ステージを囲む芝が緑からオレンジ色に変わっている。
午前中、少し降っていた雨は完全にやんだ。とにかく暑かった。
スタッフが楽器をチェックする。
ステージの下にだんだんと人が集まってくる。
頭に白いものが混じった男女が多い。
どこか、夏フェス慣れしていない雰囲気だ。長靴が少ない。
山仕様ではなく、カジュアルな服が多い。
夏フェスというと、若い人が中心、というイメージがあるが、ここに集まってくる人たちは
中高年が中心のような感じだ。
無理もない。サマーソニックは今年で20周年、フジロックは、22年目ではないだろうか。
 
雨が続いていた7月前半。久々の晴れ間が嬉しくて、夕焼けの空を見る。
なぜか、どよめきが起こる。
見ると、ステージ横のモニターに、次のアーティスト名がでた。
 
「BARBEE BOYS」
 
嬉しそうに顔を見合わせる中高年カップルがいる。拍手をする人もいる。
 
「よく知らないんだよね、BARBEE BOYSって」
隣に立っている女性二人は20代だろうか。
「RGと鬼奴のモノマネしか知らないよ」
もう一人が相槌を打つ。
 
そう。BARBEE BOYSと若い人の接点といえば、ものまねだ。
レイザーラモンRGさんと椿鬼奴さんがボーカルの真似をしているのを、メディアで
見たことがある人は少なくないと思う。
そう。男女のかけあいボーカルのバンド、
しかも、男性ボーカルは、SAXも担当する、という少し変わった編成のバンドだ。
モノマネしか、見たことのない世代の人たちに、BARBEE BOYSは、どう映るのだろうか。
 
「BARBEE BOYS、昔よく聴いていた」
「懐かしい」
 
SNSでBARBEE BOYSを検索すると、こんなワードがでてくる。
1980年代後半から1990年代前半くらいに、バンドブームというのがあったのだが、その流れの
中に、BARBEE BOYSはいた。いたどころか引っ張っていた方なのだ。なのに、TMネットワーク、ユニコーン、レベッカ、BOOWYなどに比べると、若い人への浸透度が低いのだ。
1988年には、東京ドームでもライブを開催しているのに、である。これは、hound dog、BOOWYに続いて、日本人アーティストとしては3番目の速さだ。
 
メジャーな活躍をしたのに、メジャーではない。
いやむしろ、メジャーになることを、よしとしない何かがあった。
 
ひとつは、いかがわしさ、だと思う。
何しろ、ほとんどの曲が、男女の恋愛のもつれを歌っている。そこに、爽やかさなどない。
口説きたい側と口説かれたい側のかけひき、別れたい人と別れたくない人のぶつかりあい、
欲望と打算が見え隠れする歌詞に、愛や恋という言葉はでてこない。
聴き終わったあとに、もやもやが残る歌詞ばかりだ。
 
歌詞だけ見たら、ドロドロの歌謡曲と思うかもしれない。
 
しかし、そうではないのだ。いかがわしさをさらにパワーアップさせるものがあるのだ。
「歌詞の意味はわからなかったけれど、大好きだった」
「大人になってから、歌詞の意味がわかって、びっくりした」
1980年代後半の中高生は、このタイムスリップで、新たな発見をすることになるのだ。
 
突然、サンダーバードのテーマが聴こえた。
メンバーが現れた。愛想がいいとは言えない。でも、無愛想とも言えない感じだ。
ギターのイマサがリフを刻み始める。
そう。歌詞に反して、このリフが洗練されているのだ。
ボーカルのKONTAがSAXでイントロを吹く。キャッチーなようで、尖ったイントロだ。
リズム隊がうねりはじめる。ベースのエンリケは、浜崎あゆみのバックバンドを経て、いまでも年間50回近いライブをしている。一方でドラムのコイソは、もはやミュージシャンというより社長だ。アーティストマネジメント会社の経営が本業だ。そんな中で、もう一人のボーカル、杏子がストールを振り回しながら踊る。
 
不思議なコード進行のロックに、いかがわしい歌詞がのってくる。
曲名は「女ぎつねon the run」。今時、めぎつね、なんて曲をだしたら、けしからん、と言われそうなタイトルだ。
ゴージャス感のあるボーカル二人のパフォーマンスに、一筋縄ではいかない楽曲。
 
歌詞に共感しながら、みんなで声をだしたり、ジャンプしたりする一体感型のロックとは
すこし違う世界観。
 
なのに、サビでは、みんなが手をあげる。指できつねを作って手をあげる。
手が勝手に動いた。
 
隣を見ると、20代の女性たちは、ぽかんとしていた。
 
でも、もうこちらは、タイムスリップを完了していた。
2曲め「でも!?しょうがない」
3曲め「使い放題tendetness」
4曲め「勇み足サミー」
5曲め「さぁどうしよう」
 
曲名にポジティブな要素がほとんどないことにお気づきだろうか。
曲とその時の思い出が少しずつリンクする。
ギターの音色がかっこよくて、真似したかったこと。
コピーバンドを作ろうとしても、なかなか周りに理解してもらえる人が少なかったこと。
パソコンはなく、Ipodもなく、まだカセットテープだったこと。
カセットテープに録音して、ウォークマンで聞いたこと。
 
そして、RGと鬼奴のモノマネでおなじみ、「目を閉じておいでよ」
最大のヒット曲である。
 
ヒット曲かどうかよりも。とにかく踊りながら歌う杏子のフェロモンがおかしい。
そこに絡んでいくほかのメンバーも動きがあやしい。
 
曲だけ聴いたら、テンションが上がってくる感じのミドルテンポのロックだが、
歌詞は、浮気の話だ。
 
目を閉じていれば、彼氏とは違うだろう、という曲だ。
この肉食感、現代の男女関係と明らかに違う。
でも、その時、少し上の世代の先輩から、三角関係やら、二股やら
聞かされていたのを思い出す。
 
「目を閉じておいでよ」という歌詞を、中高年の男女がくちずさんでいる感じは
ちょっと不思議だ。一体感といっても一般的なロックの感じとはちょっと違う。
経験のあるなしにかかわらず、恋愛のドロドロを、一体となって口ずさむ。
そう。メロディがよすぎるのだ。曲がよすぎるのだ。ついつい、歌ってしまうのだ。
なんとなく、いかがわしいと思いつつ、でも、本当の意味もわからず。

家でこっそり聴いていた曲を、「今日この場だけ一緒に歌っていい」みたいな感じなのだ。
家でこっそり聴いていたバンドの音を、「今日この場だけお天道様の下で爆音で聴いていいよ」みたいな感じなのだ。
 
7曲めからアップテンポの曲になるが、相変わらず曲名は暗い。
「三日月の憂鬱」
8曲め「負けるもんか」これも、ただならぬ歌詞だ。
男性の家へおしかける女性の歌だ。公衆電話から電話するという、まさに昭和。
しかし、この歌詞の二人も、普通の恋人どうしではない。
泊めてはいけない女性なのだ。
しかし、曲だけ聴くと、アップテンポのロック。
そして、最後に「なんだったんだ?7days」
曲は、明るいロックだが、歌詞が一筋縄ではない。拗ねた男性となだめるような女性のかけあい。
当時はテンポのいい楽しい曲のように感じていたが、今聴いたら、また少し違って聞こえる。
 
こうして、40分くらいのタイムスリップはおわった。
十分いかがわしく、十分にかっこよかったが、
今回の復活では、昔と違うことが一つあった。
 
何よりメンバーが嬉しそうだったことだ。
嬉しさを出しながら、とげとげしさも
失わなかったことだ。
大人の色気、トゲを失わずに、でも、楽しく笑顔でパフォーマンスしていたのだ。
あれはなんだろうか。
もう、恋愛のピークは、すぎた年代のはずの人たちが、
赤裸々な歌を演奏して違和感がない。
これはどういうことだろうか。
 
やられた。これは詐欺だ。
これは、新たな発見のあるタイムスリップと見せかけた
ポジティブな詐欺だ。
 
若い頃、好きだったアーティストが数十年経って、復活することがある。
曲を聴くだけで私たちは、タイムスリップすることが
できる。と思っていた。いままでは。
 
でも、そこには、新たな発見があるのだ。
昔の自分の気持ちと、今の自分の気持ち、
そして、実は変化しているアーティストの魅力。
なんという極上のライブなのか。
 
そして、この極上は、まだまだ続く。
来年1月には単独ライブがある。
メンバーの何人かが、60歳にさしかかる。
 
60代のいかがわしさってどんなだろうか。
60代の余裕ってどんなだろうか。
 
次も見事に騙されたい。だからこそ、
こっそりと曲を聴いておこう。いかがわしい曲たちを。
 
あなたにとって懐かしいアーティストは誰ですか。
その人のライブを数十年後に見たら、どうでしょうか。
音のタイムスリップだけではない、何かが見つかるかもしれません。

 
 
 
 

◻︎ライタープロフィール
射手座右聴き (天狼院公認ライター)

東京生まれ静岡育ち。新婚。大学卒業後、広告会社でCM制作に携わる。40代半ばで、フリーのクリエイティブディレクターに。退職時のキャリア相談をきっかけに、中高年男性の人生転換期に大きな関心を持つ。本業の合間に、1時間1000円で自分を貸し出す「おっさんレンタル」に登録。4年で300人ほどの相談や依頼を受ける。同じ時期に、某有名WEBライターのイベントでのDJをきっかけにWEBライティングに興味を持ち、天狼院書店ライティングゼミの門を叩く。「人生100年時代の折り返し地点をどう生きるか」「普通のおっさんが、世間から疎まれずに生きていくにはどうするか」 をメインテーマに楽しく元気の出るライティングを志す。天狼院公認ライター。
メディア出演:スマステーション(2015年),スーパーJチャンネル, BBCラジオ(2016年)におっさんレンタルメンバー
として出演

 
 
 
 
http://tenro-in.com/zemi/97290

 


2019-09-17 | Posted in 週刊READING LIFE vol.49

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