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週刊READING LIFE vol.59

面白いこと、一緒にやりませんか?《週刊READING LIFE Vol.59 「世迷事」》


記事:射手座右聴き (天狼院公認ライター)
 
 

私には苦手な言葉があります。
その一言は、前向きなんだけど、毎回気持ちをもやっとさせます。
「面白いことを考えたんだけど、一緒にやらない?」
この一言です。
聞いた瞬間、もやっとする言葉です。でも、このもやっとする言葉を耳にすることは、少なくありません。年に10回くらいはこの言葉を聞きます。
 
たとえば、こんな感じです。
「面白いことを考えたんだけど、一緒にやらない?」
「面白いこと?」
「友だちが居酒屋をやっていて、そこで日本酒のイベントをやろうと思うんだ。異業種交流会みたいな感じで。年齢に関係なく」
それ、誰が来るんだろう。来た人のメリットは何?
思っても口には出しません。
お酒の席での思いつき、楽しくその場を盛り上げた方がいいと思うからです。
 
でも、中には、それでは済まない、本気の「面白いこと」もあります。
 
先日、中村さん(仮名)という人とお会いした時もこんな話がでました。
「すごく面白いことを思いついたので、力を貸してもらえませんか」
「へー。どんなことですか」
「新しいWEBメディアを作りたいんです」
「WEBメディアですか」
「そうです。社会人が好きな時に、楽しく勉強できるWEBメディアです」
たしかに、社会人は勉強が必要です。
「それはいいですね。どんな勉強ができるんですか」
「経営学とか、法律とか、会計とか」
「それなら、自分も勉強したいです。今、起業したばかりで、知りたいことばかりです。どんな先生が教えるんですか」
私は身を乗り出しました。
「自分が講師をやろうと思っているんです」
「中村さんが教えるんですか」
「実は私、有名な経営学のセミナーを200回以上受けているんですよ」
その圧倒的な量に私は関心を持ちました。
「ボランティアでセミナーのアシスタントをしていたんです」
「すごいですね」
「その時に経験したことをアレンジして、経営学のレジュメを作ったんです。これです」
彼はPCをこちらに向けて、その一部を見せてくれました。
なるほど。本格的な経営セミナーで学んだことをもとに新しく作った経営学の資料か。中村さんは、続けて言った。
「私は、広告会社に長くいたので、図式化したり、わかりやすくするのは得意です。難解だった経営学のセミナーを、私なりに、わかりやすく図式化したんですよ」
これは、売れそうだ。というか、これは役立ちそうだ。素直に思いました。
全体像が一目で入ってくる。個別のブロックもわかりやすく簡潔な言葉で
書いてあります。。しばらく見入ったあと、私はこう言いました。
 
「中村さん、これは素晴らしい資料です。どうしても世にだしたいものだと思います。手伝わせてください」
思わず私は言ってしまいました。
中村さんは口を開きました。
「ありがとうございます。でもね」
「でも? なんですか。こんなに素晴らしいコンテンツがあるじゃないですか」
「これ、裏付けが使えないんですよ」
「裏付けが使えないとは?」
「要はベースの理論を作った巨匠の名前は、使えないですよね」
「ああ。有名な人の名前は、確かに許可がいりますよね」
「許可を取るお金もありませんし、時間もかかります」
「もったいないなあ。そしたら、名前を出さずにやりましょうよ」
とにかく始めることが大切。と私は思ったのです。
「たとえば、中村さんが、動画で講義をしてはどうでしょうか」
「それはやってみました」
「どうでした?」
「再生回数があがらないんですよ」
中村さんは、残念そうに言いました。
「SNSもいろいろやってみました。経営学の情報を発信してみたり、セミナーの告知もしてみました。でも、なかなかシェアされないんです」
もったいない。なぜだろう。こんなよいコンテンツがあるのに。
中村さんのパワーポイント資料は再現がなかった。
「10年かけて、1万枚のパワーポイントを作ったんです」
彼は嬉しそうに言いました。
「サイトも作りました。どんな難しいことも図式化する方法を、説明したサイトです。今、出版をしようとしています」
すごい。このかた、本もだそうとしているのか。
「本が売れたら、いけるじゃないですか」
私は思わずこう言いました。
「いや、今度は、本を売るのが大変なんですよ」
たしかに、最近、著者になった人を見ていると、必ず何冊か本を持って歩いています。しかも、その場で売ってくれたりします。
中村さんは続けて言いました。
「そうなんですよ。動画、SNS、本、セミナー、やれることは全部やっているんですが、なかなか進まないんです。これじゃ、WEBメディアを作るのは、いつになることやら」
 
やれることは、全部やっているけれど、なかなか進まない。
この言葉に私は、ハッとしました。
 
たしかに、中村さんは、やれることをやっています。なにしろ、10年かけて1万枚のパワーポイントを作った人です。やりぬく力を持っています。
発信も続けています。
 
どうやったら、広がるのでしょうか。
 
経営学をエンタメにするのはどうだろう。そんな本も出ていました。
中村さんがメディアにでるのではなく、キャッチーな若い女性に語ってもらうのはどうだろう。でも、若い女性にどうやって頼むのだろうか。
メディアに売り込むのはどうだろう。すでに人気になっているような実績があれば取り上げてくれるかもしれないが、その実績がまだない。中村さんの実績が評価されなければ、WEBメディアなど先の先の話になってしまいます。
 
なかなか難しいです。
 
そこまで考えて、ふと思いました。
 
「面白いことを始めたい」
という言葉よく聞くけど、
なぜ実らないのだろうか。
 
ある人は、世の中をよくする活動で面白いことをしたい、と言います。
また、ある人は、何か面白い催しを開きたい、と言います。
また、ある人は、何か面白い団体を作りたい、と言います。
さらには、面白いWEBサービスを作りたい、という人もいます。
 
みんな同じ壁にあたります。
 
「売り込むような実績がない」
「有名になるきっかけがない」
「お金がない」
 
次に話すのは、こんな話です。
まず、実績を作るのはどうか。実績をこつこつと発信するのはどうか。
発信した実績を本にできないか。メディアに出演できないか。
女性を広報にして、発信することで、キャッチーにできないか。
誰か資金を出してくれる人はいないだろうか。
 
実績が先か、メディアが先か、広報が先か、資金が先か。
 
話が袋小路に入った頃、中村さんは、言いました。
「もし、この事業に共感してもらえるなら、あなたが、がっつりコミットしてもらえませんか。軌道に乗るまで、ギャラは払えないのですが、うまくいけば、その時は、役員として、お願いします」
 
ハッとしました。そうか。彼が求めていたのはアイデアではなく
仲間だったのでした。本気で動いてくれる仲間を欲していたのでした。
 
「そうですよね。片手間にはできませんよね。がっつりコミットしていなければ、出版の売り込みもメディアへの売り込みも資金提供も難しいですよね。残念ながら、今、自分にその余裕はありません」
 
そう答えるしかありませんでした。
 
と同時に、そこまで心の動く案件でなかった、ということも事実でした。
 
ふと我に返りました。
 
もし、自分が「面白いこと」を思いついたとき、味方をつくるには
どうしたらいいか、ということです。
 
自分のアイデアに共感してもらうには、説得力が必要です。
自分の実力やバックボーンを認めてもらわなければなりません。
自分のアイデアに勝算を感じてもらわなければなりません。
勝算は、自分たちのメリットだけでなく、世の中に対するメリットも感じてもらわなければなりません。
いままでなかった新しさや魅力を感じてもらうことも必要です。
 
「よし、ここに賭けてみよう」
と思わせるものがなければ、人は動きません。
さらに、外部の人を動かさなければなりません。
その先に、ユーザーになってくれる人を動かさなければなりません。
 
ネットを見れば、たくさんのサクセスストーリーがあふれています。
しかし、その陰にあることは、語られていないように思います。
 
どんな風に仲間を説得し、協力者を納得させたのか。
もともと、カリスマ性のある人が簡単にやったのかもしれないし、
逆にものすごく苦労したのかもしれません。
 
「何か、面白いこと仕掛けましょうよ」
 
この言葉、
まだまだ、もやっとしながら、聞かされることになりそうです。

 
 
 
 

◻︎ライタープロフィール
射手座右聴き (天狼院公認ライター)

東京生まれ静岡育ち。新婚。会社経営。40代半ばで、フリーのクリエイティブディレクターに。退職時のキャリア相談をきっかけに、中高年男性の人生転換期に大きな関心を持つ。本業の合間に、1時間1000円で自分を貸し出す「おっさんレンタル」に登録。4年で300人ほどの相談や依頼を受ける。同じ時期に、某有名WEBライターのイベントでのDJをきっかけにWEBライティングに興味を持ち、天狼院書店ライティングゼミの門を叩く。「人生100年時代の折り返し地点をどう生きるか」「普通のおっさんが、世間から疎まれずに生きていくにはどうするか」 をメインテーマに楽しく元気の出るライティングを志す。天狼院公認ライター。
メディア出演:スマステーション(2015年),スーパーJチャンネル, BBCラジオ(2016年)におっさんレンタルメンバーとして出演
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2019-11-27 | Posted in 週刊READING LIFE vol.59

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