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週刊READING LIFE vol.84

ゴミの中に見つけた希望《週刊READING LIFE Vol.84 楽しい仕事》


記事:杉下真絹子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「そして、こんなものまで生ゴミから出てくるんですよ」
 
とその人は言いながら、私が驚きの顔をするのを(来るぞ来るぞ)と待ち構えている子供のように、私を横目でちらちら見ていた。
 
そして、そんなシナリオそのままに
「ええ! 何これ? 入れ歯ですか?」
と、私はやっぱり、驚いていた。
 
よく見ると、銀歯付きの入れ歯、なんとリアルな……。
 
その同じ箱の中には、プラスチックの黄色い菊の花やパン袋を留める水色のプラスチック製留め具なども大量にあった。
 
そう、刺し身食べるともれなくついてくるあの黄色の花だ。
冷蔵庫などなかった昔は保存方法の一つとして殺菌効果のある食用菊が添えられていたのだ。それが、技術発展が進んだ今では、その目的が変わり、彩りとして今度はプラスチック製が代用されているのだ。
 
生ゴミなどの食べ残しと一緒にこれらのプラスチックも間違えて捨てられてしまったのだろう。
 
ちなみにここは屋久島の全人口の半分にあたる旧上屋久町(3000世帯、約6,000人)が出す生ゴミが毎日2~3トンここに集められてくる。その生ゴミとおがくずなどに適量の水分などを混ぜ、空気を送り込んで、発酵させること数ヶ月。
 
その生ゴミが「堆肥」に変容するのだ。
 
ちなみに、私の中でゴミの処理といえば、むかしむかし小学生のときに見学した下水処理場とゴミ処理場が思い出される。ただ、見学で何を見たのかは覚えていないけれど、作業服と帽子をつけた従業員が黙々と動いていたこと、そして何よりもあのツンと鼻をつく匂いだけは強烈に残っている。
 
また、私はこれまでアジアやアフリカなどの貧困スラム地区で働いてきたが、その住居エリア内では、ありとあらゆるゴミが無造作に捨てられ、異臭を放っていて、そのゴミ山の上で子供達が遊んでいる風景はとても身近なものであった。
 
だから臭い、汚い、惨めな、だった。
 
しかし今、私の長年のイメージを覆した男性が立っている。
ここのセンターに就職して20年になるという。
でも、見た目は想像以上に若々しい。
 
その彼に中に案内されて、早速生ゴミ堆肥について、土作りについての説明が始まった。
すると、途中思い出したように奥から手書きのフリップチャートを持ってきて、土作りのプロセスについての説明が続いた。
 
と思っていたら
「そんな説明は置いといて……、ちょっと発酵中の土を触ってみましょう」
 
そんなことを言いながら発酵中の生ゴミの山に手を突っ込んでいる彼を見ると、とっても楽しそう。
 
おそらく、過去20年間何万回、何千回、毎日のようにこうやって手を突っ込んできたのだと思う。それでも、彼を見ていると、子供が夏祭りの屋台で景品番号が入っているおみくじ箱に手を入れて当たりをお願いしているかのような無邪気な姿があった。
 
早速、私は見学最初に与えられた薄いビニールの手袋を右手にはめて、彼がやっていたように、ゆっくりとそしておそるおそる発酵中の生ゴミに手を入れた。
 
「え、あったかくてきもちいい……!」
と私は思わず言っていた。
 
発酵熱は90度くらいまで上がるのだが、入れた発酵中の生ゴミの土はあたたかく柔らかくフカフカだった。
 
おそらく、この当たりでまず彼は見学者の心を掴むのだろう。
私も一気に気持ちが緩み、笑顔が出た。
 
しかし、ここは生ゴミが集められるセンターなのに、私がイメージする異臭がしないことも笑顔が出る理由なのかもしれない。
 
「発酵された土をふるいにかけるのですが、僕よくここでどんなものが土以外に出てくるのかじっと見てるのですよ」
 
つまり、発酵土以外のゴミ、例えば、生ゴミに紛れ込んでいたビニール、プラスチックやガラスなど実際には様々なものが入っているのである。
 
ふとその奥に目をやると、それぞれスプーン、フォーク、醤油入りプラスチックのミニ魚(ランチャーム)、たわし、陶器のかけら、空き缶の蓋部分、野菜ピーラー、プラスチック製のビニール留め具(クロージャー)や食用菊の花、そして各種入れ歯まで、きっちり分類されて箱に入っている。
 
「えぇ? これ生ゴミから出てきたものですか?」
 
「あ、はい。ほとんど私の趣味で集めてます」
 
ここまでくると、見学者の私も聞いていて楽しくなってくる。
 
あまりに素敵に分類されているので、発酵土にならなかったこれらのゴミを使って、クリエイティブに何か作れそうだ。
 
聞いてみると、実際にちょっとしたアート作品のマテリアルとして使われたことがあるとのこと、それに環境教育的なアートもできそう。
 
「これらの発酵土にならないゴミ以外にも、いろんな形で再生してるんですよ」
と言いながらまた楽しそう。
 
「実は、ここの隣の畑に生ゴミの中にあったパイナップルの葉っぱの部分を植えたら、パイナップルができちゃいました。他に、かぼちゃの種を植えたら、かぼちゃできましたし、サトイモも今や植えっぱなしなのであちこちで採れます。ハヤトウリやミョウガなんかも、少し管理してやれば売れるほど採れるんです。楽しいでしょ」
 
彼の会話の中には
「楽しいでしょ」
の言葉や思いがあちこちに散りばめられていて、聞いている私も楽しくなってくるのは明らかだった。
 
また、彼は、発酵土に必要な生ゴミだけでなく、そこにたまたま入っていたそれ以外のゴミとの付き合いも楽しんでいた。まさに、すべてのものに希望を見出すことができるのは、彼の資質と言えるかもしれない。
 
「この仕事の魅力って何ですか?」
と聞いてみた。
 
「ものづくり的な魅力があって楽しいです。いろんなプロセスを経て堆肥が出来上がっていくのですが、その間いろんなことが出来ること、それが楽しいですね」
 
やっぱり、楽しいが出てくる。
そんな彼は輝いてみえた。
 
「最後に、この仕事の原動力って一言で言えば何でしょう?」
 
と聞くと、彼は少し考えて
「うーん、【もったいない】かな?」
 
それを聞いて、ノーベル平和賞受賞者のケニア人女性で、「モッタイナイ」運動を始めたワンガリ・マータイさんを思い出した。
2005年の来日の際に「もったいない」という言葉の意味に感銘を受け、ケニアに戻って【もったいない】運動(Reduceゴミ削減+Reuse再利用+Recycle再資源化+Respect尊敬の念)を始めたのがきっかけである。
 
彼は、マータイさんのことは知らなかったが、これまで私が関わってきたアフリカと屋久島が繋がっているような気がして、なんとなく嬉しくなった。
 
いずれにせよ、いち早くゼロエミッションを導入した屋久島で、このような生ゴミ発酵土作りなどは、循環型社会へと移行する中で大きな役目を担っている。
 
そこには、何かを排除して達成するのではなく、どんなもの(ゴミ)の中にも希望を見出す楽しみ方は重要な鍵を握っているような気がする。
 
そんなことを考えながら、最後に生ゴミからできたてホヤホヤの堆肥一袋を頂いた。
さて、この堆肥でどんな野菜を育てようかな。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
杉下真絹子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

大阪生まれ、2児の母。
90年台後半より、アジア・アフリカ諸国で、地域保健/国際保健分野の専門家として国際協力事業に従事。娘は2歳までケニアで育つ。
その後方向転換を果たし、子連れで屋久島に移住。
【森林の中でウェルビーングする】をキーコンセプトに活動を展開。

関西大学(法学部)卒、米国ピッツバーグ大学院(社会経済開発)、米国ジョンズホプキンス大学院(公衆衛生)修士号取得。

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2020-06-22 | Posted in 週刊READING LIFE vol.84

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