もしかしたら、カミソリ1枚分も無いかも知れない 《週刊READING LIFE vol,103 大好きと大嫌いの間》
記事:山田THX将治(天狼院ライターズ倶楽部 READING LIFE公認ライター)
『穴を“掘っても”入りたい』
極たまに、私が使う‘にせ’慣用句だ。勿論正確には、
『穴が在ったら入りたい』
だ。
意味としては、(自分が)余りに恥かしく消えてしまいたい心情を、穴に入って隠れ入りたいと表現したものだ。
私の創作の方は、それももっと強力にして、隠れ場所を咄嗟に自分で掘り進めても隠れたいほど恥ずかしいことを表現したまでだ。若い頃に使うと、よく年長の方々に、
「最近の若い奴は、日本語を間違って勉強してる」
と、叱られたものだった。
単なるシャレなのに。
実は、私は大の照れ屋だ。
原因は、子供の頃のトラウマから来ていると思っている。それは、親から叱られたり比喩的に冷やかされたりした時に、何とかその場を遣り過そうと、ギャグで返していたからだ。いわゆる、“照れ隠し”というものだ。
恥かしいことを、自分から進んでやってしまうのだが、それ自体も恥かしいと理解は出来ていた。
その照れは、自分の周りに人を集めたい、他人から注目して欲しい一心から出たものだった。
今では信じられないことだが、小学校を卒業する迄、私には友達が少なかった。それは、私が家庭にも学校にも馴染めなかったので、仕方の無いことだった。放課後、遊びに誘われることも無かったが、それはそれで、良かったのかもしれない。何故なら、自分の目が届かない友達と遊び回ることを、両親が好まなかったからだ。
実家が小売店をしていたので、友達が誘いに来ても私に取り次ぐ前に親が断ってしまっていた。多分、親も仕事が忙しく面倒だったのだろう。家は店に連なっていたので、家に友達を連れて来るなんて考える余地も無かった。第一、私にはそんな発想も無かった。
そうこうしている内に、私の周りには誰も居なくなり、孤独を癒そうとした私は、
無理に無駄なギャグを飛ばし、照れで、照れ隠しする面倒な少年と為っていた。
注目を集める・目立つ為なら、恥の概念を何処かに置き忘れていたので、周りは面倒臭くややこしかったことだろう。
そんな私は、自分の嗜好でギャップが有ると、相手は喰い付きがよく為ることを学んだ。初めだけだが、恣意的に自分でギャップを作る様に心掛けた。
例えば、子供の頃からデカい図体をしていたのに、肉を好まず魚ばかり食べていたりした。魚、特に鯖等の青魚が好きなくせに、シソが食べられないことでも注目されたりした。
そればかりではない、あらゆることに関して興味を持ち本等から知識を吸収したがるくせに、興味の無いことからは一切の情報が頭に入ることは無かった。その結果、花の名前等は全く判っていない。例えば、私は未だに見た目だけでは梅と桜の区別がつかない。恥かしいことだが事実だ。
現在では、まだ寒い内に咲き始めるのが梅で、温かくならないと咲かないのが桜と区別する様になった。
恥ばかりかいては居られない。
何故なら、常に穴を振ることが出来る環境に居るとは限らないからだ。
面白いもので、関心が無い・興味が湧かないことに関わらない様にしていると、不思議と好きなものに対する知識が勝手に付いて来るものだ。
そうすると、知識の有無に極端な差が出て来るものだ。ただしこの“差”は、開きではなくギャップだ。
ギャップが相手のツボに入ると、想定以上に私に対して興味を持って頂けることとなる。言い換えると、オジサンに為っても興味を持って頂く為には、多少なりとも興味を惹くギャップが必要ということだ。
そのギャップは、嗜好とシンクロするので、周りから見ると私は好き・嫌いがはっきりした人間と思われているらしい。それは、見方によっては私を“解かり易い男”と見せている。好みがハッキリしているからだ。
従って、私が好きではないことに対して、
「何で、これが嫌いなのですか?」
と、責める口調で訴えられたりすることがある。余計な摩擦は面倒なので、
「嫌いなんて言ってないよ。僕は、大嫌いだと言ったまでだ」
と、切り返すことにしている。時に、相手の怒りを買うことがあるが、私はギャグのつもりで言っているので、許してもらえることの方が多かったりする。
その内私は、『好き・嫌い』を表現する際に、思わず“大”の文字を付けてしまう様になってしまった。意識しなくとも、つい口を突いて出てしまうのだ。
出た言葉は引っ込む訳が無いので、いつしかそれが、私の定番となってしまった。
ただ、本来は、周りからのウケや喰い付きを良くする為に始めた、いわばギャグなので、私に悪意等有ろう筈がない。少し、言葉は過激だけれど。
勿論、心有る方は理解して下さる。理解されれば、私も付き合い易いのでノンブレーキで過激な言葉を連発してしまう様になった。
中には、
「いい大人が恥ずかしい」
と、諫(いさ)めてくれる人も居たりするが、人間誰しも、耳に痛い言葉は中々入ってこないものだ。
そしていつしか私は、『大好き』と『大嫌い』を連発する、みっともない大人と化してしまった。
元々、“照れ隠し”や“周囲から注目されたい”、はたまた、“友達を臆したい”とか“孤独に為りたく無い”との本心で始めた、いわば意識的なギャグなので、そこには私の本心がある。
ただ、恣意的な『大好き』・『大嫌い』なので、私としてはその二つの間に大きな違いはない。
現に、一旦『大嫌い』と宣言した物事が、容易に『大好き』に変わることがある。
そう。私が言う『大好き』と『大嫌い』には、大差なんて存在しまい。
在るのは、故意に作ったギャップだけだ。
では、『大好き』と『大嫌い』の間に在る“差”と“ギャップ”の違いは、いったい何だろう。
私が思うに、“差”とは左右に開いてしまう様な、目に見えるものとでも表現してみようか。
その一方で、“ギャップ”は上下に開く様な、心理的なものということが出来よう。言い換えれば、好みのボリュームとでも表現しようか。
なので、私が言う『大好き』と『大嫌い』には、同じ位の力が入っている。頭上に腕を伸ばす様に、力一杯ギャップを開いているからだ。
こんな、子供の頃は面倒だった私も、現在は特に支障なく人付き合いが出来ている。周りの方々に、興味を持って頂くことも有る。
『大好き』と『大嫌い』の差を広げず、ギャップを開けようとしたからだ。
なので、私にとって『大好き』と『大嫌い』の間には、擦れる程しか開きはない。それは多分、カミソリの刃がやっと入る程の差だろう。もしかしたら、もっと狭いかも知れない。
だって、ギャップが目一杯大きい私がもし、『大好き』と『大嫌い』が離れてしまったとしたら、自分で自分の嗜好をコントロールすることが出来なくなるからだ。
これからも、自分をコントロールすることだけは心掛けることとしよう。
コントロールを失い他人様に迷惑を掛け、折角苦労の末作り上げた友達関係を失うことが無い様に。
□ライターズプロフィール
山田THX将治( 山田 将治 (Shoji Thx Yamada))
天狼院ライターズ倶楽部所属 READING LIFE公認ライター
1959年、東京生まれ東京育ち 食品会社代表取締役
幼少の頃からの映画狂 現在までの映画観賞本数15,000余
映画解説者・淀川長治師が創設した「東京映画友の会」の事務局を40年にわたり務め続けている 自称、淀川最後の直弟子 『映画感想芸人』を名乗る
これまで、雑誌やTVに映画紹介記事を寄稿
ミドルネーム「THX」は、ジョージ・ルーカス(『スター・ウォーズ』)監督の処女作『THX-1138』からきている
本格的ライティングは、天狼院に通いだしてから学ぶ いわば、「50の手習い」
映画の他に、海外スポーツ・車・ファッションに一家言あり
現在、Web READING LIFEで、前回の東京オリンピックを伝えて好評を頂いている『2020に伝えたい1964』を連載中
加えて同Webに、本業である麺と小麦に関する薀蓄(うんちく)を落語仕立てにした『こな落語』を連載する
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