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週刊READING LIFE vol,104

私は才能がない上に、死にかけていた《週刊READING LIFE vol,104 私を支える1フレーズ》


記事:射手座右聴き(天狼院公認ライター)
 
 
言葉を仕事にしている。
広告コピーを書くことでお金をもらっている。
「コピーライターですよね」
と言われることが多い。
「コピーライターがいなくて、お願いできますか」
と言われることがよくある。
でも、自分にはないのだ。
これが自分だ、と言えるコピーが。
「あのコピーよかったね」
言ってもらえることもある。
でも、世の中の誰もが知っているキャッチコピーがないのだ。
年間どのくらい書いているだろうか。
 
30案件くらいをやって、ひとつの案件について、100-200案を書く。
3000以上の言葉を書いていることになる。
キャッチコピー一発のものだけではない。
カタログやラジオCM、webサイトの文章まで入れたら
どのくらいの文章を書いているだろうか。
それだけ書いても、これが自分だ、というコピーが書けないのだ。
 
何を書いているんだろう。
立ち止まって考えてみた。
食品の仕事の時は、おいしい、を言い換える。材料や製法へのこだわりを言い換える。
ゲームの仕事のときは、おもしろい、の解像度をあげていく。
ひたすらあげていく。シューティングゲームなのか、ロールプレイなのか、仲間を増やすものなのか、パズル系なのか、それぞれの楽しさや、ゲームの仕組みを言い当てていく。言い当てた上で、そこに引っ掛かりを作る。
健康食品や化粧品なら、「効きそう」 と思われる言葉を作る。
効く、とストレートに言えないから、あの手この手で、伝えていく。
シミが消える、とは言えないけれど、シミのもとまで、で言葉を止めるだけで、
シミのもとに届きそうに思わせたり、という感じだ。
 
仕事がくる、ということは、書いた言葉が機能している、ということなのだろう。
広告主の言いたいことを、的確に表現しているのだろう。
だから、お金がもらえるのだろう。
でも、それでいいのだろうか、と時々思う。ビジネスとしては成立しているし、
売り上げにも多少なりとも貢献しているのかもしれない。
 
でも、残念なことに、自分の考えた言葉は、消費者の心に届いているのだろうか。
購入、以外の経験として。
私だって、そういうコピーが書きたい、と思って書いてみることもある。
でも、言われてしまうのだ。
「わかりにくいですね」
「ちょっと考えてしまいますね」
とか。
「こういう言い方をすると、うちらしくない」
とか。
さらに、こんなことを言われることもある。
「このコピーは面白いけれど、同業他社でも言えるコピーですね」
同業他社でも言えるから、ダメ。
いや、どこのメーカーのチョコでも、消費者にとってチョコだろうし
どこのビールも消費者にとってはビールだし
どこのテレビだって消費者にとってはテレビだろうよ。
 
なんてことは言えない。
 
広告コピーだから、購入に向けての言葉になっていればいい。
その商品でしか言えない特徴がたとえ、小さなことでも入っていて欲しい。
ポットの取手があたらしくなった、だけでも。お菓子のパッケージが新しくなっただけでも。
そんなリクエストを満たしていった時、言葉は、クライアントを中心とした
近場だけしか響かない言葉になっていたりするのだ。
もちろん、自分の実力もある。ほかの人が書いたら、もっとギリギリのところで
クライアントが納得し、消費者の心が動くようなものができるかもしれない。
 
そんなもやもやを抱えながらも、リクエストにきちんと答えられるものを
書いているつもりだ。
 
が、しかし、本当にそれだけでいいのだろうか。
そんな動機で広告業界に入っただろうか。
もう何十年も前のことだから、恥ずかしいけれど、広告っていいな、と思って
この世界に入ったはずなのだ。
 
そして、人の心を動かすものを作りたい、そう思っていたはずだ。
それなのに。
 
いつのまにか、日々の仕事に頭がいっぱいになっていた。
画期的、とか、新しい、とか、変わった、とか、ほかとはちがう、とか。
消費者よりも商品。ベネフィットよりも特徴をしっかりと。
そして、そうなると、そうなったで、きちんと言い当てる仕事をたくさんいただくようになった。寝る時間も削りながら、どんどん言い当てていった。
 
そんな今日この頃のことだった。
あるクライアントさんがこんなことをメールに書いてきた。
「もっと心が動くものを作れないでしょうか」
 
私はちょっとイラッときた。何言ってるんだろうか。
いままでさんざん、「この商品のことを言い当ててください」
と言ってきたくせに。
消費者の気持ちの話なんか、したことなかったくせに。
何を言い出すんだろうか。
周りのスタッフも戸惑っていた。
 
いままでの指示はなんだったんだろうか。
そこには、ある添付書類があった。
某所での有名コピーライターの言葉だった。
誰もが知っている広告ばかりを作っている人の話。
いわば感動的な広告ができていくまでのサクセスストーリー。
さらに腹が立った。
予算が違う。納期が違うから、考える時間が違う。クライアントの自由度が違う。
なにもかもが違うのに。
 
そう思いながらも、感動的なCMを考えなければならなかった。
これも仕事だ。割り切ってやらなければ。
とりあえず、名作コピーの本を広げた。少し埃をかぶっていた。
ここ数ヶ月の仕事では、必要なかったやつだ。
 
パッと開いたページの一言。
一瞬のうちに、世界が変わった。
頭のスイッチが切り替わった。
ネガティブからポジティブへ。
ディフェンスからオフェンスへ。
ピンチからチャンスへ。
 
そこには、こう書いてあった。
「あきらめが、人を殺す」
 
そうだ。私は死にかけていた。あきらめていた。
いつしか、これでいい。そう思っていた。
しかし、今、言われているのだ。
「これではよくない」
と。
 
だったら、それを利用して、人の心に響くものをつくればいいじゃないか。
 
「あきらめが、人を殺す」
 
今の自分のために書かれたような言葉だった。
 
そこから私は、一気に企画とコピーを書いた。
翌日のプレゼンでクライアントと同じ方向を向くことができた。
よし、これからだ。
 
そう思って、コピーに感謝した。
ありがとう。
「あきらめが、人を殺す」
 
ところで、何の商品のコピーだろうか。
わしづかまれた言葉が、何のコピーなのか、あらためてみてみた。
 
それは、社会を、あきらめるな、と言うコピーだった。
 
なんだよ、俺のことじゃないのかよ。
自分を向いてもいない言葉に突き動かされたのか。
 
いやいや、やはり言葉は魔物だ。私を生き返らせた魔物だ。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
射手座右聴き(天狼院公認ライター)

東京生まれ静岡育ち。広告会社を早期退職し、独立。クリエイティブディレクター。再就職支援会社の担当に冷たくされたのをきっかけにキャリアコンサルタントの資格を取得。さらに、「おっさんレンタル」メンバーとして6年目。500人ほどの相談を受ける。「普通のおっさんが、世間から疎まれずに生きていくにはどうするか」 をメインテーマに楽しく元気の出るライティングを志す。天狼院公認ライター。
メディア出演:声優と夜遊び(2020年) ハナタカ優越館(2020年)アベマモーニング(2020年)スマステーション(2015年), BBCラジオ(2016年)におっさんレンタルメンバーとして出演

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2020-11-17 | Posted in 週刊READING LIFE vol,104

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