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週刊READING LIFE vol.121

ビジネスパートナーは「象」《週刊READING LIFE vol.121「たとえ話で説明します」》


2021/03/29/公開
記事:山本恵果(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「象」は、わたしのビジネスパートナーだ。
わたしは、パーソナルコーチングや会社のチームビルディングなど、人間関係を豊かにするための仕事をしているのだが、その大切さを教えてくれるのが「象」だ。
もはや「象」なくしては、わたしの仕事は成り立たない。
 
わたしがお世話になっている2匹の象をご紹介したい。
一つ目は、「群盲、象を評す」という寓話だ。
これは、目の見えない人が象を触り象がどんな生き物なのかを語るというインドの寓話で、鼻を触った人は「象はホースのような生き物だ」と言い、足を触った人は「いやいや、象は太い丸太のような生き物だよ」と言い、しっぽを触った人は「象はほうきのようだよ」というように、各々が象に触れた体験から象のことを評し、それが正しいと自己主張をして譲らなかった、という話だ。
 
この寓話は、全体を見ないと物事の本質を見失うことや「みんな正しい。しかし、全体からすると一部だけ正しい」ということを私たちに教えてくれる。
 
自分が触っている箇所だけが象なのだと思うと、象の姿を捉えることはできない。
しかし、目の見えない人が表現した象の姿は、わたしたちが知っている象とは異なるが、その部分だけみれば間違ってはいないのだ。
 
一つは、わたしたちは自分の幅でしか物事を捉えることができない。自分から見えている景色が他の人にも同じように見えていると思ってしまうのだ。
象の鼻を触った人が「象はホースのようなものだ」と主張し続けたように、わたしたちは、自分の経験や思考のくせなどから物事を判断し、それを「正しい」と思ってしまう。
例えば、わたしは昔、文章を添削されるのが嫌だった。誤字・脱字レベルは気にならないのだが、構成などに指摘が入ると、自分の考えの至らなさ、浅はさを指摘されているかのように感じてしまい、修正を素直に受け取るのがとても難しく感じていた。
そして、「わたしも嫌だから、この人も添削されるのは嫌だろう」と、誰かの文章を添削することもはばかられ、大勢に影響がないかぎりは極力指摘をしない、とか「よく書けているんだけど、ここだけ直してくれるかな?」と色んな前置きをしながら修正をお願いしたりしてきた。
しかし、色んな人と話すなかで、修正指示は文章がよりよくなるために必要なことだから、全く気にならないという人も存在することを知り、自分自身が「文章の指摘」を「自分自身への批判」だと過剰に受け取っていたことに気がついたということがある。(なので、いまは気にならない)
「自分がされたら嫌なことは他の人にはしない」
小さなころからわたしたちが大人から言われて続けてきていることだが、人権や人道に反すること以外の「自分がされたら嫌なこと」は、誰かにとっても嫌なことであるとは限らないし、むしろ必要なことである可能性もあるのだ。
 
また、成功体験というものも、色んな可能性を自分の幅におさめてしまう。
以前、友人たちと自分たちの経験を持ち寄って新しい研修プログラムをつくろうとしたことがあった。それぞれが「こうすればうまくいく」という経験があるものだから、「こう伝えるとみんなの納得感が得られる(そんな経験がある)」、「ここでペアワークを入れると理解が参加者の理解がぐっと深まる(そんな経験がある)」といったように、それぞれの成功経験から離れることが難しく、新しいプログラムをつくることに苦戦した経験がある。
実際の経験から来る考えは深みや納得感を与えてくれる一方で、他の意見を受け付ける余白を失わせてしまうこともある。
 
自分の経験やそれに基づく思考や主張は、自分自身を形づくってくれる大切なものだ。自分が見た美しい景色を他の人にも見てほしい。そんな願いもあるだろう。
しかし、それに固執しすぎてしまうと物事の本質を見失ったり、可能性を狭めたりしてしまうのだ。
象の足にしがみついて、象はホースやほうきじゃない!丸太のような生き物なんだ!と叫び続けているようなものだ。
 
そして、二つ目は、アメリカのことわざである「部屋のなかの象」だ。
これは、部屋の中に大きな象がいて、誰もがその象のことを知っているのに、だれもその象のことに触れない状態のことを言う。
ここでの「象」は、「課題」のことであり、会社や家庭のなかで誰もが気づいている課題があるのに、誰もその課題には触れないことのたとえだ。
 
少人数や部屋の外の人では、「課題」について話しているのかもしれないが、部屋のなかでは誰もそれを口に出さない。
そこには、課題があること自体を認めることの怖さや、口に出してしまうと対応しなくてはいけなくなるからかもしれない面倒くささがある。
そして、見てみぬふりをされている象はどんどん成長し、手がつけられなくなってくる。
 
勇気を持って、「象、大きくなりましたよね。そろそろ何とかしないと部屋が壊されそうですよね? 」と象がいることを認めることが重要だ。
 
組織のなかに課題がいるということをメンバーが認め、メンバーが見えている課題をそれぞれが語ること。これが、組織の課題を明らかにすることにつながり、チームビルディングのための一歩となる。
 
1つ目の象を思い出してほしい。
ホースのような鼻、ほうきのようなしっぽ、丸太のような足。
それぞれが自分の立場から見えている象の姿を語り、それぞれ見えている象の姿が正しいのだと認め合ったうえで、お互いの立場をほんの少し離れて全体を俯瞰する。
そうすることが「象」の姿を明らかにしてくれる。
 
会社では、部署間の対立などがしばしば発生する。
例えば、品質にこだわって丁寧につくりたい製造部とスピーディに納品をしてお客様の満足度をあげたい営業部では、対立が起きることも多い。
 
製造部は、時間をかけてでもよいものをつくりたいと思い、営業部は、お客様の満足度を上げるためにできるだけスピーディに納品をしたい。
それぞれ言い分があり、それぞれの主張は正しい。
 
製造部は、誇れる商品をつくりたいと考えていて、営業部はお客様の満足度をあげるための納期の短縮を目指している。
2つの部署の主張は違うように見えるが、営業部の場合は、自社製品の品質を信じたうえでの行動だ。営業部には製造部への無意識の信頼がある。
そして、2部署の共通する願いは「会社をさらによくしたい」だ。
その願いが商品に向いているのかお客様の満足度に向いているのかの方向性の違いがあっただけなのだ。
 
お互いの主張から、それぞれが大切にしている共有の願いや主張の関係性を見つける。
これを紐解くことができると、「会社をよくしたい」という共通の願いを持つ部署同士として、課題に取り組むことができるのだ。
 
「群盲、象を評す」と「部屋のなかの象」。
この2匹は、自分が考える正しさは、自分から見た景色にしか過ぎないこと、他人から見た景色を知ることで見えてくる景色があること、対立やすれ違いがあったとしても、対話が解決の糸口になることなどを教えてくれる。
わたしが力説して語るよりも、象のイラストや写真を見せるだけでみんなが腑に落ちてくれる。なんて優秀なビジネスパートナーなんだろう。
 
寓話、ことわざなどのたとえ話は、わたしたちにより豊かに生きるための考え方や周りの人たちとの関わり方を示してくれる、先人たちの知恵だ。
そんなたとえ話のなかに、あなたのビジネスパートナーも隠れているかもしれない。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
山本恵果(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

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2021-03-29 | Posted in 週刊READING LIFE vol.121

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