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週刊READING LIFE vol.128

弱さを認めて、受け入れて、乗り越える《週刊READING LIFE vol.128「メンタルを強くする方法」》


2021/05/17/公開
記事:垣尾成利(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
メンタル不調者との向き合い方って難しい。
そう感じている人は多いと思う。
なぜなら、どうすることが正解なのかがわからないからだろう。
 
「そんなに周りの人の言うことばかり気にしなくていいよ」
「もっと自信を持ってやればいいよ」
「焦らなくていいよ、落ち着いてやろう」
「頑張らなくていいから、マイペースでね」
メンタル不調者と関わったことのある人は、気遣いからこのような言葉をかけたことがあると思うが、それは正解だっただろうか?
 
実は、これらの言葉はメンタル不調者にとっては諸刃の剣だ。
 
私自身がメンタル不調を経験したからこそそう思えるようになったのだが、励ましや気遣いと取れるこれらの言葉は、メンタル不調者にはどう伝わるかというと、全く逆の意味を持って伝わってしまうことがあるので注意が必要だ。
 
「気遣ってもらっている」のではなく、「責められている」と捉えてしまうことがあるのだ。

 

 

 

私が勤務している職場にはメンタル不調から抜け出せず、苦しみながら頑張っている職員が数名いる。
症状は人それぞれで、見ただけでそうとわかる人もいれば、一見しただけではわからないけれど、突然不調が再発してしまう人もいる。
 
周りの職員はメンタル不調者に対して、気遣いの気持ちから上記のような言葉をかけることが多い。
しかしながら、これらの言葉は不調者の心に重く圧し掛かることがあるのだ。

 

 

 

今、メンタル不調者のいない職場なんて無いくらいに、どこの職場にもメンタル不調に陥っている人がいる世の中だ。
会社としてもストレスチェックを行ったり、有給休暇取得推進、残業減少、強制的に定時退社させる日を導入したりと、心と体のバランスを保ち、ケアする仕組みを導入し健康に働ける職場環境を作るよう努力を重ねているところも増えている。
 
しかしながら、メンタル不調者とどう関われば良いか、理解できているか? と言われると自信がないと感じている人がほとんどで、正直なところ、職場にたった一人メンタル不調者がいるだけで、やりにくく感じているのではないだろうか。
 
その症状が重ければ、そもそもできることが大幅に減っているから、無理が利かず自ずと頑張れる度合いは低くて、周りの人もわかりやすい。
けれど、ある程度元気に頑張れているのに、何かのきっかけで突然不調が再発するような人の場合は、どう接して良いのか、どこまで言って良いのかがわからないため、対応が難しいと感じてしまう。
そのため、安全策を取るように気遣いの言葉を選ぶのだが、実はそれは解決策にはならないことを知っておいて欲しい。
 
結論から言うと、気遣いの言葉は必要がないと私は感じている。
なぜなら、メンタル不調から脱却するのに必要なのは優しくされることではなく、「自分自身が気付くこと」だからだ。

 

 

 

私はメンタル不調を二度経験している。
そして、その苦しみを乗り越えた。
乗り越えて、初めてわかったことがあった。
 
それは、自分を認めることの大切さだった。
不調に陥っている時は、自分を認めることができなくなっていた。
 
良いことも、悪いことも、自分が考えてやったことを受け入れて認めることができなくなった時、心に傷が入りポキッと折れてしまった。
 
10年前初めて不調に陥った時、きっかけは些細な見解の相違だった。
転勤の引継ぎの際に申し送りしたことが上手く伝わっておらず、結果として叱責を受けることになったのだが、経緯を説明しても理解が得られず、納得いかないまま私が悪いという結論になってしまった。
そのことで上司の信頼を失い、やること全てを否定されることとなった。
正しいと思ってやってきたことが全否定され、どうして良いのかわからなくなった。
自信を失くしてしまった途端、まるで強力なウイルスに感染したかのように瞬く間に崩れていった。
 
二度目は環境の変化に適応できなかったことが不調の原因だった。
すれ違うコミュニケーション、その原因は私の伝え方や考え方が悪いからだと思うようになった。実際は相手にも問題があったと思うのだが、その時は全部私のせいだと感じてしまい、またもや自信を失ってしまい、あっという間に崩れてしまった。
 
二度とも、自信を失ったことがメンタル不調の入り口だった。
 
私が悪い、私のせいだ、私が上手くやれなかったからこうなってしまったんだ、というふうに、「すべて私が悪い」という結論になるような思考で物事を考えるようになってしまった。
 
自分で自分を責めるのだから、凹んで当然だ。
 
一番の理解者で、一番の味方であるはずの自分自身が敵に回り、自分の一番弱いところを刺しにくるのだからひとたまりもない。
誰も守ってくれない心の一番弱い所にクリティカルヒットが連続するのだから、潰れてしまうのは一瞬だった。
 
メンタル不調で苦しんでいる人の心の中で何が起きているかと言うと、自分自身を認めることができなくなり、自分で自分の一番弱い所を責める、ということが起こっているのだ。
これに気付いて自分自身が攻撃をやめない限り、攻撃は止まないのだ。
 
健康な人でも、自分を責めることはあるが、どこかで折り合いをつけて整理できるけれど、メンタル不調状態では攻撃の手を緩めることができず、徹底的に自分を叩いてしまうようになるのだ。
 
それをやめないと抜け出せないと気付かない限り、出口は見えないと、経験してみてよくわかった。
 
なんでも自分を責める材料にしてしまうような状態の時は、気遣いの言葉さえ攻撃の材料になってしまう。
 
気にしなくていい、自信を持って、焦らなくていい、落ち着いて、頑張らなくていい、マイペースでいい、これらの言葉は全部責める言葉として受け止めてしまっていた。
 
もっと気にしろ、なんで自信を失くしたんだ、もっと焦れよ、のんびりやってるんじゃないよ、もっと頑張れよ、仕事遅いよなぁ、こんなふうに変換して更に自分を責めてしまう。
それがコントロールできないのだから、いくら周りが気遣っても意味がないのだ。
自分で気付いて、自分で乗り越えていかない限り、トンネルの先に光を見つけることはできない。

 

 

 

私がメンタル不調を乗り越えることができたのは、ずっと大切にしている言葉があったからだった。
 
「自分に負けるな」
 
大学時代、部活で挫けそうになった時にいつも先輩が言ってくださっていた言葉だ。
合気道部の稽古は、肉体的にも精神的にもとにかくキツかった。心身ともに限界を超えるような厳しさの中で行われる稽古だった。
 
体より先に心が折れそうになる。
「ああ、もうアカン。限界や……」と挫けそうになった時、先輩から怒号が飛ぶ。
「簡単に諦めるな! そんなのまだまだ限界じゃないぞ! 自分に負けるな!!」と、気持ちが止まりそうになる直前を見計らって、必ずと言っていいほどこの言葉で背中を押してくださった。
 
こう言われる度に「また言われた! クソー!」と、悔しい気持ちになり、メラメラと気持ちに火が着いてもうひと踏ん張り、更なる力が湧き出てくるのだ。
 
この言葉は、先輩も経験し乗り越えてきたからこそ言える言葉だったから、殊更胸に響く言葉だった。
 
「いいか、誰かに負けることは仕方ない。でも、自分の弱い気持ちにだけは簡単に負けちゃいけないぞ。お前が絶対に負けてはいけない相手はひとりだけだ。誰でもない、お前自身だよ」
 
ああ、もうダメだ。
そう思うのは、逃げたい、楽になりたいと思う気持ちが作り上げた架空の限界であって、本当の限界はもっともっと先にあるんだよ。
もうダメだ、と思った時はその先に行くチャンスが来た時だ。
だから、自分に負けずに乗り越えていけ。
弱い自分から逃げるな。認めて、受け入れて、そして乗り越えろ。
お前の限界はそんなもんじゃない。
まだまだいけるぞ、自信を持て。
 
そんなふうに励ましてくださる言葉だった。
 
先輩の仰る通りで、もうダメだと思ったところには限界なんてなくて、まだまだ踏ん張れることがほとんどだった。
そこで諦めずに乗り越えた時、その先には感じたことの無い透き通った領域があるのを何度も感じることができた。
 
集中力と気合いとを極限まで高めた時、限界だと思ったラインは簡単に突破できることを知った。
「ゾーンに入る」なんて言い方をすることがあるけれど、その領域に入る瞬間は戦闘機が音速を超えるような感覚だ。
この言葉が、その領域にまで引き上げてくれるきっかけになっていたのだろうな、と思うのだ。
 
この言葉は、社会人になってからも度々私の背中を押してくれる言葉になった。
仕事でしんどい時、ノルマが達成できなくて焦っている時、弱い自分が度々顔を出しては耳元で囁く。
「もう限界だろう? これくらいにしておけよ、無理するなよ。誰も責めないくらい、充分やったじゃないか」
そうだよな、限界までやったよな。 これでダメなら仕方ないよな。
そんな気になった時に、先輩の叫び声が聞こえてくるのだ。
 
「自分に負けるな!!」
 
ハッ! として思い出す。
ここは限界じゃなくて、チャンスの始まりでしたよね。
そうでした、忘れていました。
先輩、ありがとうございます。
もうひと踏ん張り、頑張ってみます!!
 
こうして、この言葉と共に幾度のピンチをチャンスに変えて乗り越えてきた。
 
メンタル不調に陥った時も、この言葉が気付くきっかけになった。
自分に負けるな、という言葉が持つ本当の意味は、「弱い自分から逃げずに、認めて、受け入れて、乗り越える」ということ。
この言葉の意味の本質が私を救ってくれたのだ。

 

 

 

何かを成功させたり、夢を実現させたり、苦難を乗り越えたりするために必要なことは、メンタルの強さだと、なんとなく知っていることなのだけど、メンタルの強さって何だ? と言われると実はよくわからないのではないだろうか。
 
俺は強い!! 自分を信じろ!! これまでの努力は裏切らない!! と、前に進むことだけを考えて突き進むことでメンタルが強くなるような気がするけれど、この言葉に乗っていけるのは既にメンタルが強い人だけで、それができないから困ってるんだよ、という人の方が多いと思う。
 
私が思うメンタルを強くする方法はただひとつだ。
 
「自分の弱さを認めて、受け入れて、乗り越える」ことだ。
 
本当の強って、自分の中にある弱さを認めることができて初めて辿り着けるもので、弱さを避けているうちは、決して辿り着けないものだと思う。
認めて、受け入れて、乗り越えた時、初めて強くなれるのだ。
 
私が、弱さを認めることができたのは、「自分に負けるな」という言葉に出会えたからだ。
 
生きる上で支えになる言葉との出会いって、本当に大切だなぁと思う。
苦しい時に背中を押してくれる言葉や、迷った時に行く先を明るく照らしてくれる言葉など、大切にしている言葉って、誰もが持っているものだと思う。
 
そういう言葉って、ロールプレイングゲームの回復呪文のように、唱えるだけで力が湧き上がってくるような力が込められている。
 
メンタル不調者に関わる時は、気遣いは要らない。
弱さを認め、受け入れ、乗り越えるための気付きのきっかけになる言葉を自分で探すための配慮や助言をすればいい。
これだけなら、健康な人、メンタル不調者、どちらにも同じ目線で接することができるから、変に構えずに向き合えることだろう。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
垣尾成利(READING LIFE編集部 ライターズ俱楽部)

兵庫県生まれ。
2020年5月開講ライティングゼミ、2020年12月開講ライティングゼミ受講を経て今回よりライターズ俱楽部に参加。
「誰かへのエール」をテーマに、自身の経験を踏まえて前向きに生きる、生きることの支えになるような文章を綴れるようになりたいと思っています。

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2021-05-17 | Posted in 週刊READING LIFE vol.128

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