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週刊READING LIFE vol.128

修行も忍耐も不要のメンタル強化方法《週刊READING LIFE vol.128「メンタルを強くする方法」》

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2021/05/17/公開
記事:石川サチ子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
私なんて生きている意味があるのだろうか?さっさと死んでしまった方が世の中のためではないのか?
駅のホームを轟音を立てて通り過ぎる急行電車に、スーッと身体ごと吸い込まれそうになっていました。
 
そこまで辿り着くまでにも、高層階のビルの窓から重力に任せて真っ逆さまに落ちたらどんなに楽かと考えて、身を乗り出したら、通りすがりの知らない人が心配して声をかけてくれて、現実に引き戻されました。その時、一瞬だけ前向きになりましたが、すぐにまた「死んでしまいたい」と考えて駅のホームに立っていました。
 
その日、私は会社を解雇されて途方に暮れていました。まだ二十代だったのに既に6社目です。こらえ性が無くて仕事が続かず、何のスキルも身につかず、お金もない、まさに人生のどん底に落ちてしまっていました。
 
私は、ブスでデブで足も太くて短くて、頭も悪くて性格も悪く、これと言ったスキルも資格もありませんでした。
 
友だちも恋人もいなくて、「どうせ」が口癖のネガティブな思考の持ち主でしたし、いつも何かしらの不安を抱えて、何をするにもまったく自信が持てませんでした。
 
そんな自分の姿を他人に見せるのが恐くて、強く見せようとしていました。
 
空っぽの強さなんて直ぐにバレるものです。雇い主からは、たいして仕事もできないのに態度ばかりでかくて、かわいげがない奴だと思われていました。同僚たちは、親切心から、そんな私の欠点を指摘されただけなのに、自分を全否定されたように勘違いして***
 
会社を解雇される前に、私が「私」を見放して、解雇したいと思っていました。
 
当時は相当メンタルがやられていました。
 
その頃の私は、この状態をメンタルが弱いと勝手に判断していましたから、「もっと強くなりたい」と考えていました。
 
心が強ければ、どんな逆境にも負けずにピンチをチャンスに変えてしまう、そういう人になりたかったのです。

 

 

 

「メンタルを強くする」という類いの本はたくさん買って読みました。中村天風さんの「運を拓く」に始まり、オリンピック選手のメンタルを強くする方法や自己啓発系の本、宗教関連の本などにも手を伸ばしましたし、怪しげなセミナーにも参加しました。
 
メンタルの強さについて知識を得て、実践していくうちに、強い人のマインドセットや考え方をインストールできたという錯覚に陥っていました。
 
表面だけ強く見せかけて、中身は弱いメンタルのままなのに。

 

 

 

そうやって、強くなっているような錯覚が肥大化すればするほど、理不尽な現象が起きました。
 
男性があからさまに私に敵意のようなものを持つようになりました。男性を敵に回して嫌われるようになったのです。特に雇用主である中小企業の男性経営者には、「生意気だ」という印象を与えてしまったようで、相当嫌われてしまいました。
 
ある経営者は、私にこう言いました。
「能力の無い奴は要らない」
別のある経営者は、このように言いました。
「あなたのようなプライドばかり高い人材を雇うほどわが社は資金がない、あなたのような人は資金位余力のある大企業で誰でもできるような仕事をやるのが適している」
そしてまた別の経営者は言いました。
「あなたが社内にいると雰囲気が悪くなる、試用期間が過ぎたら会社にはもう来なくていいから」
 
転職した中小企業全てで解雇されてしまったのです。

 

 

 

解雇されたその日は、結局死にきれず、乗り換えする駅の近くにあるサウナで一晩過ごしました。
 
新宿駅の繁華街にあるサウナは、色んな女性がやってきました。
午前一時を過ぎると、水商売風の女性がポツポツと入り出しました。水商売をしている女性は外では化粧も厚く、派手に見えましたが、メイクを落とし、裸になるとどこにでもいる普通の女の子でした。
 
正直、そんなに美人じゃない人もいて、もしかしたら、私もできるかもしれないと思わせてくれいました。実は、死ぬ前に一度やってみたい職業が水商売でした。
 
あくる朝、キオスクで「フロームA」というバイトを紹介している雑誌を購入してどんなお店があるのかパラパラめくって調べてみました。
 
新宿のクラブは何となく恐かったので、上品なイメージのある銀座にめぼしいクラブをいくつか見つけて面接に向かいました。
縁があって採用された銀座のクラブで衝撃の事実を知ることになります。
 
そのクラブのお客は、上場企業の幹部や霞ヶ関の官僚がメインでした。過酷な受験戦争と出世競争を勝ち抜いたエリートたちばかりです。彼らは、優秀な頭脳と高い精神力を持っていますから、正真正銘の強いメンタルを持つ人たちばかり。それなのに、明らかに彼らよりも10歳以上年下の女性を「ママ」と慕い、膝枕をしてもらい甘える姿は、私がずっと抱いていた強いメンタルを持つ人の姿とはかけ離れていたのです。
 
そして彼らが好む女性は、見た目が華やかで話術に優れた小悪魔的な子ではありません。見た目が多少野暮ったくて、年齢がそこそこいっていても、ニコニコと彼らの話を黙って聞いて頷いている女性でした。
彼らは、そんな女性を横に、デレデレと酔っ払い、高いお酒をどんどんオーダーしていました。彼女たちは、男性の心とお金をどこまでも吸い込んでしまう、まるで底なし沼のようなメンタルを持っていました。
 
私は、目の前で繰り広げられる、これまで抱いていたイメージとは全く違う現象にカルチャーショックを受けたのでした。
 
そこで改めて、メンタルの強さって一体何だろう?と考えるようになりました。

 

 

 

私がたどり着いた結論は、メンタルの強さには二種類あるということでした。
一つは、俗に言う、勝ち抜くための強いメンタルで、カチンと音が出るくらい固くなるもの、もう一つは、ぐにゃぐにゃと、とろけて何でも吸い込んでしまう柔らかい強さです。
これらのメンタルを見える形で表現するとしたら、固い強さは男性器、柔らかい強さは女性器がピッタリです。
 
身体に男女差があるように、メンタルにも男女差があるのではないかと考えに至りました。
 
便宜上、硬くて強いメンタルを男性的メンタル、とろけるように柔らかいメンタルを女性的メンタルと名づけます。
 
男性は、同室の男性的な強いメンタルに対して闘争心を燃やす傾向にあります。しかし、異質な女性的な柔らかい強さのメンタルに対しては完敗になるのです。
 
男性機が女性機の中で、ふにゃふにゃとなってしまうように、メンタルも同じような現象を起こすのだと気づきました。
 
私が中小企業の男性経営者に嫌われたのは、硬くて強い男性的なメンタルを全面に出してしまったせいかもしれません。
 
柔らかい女性的なメンタルを前面に出していれば、会社をクビになるほど嫌われることは無かったかもしれませんね。

 

 

 

この頃、出版される本やネット上に散乱する情報には、男性的なメンタルの強さを強調するものが多いように思います。
例えば、ざっと目についたものだけでもあげてみると、「最強の自分を作るメンタル」「折れないメンタル」「心が強い人の神メンタル」「勝者のメンタル」「勝利のメンタル」「最強のメンタルトレーニング」などがありました。
 
一方、過去の文学作品には、男性的なメンタルの強さを支えるには女性的なメンタルの強さが必要だと思わせものがあります。
例えば、夏目漱石の「坊ちゃん」、山本周五郎の「城中の霜」、ミヒェルエンデの「モモ」の登場人物には、強い人を支えている人物が登場します。
無鉄砲な「坊っちゃん」には、清というお手伝いさんが、幕末に武士の信念を貫いた「橋本左内」には、いとこの香苗が女性的メンタルで支えています。強い彼らは彼女たちが支えてくれたからこそ、周りを敵に囲まれても、己の正義を貫くことができたのです。
 
「モモ」の主人公「モモ」は、黙って人の話を聞いているだけだけど、相手を元気にさせる力を持つ女の子です。「モモ」は女性的なメンタルの持ち主なのです。
 
男性的なメンタルの強さは、女性底なメンタルに支えられ、応援されることで、力を発揮するものなんだと思うようになりました。

 

 

 

自分の痛い経験から導き出された、メンタルを強くする方法の答えは、メンタルは一人では強くはならないということです。
 
どんなに強そうな人でも、支えてくれ、応援し、協力してくれる人がいてこそその強さを貫き通すことができます。強くなればなるほど敵も多くなりますから、支えてくれる人がいなければ、いつかどこかで負けた時、その人は立ち直れなくなる危険を孕んでいます。
 
支えられ、応援してくれる仲間がいてこそ強くなっていくものなのかもしれません。
 
たった一人で強くなるなんて、超人にでもならない限り無茶だと思います。
 
もし、一人で強くなれなかったら、私が二十代の頃に陥ってしまった、「私なんて生きている意味があるのだろうか」とか「さっさと死んでしまった方が世の中のためになるんじゃないか」なんていうところまで行き着いてしまうほど危ないやり方だと思います。
 
メンタルを強くするには、実は修業も忍耐も必要ありません、支え合う仲間を見つけることで、誰でも最強なメンタルが手に入れられるものなんだと思います。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
石川サチ子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

宮城県生まれ、宝塚市在住。
日本の郷土料理と日本の神代文字の研究をしている。

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2021-05-17 | Posted in 週刊READING LIFE vol.128

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