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週刊READING LIFE vol.131

ライティングという名の上映会《週刊READING LIFE vol.131「WRITING HOLIC!〜私が書くのをやめられない理由〜」》


2021/06/06/公開
記事:高橋由季(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
2020年5月、今年のゴールデンウィークは、どこにも行けない。
新型コロナウイルスの感染拡大により、不要不急の外出制限がされていた。
いつもの大型連休は、必ずどこかに出かけていた。
しかし、今回は実家に帰ることすら躊躇した。
出かけたい気持ちを抑え、5日間の休日を自宅で過ごすと決めた。
 
しかし、家で過ごす手段が見当たらない。
アウトドア派の我が家には、ゲームの類が全くないし、この5日間、自宅で何をすればよいのやら。
 
明日から連休がはじまるというとき、何気にFacebookを見ると、「ライティング」という文字が目に飛び込んできた。天狼院書店のライティング・ゼミのゴールデンウィーク特別講座とあり興味をもった。
 
ライティングに興味を持ったのには理由があった。
仕事で、記事や資料を作ることが多いのだが、わかりやすく書くことへの苦手意識があったのだ。
専門的知識を専門的な言葉で書くことは容易であるが、専門的知識がない人にむけて、わかりやすく書くことは、非常に難しい。
ちょうどその頃、一般読者向けの新聞連載の仕事があり、どうすれば分かりやすく書けるのかが私の命題でもあった。
天狼院書店のライティング・ゼミでは、書くのにはコツがある、としている。
書くことが得意な人は、小説をよく読む人だという先入観があったが、私でも書けるようになるのだろうか。
ここでライティングを学ぶことにより、うまく文章が書ける魔法の杖のようなものを手に入れることができるのはないかと思った。
いずれにせよ、暇な5日間だったので、騙されたと思って参加することにした。

 

 

 

講座が始まった。
書くということにもいろんな法則があるのだと、始めて知る。
理論を勉強するのはとても楽しかった。
しかし、それだけではなかった。
10日連続で、2000字の記事を書くことが必須課題であった。
これがとにかく大変だった。
 
どう書いてよいのか分からず、とにかく教えてもらった公式に当てはめて、文字を組み立てていく。少しの文章を書くだけなのに、何時間もかかってしまう。締切りギリギリにやっと書けたと思っていても、講師からのフィードバックに意気消沈。しかし、核心をついた指摘と、同じゼミの仲間たちの素敵な記事をみると、「次はがんばろう」と思えてくる。
「才能ないのかな」と思いながらも書き続けると、最後のほうには、コツというものが少しわかってきて、少しずつ書くことが楽しくなってきた。
そこには、講義で教えてもらったことを、実践していく楽しさがあった。
 
なんとか10回の課題を終えた。
ゼミで教えてもらった、伝えるための「極意」というものが、わかった気がした。
そして、その法則は、世の中のいろんなところで使われているのだと気がついた。
ライティングって奥深いと思える経験だった。
 
ライティング・ゼミには、上の段階の、ライターズ倶楽部という講座があった。
ここでは、5000字の記事が基本だ。
 
「2000字でも、あんなに時間がかかったのに、5000字なんて……」
 
私は、受講をしないという選択をした。
興味はあったのだが、仕事の忙しさを理由に、躊躇したのだ。
「ライティングは良い経験だった」
という思い出とともに、書くことをやめた。

 

 

 

約1年後の2021年3月、忙しかった仕事がひと段落ついた。
これまで、埋まっていたスケジュールに少し空白が見られるようになり、何か新しいことを始めようかと考えた。
 
真っ先に浮かんだのは、ライティングだった。
ちょうど3月から、ライターズ倶楽部が始まるという。
ついていけないかもしれないと思いつつ、もう一度書きたいという衝動が抑えられずにいた。なぜなのかは自分でもよく分からない。とにかく、もう一度書いてみたいと思っていた。そして参加することにした。
 
ライターズ倶楽部は、企画立案から講義、記事執筆まで盛りだくさんの講座であった。「プロライターになるための実践講座」とあることから、レベルの高さは想像できた。
ライティングの部分では、週ごとにテーマが決められていて、文字数は5000字前後とされていた。
「5000字なんて書いたことがない。本当に書けるのだろうか」
心配と気負いが交差していた。
それに、書いていない1年間のブランクもあった。
 
私は目標を立てることにした。
「絶対に毎週記事を書くこと」
うまく書けなくても良いけど、書くことを諦めないようにしようと思った。
 
この目標を決めたとき、ある人の言葉を思い出していた。
 
「登ってみないと向こうはみえない」
 
「達人達」というテレビ番組で、坂本龍一さんが言っていた言葉である。
その山に何があるか分からないけど、登ったからこそ見えるものがある、そこで、また次の山が見えてくる、という趣旨だったように思う。
 
上級ライティングに挑戦する前の私は、まさにこのような心境だった。
12回連続で5000字の記事を書いた先に、何が見えるのかは分からない。
でも、もしかしたら、そこでしか見えない景色があるのかもしれない。
 
テーマを目の前にして、何について書こうかを考える。
5000字を書かなくてはいけないというプレッシャーが大きく、その文字数を超えるように、エピソードをいくつか準備して、並べて構成してみる。
締切りも迫るなか、ワードに言葉を打ち込んでいく。
何とか目標の字数を超え、ほっとする。
 
そして、ライティング・ゼミでもあったフィードバックを受ける。
「盛りだくさんすぎる印象です」
やっぱり核心をつかれている。
たくさんエピソードをいれて、文字数をかせいだことがバレバレだったようだ。
フィードバックでは、良い記事を書くためのアドバイスも沢山伝えてくれた。
 
毎週、時間と文字数と闘いながら、とにかく書き続けていく。
何週目だったか、少し書くスタンスが変わったときがあった。
どうせ上手く書こうと思ってもダメなのだから、ただ、思うことを感じるままに書いてみようと思ったのだ。そこに問題があれば、講評してくれるし、自分のクセや修正ポイントも分かるだろう。安心して自由に書くことができる。
 
気負わず、いろんな視点から、楽しみながら書くことにした。
そうすると、必死だった5000字が難なく超えていけるようになった。
構成や、盛り上げ方など、問題点は多かったが、大きく立ちはだかると思っていた文字数の壁はそう高くないと感じるようになった。
 
テーマに対して、何を書こうか考えることが日常となった。
何も出てこないこともある。
それでも何とか絞り出して、とにかく書く。
 
後半に入ってくると、テーマの設定に意図があるのか、人生を振り返って考える機会が多くなっていく。おのずと、過去の封印してきた出来事を見つめることとなった。
嫌な体験は、嫌な体験のまま、私の心の奥底にある壺に入れて、フタをしていた。
ポジティブに生きるためには、「なかったことにする」ことが得策だと考えていた。
だから、何十年間も思い出すことがなかった出来事がたくさんあるのだ。
なのに、テーマについて考えていると、自然と、その壺のなかにある出来事に行きついてしまう。
 
あるときは、こっぴどくいじめられていた昔の記憶に行きついた。
心の奥底にしまってた出来事を取り出して、シゲシゲと眺めてみる。
 
新入社員の頃の体験であった。
入社した会社で、私に仕事を教えてくれたのは、私の高校の同級生のMさんだった。会社では先輩となる彼女に、嫌がらせを受け続けた。当時の私は、毎日泣きながら仕事をしていて、辛い思いしか残っていない。嫌がらせを受けていたことが負の遺産のようにも感じていた。
 
私自身の出来事であったが、かなり客観的にとらえることができていた。
少し遠くの立ち位置から、当時の自分を眺め、その想いに注力する。
そして、その情景を見ながら、当時の自分の想いを、1つずつ言葉にしていく。
 
かなり辛い日々だったが、この経験があったからこそ、その後の人生に繋がったのだ。
今となっては良い経験だったと思えた。
「少しの間だからがんばれ!」と自分に声をかけたくなった。
封印していた当時の自分の気持ちに向き合うことで、意識の奥底にモヤモヤしたまま隠しておいたものが、日のあたる場所に出され、昇華されていくような感覚だった。
 
ここで、ふと、あることに気づいた。
書くことで、自分の心情を客観的にみることができ、整理できたのだが、それと同時に、嫌がらせをしていたMさんの心情を客観的に読みとっていたのだ。
 
私に嫌がらせをしていたMさんは、高校を卒業後に入社した。
数年にわたりキャリアを積み、彼女がいなければ仕事が回らないという状態だった。
自分の仕事に誇りをもっていただろう。
そんなときに、大学を卒業した私が入社する。
高校の同級生であった私が、同じ部署に入ると聞かされた気持ちはどうだっただろう。
決して「嬉しい」という感情ではなかっただろう。
自分のいる場所が脅かされるような恐怖感があったかもしれないし、大学で思う存分遊んできたヤツと自分が同等の給料となることに憤りを感じたかもしれない。
新入社員はチヤホヤされるわけではないが、知らないことが多い分、いろいろと気にかけてくれる人が多い。これまでMさんに向けられていた関心を新入社員である私が奪い取ったという風に考えたのかもしれない。
Mさんも私も20代前半だ。大人な対応が難しかったというのも理解できる。
感情をそのままぶつけるのも仕方のないことだろう。
 
当時の上司の心情も客観的にみることができた。
私が嫌がらせを受けていることは、会社の全員が知っていた。
しかし、私の直属の上司は、口出しすることはなく、助けてくれなかった。
上司の気持ちになって考えると、Mさんも私も同じ部下であり、上司からみれば、いじめではなく、「厳しい指導」という範疇だったのだろう。
それにしても、毎日泣きながら、仕事をしていた私は、なんと扱いにくい部下だっただろう。
振り返って、申し訳なかったと思うばかりである。
 
当時のことを振り返りながら、1つ1つ、その情景を書いていく。
書き終わった頃には、1つの映画を見終わったような心境となった。
1メートルくらい前にスクリーンがあって、映画が上映されている感覚になり、主演の私と、周りの脇役たちの行動を観察しながら、出演者全員の心情を読み解いていく。
自分に起きた事実なのだが、「書く」ことによって、それは映画のように客観性を持つのだ。
 
これは、頭のなかで考えるだけではできないことだ。
頭のなかだけで、当時のことを思い出し「でもあのときの経験があったから今がある」と思えたにしても、それは「あのときの経験」とは、結局はマイナスの経験でしかない。
当時、自分に嫌がらせをした人、助けてくれなかった人たちのキャラクターは変わるはずもない。
しかし、「書く」ことで、出演者全員に、それぞれの事情があり、その行動には理由があったことが、理解できる。腑に落ちるという感覚である。

 

 

 

ライティングの当初の目標であった、記事を毎回出すということは、達成できた。
来週からは、もう書かなくて良いと思うと、少し肩の荷が下りるような気がする。
 
仕事のために、わかりやすい文章を書きたいというきっかけで始めたライティングは、少しは上達しただろうか。それはよくわからない。
ただ、ライティングは人生の伴走者になりえるかもしれないと思うようになった。
書くことで、数十年間、思い出したくなかった過去の記憶を呼び覚まし、1つ1つ整理することができた。それは、無理矢理なポジティブシンキングではなく、自然体で、これまでの人生が、そう悪くなかったと思えるような結末だった。
 
ライティングは、自分に起こった出来事を映画化するようなものだ。
客観的に自分のことが見えるし、それにより、心が整理されていく。
また、周囲の人たちの心情も、ありありと見えてくる。
そして、一通り書いたあとには、いまある幸せや有難さを実感することができるのだ。
これが、ライティングを継続した先に見えてきたものだった。
自分で登った山からしか、見えない景色というべきものだろう
 
12回のライティングを終え、目標どおり、山を登るきることができた。
書くことからやっと解放されると思っていた最終回だったが、坂本龍一さんが言っていたように、登った山からしか見えない自分だけの景色があった。そして、気が付けば、書くことを止められない自分がいた。
 
自分の意識の奥底にある壺には、整理できていないことがまだまだある。
自分の人生を生きるために、私はこれからも書き続ける。
 
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
高橋由季(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

2020年の天狼院書店ライティングゼミに参加
書く面白さを感じはじめている

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

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2021-06-07 | Posted in 週刊READING LIFE vol.131

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