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週刊READING LIFE vol.141

平凡な私の中にも「殺人鬼」は棲んでいる《週刊READING LIFE vol.141「10 MINUTES FICTIONS~10分で読めるショートストーリー~」》


2021/08/30/公開
記事:垣尾成利(READING LIFE編集部ライターズ俱楽部)
 
 
私は、どこにでもいる普通の人なんです。
家庭を持ち、会社に勤め、ごくごく平凡に毎日を生きている、どこにでもいる人なんです。
 
でも、実は…… 毎日のように人に暴力をふるって危害を加え、時には命を奪うことだって平気でやっちゃう「殺人鬼」なんです。
 
もうね、それが日課のようなものなので、顔色ひとつ変えずに、人知れずそっと見ず知らずの人を殺すんです。
 
もちろん、今日も朝からたくさんの人を傷付け、殺めてきましたよ。
 
会社に向かう朝の電車、いつも同じ車両に乗ってくる女性がいるんです。
この女性が失礼な人でしてね、並んでいる私の前に平気で割り込んでくるわけですよ。
先に来ている一人が、後から来た女性を割り込ませるんです。
 
すぐ後ろで並んでる私には一言の断りもなく、ですよ。
 
「おい、こら。あんたたち、毎日毎日平気で割り込んできて、マナー悪すぎるんじゃないの?」と後ろから怒鳴りつけてやりましたよ。
はぁ? みたいな顔でこっちを睨みつけるものだから、ムカついたんですよ。
通過する電車が駅に入ってきたタイミングで、背中を突き飛ばしてやったんです。
いい気味でした。
 
車内には、少し詰めれば座れるのに、横を広く空けて偉そうに座っている男性がいました。
「何様のつもりだよ。お前のせいでなんで立たなきゃいけないんだよ」
揺れたタイミングで足の甲を思いっきり踏みつけてやったんですよ。
相当痛そうにしていました。
いい気味でした。
 
乗り換えの駅では、前から必死に走ってくる会社員が私にぶつかってきたんです。
「危ないなぁ!! 走るなよ!!」
前を塞いで、避けようとしたところを足を引っ掛けてやりましたよ。
勢いよく転んで顔面を打ったようですが、そんなの自業自得でしょう。
混雑した駅の中を走っている方が悪いんですよ。
 
会社に行ったら行ったで、要領の悪い部下がいるのですが、昨日指示しておいた仕事がまだできていなかったので、皆の見ている前で罵倒してやりました。
「お前は何年目だ? 言われたこともできないのか、このクズ野郎、さっさと辞めてしまえ!!」
言われたこともできない、あいつが悪いんですよ。
 
そのせいで上司に呼び出されました。
管理が悪いだの、どんな指導をしているんだ、と散々叱られましたよ。
自分はろくに仕事もしないくせに、偉そうに言いたい放題言う、馬鹿な上司なんですよ。
仕事はできないくせに態度ばっかり偉そうでね、私が作った資料の間違いも何も見抜けやしないものだから、会議の資料は一桁違いの滅茶苦茶な数字のものを渡しておきましたよ。
あんな資料持って本社の会議に行ったら、役員から袋叩きにあうでしょう。
それだって、自分が理解も納得もしないままに鵜呑みにするから悪いんですよ。
 
あんな資料持って行ってたら、あの人の評価はがた落ち、出世の道は閉ざされますよ。
後で怒られるでしょうが、そんなのどうでもいいんです。
能力も人望もないような人が偉くならなくていいじゃないですか。
自分で招いた結果です。いい気味ですよ。
 
客が電話でクレーム入れてきました。
いつも勝手な理屈で文句ばかり言ってくるやつなんです。
仕方なく先方に出向いてお詫びをしてきましたよ。
きっちりと正論で、言ってることを全否定して論破してきました。
横にいた上司の人は、いい加減なことを言っていった部下に対して激怒していましたよ。
相手見て言ってこい、ってことですよ。
 
穏やかな振りして、たくさんの人の人生を歪めてきたんです。
あの人たちの人生計画が今日、大きく下方修正されたはずです。
 
ふん、バカバカしい。
 
いちいち巻き込まれるものだから、腹も立ちますよ。
 
そんな奴らには制裁が必要なんです。
 
「あんたら、生きる価値無しだよ」って。
 
通りがかりの公園で、ひとりの子がからかわれて泣きそうになってるのを見掛けました。
いじめ、ですよね。その子のことを可哀そうだとは思わないけれど、いじめている奴らにはムカついたんですよ。
ボス格のやつにそっと近づいて行って、思いっきり蹴り上げてきましたよ。
 
ムカつくことが続く日は続くんですよ。
 
前から高校生が自転車で二人乗りしてきました。
明らかに違反ですよ。
通り過ぎる時に、後ろに乗っていた学生の背中を掴んで引っ張ってやりました。
バランス崩して二人とも倒れこんでましたよ。
馬鹿じゃないの? と笑ってしまいました。
 
次から次に、ムカつくことばかりです。
 
帰りの電車ではイヤフォンからシャカシャカと音が漏れているうるさいのが居たんですよ。しかも足元に荷物を置いていて、躓いたら危ないじゃないですか。
駅に着いたタイミングでその荷物をドアから放り出してやったんです。
慌てて取りに行こうとしたところを思い切り背中を突き飛ばしてやりました。
車外に転がるように倒れこんだ瞬間、いいタイミングで電車のドアが閉まりました。
おかげで車内は静かになりましたよ。
 
次の駅から、女子高生が集団で乗り込んできました。
こいつら、いつも騒がしいんですよ。
しかも、周りへの気配りがなくて迷惑なんです。
ドアの前に陣取って、リュックを背負ったままワイワイと喋るんです。
乗る人も降りる人も、邪魔で通れないのに、動こうともしないんですよ。
 
幸い、降りる駅が一緒なんです。
降りてからも広がって喋りながらダラダラ歩くものだから、抜きたくても抜けないんです。
「まったく…… 遅いなぁ。早く歩けよ!!」
 
あー、ムカつく!! こっちは仕事帰りで疲れてるんだよ。
ダラダラ歩いてマジで邪魔だわ。
階段を降りる時も並んでるから抜くこともできないんです。
こいつらのせいで何度バスに乗れなかったことか。
 
「お前ら…… 早く歩けよ!!」
階段にさしかかったところで、そっと近付いて肩に担いでいるカバンを斜め後ろから突き飛ばしてやったんです。
女子高生はきゃぁぁぁ!! と叫び声を上げながら階段を踏み外して転げ落ちていきました。
おかげで隙間ができて抜くことができました。
 
倒れた女子高生はこっちを睨んでいたようですが、人の邪魔をしているのだから、何も文句は言えないでしょう?
本当は階段の一番上から突き落としてやろうと思ったんですが、それはやめてあげたんです。怪我で済んで良かった、と感謝してもらわないと。
 
毎日毎日、自宅でも通勤途中でも、会社でも、至る所で私を不快にさせる奴に出会うんですよ。
 
その度に、制裁を加えることにしてるんです。
 
時には暴力を、時には社会的立場を失うようなミスを仕組んで、時には命を狙って、様々な制裁を加えてやるんです。
 
そんなことを毎日繰り返して、警察沙汰にならないか? って?
 
大丈夫です。
 
私だけじゃないですから。
 
あなただって、きっと毎日のように誰かを傷付けて、殺めて、その怒りを紛らわせているでしょう?
 
私がやっていることは、全部想像の世界でのことなんですよ。
 
ムカついた時に、心の中で電車に突き落としたり、殴り飛ばしたり、時には刃物を持ち出して刺し殺してみたり切り刻んでみたり、いろんなことをやっているのではないですか?
 
あなたの中にある「怒り」が暴走したら、そういうことをやってしまう、ということなんですよ。
 
ただ、実際にそんなことをやったら、たちまち自分が大変なことになる、ってわかっているから。
 
だから理性が働くんですよ。
 
でもね、それでも言葉の暴力や態度で威嚇してみたり、権力や立場を使って弱いものに対しては平気で傷つけるようなことを言ったりやったりしているでしょう?
 
あなたが怒りに任せてやっていること、って、実は「殺人鬼」と同じなんです。
 
見た目に傷ついていない、死んでいないだけ。
 
あなたの感情は、人を傷付け、殺しているかもしれないんです。
 
明日、あなたの感情が怒りで揺らぐ度に、どんな制裁を加えようとしたか? を書き留めてみてください。
 
きっと、そこには殺人鬼が潜んでいるはずです。
 
本当の殺人鬼にならないためには、自分の「怒り」を知ることが必要です。
 
何が自分を怒らせているのだろう?
何が許せなくて怒りを感じているのだろう?
 
どうすれば、その怒りと向き合えるのだろう?
 
それを考えられなければ、あなたはこれからも殺人鬼として日々、人を殺め続けることになるのですよ。
 
私はそんなことはしない!!
なんて、言えますか?
 
心配しないでください。
 
誰の心の中にも、殺人鬼が棲んでいるんです。
 
あなたは、この鬼とどう向き合いますか?
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
垣尾成利(READING LIFE編集部 ライターズ俱楽部)

兵庫県生まれ。
2020年5月開講ライティングゼミ、2020年12月開講ライティングゼミ受講を経て2021年3月よりライターズ俱楽部に参加。
「誰かへのエール」をテーマに、自身の経験を踏まえて前向きに生きる、生きることの支えになるような文章を綴れるようになりたいと思っています。

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2021-08-30 | Posted in 週刊READING LIFE vol.141

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