週刊READING LIFE vol.221

運動会、花形競技の必勝法《週刊READING LIFE Vol.221 〇〇のコツ、教えます》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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2023/6/26/公開
記事:山田THX将治(天狼院ライターズ倶楽部 READING LIFE公認ライター)
 
 
最近の運動会は、春に行われることが多いらしい。
昭和の昔は、春と秋と2回の運動会が行われたものだ。但し、同規模では無く、春の運動会は予行演習的要素が強かったと記憶している。
丁度、各競技で行われている、春の選抜大会の様に。
 
運動会が春にしか行われないのは、昨今問題となっている、教員の超過勤務に依るところが大きいと考えられる。
そう云えば、私が住んでいる集合住宅隣りの小学校も、5月の最終土曜日に運動会を開いていた。
但し、午前中だけの短縮された運動会だった。
 
でもね、
入学して間もない小学一年生に、どうやって練習をさせるのか甚だ疑問に感じてしまうのだ。
これはむしろ教員にとって、余分な苦労としか思えないのだけれど。
 
それにね、
勉強が得意でなくとも、徒競走で一等賞を取って褒められる生徒って、可愛いものじゃないかな?
 
 
現代では少し事情が違って来ている様だが、今も昔も、運動会だけはしゃぎ・目立つ者が居た。
かくいう私も、その一人だ。
 
運動会で目立つ生徒は、脚が速いことが多い。私は特に、脚が速い方ではない。しかし、誰よりも運動会が好きだ。
特に、中学・高校と進学するに従って、益々好きに為ったと言って良いだろう。
 
 
私が進学したのは、中高一貫の男子校だ。
男子校の運動会は、嫌が上にも盛り上がるものだ。何故なら、男子校の運動会の観客は、女子中高生(それも女子校)と相場が決まっているからだ。
女子の前での男子、それも男子校生の張り切りようと言ったら、全身体能力の120〜150%は出ているのではと感じられる程だ。滅多に接することが無い女子の前で発揮する男子校生の脚力は、誰もがインターハイ・レベルではないかと思ってしまう位だ。
 
では、脚が速くない私は、如何にして運動会を楽しんだのか。目立ったのか。
それは、選手として目立ったのではなく、参謀として活躍したからだ。それも、運動会の花形競技の作戦参謀として。
 
昔の運動会で花形競技といえば、『騎馬戦』・『棒倒し』と相場が決まっている。
それでは、高校時代の私が考え出した『騎馬戦』と『棒倒し』必勝法を、今回特別に公開致すことにする。
 
 
前提として、昭和の男子高生が行っていた『騎馬戦』と『棒倒し』は、令和の現代で奨励され実際に行われている、騎手が被っている帽子を取り合う『騎馬戦』や、棒を傾けただけで勝敗が決まる『棒倒し』みたいな、ヤワな競技ではない。
私達が運動会で行っていたのは、旧式の、騎手を落とし合う『騎馬戦』と、立てた棒を完全に地面に着ける迄争う『棒倒し』だ。
そう、粗野を通り越して野蛮極まりない競技だ。
更に悪いことには、出場選手(生徒)が普段から周りに女子が居ない、言い換えれば、女子の前では猿とほとんど変わらない野生を発揮する男子ということだ。
実際、男子校の運動会では、『騎馬戦』と『棒倒し』終了後の保健室が、野戦病院と化すのだ。
 
但し、私達が行なっていた野蛮な『騎馬戦』と『棒倒し』は、本寸法のストロング・スタイルに違いないルールだ。
何故なら、防衛大学校の運動会では、もっと壮絶な『棒倒し』が今でも行われている。それも、各隊の名誉を賭けて。
 
 
それでは先ず『騎馬戦』の必勝法から。
例え運動会の『騎馬戦』といえども、スポーツであることには変わらない。スポーツである以上、ディフェンスが重要と為る。
『騎馬戦』のディフェンスとは、先ず逃げることだ。大将騎を、守り切ることだ。
 
私は自軍の防御法として、陣形を上杉謙信公の“車懸かりの陣”を参考に考えた。本来の“車懸かりの陣”は、武田信玄公が用いる“鶴翼の陣”を突破する為に編み出されたものだ。
“鶴翼の陣”は、守りが堅い陣形なので、“車懸かりの陣”は本来攻撃重視の陣形だ。
私はそれを逆手に取り、大将騎の周りにぐるりと背を向けた騎馬を円形に陣取らせた。しかも、幾重にも陣取らせた。
それにより相手の騎馬は、当方の大将騎に対し、どの角度から攻めようとしても、必ず当方の騎馬と正面から相対すことに為る。
言い換えれば、自軍大将騎は、死角が無いということだ。相手方は、攻撃時間が格段に掛かることに為る。
これは、平均して3~5分で勝敗が決する騎馬戦に於いて、大きなアドバンテージだ。例え当方が、相手の大将騎を倒せなくとも、引き分けに持ち込むことが可能なのだ。
 
私は、講堂に集まった自軍のメンバーを前にして、黒板に図を描きながら丁寧に説明した。皆、聞いて納得してくれた。私は、個々の騎馬に、ポジションを言い渡した。
私のチームは、この戦法が見事に当たり、2騎を失っただけで見事に大将騎を守り通した。
 
 
次に、『騎馬戦』のオフェンス。
これは、発想の転換で考え出した戦法だ。
先にも述べたが、本寸法の『騎馬戦』は、騎乗しているものを騎馬から下ろす(落とす)ことで、騎馬の戦闘能力を削ぐものだ。一騎は4名で編成されるので、騎馬を失うと、戦力低下は著しい。
 
ただ、騎馬を先頭不能にするのは騎乗者を落とすことだけで無ないと、私は気付いたのだ。
そして考えたのが、騎乗者を狙わず騎馬を崩して先頭不能に陥れることだ。
この方法は簡単で、騎馬の全面の者が相手の騎馬にぶつかる際、相手騎乗者の太もも目掛けて額から突進するだけだ。脚を不安定な形で平衡を取っている相手騎乗者は、不意に斜めの角度から強い衝撃を受けるので、一気にバランスを失い落下することに為る。何しろ、騎乗者は掴まりバランスを取ることが出来ないのだ。
ただし、注意しなければ為らないことが有る。それは、騎馬に為っている3名が、相手にコンタクトする際、強くバインドすることだ。それと、コンタクト時は、可能な限り速度を上げなければ為らない。その方が、大きな衝撃を与えることが出来るからだ。
そしてもう一つ、騎乗者は、騎馬役のジャージをしっかり掴み、衝撃に耐える必要が有る。相手に衝撃を与えることは、自分達も同じ衝撃に襲われるのだから。
 
私のチームの攻撃陣は、私の戦法を忠実に遂行し、あっという間に相手の大将をグランドに叩き落とし勝利した。
 
 
次いで、『棒倒し』の必勝法を述べる。
こちらも、ディフェンスから。
『棒倒し』の守備は、力自慢の者が十重二十重と棒を倒されまいと支える。この場合は、柔道部員や、レスリング・相撲の経験者が役に立つものだ。ここに変更は無い。正確には、他の方法は無いといっていいだろう。
ただ、『棒倒し』の守備は、棒を支えるだけではない。
よく見掛けるのは、自軍の棒支えメンバーの上に乗り、棒に飛びつく相手方の者を蹴散らそうと考える者が居る。または、棒に飛びついた相手方を、引き剝がそうと引っ張る者が居たりする。
ハッキリ申し上げて、どちらも止めた方が賢明だ。
何故なら、自軍メンバーの上に乗ることは、全く無駄な行為だ。人山の上は、足場が悪く、落ちない様にすることが精々だ。
そして、棒に飛びついた相手を引き剥がそうとする行為も無駄だ。無駄というより、むしろ逆効果だ。何しろ、相手を引きずり下ろすことは、抱えている棒も一緒に下ろしているに過ぎないのだから。
 
では、効果的な『棒倒し』のディフェンスとは何か。
それは、自軍の人山に、相手メンバーを近付けないことだ。その為には、相手チームとの中間線少し手前に、防御前線を敷くのだ。
防御前線とは何のことは無い、タックルが上手なラグビー・アメフトの経験者を横に並べるだけだ。そして、向かってくる相手ナンバーを一人でも多くタックルで倒すだけだ。要するに、自軍の棒に集まって来る者を減らすのだ。
そしてもう一つ、考えておかねばならないのが、相手メンバーが自軍の前線を突破し、棒に飛びついた時だ。この場合、無理に引き剥がしてはいけないのは前述の通りだ。その代わりに、身軽な者が相手を追って自軍人山に上がるのだ。そして、体をゆすって棒を倒そうとする相手の背後から身体を寄せ、その動き(ゆすり)を止めようとするのだ。
意外に思うかもしれないが、私にチームはこの方法で、殆ど棒を傾かせることは無かった。
見事に、自軍の棒を守り切ったのだ。
 
次に、『棒倒し』のオフェンス。
これは、『騎馬戦』のオフェンスでも述べたが、発想の転換が必要と為る。
『棒倒し』は、棒を倒す競技だが、棒に飛びついて倒すとはどこにも書いてはいない。
簡単に言って仕舞えば、相手の人山ごと棒を倒せば良いと気が付いたのだ。そこで私は、如何にして相手の人山を倒すのかを考えた。
 
答は簡単に見付かった。
それは、毎日の通学時に見受けられたことだ。
時折、
「オイ! 押すんじゃ無ぇーよ!!」
の怒声と共に、乗客が‘将棋倒し’に為りそうなことが有る。人間は、思いもよらない方向から押されると、いとも簡単にバランスを失い、最悪の場合転倒、それも連鎖的に将棋倒しに為ったりするものだ。
だから、混雑時に周りの人を押したりしてはいけないのだ。危険極まりない行為だからだ。
 
しかし、『棒倒し』の競技中は別だ。何せ、元々粗野な競技なのだから。
私は、チーム内で体格の良い者を4人選抜し、私を含めて5名でラグビーのスクラムを練習した。
5人の大柄な男子高校生の圧力・衝撃は、半端なものではない。しかも、私の先導で強くバインドしたスクラムは。
 
自チームの攻撃陣は、私の掛け声を合図にスクラム状で強く、相手の人山にコンタクトした。
相手チームの人山は、完全に将棋倒しと為った。
相手の棒は、秒殺され倒れた。
 
私のチームの完勝だった。
 
 
以上が私の、運動会の花形競技必勝法だ。
 
先述した通り、昨今ではこんな本寸法の『騎馬戦』や『棒倒し』は、なかなか行われることは無いだろう。
 
 
しかし、日本中を見渡せば、気骨有る高校の一校や二校は在るかも知れない。
 
その時は遠慮なく、いや、是非とも私の必勝法を『騎馬戦』や『棒倒し』で使ってみて欲しい。
 
 
もしかして、防衛大学校の関係者の方が、この記事をお読み下さったら、是非とも『棒倒し』チームの主将に私の必勝法を伝えて頂きたい。
 
その際は必ず、運動会の見学に馳せ参じますので。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
山田THX将治(天狼院ライターズ倶楽部所属 READING LIFE公認ライター)

1959年、東京生まれ東京育ち 食品会社代表取締役
幼少の頃からの映画狂 現在までの映画観賞本数17,000余
映画解説者・淀川長治師が創設した「東京映画友の会」の事務局を40年にわたり務め続けている 自称、淀川最後の直弟子 『映画感想芸人』を名乗る
これまで、雑誌やTVに映画紹介記事を寄稿
ミドルネーム「THX」は、ジョージ・ルーカス(『スター・ウォーズ』)監督の処女作『THX-1138』からきている
本格的ライティングは、天狼院に通いだしてから学ぶ いわば、「50の手習い」
映画の他に、海外スポーツ・車・ファッションに一家言あり
Web READING LIFEで、前回の東京オリンピックの想い出を伝えて好評を頂いた『2020に伝えたい1964』を連載
加えて同Webに、本業である麺と小麦に関する薀蓄(うんちく)を落語仕立てにした『こな落語』を連載する
天狼院メディアグランプリ38th~41stSeason四連覇達成 46stSeasonChampion

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2023-06-21 | Posted in 週刊READING LIFE vol.221

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