ウルトラトレイルランナーが案内する日本一過酷な鎌倉・湘南観光

第25回:Malaysia Ultra-Trail by UTMB① 〜食事編〜《ウルトラトレイルランナーが案内する日本一過酷な鎌倉・湘南観光》


2024/11/25/公開
佐藤謙介(READING LIFE編集部公認ライター)
 
 
人は一生のうちに何回か、自分の価値観が大きく変わる出来事に遭遇する。
それは通常の場合、意図したタイミングではない時に訪れるものである。
 
今回自分が体験した人生の価値観を変える経験も、自分が想定していなかったタイミングで訪れた。
私は11月16日にマレーシアで開催されるトレイルランニングの大会に参加するために、ペナン島に家族と一緒に出かけた。そこで思いがけず自分の価値観を大きく変える出来事に遭遇したのである。
 
今回は私が経験した人生の価値観を変える体験についてお話ししたい。
 
 

4度目のマレーシア


実は私はマレーシアが大好きである。
きっかけは、ミュージシャンのGACKTがYouTube動画の中で「世界を何十カ国といったけど、最終的には住むのであればマレーシアが一番いいと思った」と言っているのを聞いたのが理由である。
その動画の中でGACKTはさらに「マレーシアが一番いいと思う理由は食事が最高だからだ」と言っていた。最初聞いた時は「住む場所を決めるための一番の理由が食事なの?」と正直少しがっかりした。
 
自分が最終的に住む国や場所を決める際に、他に重要な要素があるような気がしたからだ。
例えば「住みやすさ」「ビジネスインフラの充実」「教育水準」「政治」「気候・環境」「景観」「国の成長性」「人間性」「インフラ」「治安」など、自分が一生住む場所を決めるのに検討する要素は様々あるだろう。
その中にもちろん「食事」というキーワードがあってもいい。
しかし、それが住む場所を決める一番の要素になるという理由が自分にはわからなかった。
それをどうしても確かめてみたいと思い、私は2022年の1月に初めてマレーシアを訪れた。
 
ところが、私は行ってすぐにGACKTがマレーシアの食事が最高であると言った理由を理解した。
マレーシアで何気なく入ったレストランの食事がことごとく美味いのである。
日本のお店で食事を頼んだ時の満足感を表すと「不味い」「普通」「美味しい」「最高」の4段階くらいに分かれると思うが、マレーシアはどこで食べても「美味しい」と「最高」しかないのである。
しかも、コストは日本で同じようなレストランで食事した時の7割くらいの価格で食べることができた。
 
日本でも1,000円で食べられるレストランで「美味しい」「最高」の食事を食べたら、それが1500円であったとしても十分満足感を得られるだろう(つまり5割増しぐらいの価値はあると感じられる)
ところがマレーシアではどこのレストランでも「美味しい」「最高」の食事を常に700円ぐらいで食べられるのである。
つまり、本来なら1500円の価値があるものを700円で食べられるので、実質2倍以上の満足感(価値観)を得られるという感覚なのだ。
 
この食事を経験した私と妻は一瞬でマレーシアの料理の虜になってしまった。
その後2年間の間に私たちは2度もマレーシアを訪れ、そして今回レースに参加するために4度目のマレーシア訪問となった。
 
 

価値観が変わる食事


ところがそれでも私はまだGACKTの言葉に半信半疑であった。
確かにマレーシアの食事は美味い。それは疑いようのない事実である。
しかし、自分が生涯住む場所として「食事」が最上位の価値観になるとは、そこまでは思えなかったのである。そんな自分の疑いが今回のマレーシアでの旅で確信に変わる出来事が起こってしまった。
 
前回まではマレーシアの首都であるクアラルンプールから車で15分ほど移動したモントキアラという街に滞在していた。そこは日本で言うと二子玉川や多摩プラーザといった少しおしゃれな住宅街といった街で、コンドミニアムが次々と建設され、住みやすさで言ったら申し分ない場所であった。
 
今回はレース会場がクアラルンプールから西に行ったタイピンという街で行われるため、最初私たちは最寄りの空港があるペナン島に宿泊することにした。
ペナン島の中にあるジョージタウンはマレーシアの中でもクアラルンプールに次ぐ第二の観光都市で多くの観光客が訪れる風光明媚な街だ。
当然私たちの頭の中には、マレーシアの食事に対する期待値があったので、到着早々街に繰り出し食事を楽しむことにした。そしてやはりというべきか、どのレストランに入っても「最高」の料理を味わうことができた。
 
特に初日に行った小籠包のお店は、私がこれまで食べたことがないほど美味しく、「うわ〜、やっぱりマレーシアはレベルが高け〜」と驚くほどの美味しさだった。
 

【手前の小籠包が美味しかったぁ】
 

【客席をワゴン車で回ってくれるシステム】
 
それからも数件、レストランでの食事を楽しみ私たちはそれだけでもかなりの満足感を味わうことができた。
 

【マレーシアの伝統的な麺料理「ラクサ」】
 

【春巻きの中にエビが丸ごと一匹】
 

【豚肉の炒め物。見た目以上にあっさり】
 

【甘辛いタレが絶妙】
 

【チャーハンはどこで食べてもハズレなし】
 
そして3日目にランチを食べようとネットを検索していた妻が「ここのイタリアン、すごく評価が高いから行ってみない?」と言ってきたレストランがあった。
正直どこで何を食べても「美味しい」か「最高」しかないので、私は特に反対することなく、そこでランチを食べるためにタクシーで向かった。
 
しかし、ここで食べた食事が私の価値観を大きく変えたのである。
 
 

「最高」を超える食事


ここで私たちはランチメニューからピザと白身魚のフライ、そして娘のために子供用メニューからもう1種類の異なるピザを注文した。
最初に出てきたのは娘用に頼んだチーズの上にサラミが乗ったシンプルなピザだった。
ところがこれを一切れ口の中に入れた途端、私は衝撃的な美味しさに思わず言葉を失ってしまった。
そしてかろうじて「美味すぎる・・・」と感想を口にするのが精一杯だった。
 

【このチーズがとんでもない美味しさ】
 
「最高」ではない。
それを完全に超越した「絶品」だったのである。
 
正直私も日本で美味しいと言われるピザ屋に行ったことがあったが、それをあっさり超えてしまった。
ピザという、生地とソースとチーズとサラミという非常にシンプルな料理にもかかわらず、その味は「ココしかない!!」と思えるほど絶妙なところで調和が取れ、口の中でそれら全ての要素が完璧にマリアージュしたのである。
 
しかも何が凄いかといえば、これが子供用メニューの中にあった商品だということだ。
日本でもお子様メニューはあるが、通常それは大人が食べるものではなく、子供の味覚に合わせられていて、正直それほど美味しいというわけではない。もちろんそれなりのお店に行けば、お子様メニューでも良いものを出してくれるところはあるが、このレストランは決して高級店のそれではない。
 
あくまで一般的な人々でも食べられるレベルのレストランで提供されているお子様メニューなのである。
それがこれほどのクオリティであることに驚きを隠せなかった。
娘のために頼んだ料理にもかかわらず私は「もう一枚食べてもいい?」と娘に乞うてさらに一切れもらってしまった。
 
そして私たち親が頼んだもう一枚のピザと白身魚のフライが提供された。
私はこの時にはすでに「この店はヤバイ」と思っていたので、目の前に提供された食事に期待せずにはいられなかった。
 

【全ての素材が計算され尽くしている】
 

【超絶肉厚な白身魚のフライ。全く油っぽくない】
 
その結果は「絶品×2」だったww
白身魚は私がこれまで食べたフライの中で間違いなくNo.1だった。
そしてもう一枚のピザも、娘のピザとはまた違って真ん中に乗っている目玉焼きを崩して黄身と一緒に口の中に運んだ瞬間に、ソースときのこの味が相まって「絶品…」と僅かに声を出すのがやっとだった。
 
マレーシアの食事のレベルはわかっていたつもりなのに、その想像を軽く上回ってくるレベルの高さに正直私は圧倒された。
 
 

自分の中にある「食」への渇望


ここまで読んでいただいた方の中には「いや、それは流石に大袈裟でしょ」「日本で美味しいイタリアンを食べたことがないだけでしょ」とおっしゃる方もいるだろう。
それはその通りかもしれない。
確かに私が日本で行ったレストランの数は限られている。
ましてや私が行けるレストランは高級店やミシュラン三つ星とかそういったレベルのレストランではない。
そのレベルのレストランに行けばもしかしたら同レベルのクオリティの食事は食べられるのかもしれない。
しかし、私が驚くのはマレーシアの食事のクオリティの基準が、間違いなく日本のレベルを上回っているということなのである。
 
私はこれまでなんだかんだ言っても、日本が世界で最も住みやすい国だと思っていた。
いや実は今でも、日本は治安や清潔さ、便利さなどの要素がずば抜けて高いため、住むなら日本は間違いなく世界トップクラスで住みやすい国だと思っている。
 
しかし、GACKTが言っていたことの本質は「自分が何を一番の優先順位とするか?」という「価値観の問題」なのだと。
ここで今回私がなぜここまで食事に感動することができたかといえば、それは私がこの数ヶ月間「ダイエット」を真剣に行なっていたことと密接な関係がある。
 
私はこの数ヶ月間、食事に相当な気を使ってきた。
毎日の食事を全て記録し、自分が1日に食べられるカロリーや、食べる成分(PFCバランス)まで徹底的に管理していた。
それを嫌だと思っていたわけではないし、その中でも自分が美味しいと思うものを食べてきたつもりである。
だから辛いとか、苦しいという感覚はほとんどなかった。
 
しかし、自分が食べたいものを好きなだけ食べられたかといえば、それは制限をかけていたし、脂質にはかなりこだわりを持って、量も質も制限していたので、本来は大好きなピザも決して口にしなかった。
つまり私は自分の「好き」よりも「ダイエット」を優先していたのである。
 
ところがマレーシアに来てからは「せっかく家族と来ているのだから、1日のうち一食は家族と美味しいものを食べる」と決め、家族と食事を楽しむことをルールにした。
その結果、その一食だけは制約から解放されて、自分が好きなものを食べることができた。
それが自分の想像を超える価値(美味しさとコスパの良さ)を提供してくれたため、感動レベルでその味を堪能したのである。
 
実はこれはGACKTが1日に一食しか食べないことと根本的に同じことなのではないかと考えている。
ご存知の方もいると思うが、GACKTは1日に一食しか食べないらしい。
それは彼が自分で自分の体を研究する中で最高の状態を維持するために行き着いた結論で、彼の生き方の一部になっているようだ。その代わり、その一食を全力で味わうことを自分の中で最重要の価値観として位置付けているのである。
そんなGACKTが食事に関して最も自分の価値観にあっている国としてマレーシアを選んだのである。
 
私は現在自分の体を変え、自分の健康とトレイルランニングのパフォーマンス向上のために真剣に「ダイエット」に取り組んでいて、自分の価値観の中でもかなり上位にこれを置いている。
そんな中でマレーシアで食べた食事は「1日のうち一食は家族と美味しいものを食べる」という自分が課したルールを満足させる食事としては最高であった。
 
「自分の価値観を満たしてくれる食事」
 
これが私がマレーシアに来てこの国の食事に感動した最も重要な事実なのである。
おそらくマレーシアに来ても、なんの制約もなく3食全てこの食事を食べたのであれば、ここまでの感動は得られなかったと思う。
 
さて、今回の話しはここまでなのであるが
「おいおいレースの話しはどうした?」
「これはトレイルランニングに関連する連載記事ではないのか?」
と思われた方もいるかもしれない。
 
安心していただきたい。
私が自分の価値観が変わったと言った本当の理由は、実はこの食事とレース結果が大いに関係しているからである。
次回、レースの詳細も含めて、さらに自分の価値観が変わった理由を書きたいと思う。
ご期待いただきたい。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
佐藤謙介(READING LIFE編集部公認ライター)

静岡県生まれ。鎌倉市在住。
幼少期は学校一の肥満児で、校内マラソン大会では3年連続最下位。ところが35歳の時にトレイルランニングに出会い、その魅力に憑りつかれ、今ではウルトラトレイルランニングを中心に年に数本のレースに参加している。2019年には世界最高峰のウルトラトレイルランニングの大会「UTMB」に参戦し完走。2023年イタリアで開催された330kmの超ロングトレイルレース「トルデジアン」に完走。普段は鎌倉・湘南エリアを中心にトレイルランニングを日常として楽しんでいる。
天狼院メディアグランプリ 56st season 総合優勝

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