週刊READING LIFE vol.14

6年ぶりに、恋がしたい。≪週刊READING LIFE「今年こそは!」≫


記事:大國沙織(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

29歳アラサーの私は、気付けばもう6年ぐらい恋人がいない。
さらっと書いたけれど、こうして数字にしてみると、我が事ながら唖然としてしまう。
一体私はこの6年間、何をしていたのだろうか、と。
物事を時系列で記憶するのが苦手な私が、なぜ「6年」だとはっきりと言い切れるのか。
大学院時代、私と同時期に彼氏ができた友人がいた。
彼女と一年前に再会して近況を報告しあったとき、「もうかれこれ、付き合って5年になるなぁ」と言っていたのだ。
私は、当時の彼氏とは半年ちょっとしか続かなかったのだけれど、彼女はそれから実に5年もの間、順調に彼との関係性を育んでいたということになる。

さて一方の私は、その間何をしていたのか?
社会人になってからはもう、正直生きていくだけで精一杯だった。
就職した都内の出版社は、人手が足りておらずとにかく忙しく、恋愛をする余裕なんて皆無だった。
社員も既婚男性と女性ばかりで、社内恋愛に発展するような可能性もなかった。
もちろん仕事で外部の人と会う機会もあったけれど、ただただ目の前のタスクをこなすことだけで、常に頭の中が一杯だったのだ。
覚えなければいけないことや勉強したいことも数え切れないほどあったし、休みの日は疲れ切って死んだように寝ていた。
本好きとしてはまさに念願の職場だったので、できる限り頑張りたいとは思っていた。
でも、昼も夜もないような生活は思ったより早く、半年で限界を迎えた。
心身のバランスを壊してしまった私は、8年間の一人暮らしに終止符を打ち、実家で休養することにした。

自分が組織で働くことに向いていないと悟り、今後はフリーランスとして生きていくと決めるまでに、そう時間はかからなかった。
けれど、やるべきことは、これまた膨大すぎるほどあった。
それまで会社がやってくれていた営業やら事務的なあれこれやらを、すべて自分でこなさなくてはならない。
それまでは上司に確認をとっていたけれど、すぐ身近に仕事の相談をできる人もいない。
課題は未だ山積みだけれど、独立してから数年が経ち、ようやくどうにか仕事を頂けるようになってきた。
もちろんその間に、色々な出会いはあったし、いいなと思う男性も何人かはいた。
けれど、どうしても仕事を優先してやりとりが滞ってしまったり、お互いタイミングが合わなかったりで、なかなか交際まで至らなかったのだ。
大人の恋愛が、こんなにも難しいものだったとは……。

正直に「6年間彼氏がいない」と言うと、「恋愛に興味がないの?」と聞かれたりもするけれど、断じてそんなことはない。
むしろ学生時代などは、「恋多き女」と友人達に揶揄されてしまうほど、恋にうつつを抜かしていた時期もあった。
なにしろ暇で、時間だけはいくらでもあったのだ。
あるいは京都の大学に通っていたことも、恋を発展させる強力な後押しになっていたかもしれない。
カップルが等間隔に座っていることで知られる「鴨川」をはじめ、四季によって表情を変える数々の美しい神社仏閣、雰囲気のいいブックカフェや美術館など、それこそデートスポットは無限にあった。

けれど、もう大人になった私は知ってしまった。
時間的に、そして精神的にも十分な余裕がないと、恋愛をするのは難しい。
おそらくこれは単純に、優先順位の問題かもしれない。
恋愛はしなくても一応生きていけるけれど、仕事はしないと生きていけない。
とくにフリーランスにとっては、食べていけるかどうかの死活問題だ。
私は実家に住んでいるので、十分な稼ぎがないからといって今すぐにホームレスになるようなことはないけれど、「早く完全に自立して、家を出て行ってくれ」と両親には日々せっつかれており、非常に肩身が狭い状況である。
安定した収入がないと、毎月家賃が払える保証もないし、そもそもフリーランスという時点で、部屋を借りるハードルはかなり上がるらしい(そりゃそうだ)。
そんな訳で、まだしばらくは、仕事の基盤を固めるべく奮闘する日々が続きそうである。

仕事が安定するまでは、恋愛は二の次だと思っていた。
「自分で自分のことを食べさせる」という最低限の自立さえできていないのに、恋愛する資格なんてない、とまで思っていた。
でも、「仕事がもっと貰えるようになったら」「収入がもうちょっと安定したら」とタラレバばかり言っていたら、時間がいくらあっても足りないと、私はやっと気付いた。
これでは、彼女に結婚をせかされながらも、「もっと出世したら」とズルズル先延ばしにする彼氏と同じではないか(ちょっと例えがおかしいかもしれないけれど!)。
私もいつかは結婚したいし、子供も欲しい。
決して焦っている訳ではないけれど、それには今から恋愛をしたって、全く早くはない。
むしろいい恋をして、お互い支え合いながら、仕事も頑張れるのが理想ではないか。

けれどいざ具体的に考えてみると、長年恋愛沙汰から遠ざかっていただけに、「あれ、恋ってどうやってするんだっけ?」と途方に暮れてしまった。
そんなとき、何気なくSNSを見ていてふと目に飛び込んできたのが、「今すぐに恋がしたくなる福袋」だった。
なんでも福岡天狼院店長の川代さんが自らセレクトした本が、9冊も入っているという。
他にも読書会に無料で参加できるチケットなど、豪華なおまけが色々付いていた。
今すぐに恋がしたくなる本って、果たしてどんな本なのだろうか……?
すごく、気になった。
けれど、既に持っている本が入っていても、返品や交換はできないらしい。
これは本の虫の私にとって、かなりリスキーだ。
なにしろ、古今東西の恋愛小説を読むことで、この6年間さんざん「擬似恋愛」を楽しんでいたのだから。
読んだことのある本が何冊か入っていても、全くおかしくはない。
でもついに、好奇心に負けてしまった。

それまでジャンルを問わず、福袋を買ったことは、ただの一度もなかった。
まさか初めて買う福袋が、本の福袋だとは、夢にも思わなかったけれど。
実際に(色々な意味で)ドキドキしながら袋を開けてみて、驚いた。
なんと、持っている本はおろか、読んだことのある本さえ、一冊も入っていなかったのだ。
それに、ちょっと、いやかなり意外なラインナップだった。
王道の恋愛小説やテクニック本などは一切入っておらず、ちょっと斜めから攻めたような、「え、これ読めば恋したくなるって、どういうこと!?」と気になってしまう本ばかりだったのだ。
気になりすぎるあまり、もったいないなと思いながらも、全冊一気読みしてしまった。
いかんせん福袋なので、ここでそのタイトルを暴露できないのが、残念で仕方ない。
これまでの私は、失恋したときや、仕事でうまくいかないとき、いつも本に助けられてきた。
そして今回もまた、「ああ、恋がしたいなぁ」という純粋な気持ちを、新たに抱かせてくれた。
知らなかった恋の喜びを、愛の形を、私にたくさん教えてくれた。
ヨーロッパには、「いい靴は、素敵な場所へ連れて行ってくれる」という諺があるけれど、きっと本にもそんな力がある。
数々の素晴らしい本との出会いのおかげで、「今年こそは、とびきり素敵な恋ができるはず……!」という期待が、今も私の胸を満たしているのだ。

❏ライタープロフィール

大國 沙織(Saori Ohkuni)
1989年東京都生まれ、千葉県鴨川市在住。
4〜7歳までアメリカで過ごすも英語が話せない、なんちゃって帰国子女。高校時代に自律神経失調症を患ったことをきっかけに、ベジタリアンと裸族になり、健康を取り戻す。
同志社大学文学部国文学科卒業。同大学院総合政策科学研究科ソーシャル・イノベーションコース修士課程修了。
正食クッキングスクール師範科修了。インナービューティープランナー®。
出版社で雑誌編集を経て、フリーライター、料理家、イラストレーターとして活動。毎日何冊も読まないと満足できない本の虫で、好きな作家はミヒャエル・エンデ。
【メディア掲載】マクロビオティック月刊誌『むすび』に一年間連載。イタリアのヴィーガンマガジン『Vegan Italy』にインタビュー掲載。webマガジン『Vegewel Style』に執筆。

http://tenro-in.com/zemi/66768


2019-01-08 | Posted in 週刊READING LIFE vol.14

関連記事