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週刊READING LIFE vol.7

人生は、漫画の1巻2巻ではないから、良い朝を迎えるためには、夜の過ごし方が重要になるんじゃないか《週刊READING LIFE vol.7「よい朝の迎え方」》


記事:弾 歩夢(REALING LIFE 公認ライター)

 

 

「すごい、明日が来ちゃった」

 

2段ベッドの上で叫んだ。
小学校5年生の野外宿泊学習の夜だった。
友達とお喋りをして起きていた。
深夜零時が来るその瞬間を、時計の針を見ながら一緒にカウントダウンした。

 

明日だ、もう明日だよ、とはしゃいだのを今でも覚えている。

 

それまで今日と明日の間には、明確な線引きがあった。
今日は今日で、明日は明日として単独の独立した存在だった。
漫画本でいう1巻が今日で、2巻が明日というイメージだった。
1巻の続きとして2巻があるのだけれど、でも1巻は1巻で一度完全に一旦終わる。
パタンと裏表紙を閉じたら最後である。

 

でも、実は、今日には明確な終わりなんてなかったんだ! と午前零時をまたいで起きていて思ったのだった。今日と明日は、漫画の1巻と2巻ではない。
めくってもめくっても明日がやってくる長い長い1冊の長編大作だったのだ。

 

なんだ、全部繋がっているんだ、と強く感じた。
それと同時に、何だかとても怖くなった。
今まで何度だって新しく始まると思っていた1日は、その前の日や、さらに前の日の続きだ。私たちは、過去の積み重ねを生きるしかなく、今日と明日は別の日だから、昨日のことは関係ないなんて言えやしない。やり直しなんか、出来ない。

 

私たちは、生まれてから死ぬまで、ノンストップで止まることなく、続きを積み重ねながら生きていく。
これまでの「今日」の積み重ねの上に、今の自分がいる。

 

新しい朝が来るその時、良い気分で居られるかは、全て、昨日の夜が良いものだったか、自分が満足いく1日の終わりを迎えられたかどうか、それにかかっているような気がする。
夜、あぁ、今日もいろいろあったけど、満足できる1日だった、そう思って眠りにつくことが出来た日は、朝の目覚めも爽快だ。
反対に、なんだか悶々と1日を終えて夜を迎えてしまうと、朝からもモヤモヤとした気持ちになる。

 

人生という長編小説の「今朝」の段落の前には、「昨晩」の段落がある。昨晩の部分が、暗く鬱々としたシーンだったとして、急にその次のシーンが、晴れ晴れとした良い気持ちのシーンになるのはおかしい。
それでは、話が繋がらない。
何事も、続いている。
ゲームみたいにリセット出来ない。だから、良い気分で朝を迎えるためには、良い気分の夜を過ごすしかないし、良い気分の夜を過ごすためには、やっぱり良い感じで昼を過ごすしかない。そういう風に繋がっていくのだから、当たり前だけど、今を良い気持ちで過ごすことが出来るように真面目にしっかり過ごすしかない。今、辛いことにはちゃんと向き合うしかない。今、違和感があるのならそれを解決しなくてはいけない。
今、何か問題があるのなら、一刻も早くなんとかする方向に動かなくてはいけない。

 

どうしたって、良い朝を迎えられない日々が続いてしまうこともあるだろう。長編小説ではだいたい、いい事もあれば悪いこともある。
それでも、とにかく地道にちょっとでも、「今」を良くできるように、出来るだけ自分が納得出来るように。そうしていくしかない。自分が自分を好きでいられるような選択を積み重ねるしかない。

 

でも、あまりにも長く、気持ちの優れない朝がずっと続いてしまう時は、一人で悩みすぎずに、信頼出来る人か、専門家に話を聞いてもらった方が良いと思う。
もしかすると気が付かないうちに心に「違和感」や「無理」が身体にたまりすぎて、もうどうにも自分だけでは対処できない状態になってしまう時というのも人間、あるものだ。

 

大学生の頃、私は、悩みすぎて、眠れないということが何度もあった。
その中でも最も眠れなかった時期の一つは、本気で取り組んでいた部活が廃部の危機に襲われたのと同時に、進路選択を迫られた時期だった。
考えるべきことが、頭をぐるぐる渦巻いて、鬱々とした気持ちで過ごしていた。
これからどうしていくのが正解なのかわからず、悩みすぎて髪の毛がバンバン抜けた。
自分では、抱えきれなくなっていた。もう何を自分が考えているのかもどこまで考えたのかもよくわからない状態になっていた。
どうしようもなくなって、思い切って、友達に悩んでいる事を全部話した。
まとまりもなく、ただただ思った事、考えた事を話した。
夜に話し始めたのだが、悩みも考えも溢れんばかりで、時間はどんどん過ぎた。友人達は、私の悩みをまっすぐに聞いてくれた。そして、共感してくれた。段々と、みんなが悩みを話し出した。同じようにそれぞれ色々と悩んでいた。みんなが、一通り考えていることや思っていることを、どんどん話し合った。気がつくと夜は更け、朝になっていた。
ぐるぐると心に渦巻いていた不安は、聞いてもらい、共感してもらうことで、おさまっていった。

 

朝になり、外に出た時、あまりの空の青さに感動したのを覚えている。
それは、もう何年も通った大学の学内だった。いつも通る道で、いつもと同じ景色のはずだった。
それなのに、空が、もうやたらと、信じられないくらい美しかったのだ。
どんな世界の絶景と呼ばれる景色よりも、心に響く景色だった。
ハワイの夕日も、オーストラリアの綺麗な海よりも、世界三大夜景なんかよりも遥かに心を揺さぶられた。
私は、その雲ひとつない快晴の空を見上げながら、思った。そうだ、頑張ろう、頑張れる! と。
夜中かけて悩みや不安、心に渦巻いていたいろんな感情を友人に共有することで、朝には元気が湧いてきたのだった。
そして不思議なことに、一緒に歩いていた友人もまた同じように思ったらしかった。
綺麗だね、本当に綺麗だね。頑張ろうね、大変だけど、頑張ろう。
私たちは、そう言い合って、そして笑い合った。
心の中に爽やかな風が吹いたような気がした。
私たちは、これまであまりに当たり前に通ってきた、何の変哲も無い道の一角で、初めて写真を撮った。
これから、辛くなったら、このあまりに綺麗すぎる青空と、今のこの前向きな気持ちを思い出そう、そう言い合いながら。
その写真は、今でも大事にとってある。
願った通り、あの時のあの気持ちをしっかりと思い出せる魔法のお守りだ。

 

あの空がとびきり美しかったのは、その前の夜があったからだと思う。
これまで、限界まで悩みすぎて下ばかりを見ていた。
不安を外に出して、聞いてもらって、安心することで、やっと目線を上に上げられるようになったのだった。だから、久しぶりにちゃんと空を見た。不安がやっと落ち着いて、ドロドロとしたものが、消えた心だったからこそ、空の青さを敏感に感じられたのだと思う。
良い夜を過ごせたことで、良い朝を迎えることができたのだった。

 

もしも、辛い朝が続いているならば、ゆっくりでいいから、自分の中にある気持ちを外に出してみよう。きっとあなたを心配している人がいる。きっと話をじっくり聞きたいと思っている人がいる。時間をとって、お酒と共にでもいい。ちょっとでも話してみよう。
不安を吐き出した夜の後には、きっと快晴の朝が広がっているはずだから。

 

 

❏ライタープロフィール
弾 歩夢(Dan Ayumu)
1988年長崎市生まれ。会社員。
2017年8月より天狼院のライティングゼミを受講し、ライターを目指す。趣味は国際交流、サッカー。
REALING LIFE 公認ライター。

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2018-11-20 | Posted in 週刊READING LIFE vol.7

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