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週刊READING LIFE vol.8

普段料理をしない私が、「肉まん」作り教室に参加してみた! 《週刊READING LIFE vol.8「○○な私が(僕が)、○○してみた!」》


記事:藤牧 誠(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

「私が先に亡くなったらこの人、生活していけるか心配です。なにせご飯も作れないし、掃除や洗濯も何もしないのよ」
85歳を過ぎた、腰や膝の痛みを我慢し、背中の曲がるカラダにムチを打ちながら、ご主人や自分の食事を作るため、朝昼晩と3度台所に立つ。
「少しでも、手伝ってくれたらいいのに」と愚痴をこぼす。「うちの父も一緒です、料理はまるっきりできません」

ご高齢のご夫婦と、会話を交わす機会が多い私の仕事では、よく聞かれる話である。
「あなたは料理するの?」「いや、今はほとんどしないです」

そんな会話をしていると、ふと不安になってくる。
私の父はもちろん料理は出来ない。昭和1ケタ世代に近くましてや長男。掃除、洗濯をしてくれるだけマシな方である。
母が不在のときは、冷凍のおかずをレンジで温めたり、もしくは、簡単に済まそうとするときは、卵かけご飯で終わり。
最近では、スーパーやコンビニで一人分のおかずを買えることを覚え、ときどきテーブルの上に乗っているが、味が濃いのか大半は残している状態だ。
「私も、あんな父みたいになるかもしれない……」

年老いても食事は大事である。もちろん今の段階でも大事であることには変わりない。

自分でも食べたいもの、体のためにも作ってみようと思い、料理本やクックパッドなどで、作り方を見て、なんとかいけそうなものをチャレンジして作ってみるが、途中「本当にこれでいいのか?」と不安がよぎること、よぎること。
一応最後まで、作ってみるがイマイチである。すると次はない。料理をするのが、億劫になる。
これではいつまで経っても料理のスキルアップは望めないし、年老いてからも卵かけご飯で、ご飯終わりの父と一緒だ。それはどうにか避けたい、嫌だ。

近所の地区センターなどでも、料理教室を開催しているところがあるので、足を運んで探してみた。
すると「60歳以上対象の男の料理教室」はあったが、まだそんな年齢でもない。小さなチラシがいくつもある中、「肉まんと花巻作り」の小さなチラシが目についた。
「これだ!」まだ1ヶ月先で平日開催だけど、早速申し込みをした。
仕事は休む気満々である。
申し込みをしたあとで、急に不安になってきた。料理教室ということは、きっと年下の女性ばかりであり「中年のおじさんが平日の昼間に何をしているのか」という参加者の目を考えてしまった。ここは開き直って気にしないで参加しよう、少しでも料理ができたら不安がなくなると言い聞かせて過ごしていた。
そして、開催前日その妄想がピークに達して、キャンセルしようかとも思った。が、今は「肉まんを作りたい、そして食べたい」モードが何とか勝ってくれた。
当日会場に行く足取りが少し重かった。
会場に着くと、すでに何人か来ていて食材の準備をしていた。
見渡すと明らかに年齢層は、はるかに想像していたよりも高い。そして、あとからくるご婦人方も同じで、平均年齢70歳はゆうに超えていた。また、定年過ぎのおじさんもいたのだ。緊張していたのが恥ずかしい。これでようやく料理、いや「肉まん」作りに集中出来る。

もちろん講師の先生も、70歳を越えている女性。

普段から年配の方と接していることから、緊張感が少なく入り込めた。一緒のグループのご婦人方ともスムーズに会話も出来たのだ。スタートはいい感じである。

肉まん作り開始である。

講師の先生が始めに話した内容で、「皆さんに、美味しいもの、体にいい物を持ち帰って欲しいです」「教えた通りにまずは、やってください。すると再現性はあります」「私も、この教室のために体調を整えてきました。体調により味覚も変わりますので」等と、先生はプロフェッショナルなことを言われ、始めて料理教室に参加した私は、胃袋よりも先に、心をグッと掴まれた。
またその先生が教えている、パン作りサークルの方も参加されており、先生と生徒の連携も見事でした。先生が次何をするのか先を考えており、行動も素早かった。
「考えて行動する生徒を育てたい」とも言われていたのが、印象的だった。

肉まんの具材を作り、次に皮の生地を作る。3つのテーブルを先生は行ったり来たり動いており、また1つのテーブルで作業し、皆を集め説明、各自のテーブルに戻り次の作業をするなどと、忙しく皆動いている。
しかし、皆必死で覚え、時間があれば、ノートにメモをし、また作る作業をしていた。
そのとき、料理はただ本を見て作るだけでは、「上手くいかない」理由がわかったような気がした。
細かいコツや、タイミング、生地の硬さなど肌で触れることが、私には特に必要だった。そのほうが理解しやすかったのだ。
たとえば、砂糖と塩の溶けるタイミングが違うこと。小麦粉は種類によって水分の吸収が違うので、今日使った小麦粉でまず、10回作ってみて、それから、自分の好きなものを使うこと。知っている人は知っているが、料理をしない私には新鮮な情報である。
「手早くすることと、丁寧にすることはちがうのよ」と生地を捏ねているときに、やや強めの口調で話をする。丁寧にやっていると生地は発酵をしているので、時間との勝負である。生地がなめらかになってくると達成感が出てきた。

発酵後に生地を分断し、丸める作業は童心に帰れて楽しい。まるで粘土細工をしている感じである。綺麗に丸くなめらかな仕上がりになると、ひとつの作品のようであった。

途中、花巻作りをする予定が、「あんまん」に変更したこともあったが、時間の経つのも早く、また楽しさや、新鮮さもあり3時間という時間はあっという間だった。年配者のかたも疲れを知らないのか、途中だれも椅子に座ってはいない。座る時間さえ忘れるくらいにみな集中し、楽しんでいたのかもしれない。料理を始めて感じる楽しさ。
こんなことは、小学校の家庭科の時間、料理実習で野菜炒めとドレッシングを作ったとき以来かもしれない。

最後に発酵させた生地、「肉まん」をセイロに入れ蒸すこと10分。
ピピピッ、ピピピッ、ピピピッ、とタイマーが鳴りセイロの蓋を取ると、湯気と一緒に肉まんのいい匂いと、ふっくらと仕上がった肉まんが見えたときみな、「おーっ」と声が自然に漏れていた。人生初、手作り「肉まん」の完成。

試食用の「肉まん」と「あんまん」をテーブルのご婦人方と談笑しながら食べる。一緒に作った方と食するのも、ひとつの調味料となり、さらに美味しさが増した気分であった。

その帰り地区センターの窓口で、パン作りサークルの申し込みをしたのは言うまでもない。

❏ライタープロフィール
藤牧 誠(Fujimaki makoto)
1971年神奈川県横浜市生まれ。鍼灸師。
高校・大学・社会人とラグビーを続けるが、自分の怪我をきっかけに施術家の道へ。
鍼灸・整体・ヨガばかりでなく「言葉の力」により身体が変化する楽しさを知る。2018年6月開講ライティング・ゼミに参加し、同年9月よりライターズ倶楽部に参加。

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2018-11-26 | Posted in 週刊READING LIFE vol.8

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