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週刊READING LIFE vol.11

世界を制覇した男の原動力とは《週刊READING LIFE vol.11「今、この人が面白い!」》


記事:伊藤千織(READING LIFE編集部 ライターズ倶楽部)

 

 
「ブータンツアーがありますけど、一緒に行きませんか?」
 
私をそう誘ってくれた人は、海外旅行オフ会の主催者だった。
彼は「アマゾニアン」というハンドルネームで、日本最大級の海外旅行オフ会を毎月主催している。その規模は毎回100人を優に超える。
 
私は国内外問わず旅行が好きだ。これまでに渡航した国は5カ国程度と少ないが、同じく旅行好きの皆さんと過去の旅行の話や海外情報を聞きたい。そう思い今年の6月に初めてオフ会に参加した。
実際に参加してみると、私とは全く比べ物にならないほどの海外渡航歴のある人が大半を占めており、私には情報量が多すぎて刺激が強かった。100カ国以上渡航している公務員やサラリーマン、アフリカに2年ほど滞在していた看護師、旅しながらカジノで生計を立てている人など、本当に様々だった。
 
そんな多種多様な参加者を束ねる主催者、アマゾニアンさんは一体どんな人物なのだろうか。きっと彼も只者ではないのだろうと、無性に気になった。彼と話す前に他の参加者と話をしていると、彼のことを教えてもらえた。
 
「彼はすごいよ。あと3カ国で全世界制覇するから!」
 
世界って、何カ国あったっけ。とっさに数が出てこなかった。しかし「世界制覇」という夢のような言葉を今にも実現しそうな人が目の前にいる。それも一周ではなく、しらみつぶしだ。想像以上に、アマゾニアンさんは只者ではなかった。
 
彼の本名は二宮信平という。潤いのないボリューミーな天然パーマの髪と、日に焼けて浅黒くなった肌。年中どこにいてもハーフパンツにサンダル姿はお馴染みの格好だった。見た目通りの明るいラテン系の性格で、誰でも受け入れてくれる空気のある人だという印象を受けた。
 
彼が全世界を制覇しようと意識し出したのは約5年前からだった。
彼は今年で40歳だ。初めての海外旅行は、20歳の頃のタイ旅行だった。海外渡航経験が豊富なだけあって、幼い頃から海外を経験してきたのだろうと思いきや、彼の初海外は成人になってからだった。
その後大学在学中にバックパッカーをはじめ、韓国留学やワーキングホリデーを経て29歳まで海外中心に生活していた。その間に渡航した国は100カ国以上に及び、語学も日本語以外に英語、韓国語、スペイン語が話せる。その後一時帰国し10か月間日本で社会人として働き、30歳の誕生日を迎えた日に海外の雑貨を輸入・販売する通販会社を立ち上げ、独立をした。
しかし事業が軌道に乗るまで5年かかった。この時は新しい国への旅行は控え、買い付けのための渡航ばかりだった。しかしその間も旅好きの仲間と旅行の話を楽しく気兼ねなくできる場を持つために、旅行オフ会は欠かさず開催した。旅仲間の輪はどんどん広がり、仲間と一緒に何度も海外旅行ツアーをした。親しい旅仲間は回を増すごとにどんどん増えていった。
5年ほどして事業が軌道に乗ってきたところで、100カ国まで来たのだからすべての国に行こう、行かないと後悔する、と全世界制覇の目標を立てた。観光客もほとんど行かないような国に足を踏み入れ、最後の3年間は目標達成のために旅行中心の生活をした。
そして彼は40歳になった今年の夏、未踏だった残りの3カ国にまとめて行き、国連に加盟している世界193カ国を全て回りきった。最後の国は、南スーダンだった。
 
私は彼以上に、本能に忠実な人を知らない。
目標を立て、やろう、やらないと後悔する、という気持ちだけで世界を制覇できるものなのか、私には想像がつかなかったが、彼なりの考えがあった。
自分が歳を取った時に、世界あと数カ国行けていないとなったら、確実に後悔する。その時は今のように行ける環境か分からない。そういった気持ちが彼の人生を後押しした。
また、近年紛争や治安悪化などにより日本から渡航が難しくなっている国もある。旅好きとして、いつか完全に渡航が禁止になる前に世界を見尽くさなければならないと考えた。
そして全世界の雑貨を知り、その商品が自分のお店にあればきっとお店に好影響をもたらしてくれる。もし雑貨の通販会社がうまくいかなくなっても、この経験はきっと別の場でも生かせる。そう考えたからだ。
 
彼の原動力は「やらないと後悔する」という気持ちの他に好奇心もある。そしてその好奇心に忠実だ。
彼の好奇心の原点は、5歳の頃の初めての一人旅だった。実家のある西東京からおばあちゃんの家がある大宮まで1人で電車で行ったのだそうだ。
西東京から大宮まで、距離にして片道およそ30kmもある。車で行っても1時間かかるというのに、その距離をたったの5歳で1人で行ったのだ。そして彼は小学校3年生の頃に、同じルートを自転車でまた1人で向かった。恐ろしい。冒険したくなる年頃なのかもしれないが、規模が違う。

 

 

また、彼は20代の頃に韓国留学をしているのだが、その理由も本能に忠実な彼らしかった。アメリカで語学留学中に知り合った韓国人が面白くノリがよくて、もっと韓国人の友達がほしいと思ったからだ。彼は海外旅行オフ会の他にも月に一度日韓交流会を開催している。こちらも毎度盛況で、日本人よりも韓国人の方がオフ会に多く来ることもあるようだ。
 
彼は生粋の目立ちたがりで、人とは違うことをやってのける。日本代表のサッカーの試合にだるまのかぶりものをした様子がしっかり写真に収められていた。そしてその様子が絵になりgoogleのトップページに載っていたこともあった。
 
そんな彼と、私はオフ会に参加したことがきっかけで、今年の9月にブータンへ旅行をした。参加者は14名で、出身も勤務地も年齢もばらばらだった。ツアー中の彼はオフ会の時のように大声で取り仕切るのかと思いきや、とても静かだった。というのも、ツアー旅行はあくまで参加者がメインのためあまり表に出ないようにしているのだそうだ。しかし何か判断が迫られるところでは持ち前の判断力と経験で全員を取りまとめてくれた。
おかげでブータン旅行はとても楽しく過ごすことができた。
旅行中、あまり彼と話す機会がなかったが、帰国日のバスの中で少し会話ができた。全世界を制覇し、一つの目標を達成した彼にこれからの予定を聞いた。
 
11月にはグアテマラへスペイン語の復習をしに留学をするという。そして今後は完全なる国とは言えない仏領ギアナや香港などの地域をゆっくり巡るのだそうだ。
 
彼ならなんだってすぐにできそうな気がする。誰とでも打ち解けられ、受け入れられる。そして自分の行動に迷いがない。やりたいと思ったらすぐにやる。
うらやましいと思った。感情のまま行動し、軸を持ってまっすぐに突き進む生き様が、とにかく格好いいと思った。
 
彼だけに限らず、普段から自分を信じて行動できる人は強いと感じる。つい最近月へ行くことを決めたネット通販会社社長も原動力は「やりたい、やろう!」であり、どんどん自ら目立ちにいく。また、数多くの会社を買収しては成功を収めているIT社長は、お金になりそうな匂いがしたら新しいことをどんどん取り入れていく。成功者は5感をフル活用している。私自身も5感を活用するのであれば、彼こそ名の知れた成功者と同じ匂いがする。
 
現在、彼は次の目標のために通販の仕事も発送作業は別で任せ、旅系の記事の執筆やコラムを書きながら予定通りグアテマラで語学留学をしている。月に一度のオフ会はこれまでと変わらず開催し、海外旅行ツアーも企画している。次のツアーは2月にあり、行き先はアフリカ大陸だ。
 
彼のようになりたい。
私は何かと行動する前に考え悩み行動できなくなることが多いが、深く考えずに動いてしまってもいいのかもしれない。動けばきっと何かが生まれる。それもすべて経験値でありコンテンツになる。
そっと、彼に背中を押してもらった気がした。

 

 

❏ライタープロフィール
伊藤 千織
1989年東京都生まれ。
都内でOLとして働く傍ら、天狼院書店でライターズ倶楽部に在籍中。小学生の頃から新聞や雑誌の編集者になるという夢を持っていたが、就職氷河期により挫折。それでもプロとして文章を書くことへの夢を諦められず、2018年4月より天狼院書店のライティングゼミに通い始める。
趣味は旅行、バブルサッカー。様々なイベントに参加し、企画もするなどアクティブに活動中。

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2018-12-17 | Posted in 週刊READING LIFE vol.11

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