私を惹き付けて止まないもの《週刊READING LIFE「大人の色気~フェロモン、艶っぽい、エロい…『色気』とは一体何なのか?~」》
記事:みずさわともみ(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
「『ゆれる』観た? めっちゃすごいよ!!」
当時、仲間うちで話題になった映画があった。
いや、仲間うちだけではなかった。世間的にも、この映画はかなり当時、話題になっていたと思う。
西川美和監督という人。
私は、「蛇いちご」という、なんとも言えない後味の作品で、この人のことが気になっていた。
なんかひねくれてる? それとも、世の中こういう切り取り方もあるって言ってるの?
たった1作で、私は西川美和監督のことが気になり始めた。
その監督の作品とあって、演じているのが誰であろうと、
映画館で「ゆれる」を観たい!!
そう思っていた。
主人公は、オダギリジョーさん。そしてその兄の役が、香川照之さん。
公開から少し経ったある日。私は立ち見席(簡易のイスは用意された)で、この「ゆれる」という映画を観ることができた。
写真家として成功をし、人からの注目を集める弟に対し、地元で家業を継ぎ、地道に働く兄。この兄の好きな人と、弟は関係を持ってしまう。
弟はそんなチャラい、自由に生きている存在として、描かれている。
オダギリジョーさん、はまり役……。
と、勝手に思っていたが、途中から様子は変わる。
香川照之さん演じる兄が罪を問われる立場になり、その兄を弁護しようとしていたはずだった。けれど、記憶というものは曖昧で、弟は、何を真実と考えていいのか、わからなくなる。
この映画の中で出てくる、オダギリジョーさんの涙。
これが、なんとも言えず、いい!!
世の中をなめているような、そんな表情をしていたはずの人の涙が、なんとも私をそそるのだ。
いやぁ、泣き顔が好きだなんて、変態だろうか。
それまでも、オダギリジョーさんの演技は観てきていたはずだった。
けれど、「ゆれる」のオダギリジョーさんは、最高に色っぽく、私の心をわしづかみにして、離さなかった。
以来、私はオダギリジョーさんの出演している作品は、ドラマでも映画でも、観たくなってしまうようになった。
なぜ、好きなのだろう。
なんとも言えず、色気を感じてしまうのだろう。
そう考えたとき、真っ先に思ったのが、彼の「涙」だった。
私は、人が泣いているところが好きなのだろうか?
苦しんでいるのを見て、快感を得てしまうのだろうか?
けれど、オダギリジョーさんの「涙」は、そういう苦しい、というものよりは、あふれ出た感情のようなものだった。
私は、人の感情のあふれ出た様子に、色気を感じたのだ。
私は、感情的になる人が、苦手だった。
自分でも、感情的にはなるまい、と過ごしてきた。
それは、私の中では世の中とうまくやっていくための手段であり、大人になったらこうありたい、というものだった。
それを、軽々と越えてくるもの。
それが、「涙」なのだ。
大の大人が、人前で泣く?
私の中で、禁じていることを、目の前でやって見せられる。
すると私は、それを見ただけで心をつかまれてしまうのだ。
ではなぜ、オダギリジョーさんだったのか?
きっと私は、それまであまり、オダギリジョーさんが好きではなかった。それまで観た映画での彼で、彼を判断していて、
なんか生理的に受けつけない。かっこいいかもしれないけど。
なんて、思っていた。
俺、かっこいいだろ? って思ってるでしょ?
というところからの「涙」は、あまりにもギャップが大きかった。
感情の振り幅が、大きすぎたのだ。
私が普段できないこと。やってはいけないと思っていることを目の前でやってくれる。それが、きっとうれしかったのだと思う。
しかも、それを、繊細に演じていた。
ただ泣けば好きかというと、そういう話ではない。
あかちゃんが泣いているのを見て、
「色っぽい!!」
とは、まさか思わないだろう。
その「涙」に伴う感情を、ていねいに、繊細に演じていたのだ。
普段、浮かんでは消えていく感情。誰もが感じているはずなのに、心の奥に閉まってしまう感情。
そういうものを、それはいけないことじゃない、大切にしていいものなのだ、と、私に教えてくれるような「涙」。
大人だけど、どこから、いつから大人だなんてことはない。
大人だって、こんな風に泣くんだって教えてくれる涙。
それが、私を惹き付けて止まないのだと思う。
最近ちゃんと、泣いただろうか。
感情を、押し殺していないだろうか。
無理に自分を、ポジティブにしようとしていないだろうか。
自分と向き合うきっかけをくれる「涙」。
そんな「涙」を流す人に、私は色気を感じる。
泣くことも、大人の色気の1つだと思う。
だから、これからはもう少し、自分に正直になる時間も大切に、私も「涙」を流すことをしていいのかもしれない。
❏ライタープロフィール
みずさわともみ(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
新潟県生まれ、東京都在住。
大学卒業後、自分探しのため上京し、現在は音楽スクールで学びつつシンガーソングライターを目指す。
2018年1月よりセルフコーチングのため原田メソッドを学び、同年6月より歌詞を書くヒントを得ようと天狼院書店ライティング・ゼミを受講。同年9月よりライターズ倶楽部に参加。
趣味は邦画・洋楽の観賞と人間観察。おもしろそうなもの・人が好きなため、散財してしまうことが欠点。
好きな言葉は「明日やろうはバカヤロウ」。
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。
http://tenro-in.com/zemi/62637
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