週刊READING LIFE vol.12

それは、出るものでも出すものでもない。醸し出すものなのだ。《週刊READING LIFE「大人の色気~フェロモン、艶っぽい、エロい…『色気』とは一体何なのか?~」》


記事:山田THX将治(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

 

 

「本当に、色っぽいなぁ」
若い友人が、マリリン・モンローの写真を見ながらつぶやいた。いかにもな“したり顔”をしながらだ。
「若い奴に分かるのか? もっと、色々な女優を見てから言えよ」
と発したい言葉を、寸前のところで私は呑んだ。オッサンのそんな発言は、若い衆から最も嫌われるからだ。
 
彼が言っていることは、きっと正解に違いない。何故なら、マリリン・モンローといえば、今も昔も‘ハリウッドきってのセックスシンボル’と言われ続けているからだ。勿論私だって、マリリンがセクシーだとは思う。しかし、ここで使われている‘セクシー’は、‘色気’とは少々違っているように感じる。マリリン・モンローはセクシーではあるが、どこか‘儚(はかな)げ’で‘可憐さ’の方が際立っているように思ってしまうからだ。
だから、美人というより‘可愛娘ちゃん’タイプのマリリンには、セクシーと形容されても、‘色っぽい’‘色気が有る’という表現は似つかわしいとは感じられない。
 
改めて、辞書で“色気”を調べてみた。
「異性に対する関心や欲求。色情。人をひきつける性的魅力。女性の存在。女っ気。」
とあった。他にも3つほどの意味が有ったが、異性間に関してはこの4つが当てはまるだろう。
また、Wikipediaでは
「色気(いろけ)とは、異性(同性愛者にとっては同性)をひきつける性的な魅力があることを指す俗語である。英語では「セクシー」(Sexy)や「セックスアピール」(Sex Appeal)などが該当し、いずれも現代の日本ではカタカナ言葉として通用する。」
と記されている。
ここで判明したのは、“色気”は俗語であって、古来使われていた言葉ではないと解釈出来る。しかし、私は“言語”や“語源”の専門家ではないので、ここでは一般通念でいきたいと思う。
 
一つ疑問を感じたのは、“色気”に美貌との関連性が記されていないことだ。こうなると、“色気”は、美貌の様に‘劣化’したり‘見慣れ’たりしないものなのだろうか。こうなると、経年劣化しない“色気”をもった、ベテラン女優または、生涯にわたって‘色っぽい’女優さんはいる(いた)のだろうか。残念なことに、マリリン・モンローでは測ることが出来ない。何故ならマリリンは、わずか36歳の若年で急逝したからだ。
だから、我々マリリン・モンローのファンは、老齢に達した彼女を想像の中でしか描けない。残念なことだ。
 
もう一つ、もしマリリンが、長生きしていたら、私が常々感じているが証明出来たのではと思うことだ。それは、‘美貌’は努力で作り上げるものなので劣化する。また、‘可愛げ’は備わっているものなので劣化するものではない、ということだ。
もし、80歳を超すまでマリリンが存命していたら、実に‘可愛い’おばあちゃん俳優となっていたことだろう。そうすれば、マリリンに備わっていた‘可愛げ’も劣化することがなかったと証明出来ただろうに。
 
では、もう一度“色気”を考える上で、ピッタリの女優さんは誰だろう。
もし私に問われたならば、間髪を入れず“ローレン・バコール”と答えるだろう。ローレンは、マリリンよりも2歳年上なので、ほぼ同世代の女優だ。二人は、1954年公開の『百万長者と結婚する方法』というラブコメディで共演をしている。
ただ、ローレンがわずか20歳(1944年)で銀幕デビューしたために、マリリンよりもずっと先輩と思われている。
 
映画に特に詳しい方で無いと、ローレン・バコールがどの様な女優さんなのか知らないかもしれない。誰でも知っているだろう名前を出すと、『カサブランカ』の主人公を演じた名優ハンフリー・ボガート(‘中折れ帽’と‘トレンチコート’が印象的)の連れ合いだった女優さんだ。
ローレン・バコールのデビュー作『脱出』を、初めてテレビの深夜放送で観た私は、彼女に初めて“色気”というものを感じた。私はまだ高校生の頃で、DVDは勿論、家庭用ビデオですら珍しい時代だ。当然、レンタルビデをなんかは存在せず、昔の映画はテレビでの放映を観逃すと、次はいつ出会えるのか判らない時代だった。だから、深夜2時(多分)の放送開始だったにもかかわらず。瞬きするのも忘れて観入っていたのだ。その上、人生だ初めて感じた“色気”、それを持ち合わせたローレン・バコールを一瞬たりとも観逃すまいと思ったからだろう。
 
1本の作品で、すっかりローレン・バコールのファンになった私は、その後公開された数本の新作映画を、興明初日に観賞するまでになった。そればかりか、学生時代に訪れたLAで、ローレン主演の舞台『ウーマン・オブ・ザ・イヤー』(トニー賞受賞作)が公演されていると知ると、ディズニーランドへ行く仲間達と別行動をとり、セリフが全く分からない(英語なので)そのミュージカルを観に出掛けた。
“色気”という言葉を意識するきっかけとなったローレン・バコールと、同じ空間に居るという‘体験’をしてみたかったのだ。
 
ローレン・バコールは、生涯現役を貫いた。よって私は、“色気”は‘経年劣化’するものではないと教えてもらった。感謝の気持ちでいっぱいだ。
90歳近く迄長生きしたローレン・バコールだったが、晩年は自叙伝の執筆をしていた。『ローレン・バコール/私一人』と題されたその自叙伝は、ベストセラーとなり、日本でも翻訳本が発売された。ページ数が多かった為、高価な本だったが、私はすぐに手に入れた。その13年後、『ローレン・バコール/いまの私』という、もう一つの自叙伝も発表された。前作では若かりし頃の、後作では晩年のローレンの写真が、表紙に使われていた。
これを見るだけで、彼女か如何に“色気”を秘めているか分かるだろう。そして、その“色気”は、決して‘経年劣化’することもなく、晩年の彼女に備わり続けていたことが分かるだろう。
 
私にとって“色気”とは、それは、ローレン・バコールのことを意味します。

 

 

❏ライタープロフィール
山田THX将治( 山田 将治 (Shoji Thx Yamada))
1959年、東京生まれ東京育ち 食品会社代表取締役
幼少の頃からの映画狂 現在までの映画観賞本数15,000余
映画解説者・淀川長治師が開設した「東京映画友の会」の事務局を40年にわたり務め続けている 自称、淀川最後の直弟子
これまで、雑誌やTVに映画紹介記事を寄稿
ミドルネーム「THX」は、ジョージ・ルーカス(『スター・ウォーズ』)監督の処女作『THX-1138』からきている
本格的ライティングは、天狼院に通いだしてから学ぶ いわば、「50の手習い」
映画の他に、海外スポーツ・車・ファッションに一家言あり

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2018-12-24 | Posted in 週刊READING LIFE vol.12

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