週刊READING LIFE vol.12

婚活女子に伝えたい、白いニットが持つ3%の色気《週刊READING LIFE「大人の色気~フェロモン、艶っぽい、エロい…『色気』とは一体何なのか?~」》


記事:射手座右聴き(READING LIFE編集部 公認ライター)

 

 

「私に似合う服を、選んでもらえませんか」
時々、そんな依頼をいただく。
女性が、おっさんである私に服を選んでほしいというのだ。
1時間1000円でおっさんを借りることができる、おっさんレンタル。
どんな依頼でもOKと言っても、これはちょっと不思議に感じるだろう。
おっさんである私は、女性のファッションに敏感とは言えない。
スタイリストでもなければ、アパレル関係者でもない。
最近は、もっぱらファストファッションの店しか行っていない。
 
そんな私を、服選びのお供に。
というのは、何かある。
考えながら、いつものように、待ち合わせ場所へ向かう。
 
日曜の午前11時渋谷。そこには、アラサーの女性が立っていた。
「今日よろしくお願いします」
ハキハキとした元気な方だ。
 
「僕、そんなに服のこと、わからないけれど、大丈夫ですか?」
開口一番、聞いてみる。
 
「そのほうが、いいんです」
彼女は、きっぱりと言った。
 
「そのほうがいいとは?」
聞き返す。
「普通の服じゃないんです。婚活に使う服を探しています」
「婚活の服、ですか?」
「そうです。男性受けする服がわからなくて」
 
紺のタートルにジーンズのスカート。アウトドアブランドのこれまた紺のジャンパー。
自然な感じとも言えるし、地味な感じとも言える。
 
「兄についてきてもらおうか、とも思ったのですが、
 色気づいたとか思われても嫌じゃないですか」
 
そういえば、色気というよりも、爽やかでハキハキした印象の方だ。
ここは、鮮やかな色、大胆なデザインの女性らしい服を提案しよう。
1時間1000円で変わる、シンデレラストーリーを僕がサポートするんだ。
 
「わかりました。男性がドキドキするような服、選びましょう」
いきなり、ピンクのふわふわなワンピースを指差す私。
 
「あのー、婚活ですよー」 彼女がぼそっと言う。
 
そうだ。婚活だ。というか、そもそも、婚活って色気が必要なのか。
「女子アナみたいな服を着てください、って婚活アドバイザーの方に言われました」
「女子アナみたいな服? 派手な人は派手ですよね。IT社長さんとかが好きそうな」
「アドバイザーの人は清楚って言いたかったみたいです。女子アナみたいな白い服」
 
たしかに、女子アナのみなさんは、清楚な雰囲気の人が多い。けれど、男性にアピールするような色気もほんの少し残している。しかし、なかなかそうはいかないよな。
僕は、婚活でお会いした人たちのことを思い出してみた。
1回目、派手な柄の服で来る女性には、少し身構えてしまう。この人気合い入りすぎてないかとか。
派手に遊んでいる方だと結婚に向くのかなとか。
逆に普段着の延長で来る人には、少し残念な気持ちになる。男性として意識されてないのかなとか。
男というのは、実に勝手な生き物だ、と思う。
2回目も会ってみたい、と思うのは、真面目そうだけど、女性としての色気も感じられる人だ。
書いていて思う。本当に勝手だ。ごめんなさい。
 
こうして、女子アナ風の白い服を探す旅が始まった。
「私、いつも濃いめのシャツやニットなんです。だから、白、どれがいいか迷っちゃって」
 
清楚な白。どの店にも置いてあるのだが、婚活用となると迷った。
彼女は、何枚もの白いニットやシャツを服の上からあててみた。
「地味かなー」
「ちょっと大胆すぎるかなー」
「ひらひらが子どもっぽいかな」
婚活男子だった時の気持ちを思い出し、一つ一つの服に対して
はっきりと意見を伝えた。
そのうちに、僕のコメントは変わってきた。
「合コンだったら、アリかもしれない」
「背中がそれだけ空いていると、3回目のデートだったら、ドキッとするかも」
具体的に、どの段階に適した服なのか、言えるようになっていた。
婚活の場合、少しずつ色気を増やした方がいいのかもしれない。
恋愛と違い、徐々に好きになっていくケースも多いだろうから。客観的に、客観的に考えていくうちに、だんだんとバランスがわかってきた気がした。
 
1時間後、彼女が手に取ったニットを見て、こう言った。
「一見普通だけど、襟元のキラキラがかわいいし、1回目のデートにはいいかも」
 
試着室からでてきた彼女は、納得の笑顔でニットを抱えていた。
おっさんは、ほっとした。
 
真面目そうで清潔感あふれる白いニットは好印象しかない。その中で、襟元にあしらわれた
雫のようなキラキラしたアクセントが、かすかにかすかに、女性らしさをアピールしていた。
まるで、誰かの耳元で、吐息で囁くように。
 
97%の清楚さから、はみ出た3%の色気。それは、「また会ってみたい」 につながるもの。
もはや清楚は、色気なのかもしれない。
恋愛のように、リミットを外した色気と、結婚とその後の生活までが視野に入った上での
計算した色気。考えてみれば、どちらの色気も、深い。
 
彼女と会う婚活男性は、白いニットを見て「あ、いい感じの女性だな」と思うだろう。
キラキラが目に入り、無意識に3%の色気を感じることだろう。
 
でも、本当に色気があったのは、爽やかな彼女が試着室で着た時の表情かもしれない。
それは誰も見ていない。
色気の謎は、深まるばかり。いや、謎だから色気なのだ。
 
そして、婚活を卒業したおっさんは、ただただ応援するばかりだ。

 

 

❏ライタープロフィール
射手座右聴き (天狼院公認ライター)
東京生まれ静岡育ち。バツイチ独身。
大学卒業後、広告会社でCM制作に携わる。40代半ばで、フリーのクリエイティブディレクターに。退職時のキャリア相談を
きっかけに、中高年男性の人生転換期に大きな関心を持つ。本業の合間に、1時間1000円で自分を貸し出す「おっさんレンタル」に
登録。4年で300人ほどの相談や依頼を受ける。同じ時期に、某有名WEBライターのイベントでのDJをきっかけに
WEBライティングに興味を持ち、天狼院書店ライティングゼミの門を叩く。「人生100年時代の折り返し地点をどう生きるか」
「普通のおっさんが、世間から疎まれずに生きていくにはどうするか」 をメインテーマに楽しく元気の出るライティングを志す。
READING LIFE公認ライター。

メディア出演:スマステーション(2015年),スーパーJチャンネル, BBCラジオ(2016年)におっさんレンタルメンバー
として出演

http://tenro-in.com/zemi/62637


2018-12-31 | Posted in 週刊READING LIFE vol.12

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