週刊READING LIFE vol.18

ありったけの5円玉を《週刊READING LIFE vol.18「習慣と思考法」》


記事:井上かほる(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 

「1月あっという間だったー」
新年が明けて、初詣に行き、親戚が集まり、送っていなかった相手からの年賀状に返事をし、気がけば仕事始め……。
だらけた身体と頭にムチ打って、なんとかかんとか乗り切った1月。そんなことを大学を卒業してから13年、繰り返してきました。
 
けれど今年のお正月、私はかなりのんびりと、だらだらと、過ごしてきました。会社をやめたので「仕事始め」というのがない。会社の人からの年賀状が来なくなったので枚数も数えるほど。返事を書くとしてもすぐに終わる。だからというのはおかしいですが、今年の初詣は実家近くの神社と、今住んでいる家の近くの神社と、多くの人の仕事はじめにあたるであろう7日に訪れた浅草寺と、計3カ所お参りしました。
今年のお正月だけで考えると集中して行っている感じがしますが、私はお正月関係なく、旅先でも地元でも、どこかに出かけた際に近所に神社やお寺があると、必ず1カ所はお参りします。
探して行くこともあるし、たまたま通りがかったところに神社があったから、ということもあります。特に信心深いというわけではないのですが、単純に神社の雰囲気が好きで、もともとよく行っていたのです。
 
お参りする際、必要になるのがお賽銭。一般的には5円玉です。お賽銭を入れずにお参りはできません。私は、財布に5円玉があるかどうか確認してから鳥居をくぐります。反対に、5円玉がないときは、神社やお寺があったとしても、お参りしません。たまにたどり着いたのに5円玉がない!  ということがありますが、そんなときは出直します。5円玉がないと、私は鳥居をくぐりません。
なので、普段から5円玉は財布に入れておくようにしています。
最近はカード払いが多くなってきましたが、それでも大きくない額、「この金額にカードはなぁ」という場合には現金で支払います。気をつけているのは、「5円玉」をもらえるように支払うこと。921円だと1円玉が財布にあったとしても千円札とか930円を出し、5円玉がもらえるように支払います。508円の場合は513円を払う、というのは、なんだかいやらしいので私はやりませんし、1円玉が貯まっていたときには無理せず1円玉を使います。毎回5円玉もらおうとすると、欲が出ている気がして、よくないかなと思うからです。
 
 
この習慣を始めたのは、昨年の4月でした。
始めた理由は、会社を退職し、どこかに就職しなければならなくなったから。私は昨年4月に13年勤めた会社をストレスで身体を壊したために、退職しました。
「次は自分らしく働けて、私に合う場所を見つけたい」
そう思っていました。どこでもいいわけじゃない。ここで思い切り働きたい! と私が思えて、相手も、私と働いてみたい!  と思ってくれる。まさに「縁のある」ところへ。そのためには自分に合うところを見つけて、さらにそこに合格しなければならない。単純ですが、「ご縁がありますように」と参拝する必要性を感じたのです。
 
 
「ご縁がありますように」
そう願いながら入れるお賽銭。
しかし入れようとするたび、「今年の流行色はコレ」と毎年違う色を言ってくるファッション雑誌のように、どれも違う情報が出てくるので、毎回入れる額が違っていました。
「あれ?  いくら入れればいいんだっけ?」
そのたび調べたり、今まで母親が言っていた額を思い出したりして、入れていました。
 
「10円と5円がいいよ。テレビでやってた。十分なご縁がありますように、だって」
「5円玉を2枚入れるといいってよ。重ね重ねご縁がありますようにって」
どうやらいろいろ種類があるようです。
上の2つ以外にも、私が過去に母親やテレビやどこかの誰かから聞いた、「5円玉にまつわるいいお賽銭」があります。
 
・5円玉1枚でご縁がありますように
・10円玉2枚と5円玉1枚で二重のご縁がありますように
・50円玉1枚と5円玉1枚で五重の塔にかけてなのか、五重のご縁がありますように
・穴が空いている5円玉かなければ50円玉1枚。円と縁をかけて、ご縁がありますように
・欲張って100円玉1枚と5円玉1枚でたくさんのご縁がありますように
 
 
就職=ご縁。
まさにその時だからこそ、お賽銭に入れるルールをはっきりしたいと思っていました。
 
そんなときでした。
なんとなく行った地元の神社で、お財布に複数枚入っていた5円玉を、全部「えいっ」と入れたのは。
それからというもの、5円玉を貯めて、貯まった分をその時その時に出会った神社のお賽銭箱に一気に入れる、という習慣が身につきました。
これまでどれくらいやったでしょう。
退職して最初に行ったのは、松本城の近くの四柱神社でした。次に行ったのは東京。「出世の階段」がある愛宕神社や、よく宿泊地にしている浅草では今治神社、住んでいる札幌では思い立ったら北海道神宮に行き、縁結びにゆかりのある西野神社、家の近くの神社など、そのときに訪れた神社で、貯まっていた5円玉を右の手の平に集めて握り、一気に入れていました。
 
 
すると。
少しずついいことが、いい出会いが、起こるようになりました。
前の会社で担当していたお客さんや登録していた人材紹介会社から「うちで働くってのはどう?」とお誘いをもらいました。偶然Facebookで見つけた天狼院書店でライティングを学ぶ楽しさを知り、私が書いた文章をきっかけに新しい友達ができました。大学時代からの友達Yが、「この人に会って話してみたら?」と新しい出会いを作ってくれて、さらにその方(Sさん)が「面白い人たちが集まる会あるから来てみない?  なにか見つかるかもしれないよ」と誘ってくれて、そこで知り合った方(Kさん)が「うち今募集してるから、よかったら受けてみない?  これも何かの縁だから」と言ってくれました。どれも5円玉を貯めに貯めて、お賽銭に入れる習慣を始めてからです。私にとって5円玉を貯めることは、ドラゴンボールの孫悟空が元気玉を放つためのパワーを集めるように、ご縁を繋ぐためのパワーを蓄積することだったのです。そしてお賽銭箱に入れるときには、貯まったパワーを一気に放出する代わりに、ご縁引き寄せパワーを授かっていると思うのです。
 
 
 
そして、Kさんの会社に入社することになりました!
と言えればよかったのですが、一次面接は通過したものの、最終面接はこれから。
 
あとはもう、やってみるしかありません。
これまで5円玉を貯めて、お賽銭にえいっと入れて、少しずついいこと、いい出会いが増えてきました。
昨年会社をやめて「神様なんていない!」と毎晩思っていた私が、偶然見つけたこの習慣。面接がうまくいったとしても、そうでなかったとしても、これからも続けていこうと思っています。ありったけの5円玉を握りしめて。

 
 
 

❏ライタープロフィール
井上かほる(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
北海道生まれ、札幌市在住。大学卒業後、求人広告媒体社にて13年勤務。
2018年6月開講の「ライティング・ゼミ」を受講し、文章で人の心を動かすことに憧れる。12月より天狼院ライターズ倶楽部に所属中。エネルギー源は妹と暮らすうさぎさん、バスケットボール、お笑い&落語、スタバのホワイトモカ。

この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

http://tenro-in.com/zemi/66768


2019-02-04 | Posted in 週刊READING LIFE vol.18

関連記事