週刊READING LIFE vol.18

1日3分‼ 「いいこと探し」が「いいこと作り」になる習慣《週刊READING LIFE vol.18「習慣と思考法」》


記事:江島ぴりか(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

 
 
 

 
 
初めに、写真の絵をよく見て欲しい。
ここには、4人のヒトと2匹の白い犬が描かれている。
アーチの向こう側にいる3人は家族だ。母親の背後から子どもがひょっこり。犬のお尻をなでている。
赤い服を着た妻は、夫の顔を心配そうにのぞき込んでいる。あるいは、何か話しかけているのか。
しかし、夫は妻の方を向いていないようだ。
もしかしたら、妻の小言にうんざりして顔をそむけているのかもしれない。
手前の老人は家の外から家族の様子を眺めている。
犬たちは老人に気づいているが、家族には老人の姿が見えないようだ。
「神様、どうしたの? ここで、何しているの?」
一匹の問いかけに、老人は答える。
「彼らは、自分たちの幸せに気づいていないようだな」

 

立派な家があって、家族がいて、画面いっぱいにたくさんの金貨(ペンタクル)がある。つまり、彼らは豊かな暮らしをしている。しかし、その状況に慣れてしまって、そのことにありがたさを感じなくなってしまっている。そして、あれもない、これもない、と不満を言っている。
すべてを手にして、安全で快適な場所にいるのに、その幸せを感じられなくなっているのだ。
その幸せは、決して当たり前じゃないのに。

 
 
 

これはタロットカードの「ペンタクルの10」に描かれている場面だ。
趣味で通っているタロット教室で、私の課題としてこのカードがあらわれた。
私は、本当はすでに全部持っている。そしてとても幸せな状況にいるらしい。
でも、私はそのことに気づいていない……

 

そうかもしれない。
安定した仕事を持っている。やりがいもあるし、職場は便利なところにあって、家からも近い。
稼ぎがいいわけじゃないが、独身だし、いつでも自由に好きなことにお金を使っている。
ひとり暮らしのくせに、ファミリータイプのちょっと広い部屋に住んでいる。
食べたいものを食べている。食べたくないときは何も作らなくたって怒られない。
遊びたくなったら、相手をしてくれる友人もいる。
離れているけど、母も兄も元気にそれぞれ暮らしている。
そして、すごく好きな人がいて、その人に愛されていることを知っている。
でもいつの間にか、その生活に慣れてしまって、退屈になってきて、何か物足りなくなっている。
何が足りないんだろう?
思いつくものを列挙し始めて、でもどれも違うような気がしてきて、しまいには、何もかも捨ててどこか遠くへ行きたい、などと考えていたりする。
きっと、ここを離れて遠くに行ったときに気づくのだろう。
「ああ、あの頃の私は、確かに〝ペンタクルの10〟だった」と。

 
 
 

現代の日本に生まれ、今、WEB READING LIFEを楽しんでいるあなたは、差し当たって命の危険に脅かされているとか、明日食べるものがない、という状況にはないのではないかと思う。
ささやかかもしれないけど、当たり前なわけじゃない、たくさんの幸せが身近にあふれているはずだ。

 

しかし、人間は毎日目にする日常の幸せには慣れやすく、非日常の不幸にばかり注目してしまう。
普段、いいことにたくさん囲まれているからこそ、めったに起きない悪いことの方が記憶に残ってしまう。
それは、脳の自然な働きなのだろう。
そうだとすると、いくら、ポジティブ・シンキングの効能や引き寄せの法則について解説されても、無理やりネガティブをポジティブに変換したり、嫌なことを好きになったりはできない。幸せだと思えないのに、いきなり幸せだと思えっ!!というのは難しい。

 

じゃあ、どうすればいいのだろう?
そう考えていたときに、『いいこと日記』(中山庸子著・原書房)というのを見つけた。
毎日、たった4行、その日の〝いいこと〟を書き留めていくシンプルな一冊だ。
初めは、「2019年にやりたいことを100個書く」という巻頭の付録ページに惹かれて手に取った。
別に普通のノートでもできることだが、サーモンピンクの装丁もかわいいし、月間予定表や格子状のフリーページもたくさんあるから、スケジュール帳としてもアイデア帳としても便利だと思ったのだ。

 

1月始まりの仕様だが、毎日書こうとは気負わずに、気が向いたときに書くようにした。
〝いいこと〟という言葉に囚われずに、ちょっとテンション上がったこととか、スッキリしたこととか、うまくできたこととか、自由に書くことにした。
好きな人からメールが届いたとか、仕事の交渉がうまくいったとか、天狼院書店のメディアグランプリにランクインしたとか、めっちゃうれしいことはもちろんだが、
Dean & Delucaのカフェで初めてモーニングを食べたとか、水族館で観たタツノオトシゴがかわいすぎたとか、ネイルサロンの予約変更がスムーズにできたとかも書く。
ついでに、胃がん健診で飲んだ白いバリウムが無事に出てきてスッキリ、なんてことも書く。
そのうち、風邪や腹痛で苦しかった日も、「おかげで会社休んで、家でゆっくりできた」と知らないうちに〝いいこと〟になっている。
これといって何もなく終わりそうな日は、お気に入りのカフェに出かけて「美味しい鉄板ナポリタンを食べた」と、わざわざ〝いいこと〟が書けるように行動する。
そうして、〝いいこと〟を書き連ねていったら、途中で〝悪いこと〟は書きにくくなる。
もう、こうなったら意地でも、12月31日まで〝いいこと〟で埋めてやる。
知らないうちに、そんな決意ができていた。

 

1日たった3分ほどのことだけど、続けているうちに、ふと、自分の中の変化に気づいた。
なんとなくだけど。
まだ、なんとなくだけど。
自分の意識が、物事のよりポジティブな側面にフォーカスするようになった気がするのだ。

 

先日、あるサイトで気になる求人情報を見つけた。
「決まり次第終了」と書かれていたので、まだ募集しているのかメールで問い合わせたが、なかなか返事が来なかった。もう選考は終わったんだな、と思っていたら、5日後にやっと返事が届いた。現在選考中なので、興味があるなら×月××日までに応募書類を送ってくれ、とのことだった。
えっ!? あと5日しかないじゃん!!
しかも、応募書類がこれまでになく多い。日本語以外に、英語で履歴書やエッセイも書かなくてはいけない。
ここで、今までの私なら、確実に腹を立てている。
「おいおい、まだ募集中なら、すぐ返事よこせよ。遅すぎるよ。準備できないじゃないか!」
で、たぶん諦めていた。とても、数日で間に合うとは思えない。間に合ったとしても、ろくなものが書けない。結局ダメなら、無駄な努力はしたくない、と考えていただろう。

 

でも、今回は違う。
返事が遅かったこと、締め切りまで時間がないことは確かにネガティブな側面だが、
同時に、返事がきちんときたこと、まだ募集中であるということは、ポジティブな側面だ。
それは、チャンスがあるという意味だし、なんなら事情を説明して、提出物の一部を待ってもらうこともできるかもしれない。いや、きっとできるに違いない。たぶん、大丈夫だ、なんとかなる!
ネガティブなことに囚われて、早く問い合わせなかった過去を悔いるよりも、ポジティブなことに意識を集中させ、いい未来を想像して行動を起こしたい、という気持ちが湧いてきた。

 
 
 

脳が無意識に〝悪いこと〟にハイライトを当てて記憶してしまうとしても、その一方で、私たちが意識的に〝いいこと〟を拾い集めることはできる。
もし、本当にたくさんのいいこと、幸せなことがあふれているなら、毎日3つ4つピックアップするのはたやすいはずだ。
そして、それらを頭の中で考えるだけではなく、手を使って書く。次に、書いたものを読む。読みながらその幸せをもう一度心で感じてみる。
ひとつの感覚よりも、複数の感覚を組み合わせた方が記憶に残りやすいと言われるが、この作業を繰り返すことで、脳も〝いいこと〟を習慣的に記憶するようになり、その記憶がポジティブな思考回路を形成していくに違いない。そしてその思考回路は、さらに〝いいこと〟を生み出す行動をあと押ししてくれるのだ。

 

これは私の勝手な仮説だし、たった2週間の作業で、そう断言できるような十分な結果が得られたとはいえない。『いいこと日記』を最後まで書き終えたら、もう一度検証したいと思う。

 

でも、なんとなく最近気持ちが沈みがちだとか、ついついネガティブな想像をしがちな人には、ぜひトライしてみてほしい。日記帳じゃなくても、自分のお気に入りのノートでもいいし、100均のメモ帳だってかまわないのだから。
すぐにポジティブ思考にはなれなくても、思っていたより自分はうまくやっていて、豊かに生きていることに気づくに違いない。

 

今日は、「3,500字書いて、週刊READING LIFEの課題を提出できた」と日記に記して、一日を終えることにしよう。これは間違いなく、私にとって〝めっちゃいいこと〟だから。

 
 
 

❏ライタープロフィール
江島 ぴりか(Etou Pirika)
北海道生まれ、北海道育ち、ロシア帰り。
大学は理系だったが、某局で放送されていた『海の向こうで暮らしてみれば』に憧れ、日本語教師を目指して上京。その後、主にロシアと東京を行ったり来たりの10年間を過ごす。現在は、国際交流・日本語教育に関する仕事に従事している。
2018年9月から天狼院書店READING LIFE編集部ライターズ倶楽部に参加。
趣味はミニシアターと美術館めぐり。特技はタロット占いと電車に揺られながら妄想すること。ゾンビと妖怪とオカルト好き。中途半端なベジタリアン。夢は海外を移住し続けながら生きることと、バチカンにあるエクソシスト(悪魔祓い)養成講座への潜入取材。

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2019-02-04 | Posted in 週刊READING LIFE vol.18

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