屋久島Life&People

屋久島の夏と水のこと《第7回 屋久島Life&People 》


2021/10/18/公開
記事:杉下真絹子(READING LIFE編集部公認ライター)
 
 

【屋久島の夏】


屋久島に移住して、二度目の夏の季節を迎えた。
 
いやぁ、この夏は楽しかった。
 
前半は雨が非常に多くどんよりジメジメした日が続いたが、後半に入り夏の追い上げが始まったかのように、やっと青い空にモクモクの入道雲が顔を出してくれるようになった。
 
そのあたりから、私も子供たちもテンションが上がり海では海水浴やシュノーケル、沢では沢登り、川では魚や手長エビを捕まえたりカヤックやサップしたりと何とも楽しい時間を過ごすことができた。しかも10月に入った今でもまだ海に入れるのだから、さすが南の島の特権だ。
 

(家の下の川や海で遊ぶ子供たち)

 
そしてもう一つ、この夏素晴らしい海の体験があった。
それは、大浦千穂さん(MOANI water relaxation)が提供する「海のリラクゼーション」プログラムだ。
 
 

【私の海のリラクゼーション体験】


MOANI water relaxationの海のリラクゼーションは、その名の通り海の中でリラクゼーションしていくプログラムだ。
 
でも水が怖いとか、プールで泳ぐのはいいけど海に入るのはちょっと怖いのに、どうやってリラックスするの?と思う人は結構いるのではないだろうか。
 
確かに普段は二本足で立つところを水の浮力で浮かんだり、自然に呼吸しているところを水の中では意識して止めたり、まさに「非日常」の体験がそこにあるからこそ、怖さを感じるのかもしれない。でもそんな気持ちを抱いてしまう人と海の間にすっと千穂さんが入ってきて、うまく水に馴染んでいくように優しくサポートしてくれるので心配ない。
 

(海に身を委ねている様子)

 
ここからは、私が初めて体験した感想を少しシェアしたいと思う。もちろん、この体験は人それぞれ違っていてユニークさに富んでいるだろう。
 
ほとんど波がない穏やかなプールのような海にゆっくりと入っていき、ゆっくりと心身ともにリラックスした状態で水の中でプカプカ浮いた状態になることから始まった。そこから千穂さんは私の身体を水中で上下左右にゆっくりと動かしたり、さらにほぐれるようにマッサージしていく。
 
目を閉じて水が優しく私の肌に触れてくる感覚に身を委ね、
そして
チャプチャプ、ポチャーンと水が動く音を聞いていると、
ある感覚が急にやってきた。
 
わたし、お母さんのお腹の羊水の中でこんな感じだったのかも?
そんな思い(記憶?)が急にやってきたのだ。
 

(海の中から)

 
気が付けば、完全に安心感に包まれた海の世界は、まるで胎児の私が絶対的な母の愛に包まれた空間と同じように感じた。
 
「ありがとう」
 
その時、私を産んでくれた母親に感謝の気持ちと生まれてきた喜びが自分の深いところから湧き上がってくるがわかった。
 
なにこの体験?!
生まれる前(胎児)にまでタイムスリップするの?!
水の中にいてもどこかで冷静になろうとする私は驚きでいっぱいだった。
 
さらに慣れてくると、彼女は水の生き物のように水中で私の身体を上下に動かしたり、梅向きや下向きで前進させたりしていく。
 
すると、こんなことを感じ始めた。
 
ええええ!? もしかして、
両手を広げて進むと、エイってこんな風に泳いでる?
イルカや魚ってこんな遊び心で泳いでる?
 
気が付くと……
海の生き物の世界に浸り始める自分がいた。
呼吸の境界線もわからなくなるほど海と一体化している自分がいた。
 

(ジンベイザメと大浦千穂さん)

 
これまで対人関係の中で、相手の気持ちに立って共感することはあっても、海の生き物の気持ちになったことはなかった。
 
というか、「なりたくてもなれなかった」のかもしれない。
 
海の生き物の世界に一瞬でも入ることができた、その体験は
「海の中でリラックスする」
という私の目的をはるかに超えていた。
 
1時間強のセッションが終わり、始終閉じていた目をゆっくりと開いていく。そこには眩しいほどの太陽と空と雲がより鮮やかにより重厚に描かれていた。
 

(セッションの後に見た空の風景)

 
海から陸に上がろうとすると、ゆっくり戻らないと足がぐらついてしまう。まさしくそこでまたまた人魚の気持ちって、となってしまうではないですか!
 

(海に浸る時間)

 
 

【リラクゼーションの先】


このような自然の中での五感を使う体感型プログラムの先には様々な可能性が広がっているのだが、千穂さんにとっては「サンゴを守りたい」という想いがあるという。
 
屋久島に来る数年前まで宮古島に住み美しいサンゴ礁にお客さんをお連れするガイドをしていた彼女は、たくさんの人が宮古島の海でサンゴを見て癒されていくのを見てきたという。
 
「のちにサンゴが大白化してなくなるなんて、想像すらしてませんでした」
 
これは2016年に起こった宮古島のサンゴの大白化現象のことだが、海水温度の上昇などが原因で起こり、環境省の調査では周辺のサンゴの約69%が白化し、約30%が死滅してしまったとも言われている。
 
その時どれだけ自分たちがサンゴに頼って仕事をしてきたのか痛感したそうだ。
とはいえども、ストレス社会に生きる私たちの多くは、まず自分の体調を整えて初めて外の環境に意識を向けるようになる。そう、自分自身に余裕がないと、自分以外の何かを守ったり助けたりすることはなかなか難しい。
 
「心身ともにリラックスし余裕やスペースができて初めて自他を思いやる気持ちが生まれてきますよね。これがまず大事なことだと思います。それがあって自分以外の人や自然への思いやりの気持ちが生まれ、あるべき行動が自ずと起こってくると思うのです」
 
千穂さんは言う。
 

(サンゴの周りを泳ぐ小さい魚たち)

 
そんな彼女は、夏のシーズンが終わる今月10月から来年の6月までの約9か月間、屋久島を離れ初の全国巡業をし、温水プールなどでこの水中リラクゼーションをしながら、海を守る大切さを伝えていく、という新たな挑戦に挑んでいる。興味がある人は、ぜひMOANI water relaxationのHPをチェックしてもらいたい。(下記にHPリンクを紹介)
 
 

【姿かたちを変える水】


そもそも屋久島は「水の島」と言われるほど、水の存在は大きい。その上で、水のリラクゼーション含めいろんな形で屋久島の海や川で過ごす時間があり、私自身も水との付き合い方や向き合い方が少しづつ変わってきたように思う。
 
だから自分の意識も広がり、屋久島の自然全体を俯瞰できるようになったのだ。
 

(普段の大川の滝)

 
「ひと月に35日雨が降る」と言われる屋久島だが、実際に住んでみると場所によって雨の降る量が違う。平地にある観測所(小瀬田)の年間雨量は約6,300mmで東京の雨量(1,400mm)の4.5倍だ。これがさらに標高の高い山側などでは雨量が多い時には10,000mmを超え、東京の7倍以上の雨が降ることもある。
 
雨、川、滝、湧水、池、泉(温泉)、地下水、そして海。
この島を地球の血管のような躍動感あふれる「水」が張り巡らせている。
 
それは山頂から海までの急傾斜が水の姿かたちをものすごいスピードで変えていく。
 
落差88メートルの躍動感ある大川の滝を目の前に、いつも思ってしまう。
「これを受け、私たちは心身ともに浄化され変容されないわけがない」と。
 

(大雨の後の変容する大川の滝)

 
 

【どこでも飲めるおいしい水】


屋久島に来てたくさんの人が驚くことの一つに、どこにいてもおいしい水が飲めること。川の上流の「水」は飲めるし、里のいろんなところでもおいしい湧水を汲めるのだ。
 
屋久島宮之浦岳流水は「日本名水百選」にも選ばれており、大川の滝のそばにある湧水などが有名である。しかも、硬度約10mg/Lの超軟水のため、口当たりもまろやかで甘くさえ感じるのだ。森歩きの休憩時に川の流水を沸かしていれたコーヒーやお茶はおいしく、本来の味と香りを引き出すのだ。あっという間に森のお茶会ができる。ちなみに、東京近辺の水の硬度は40-90mg/Lと言われている。
 

(森のお茶会の様子)

 
これまで、アジアやアフリカの安全な水へのアクセスが乏しい地域で暮らしてきた私にとって、屋久島のどこでも飲めるおいしい水という究極の環境にいることは感謝でしかない。
 
実は、「おいしい水が飲める」ことは、1993年に制定された屋久島憲章の最初の条文として以下に挙げられており、「水」への想いは特別だと感じられるだろう。
 

条文(屋久島憲章より抜粋)
1 わたくしたちは、島づくりの指標として、いつでもどこでもおいしい水が飲め、人々が感動を得られるような、水環境の保全と創造につとめ、そのことによって屋久島の価値を問いつづけます。

 
そんなおいしい水は、何もしなくても勝手に湧き出てくるというわけではない。
昔、自然環境における「水の循環」について学校で習ったことを覚えているだろうか。
 
深い原生林の森に降った雨は川になり、また花崗岩によってろ過され地下水として屋久杉などの巨木の栄養となりながら、やがて海へと注がれ、また水蒸気ができて、森に雨を降らせる。
 
その中で生き物の循環も食物連鎖として同時に起こっている。
海に流れる栄養を植物プランクトンや海藻が取り入れ、さらに食物連鎖により動物プランクトンや魚類が成長する助けとなる。そしてその魚を私たち含む陸上動物が食べることで再び陸地に戻っていく。
 
このように森・川・里・海の絶妙なバランスで健全な地球上の循環が続き、環境が保全されるのだ。
 

(原生林を流れる川)

 
そして、私たちの身体も60%以上は水でできていて、その大きな循環の一部であることも忘れてはいけない。
 
 

【森、海、川のリズム】


様々に変容する自然やそのリズムを活かして、最近では自律神経を整えるために様々なプログラムが始まっている。
 
シンプルにリラックスするには、森の中が最も効果的と言われていて、実際に様々な研究結果も出されていて、それをもとに私は「森林セラピー」プログラムを提供している。
 
「人間の神経系の一番深いところにある脳脊髄液が持つ呼吸よりも長いリズムは樹木が持っているリズムと近しく、森の中にいると誰もが自然にそのリズムに同調することができるからなのです」
 

(森林セラピーで私の木と過ごす時間)

 
神経生理学・ボディワークの専門家である藤本靖さんもある記事の中で言及している。
 
また海は、満ち潮、引き潮の波のリズムなどは森に比べてより動的だ。
 
実はこの夏、その特徴を活かして私の森林セラピーと千穂さんの海のリラクゼーションのコラボレーション企画『森は海の恋人in屋久島』リラクゼーションプログラムを開催し好評だった。
 

(海の向こうにいる千穂さん)

 
このように森のリズムも海のリズムも私たちを深いレベルまでリラックスに導くことができるが、リラックスだけがいいのではなく、自律神経は波のように動きがある状態がいいと言われている。
 
しかし近年、家に引きこもり同じ環境下で過ごすことが多く、自律神経の波が止まっている人が増えているからこそ、その神経のスイッチを入れるためには、森と海をつなぐ川や沢でのプログラムを入れると良いそうで、藤本さんはこう続ける。
 
「自然体験が一番手っ取り早く、凍りついた状態をアクティベートすることができます。中でも川は流動性があるという意味で非常に効果的な場であるといえます」
 

(栗生川でサップをする様子)

 
そして、海とは違って夏でもヒンヤリする水の温度も重要だという。水温一つとっても、動きがあることで、私たちの神経を目覚めさせる効果があるのだろう。
 
私たちの自律神経が目覚めるのに最も効果的な水の自然体験というと屋久島では「沢登り」だと思う。全神経を集中させて、沢を上ると意識が起きないわけがない。
 

(沢登りで感覚を集中し研ぎ澄ます娘の真優)

 
美しい海の生き物と触れ合いたい、おいしい水を飲みたい、海と水の循環に心を委ねて本来の自分に戻りたい、そのためには自然の音やリズムに耳を傾けたり、肌で感じることで初めて自然を大切にする心が生まれるのかもしれない。
 
そんな大自然との繋がりを私たちに教えてくれるたくさんの体験が屋久島にある。
 

(安房川で森林セラピーカヤック)

 
Welcome to 屋久島
 
 
 
 
<参考資料・情報提供元>
屋久島世界遺産センターHP(https://www.env.go.jp/park/yakushima/ywhcc/index.htm
宮古毎日新聞(http://www.miyakomainichi.com/2017/03/97648/
環境省(https://www.env.go.jp/nature/biodic/kaiyo-hozen/pdf/pdf_pf_jap_6.pdf
環境省認定名水百選サイト(https://water-pub.env.go.jp/water-pub/mizu-site/meisui/data/index.asp?info=97
Ideas for goods (https://ideasforgood.jp/2021/08/05/genryu-creative/)
屋久杉自然館総合案内誌

MOANI water relaxation (https://www.moaniwai.com/)

<写真提供>
©︎2021 Makiko Sugishita. Chiho Oura. Ronald Daisuke Jourden. All Rights Reserved.

□ライターズプロフィール
杉下真絹子(READING LIFE編集部公認ライター)

大阪生まれ、2児の母。
1998年より、アフリカやアジア諸国で、地域保健/国際保健分野の専門家として国際協力事業に従事。娘は2歳までケニアで育つ。そこで色んな生き方をしている多種多様な人々と出逢いや豊かな自然環境の中で、自身の人生に彩りを与えてきた。
その後人生の方向転換を果たし、2020年春、子連れで屋久島に移住。現在【森と健康】をテーマに屋久島で森林セラピーを中心とした森林ウェルネスプログラムの活動を展開している(カレイドスコープ代表)。
関西大学卒業、米国ピッツバーグ大学院(社会経済開発)修士号取得、米国ジョンズホプキンス大学院(公衆衛生)修士号取得。

この記事は、人生を変える天狼院「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」をご受講の方が書きました。 ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325


■天狼院書店「シアターカフェ天狼院」

〒170-0013 東京都豊島区東池袋1丁目8-1 WACCA池袋 4F
営業時間:
平日 11:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
電話:03−6812−1984


2021-10-18 | Posted in 屋久島Life&People

関連記事