ランニングは言葉が消える時間
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
2025/10/16 公開
記事 :青山尚樹(ライティング・ゼミ11月コース)
走るの面倒だな。
外は寒いし、走る為には着替えなければならない。
今日走ったからといって明日も継続できるかわからない。
毎晩ランニングしようとするたびに、それをしない為の理由が頭の中に浮かんでくる。
しかし、どんな言葉が浮かんできても、私は毎晩のようにランニングしている。
夜のランニングを始めたきっかけは、約1年前に遡る。
それまでの私は、仕事が終わり家に帰ると、新しいことを学ぶ為に読書や動画サイトの動画ばかりを見ていた。
そうして新しい知識を得るに従って、私の脳は活発に働き、知識同士を繋ぎ合わせて新しい物事の捉え方を見つけ出す。
自分が見ている世界は知識により構築されているものだと思っていた。
そんな私はある日SNS上で、自身の死期と向き合った入院患者の話を目にした。
彼女はその体験を通して、これからも生き続ける人々に向けてメッセージを残していた。
メッセージの中で、彼女はこんなことを言っていた。
外に出て、新鮮な空気を肺いっぱいに吸い込みましょう。
そして、空の青々さ、木々の緑を見てください。
それらはなんて美しいことでしょうか。
呼吸ができるというだけで、それがどれだけ幸運なことか考えてみてください。
この一節を見て私は、これまで自分の感情や感覚を蔑ろにして生きていたことを痛感した。
もちろん、それまでも疲れたり楽しい気分を感じることはあったし、道端の変な匂いを感じることもあった。
しかし、そういった感情や感覚は私の中で「当たり前」として存在していて、特に気にも留めていなかった。
だからこそ、彼女の一節を見た時、私の中で新たな可能性が生まれた。
言葉ではなく感覚で世界を捉えて見たら、どんなふうに見えるだろう。
それから私は、学生時代に好きだったランニングを始めた。
走り始めた当初は学生の頃と同じように、「あと5kmでゴールだ。」とか「顎を引いて軸をまっすぐにして走らないと」といった言葉が頭の中に沢山浮かんできた。
そういう言葉が私の体を重たくすることもあった。
ランニングをしている最中は楽しい気分にもなる。
しかし、ランニングをしていない時に浮かんでくるのは、以前考えた言葉たち。
「もしあそこまで走っても残り5kmあるのか、考えただけで疲れてきた。」
「軸を意識して走ってると余計に疲れるきがするな」
そうやってまた、走る気を自分で失わせる。
仕事終わりの疲れているタイミングでは特にそうだ。
言葉が私を制限する。
だから、考えるのをやめた。
これから走りに行こうと決めたら、その瞬間から体に任せる。
私の体が運動着に着替えを始め、玄関に行ったら靴を履き靴紐が解けないように強く結ぶのをただ眺める。
このあと外に出たら何km走らなきゃとか、外は寒そうだなとか、帰ったら何時になってるなとか、そういうことは一切考えない。
言葉に主導権を握らせない。
服が肌に触れる感覚、靴紐が足をきつく締め付ける感覚に集中する。
外に出てからは外気が顔に当たる感覚や地面を足で蹴る感覚。
そして、ふくらはぎの筋肉の緊張、足と胴体を結ぶ股関節の動きの滑らかさ、脇腹の痛さなど、身体中の感覚に集中する。
すると徐々に体の声が聞こえてくる。
「肩が緊張して上がってるよ」
「腕のフリが小さいよ」
「母指球で踏んで」
など、実際には言葉で聞こえるわけではなく、感覚としてそれらが伝わってくる。
そしてその通りに体を動かすとだんだん楽になってくる。
体を上手に動かす方法がわかってくると、今度は呼吸が安定してくる。
以前は足の動きのリズムに合わせて呼吸をしていたが、体の感覚に合わせて呼吸をすると、足のリズムよりもゆっくりと、まるで深呼吸しているような呼吸になる。
加えて、息を吐く時は体の疲労感や痛みを息に乗せるように吐き、吸う時は空気中のエネルギーを取り込むような感覚をイメージすると、本当に体に力が漲る様に感じる。
呼吸が安定すると、五感に意識を集中できる。
潮風の匂い、木々のせせらぎ、車通りが少ない場所の空気のおいしさ、気温が低くても感じる空気の温かさ、街灯や星空の美しさなど。
言葉としては私の中にずっと存在していたけれど、実際に五感で感じたと思えたのは初めてなんじゃないか。と、思わせるような新鮮な感覚と、そこから見える景色がそこにはあった。
言葉は覚えればそれをいつでも思い出せるが、感覚はそうじゃない気がする。
あの時の感覚を思い出すのは、なんか難しい。
イメージはできるが、感覚としては現れてこない。
だから、ランニングする前はどうしても言葉が先に浮かんできてしまう。
そんな時は、考えるのをやめて感覚に意識を向けてみる。
すると、自分を止めるものは何もなくなって、気づいたら外で楽しく走っている。
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