ライティング・ゼミ

他人の「価値観押し付けパンチ」にそっと引く境界線を考える 


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。


 
記事:maruha(ライティング・ゼミ11月コース)
 
 
私は夫と二人暮らしのアラフィフだ。お互い若い頃から「子どもは欲しくない」と思ってきたので、いないことはごく自然な選択だった。そこに不足感も、孤独感もない。むしろ、肩の力が抜けて過ごせる、今の暮らしが気に入っている。
 
ただ、アラフォーに差しかかった頃、周囲のほとんどが子育てをしていて、「自分はマイノリティなんだな」と実感した時期があった。
 
アラフォー向けコンテンツのほとんどは子育てについてになり、職場でも子供の話が増え、聞き役に徹することが多くなった。そんな環境にいると、ふとした瞬間に「今はいいけど、年とってから後悔するんだろうか?」と、答えの出ない問いが心の片隅に入り込んでくる。同調圧力の中で、自分の選択に揺れや迷いはつきものだ。
 
そんな頃、年下の友人・Yさん(女性)とよく話すようになった。彼女は30代前半で結婚して2年が経ち、キツすぎたフルタイムでの仕事を辞めて、ゆるくパート勤めをしていた。
 
週に一度くらい、私の家でお茶を飲みながら、よくたわいもない話をした。二人とも社交的なタイプではないので、この雑談ティータイムは思いを吐き出せるいい時間だった。
 
ある日、いつもは落ち着いた雰囲気のYさんが憤った様子で話し始めた。
 
「ちょっと聞いてよ!この前ね……職場で40〜50代の主婦パートさん3人くらいに囲まれて “子どもはまだ?” “作らないの?” ってしつこく聞かれてさ」
 
それだけでもデリカシーがない質問なのに、さらにこう言われたらしい。
 
「早く産んだほうがいいわよ。子どもがいないなんて、さみしい人生よ〜」
 
エッ、そんなセリフ、身内でもない他人に堂々と言う人がまだいるのかと驚いた。Yさんは普段、無口で落ち着いたタイプ。突然そんな言葉を浴びせられたら、反論する間もなく「はあ……」と曖昧に返してしまったそうだ。彼女はその後もずっとモヤモヤを抱えていて、それを吐き出したかったのだ。
 
私も思わず声を荒げてしまった。
 
「なにそれ! デリカシーないね~」
 
彼女の不快感に共感し、ひとしきり文句を言い合ったあと、Yさんは少しスッキリしたように帰っていった。ところがその夜、今度は私がモヤモヤし始めたのだ。まさに流れ弾だ。
 
——子どもがいない人生は、さみしいのか?
 
今までそんな風に思ったことはなかったし、よくよく考えてみてもそうとは限らない。しかし、その価値観がさも当たり前のように押し付けられたら、どう返したら正解なんだろう? ということも気になった。
 
感情的に言い返して相手の意見を批判しても、職場の空気が悪くなるだけで得策ではない。とはいえ、だまって愛想笑いしてるのもモヤモヤする。
 
そこで私は考えた、柔らかく、しかししっかりと “境界線” を示す返し方はないか? と。
 
こういうのはどうだろう。
 
「 “○○さん”は、お子さんがいないとさみしいんですね。でも私は今の暮らしが好きで選んでいるんですよ〜」
 
にっこり笑顔を添えて言えば、角も立てずに返せるのではないか? しかもさりげなく、「その価値観はあなたのものであって、私のものではありませんよ」という線引きになる。あわよくば、相手が「私は子どもがいないとさみしい人生と思ってるの?」と気づいてくれたらいいんだけど。
 
ただ、本音を言えば……
 
そんなセンシティブな話題を、プライベートをよく知らない他人に向かってよく言えるな、と思ってしまう。私とYさんの間柄でも、自ら話題にしてくるまではなんとなく触れないでいた。
 
相手が不妊治療中かもしれないし、夫婦関係に事情を抱えているかもしれない。迷っている時期かもしれないし、選択していない可能性もある。本人でさえ答えが出ていないこともある。そこに、土足で踏み込むような発言は、いくら「おばちゃんノリ」とはいえ危険すぎる。
 
今はだいぶ社会も変わった。コンプライアンスという言葉が一般化し、個人の人生に踏み込む質問は「してはいけないこと」と認識されつつある。社会が成熟してきた——というより、私たち世代が過去に嫌な経験をして、「自分は絶対に他人に同じことをしない」と決めて大人になった結果なのかもしれない、と思ったりもする。
 
私が思うに、「◯◯があるからさみしくない」と言ってしまう人は、そもそも心のどこかに “さみしさ” を抱えているのだろう。それを何かで埋めているうちは気づかないが、もしその“条件”が崩れた瞬間、元々あった寂しさがむき出しになる。
 
だからこそ、人はいつか必ず自分の内側と向き合うことになる。
 
子どもがいる、いないに関係なく——
結婚している、していないに関係なく——
キャリアがある、ないに関係なく——
 
条件の有無で幸せが決まるのではなく、
「自分の人生をそのまま受け入れられるかどうか」が鍵なのだと思う。
 
私自身、今の暮らしを選んだことに後悔はない。さみしさは、子どもがいるかどうかではなく、自分とどう向き合っているかで決まる。人生の充実は、外側の条件では測れないものだから。
 
だからもし誰かに、自分とは違う「価値観パンチ」を食らったら、こう返してはどうだろう。
 
「私は私の人生が気に入ってますよ。心配してくれてありがとう」
 
その一言で十分な気がする。
誰かの価値観に自分の人生を明け渡す必要は、どこにもないのだから。
 
<終わり>

 

 

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2025-11-27 | Posted in ライティング・ゼミ

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