レンタル人間図鑑

【隅田川の河童】おっさんがおっさんを借りてみた!その1 《レンタル人間図鑑》


記事:射手座右聴き (天狼院公認ライター)
 
 

人間をレンタルするって、何?


 
2019年の日本。そこは、お金さえ出せばなんでも手に入る世界です。月旅行、AI、自動翻訳機、最新のサービスはもちろんのこと、実は、他人の時間も買うことができます。レンタル彼女、レンタル彼氏、レンタルおっさん、時給さえ払えば、思いのままに借りることができるのです。
 
 

でも、そんなに需要はあるの?
あるとしたら、どんな人なの?
人に必要とされるって、どんな感じだろう?
 
私が潜入取材していこうと思います。
 
 
申し遅れました。私は、おっさんレンタルのメンバーで、射手座右聴きと名乗っています。おっさんレンタルとは、1時間1000円でおっさんを借りられるサービスです。そんなの需要はあるのかって? そうですね。私自身は、可もなく不可もなく、やっています。週に1-2回、4年間で300人くらいの人に借りられてきました。でも、可もなく不可もなく、なんですよね。売れてる人は、1日3件、4件とレンタルが入るんです。私だって、もっともっと売れたいです。そのためにほかの人がどういうレンタルをしてるのか、見てみることにしました。
 
 

今日はおっさんがおっさんを借りてみます。


おっさんレンタルのサイトから選んだのは、「隅田川の河童」 さん。
まず、この方を借りてみました。
 
—河童さん、ご無沙汰しています。
 
河:ご無沙汰しています。以前一度ご一緒しましたね。
 
—そうです。今日はよろしくお願いします。
ちなみに、どちらから来たんですか?
 
河:隅田川から泳いできました! 河童ですから!
  ちょっと水が寒くなってきました。
 
—もう冬ですものね。(このネタ、どこまで引っ張ればいいのかな。どうしよう)
 
河:で、今日は、どうしたんですか。
 
—もっと売れたいんです。なので、河童さんの話を参考にしようと思って。
河童さんは、どうしておっさんレンタルを始めたんですか。
 
河:学生時代の友人に勧められました。私、本業は整体師をしてるんですけど、お客さんと話すのが、苦手だったんですよ。でも、60分の施述時間、何も喋らないわけにいかないじゃないですか。
 
ー意外です。河童さんは、番組などで見ると、トーク受けてるじゃないですか。コミュニケーション得意な方かと思っていました。
 
河:そうですか? でも、毎回必死なんですよ。
 
ー必死? テレビ番組などで拝見すると、余裕すら感じるんですが。
 
河:いやいや、必死です。僕は初めてのレンタルがAbema TVの番組だったんです。グラビアアイドルさんにレンタルされるという企画で。
 
—いきなりですか!
 
河:そうですよ。当日いきなり、言われたんです。「バラエティ番組に、台本はありません。周りを見て、アドリブでお願いします」って。それで、もう、開き直って叫んだんですよ。「隅田川を泳いでやってきました。河童ですー!」って。そしたら、笑ってもらえて、あとはもう、勢いですよー。
 
—すごいデビュー戦ですね。もともと面白いこと言える人なのかと思っていました。
 
河:いやいや。「いま、何をいったら笑ってもらえるか。河童だったら、なんて言うか」 いつも真剣に考えています。
 
—おっさんなんですか? 河童なんですか? そもそも、どうして河童と言う名前に?
 
河:一度で覚えてもらえる名前にしようと思ったんですよ。加入した時、たまたま、隅田川のお祭りをやってたんです。「あ、俺、隅田川の近くに住んでるし、隅田川の河童で行こう」と思ったんです。
 
—それで河童ですか。
 
河:はい。最初の番組のとき、「河童さんに頼んでよかった」 と言われました。いつも、「河童に頼んでよかった」と言われるようにしたいと思っています。
 
顧客満足度の高い河童ですか。なんかすごいな。
 
 

20代の女性が何故、河童を借りるのか


—ちなみに、依頼はどんなものが多いですか?
 
河:相談ですね。20代の女性が多いです。
  恋愛相談とか、家族のこととか友人との関係とか。
 
—どんな話をするんですか?
 
河:ひたすら聞きますね。あと否定しない。背中を押してあげるんです。
 
—なんか優等生ですね。プロフィールにも、「相談しましょう、一人より二人です」と書いてありますね。この河童さんの紹介文は、とても素直な気がするのですが。
 
河:相談できるか、聞いてくれるか、依頼者の方が必要な情報は、それだけだと思います。履歴書みたいな自己紹介はいらないんですよ。経歴とか、職業とか、学歴とか、おっさんの自己満足です。みんな、どうでもいいんじゃないでしょうか。
 
—なるほど。では、ちょっと私のプロフィール見てもらっていいですか。
(スマホでプロフィールを見てもらう)
 
河:長いですね。仕事のこととか、いらないと思いますよ。無駄が多い気がします。
相談できるかどうか、だけでいいんじゃないかと思います。
 
—ダメ出し、されちゃいました。なんか悔しいな。
 
河:まあまあ。
 
 

苦労だってあります。人も河童も。


—そういえば、ここまでのところ、いい話が多いですが。あえて聞きますけど、河童さんが、いままでで、一番苦労したレンタルはなんですか?
 
河:はい。引っ越しのレンタルできっついのがありました。
 
—ああ、荷物多いのとかありますよね。
 
河:いや、それは引っ越し屋さんがやってくれたんですよ。
 
—ええ? じゃあ、後の掃除とかですか?
 
河:いや、それもやらなかったんです。
 
—でも、引っ越し作業ですよね。
 
河:「これを運んでほしい」って荷物を渡されて。
 
—どんな荷物ですか?
 
河:蛇です。
 
—蛇?
 
河:蛇NGだったらしいです。引っ越し屋さんが。
 
—危ないですもんね。
 
河:いや、毒はないみたいなんですけど、臭いんです。
 
—えええ。どんな匂いなんですか。
 
河:とにかく臭いんですよ。なんとも言えない激臭です。
 
—それ、どうやって運ぶんですか。
 
河:カゴに入れて、タクシーで運んでほしいと。何台か断られましたけど、なんとか乗せてもらいました。
 
—えええ。引っ越し先は、遠かったんですか。
 
河:20分くらいでしたかね。長い長い20分でした。
 
—それで、1000円?
 
河:そうです。蛇をタクシーで20分運んで1000円。
 
—たしかに、「引っ越しの手伝い」は間違ってないですね。
 
河:そうなんです。家財道具なら運びますよ。と言ったんですが。
 
—おそらく、河童さんは、「初めて蛇を運んだ河童」ですね。
 
河:そうです。「蛇を運んだ河童」です。
 
—ずるいなー。このエピソード。ほかに何かあります?
 
河:デートを尾行してくれ、という依頼がありました。
 
—どういうことですか?
 
河:カップルのデートに、こっそりついてきてほしいと。
  追われてる設定でデートして、ドキドキしたかったそうです。
 
—逃走中みたいなデートですね!
 
河:その割には、デートの二人、レストランでお肉を食べたんですけど、
  私は向かいの喫茶店で、見張ってるんですよ。 もう、お腹空いて空いて。
 
おあずけレンタルか!
 
河:まあ、チップももらえたし、面白い経験させてもらったので、よかったです。
 
—なるほど。月並みですが、河童さんにとって、レンタルって何ですか。
 
河:まあ、便利屋です。
 
—便利屋ですか? もっとこう、ドキュメンタリーのエンディングみたいなかっこいい言葉を期待してたんですが。
 
河:いやいや。お客さんからしたら、都合のいい便利屋ですよ。そして、私からしたら、ちょうどいい時間潰し、でもあります。
 
—蛇を運んで時間潰し。デートを尾行して時間潰し。だいぶ濃厚な時間つぶしですね。
 
河:でしょ。(ニヤリと笑う)
 
河童さん、真面目なのか、とぼけているのか。最後の最後で、違う顔を見せてくれました。
 
後日、レンタルユーザーさんに、
「ほかにおすすめのおっさんはいますか?」
と聞かれたので、河童さんをおすすめしました。
河童さんの自信作であるプロフィールをお見せしたところ、
「あー、なんか寄り添い過ぎな気が」
と言われてしまいました。
 
 

むずかしいいいいいいいいいいいい

 
 
あなたもいつか、この人を借りる日が来るかもしれません。
いや、来ないかもしれません。
 
 

(人間レンタルデータ)
隅田川の河童(おっさんレンタル所属) *プロフィールはおっさんレンタルサイトより抜粋
「 こんにちは~ みなさん 元気で頑張ってますか?
日々の生活 たいへんだと思いますが、
元気で明るく生きていくのが理想ですよね~
だけど、人間理想だけでは生きていけないのが現実社会です。
嬉しいこと、悲しいこと辛いことなどなど たくさんの出来事がありますよね
その中で、一人じゃどうしようもできないこと解決できないことなど
相談しましょう一人より 二人です。良い解決方法がみつかるかもしれません
一人じゃ持てない重い荷物、二人で持ちましょう。
一人で悩んでても解決しませんよ。
まずはメール! レンタル待ってます。
おっと言い忘れた私の秘密基地は墨田区なので
近くの方、近くない方も ぜひ!ではお待ちしてます
よろしくお願いします」

❏ライタープロフィール
射手座右聴き (天狼院公認ライター)
東京生まれ静岡育ち。バツイチ独身。
大学卒業後、広告会社でCM制作に携わる。40代半ばで、フリーのクリエイティブディレクターに。退職時のキャリア相談をきっかけに、中高年男性の人生転換期に大きな関心を持つ。本業の合間に、1時間1000円で自分を貸し出す「おっさんレンタル」に登録。4年で300人ほどの相談や依頼を受ける。同じ時期に、某有名WEBライターのイベントでのDJをきっかけにWEBライティングに興味を持ち、天狼院書店ライティングゼミの門を叩く。「人生100年時代の折り返し地点をどう生きるか」 「普通のおっさんが、世間から疎まれずに生きていくにはどうするか」 をメインテーマに楽しく元気の出るライティングを志す。
天狼院公認ライター。
メディア出演:スマステーション(2015年),スーパーJチャンネル, BBCラジオ(2016年)におっさんレンタルメンバー
として出演

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2019-01-28 | Posted in レンタル人間図鑑

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