WORK TRIP

【月刊「ワークトリップ」10月号】海と空を見下ろす魅惑の宿「別府温泉 テラス御堂原」《「WORKTRIP」旅するように仕事をし、旅するように学ぶ》


 

記事&PHOTO:三浦崇典(天狼院書店店主)

その宿の名前を告げると、タクシーの運転手は、

「ああ、あの山の上の」

と答える。
別府駅付近でタクシーに乗ったのだが、運転手の言う通り、標高の低い北浜付近から、車は斜面を駆け登って行き、小道を進み、高速道を超えて高台へと至る。

「今日は、混んでますね」

駐車場を横目で見ながら、運転手はつぶやくように言う。

意外に思う。なぜなら、僕は常に、利用客が少ないと思われる曜日を狙って「ワークトリップ」をするからだ。

「ワークトリップ」の最も適しているのは、月曜日から火曜日にかけて。
金曜日から日曜日の週末は、もちろん、宿は行楽客で賑わう。

「ワークトリップ」の作法として、宿が賑わう曜日や時間帯に部屋を取ってしまうことは極力避けている。
なぜなら、基本的に「ワークトリップ」はひとりで行うものであって、ひとり客は宿にしてみればとても効率が悪いからだ。
同じ理由で、できるだけ直前に宿を取ることにしている。たとえば、1ヶ月前などに押さえてしまうと、その1ヶ月の間に二人客の予約が入ったとすれば、宿にとってはその方がいいはずだからだ。
「ワークトリップ」は、気に入った宿は何度も使わせてもらうことになるのを前提としているので、迷惑な客になることだけは禁物である。

今回お世話になったのは、「別府温泉 テラス御堂原」さんだ。

 

 

エントランスを入ると、まず、眺望に度肝を抜かれる。
もっとも、調べて行っているので、最初からそういう景色だとある程度はわかっていたが、予想のはるかに上を行く。

「写真、撮らせてもらっていいですか?」

チェックインの手続きの間にも、思わず、そう言ってしまう。

 

 

海と空を見下ろすことのできる、超絶見晴らしのいい場所にこの宿は建てられていた。
この眺望のために、ここを選んだのだろう。
僕は同じ大分の由布院もよく行くが、眺望に関しては、別府湾がある別府がいいように思った。

ひとつ、後悔する。
福岡天神での会議が長引いてしまい、チェックインの時間が17:30になってしまったからだ。

15:00にチェックインしていれば、まず、一風呂浴びてから、夕食まで2時間30分は第1スティントの仕事ができただろう。
そのあとに、18:00から夕食で、また風呂に入り、20:00から第2スティントの仕事を2時間ほど済ませと理想的な流れになった。

理想では、こうなる予定だった。

11:00代 福岡天神発
12:00代 特急スーパーソニック乗車/第0スティント 仕事フルスロットル(120分)
14:00代 別府駅到着
15:00  テラス御堂原チェックイン/温泉
15:30  第1スティント 仕事フルスロットル(150分)
18:00  夕食/温泉
20:00  第2スティント 仕事フルスロットル(120分)
22:00  マッサージ/温泉
23:00  第3スティント 仕事フルスロットル(120分)
01:00  温泉
01:30  第4スティント 仕事フルスロットル(60分)
02:30  温泉/反芻
03:00  就寝
08:00  起床/温泉
08:30  朝食/食事をしながら、第5スティント 仕事フルスロットル(60分)
09:30  第6スティント 仕事フルスロットル(60分)
10:30  温泉
11:00  第7スティント 仕事フルスロットル(60分)
12:00  チェックアウト
12:00代 特急スーパーソニック乗車/第8スティント 仕事フルスロットル(120分)
14:00代 福岡着
_____________________
合計フルスロットル仕事時間 14.5時間

ここでまた「ワークトリップ」の作法だが、温泉宿に入ると、なんだか、無限に時間があると錯覚してしまう。
けれども、ぼうっとして過ごしてしまうと、案外、すぐにチェックアウトの時間になってしまう。
僕も昔はそうだったが、「ワークトリップ」の初心者は、かなりの決意で温泉宿に入るが、結局はほとんど仕事をしなかった、でも、慰安になったからいいか、というふうに終わってしまう。

それでは、実にもったいない。

そうならないために、事前に仕事と休息の時間をプランニングしておく必要がある。
あとは、この予定通りにこなしていけばいい。

仕事をするときは、フルスロットルで極限まで集中する。
休息するときは、徹底して楽しむ。

これを織り交ぜると、とてもいい「ワークトリップ」が完成する。
そう、「ワークトリップ」は、自らパズルのように完成させるべきものだ。

そして、これができる宿といえば、今回のテラス御堂原さんのような、高級な宿に限る。
なぜなら、ハイパー気分がいい場所だと、より仕事が捗るからだ。

メインの「仕事場」となる客室は重要だ。
ここで、多くの仕事をこなすことになる。
ここが、テンション上がらない場所であれば、「ワークトリップ」は失敗する可能性が高い。

けれども、テラス御堂原さんの部屋は、スペシャルを超えた、”ハイパー”だった。

 

 

座る場所が2箇所あれば、気分転換になる。
また、テラスに席があると、朝の時間帯にそこでコーヒーを飲みながら集中して仕事をすることができる。

 

 

これも「ワークトリップ」にとって、とても重要なことだが、部屋に専用の温泉が備え付けられているといい。
備え付けの温泉では、もちろん、休息もするが、思考するためにとても重要な空間となる。

この宿には各部屋に温泉があり、しかも、いつでも80度ほどの硫黄泉を入れることができる。
大浴場もあるが、人が入ってくると気を遣うので、試しに一度入るくらいで、あとは部屋の温泉をメインにする。

部屋の装備であれば重宝するのが、テレビである。
ただのテレビでなく、大型液晶テレビだ。
これに、AppleTVなど、MacBook ProやiPad Proが「ミラーリング」できる機能が搭載されていれば、なおいい。
Wi-Fiがあるのは、当たり前の話。
これがないと、そもそも仕事にならない。

iPad Proのアプリ「プロクリエイト」で手書きで書いたものをテレビに映し出せば、思考の整理によく使える。
大きな模造紙を壁に貼ってマジックで描く効果と一緒だ。

テラス御堂原さんのテレビには、「ミラーリング」機能が装備されていたので、Wi-Fiでつないで、すぐにiPad Proの内容を同期することができた。
もちろん、MacBook Proの画面を同じように出すことも可能だ。「ミラーリング」の機能がついていない宿も多いので、年のため、細型のHDMIコードを携帯していくようにすればいい。

 

 

同期されたほうのiTunesを起動させて、フルスロットルで仕事ができる「プレイリスト」を流して置くことも忘れてはならない。

もっとも、深夜大音響は、隣の部屋に迷惑がかかるので、音量はほどほどにする必要がある。

僕の場合、「ワークトリップ」のプランニングを最初にしておくので、部屋に入り、様々なサービスを確認すると、その場でまずはフロントに電話して、チェックアウトまでの必要な手続きを済ませておく。

「22:00からマッサージ、40分のコースでお願いします。それと、チェックアウトを11時から12時まで延長してください。追加料金も承知しております。また、12時に駅まで向かうタクシーを頼んでおいてもらうと助かります」

これで手続き完了。

たいていは、部屋にあるガイドにすべて必要なことは書いてある。

チェックアウトは11時だが、それではこのせっかくのロケーションで仕事ができる時間が短くなるのでもったいない。
追加料金は30分で2,000円とあったが、迷わず、1時間追加をお願いする。
これで、チェックアウトを12時まで伸ばすことができる。
そして、チェックアウトしてすぐに、タクシーが外で待っていてくれれば、時間のロスがない。

さらに、長い時間仕事をすると、体が凝り固まる可能性があるので、マッサージも必ずあらかじめ頼んでおく。
マッサージが来たときが、仕事のいい区切りとなる時間帯に設定する。

そして、楽しみの夕食だが、高級宿の場合、たいていはコースだ。
60分から90分かけて、ゆっくり楽しんでいい。
嗜む程度にアルコールを入れても、仕事に支障はない。
順番ですべて出してくれるので、とても便利だ。

また、早く食べると、配膳してくれるスタッフが、早めに出してくれる場合もある。
ただ、急いで出してください、と言うのは無粋なのでやめておいたほうがいい。
重要なのは、美味しい料理を、しっかりと食べること。
できれば、ご飯をお代わりして食べること。

なぜなら、「ワークトリップ」は相当量のカロリーを消費するからだ。
エネルギーがなければ、仕事ができるはずがない。

 

 

「ワークトリップ」は睡眠も重要である。
朝のご飯に間に合うように、起きる。
僕の場合、普段は6時間から7時間ほど寝るのだが、「ワークトリップ」の際には5時間程度にしている。
どうせ、戻ってから、寝ればいいと思うからだ。

ここでは、仕事に支障がないほどに寝て、仕事の生産性を最優先に考える。
温泉に入り、朝食をとり、コーヒーを飲みながら、最初の仕事に取り掛かるといい。

朝食後は、部屋ではなく、まずはエントランス近くの、最初に度肝を抜かれたあの空間で仕事をすることに最初から決めていた。
僕は、チェックアウトを延長しているので、ゆうゆうと時間を使うことができる。

他の方のチェックアウトでエントランスが賑やかになるころには、再び部屋に籠ればいい。

最後は、見晴らしのいいテラス席で、コーヒーを飲みながらの仕事だ。
途中、部屋の温泉に入りつつ、あとはチェックアウトぎりぎりまでフルスロットルである。

最後に経費について。

「ワークトリップ」をする宿は、できれば、1泊で25,000円を超えるところがいい。
ハイパーな場所が多く、ハイパーな場所ほど、いい仕事ができる。
また、静かである。料理もよく、サービスも行き届いている。

テラス御堂原さんも、一般的な基準で見れば、決して安くはない。

けれども、全力で「ワークトリップ」する僕にしてみれば、むしろ、安いくらいだ。

たとえば、交通費やマッサージ代、延長料金まで含めて、5万円〜6万円かかったとしても、「ワークトリップ」の考え方でいえば、元を取ればいいだけのことだ。

1回の「ワークトリップ」において、100万円の利益が出るビジネスができたとすれば、経費は5%〜6%に過ぎず、抜群に費用対効果がいいということになる。

実際に、今回の「別府温泉 テラス御堂原」さんでの仕事は、将来に対して、100万円単位では済まない仕事になったと思っている。

実に、有意義な時間だった。

帰りのタクシーの運転手は、別府愛に溢れた人だった。

「でも、私は別府がいいですね」

と、二言目には笑顔でそういうのだった。

星野リゾートさんも出店する計画があるらしく、これから、様々な可能性があるのではないかと思った。

また、近いうちに来ようと思った。

別府温泉 テラス御堂原の皆様、本当にありがとうございました。

「ワークトリップ」の作法
一、宿が賑わう曜日や時間帯に部屋を取ることを避ける。
一、事前に仕事と休息の時間をプランニングしておく。
一、仕事をするときは極限まで集中し、休息するときは徹底して楽しむ。
一、部屋に専用の温泉が備え付けられている宿を選ぶ。
一、美味しい料理をしっかりと食べる。
一、睡眠時間をとる。

*この記事は、「別府温泉 テラス御堂原」さんの許可を得て書いております。
*記述の内容は、あくまで著者の主観によるものです。
*次回の「ワークトリップ」もお楽しみに。

 

■ライタープロフィール
三浦崇典(Takanori Miura)
1977年宮城県生まれ。株式会社東京プライズエージェンシー代表取締役。天狼院書店店主。小説家・ライター・編集者。雑誌「READING LIFE」編集長。劇団天狼院主宰。2016年4月より大正大学表現学部非常勤講師。2017年11月、『殺し屋のマーケティング』(ポプラ社)を出版。ソニー・イメージング・プロサポート会員。プロカメラマン。秘めフォト専任フォトグラファー。
NHK「おはよう日本」「あさイチ」、日本テレビ「モーニングバード」、BS11「ウィークリーニュースONZE」、ラジオ文化放送「くにまるジャパン」、テレビ東京「モヤモヤさまぁ〜ず2」、フジテレビ「有吉くんの正直さんぽ」、J-WAVE、NHKラジオ、日経新聞、日経MJ、朝日新聞、読売新聞、東京新聞、雑誌『BRUTUS』、雑誌『週刊文春』、雑誌『AERA』、雑誌『日経デザイン』、雑誌『致知』、日経雑誌『商業界』、雑誌『THE21』、雑誌『散歩の達人』など掲載多数。2016年6月には雑誌『AERA』の「現代の肖像」に登場。雑誌『週刊ダイヤモンド』『日経ビジネス』にて書評コーナーを連載。

この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

http://tenro-in.com/zemi/62637


2018-10-19 | Posted in WORK TRIP

関連記事