週刊READING LIFE vol.24

さよなら、Google先生!〜入社2年目の私から「OK Google」を封じた1冊の本〜《週刊READING LIFE Vol.24「ビジネス書FANATIC!」》


記事:坂田光太郎(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 

「本棚を見ればその人の本質がわかる」なんて昔から言われているが今は、「検索履歴をみればその人の本性が見えてくる」の方がしっくりくるかもしれない。
それだけ、スマホが普及し、なんでもすぐ検索できる時代。
多くの人が、片時もスマホを放さず、要求したい情報をすぐ検索する習慣がついていると思う。
日本テレビ系列で放送されている「月曜から夜ふかし」から生まれた人気企画に私はゾッとした。
「街行く人の検索履歴を調査してみた」だ。
タイトルの通り、街行く人の検索履歴を見せてもらうというものである。
放送されるのは街頭インタビューをした一部だと思われるが、その内容が凄い。
可愛い素朴な女の子が、「2股がバレない方法」を検索していたり、OLが単純に「病み」と検索していたり、男性が「携帯のAV見すぎて飽きた」とGoogleサイドも「だからなに?」と言ってしまいそうなワードさえも検索履歴にあった。
もはや、検索エンジンは、「調べるツール」というよりも誰にも言えない今の気持ちを吐き出すために使われているツールなのかもしれない。
だから、検索履歴はその人の本性が粗粗と出てしまうのだ。
私もその1人で、今の感情を検索エンジンに投げかける時がしばしばある。
すると、偉いもので、その感情に合った検索ページを見せてくれるのだ。
今や、親よりも、友人よりも頼りになる存在だ。
 
検索エンジンの代表格のGoogleに先生をつけて、Google先生と巷では呼んでいるが、私は違う。Google大先生だ。それだけ、頼れる存在なのだ。
だからこそ、検索履歴をテレビで見せるなんて考えられない。
家に人が上がるのも、カバンの中身を見られることも恥ずかしくないがスマホを見られることだけは強い羞恥心を覚えてしまうのだ。
特に検索履歴は心の中を覗き見られている感覚を覚えてしまう。
きっとこの気持ちを理解していただける人は多いはずだ。
それだけ私の生活には欠かせない検索エンジンだが、ある日を境に使用回数が減ったのである。
減ったというより、あえて減らしたと言ったほうがいいかもしれない。
きっかけはあるビジネス本と出会った5年前にさかのぼる。
 
入社2年の若手社員だった当時の私は悩みがあった。
それは先輩が忙しく質問があまりできないということだ。
私の職場は、とにかく勢いがある会社で、毎日が戦争状態であった。
ただ先輩の指示に従う。そこに考える余地はなく仕事を淡々と行うということに徹していた。
2年目になり、1年目よりかは仕事に余裕が生まれ始めたころになってからやっと「考える」ことを始めた。
「この作業は誰が求めているんだろう?」とか
「そもそも会社のどの部分の仕事に携わっているんだろう?」
など本当に基礎中の基礎が2年目でも備わっていなかったのだ。
それどころか、私は高校卒業後すぐ入社した身なのでビジネス用語すらわからなかったのだ。全くお恥ずかしい話だが、「リスケ」という言葉すら理解していなかった。
リスケとは、リースケジュールの略語で、予定を組み直すなどの意味があるビジネスの場では当たり前に使われている言葉だ。
当然職場では「午前の会議を午後にリスケして!」という具合日常的に使われていたが、忙しい先輩に尋ねる余裕もなく私は困り果てていた。
そこで頼りになったのは、やはりGoogle先生だった。
悩んでいた時間がバカに思えるほどあっさりと教えてくれた。
これに味をしめた私は先輩より先生に聞くという習慣が染み付いてしまった。
いつ聞けるかわからない先輩より、いつでも答えてくれる先生の方がずっと都合が良かったのだ。そんな時間が長ければ長くなるほど、当然だが先輩と口を利く数は減っていく。
先生に近づけば近づくほど先輩が遠く感じてしまう。
先輩と離れてしまう問題は薄々感じていた反面、それで仕事が回っているのであれば問題はないとも思っていた。
そんな折、私は書店であるビジネス本にたまたま出会った
 
「20代で身につけたい 質問力」(作・清宮 普美代)だ。
この本を手に取ったのは書店さんの本の紹介文に衝撃を受けたからだ。
力強く「Googleに頼るな!」と書いてあった。 多分私に充てられた紹介文だと勝手に感じたのだ。
私は本を手に取り、ページをめくると最初の項目に「Googleではなく、人に聞こう」と書いてあった。なぜGoogleに頼ってはいけないんだろうか。
あんなに私に寄り添って相談に乗ってくれるGoogle先生をなぜ頼ってはいけないのだろう。
その問いにビジネス本は「Googleは知識を与えてくれるが、知恵は与えてくれない」と答えた。
検索エンジンは1つの質問に対して1つの回答しかくれないが、人に聞くことで回答はもちろんだが、プラスで経験談や、補足情報をもらえる可能性があるという事が書いてあった。つまり、Googleに聞くよりも2倍も3倍も多く情報がもらえる可能性があるのだ。
そのプラスアルファを得る事も含めて「質問力」ということだと本には書いてあった。
ビジネスにおける「質問」とは答えよりも質問から派生する経験談や余談が重要であることを初めて知った。
 
早速翌日からなるべくGoogle先生を使わないことにした。
ある日のことだ。私は資料に必要な表をエクセルで作成してほしいと頼まれた。
当時、エクセルを全く使えなかったので、何もかもがわからないことだらけだった。
とりあえず、データは打ち込めたが、罫線引き方がわからない。
これでは表ではなくただの文字の羅列だ。
いつもなら、ここで、Google先生に頼ってしまう。
作成中何度もGoogleのトップページが頭を過る。
だが、「す、すみません」私が選んだのは先生ではなく先輩だった。
「うん? どうした?」
「罫線の引き方がわからなくって……」
「あー、このボタンをクリックしてすれば引けるよ」
「ありがとうございます!」先輩はお時間がない中、丁寧に教えてくれた。
と話しはここで終わると思った。
「これって、経理さんに頼まれた仕事だよね?」
「はい……」
「んじゃあ、予算と経費も書いてあげたら助かるんじゃない?
あと、表を作るなら、フィルタもつけてあげると気がきくよ」
とアドバイスしてくれたのだ。
予算や経費の欄を増やすなんて考えもしなか0ったし、フィルタという機能も初めて知った。まさにプラスアルファの情報だ。
検索エンジンに頼っていたら、まずこの情報は出てこなかった。
これが、ビジネスの「質問力」なのだ。
また、入社から何年も経ってからわかった事だが新入社員 と呼ばれる時代は、何が理解していないのかもわからない人がほとんどだと思う。
そんな状態でGoogleに頼るのは危険だ。
Googleを頼るのが危険というより、先輩に質問しないのがもったいないと言った方が正しいだろう。
予算や経費の欄が表で必要だっていうことを知ってる人、そしてフィルタという機能を知っているひとなら「罫線の引き方」とGoogleの検索ワードに打ってもいいかもしれないが、何も知らない人が検索エンジンを打つと罫線のことはわかるが、そのほかの予算や経費、フィルタについてはしらないままだ。
Googleは確かに便利だったが、その分プラスアルファを聞ける機会を失う。なんともったいない。
それからというもの、私は「質問力」を極めることに徹した。
この本では質問力を高めると4つの力が身につくと紹介されている。
人間関係を良好にする力、人を動かす力、自己成長する力、そして問題を解決する力だ。
確かに先輩とも質問のやりとりをしているうちに関係性は良好になった。
もちろん質問で自分の知識も増え自己成長ができた。
人を動かす力は先輩が私に既に実践していた。
先輩は私が何か失敗してしまった時、「どうしてできないの?」と質問はしなかった。
代わりに「どうしたらできるかな?」と私に聞いてくるのだ。
そうすることで、一緒に考えてくれているという安心感が生まれ、結果ミスへの対策が早く見つかる。やはり先輩はすごい。
確かに質問力を高めることで様々な力が身につく。
でも「問題を解決する力」というものがわからなかった。
質問をして問題を解決する。一見して矛盾している気がする。
問題を問題で解決する。QをQで解決する。
そんなことが果たしてできるのだろうか。
私はあまり理解できなかった。
が、ある日の会議で私自身が知らぬ間に「質問で問題を解決」していたのだ。
その日の議題は「残業をいかに減らすか」だった。
人も少ない中、先輩も私も日々のノルマに追われていた。
残業はもちろんしたくないがノルマを超えるには必要なことだった。
仕事のスピードを上げる工夫もやり尽くした。
を増やすか、残業時間を増やすか。その2択の議論になりそうな時
私はつい口を滑らせてしまった。
「そもそも、何のためにこの作業をやっているんですか?」
と。1年間やってきた手間がかかる作業が誰のためにやっているのかイマイチ理解していなかった。
さすがにこの質問は怒られると思ったのですぐに口を滑らせたことを後悔した。
だが先輩は「たしかに」と言った。
実は先輩も先輩に言われていたフローを忠実に行なっていたにすぎなかったのだ。
「なぜこのやり方なのだろう?」と疑問を持つ余裕もないまま、その作業は新入社員の私に回ってきたのだ。
バックオフィス業務に長くいるとわかるが、この事例はレアケースではない。
仕事は効率よく回るようにルーチン化される。それ事態は良いことだが、ルーチン化すると人は考えることをやめる。
ルーチン化された手順を行えば何も考えなくても作業はできるのだ。
しかし、組織というものは、長い年月何も変わらないというものでもない。
私が疑問に思った作業のマニュアルは2年前に作られていたもので、
当時存在していた部署が必要としている作業と書いてあった。
だが、その部署はもう存在していない。
時代に合わない作業を行なっていたのだ。
作業は無くなることはなかったが、業務内容が改善され残業が5時間ほど削減された。
まさに「質問で問題を解決」したのだ。
きっと、みなさんの仕事でも、ルール化され、誰も仕事を理解していない作業があると思う。
ルーチン化された業務は必ず陳腐化する。
腐る前にぜひとも「そもそも」質問を試すことをお勧めする。
「そもそもなんのための仕事なんですか?」と言ってみると思わない反応が返ってくるかもしれない。
まずは臆することなく質問をする。そんなことを教えてくれた本だった。
 
ネットで何でも解決できる時代では「質問する」ことは疑問を解決するための数ある手段の中の1つなのかもしれない。
検索エンジンに入力さえできれば即疑問は解決される。
だから、「質問力」というのはあんまり活躍しない力だと思う方もいると思う。
でも私はあのビジネス本を読んでただ疑問を解決する手段ではなく、なにかを得るための手法であることを知った。
 
もちろんGoogleを使うな、なんて本にも書いてないし、私もまったく使わないわけではない。
今も先輩や、仕事仲間に質問するように心がけているが、どうしても早く答えを知りたいときGoogleを活用する。
それでいいのかもしれない。最近はそう思うようになった。
人に質問して自分が成長する。でも、いざとなったらGoogle先生に相談できる。
その関係性が一番いいのかもしれない。
まるで影から私の成長を見守ってくれている先生のようだ。
 
きっと「質問力」は自分を人間として大きく成長させる。
そんなことを考えさせられる1冊だった。
「質問力」私もまだまだ追及していきたい力である。
なので、私が、「OK、Google」と唱える日はもう少し先のこととなりそうだ。

 
 

❏ライタープロフィール
坂田光太郎 26歳
READING LIFE 編集部ライターズ倶楽部
東京生まれ東京育ち
10代の頃は小説家を目指し、公募に数多くの作品を出すも夢半ば挫折し、現在IT会社に勤務。
それでも書くことに、携わりたいと思いライティングゼミを受講する
今後読者に寄り添えるライターになるため現在修行中。。。

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2019-03-18 | Posted in 週刊READING LIFE vol.24

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