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週刊READING LIFE vol.24

「発表なんてやりたくなーい!」と言えない人のための、転ばぬ先の本《週刊READING LIFE Vol.24「ビジネス書FANATIC!」》


記事:みずさわともみ(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 

「5分程度で事例発表をしていただけないでしょうか?」
私のもとに、背筋の凍るメッセージが届いた。
世の中にはこういう依頼を「よし来た!」と二つ返事できる人もいるかもしれない。
けれど、私はそっち側の人間ではない。
やだやだ! 絶対やだー!!
と思ってしまう人間だ。それは小学生のころのある出来事がきっかけになっている。

 

あれは小学1年生の、2学期が始まる日のことだった。事件が、起こった。
私はいつも落ち着きがなく、1学期の授業でも先生にちょっかいをかけてばかりいた。そのため、1学期が終わる頃、
「ともみさんは元気がいいから、2学期の始業式に学年代表であいさつをしてみませんか」
と言われた。けれど実は、状況を全くわかっていなかった。ちゃんとわかっていたのは、母親や2つ年上の姉だろう。取りあえず母親と一緒に原稿用紙に、「2学期、がんばりたいこと」というような文章を書いた。
これを、ただ読めばいい。
発表会ならセリフを覚えなきゃならないけれど、みんなの前で原稿用紙を広げて読んでいいなら楽勝だ!!
そんな風に思っていた。でも、
その考え、甘いよー!!
何も考えずに引き受けたあの頃の私に、そう教えてあげたい。
当日朝、体育館に入る扉の前に私を含む学年代表6人は待機させられる。
全校生徒約600人は、体育館で整列し、こちら側を向いている。
みんなより遅れて私たちは、先生たちのとなりに列を作って並ぶのだ。
1年生の私は、その列の先頭だった。
流れは先に教えてもらってあり、小さな階段で体育館のステージに上がることなどは理解していた。けれどこのステージの高さ、保育園のそれとは比べ物にならなかった。私の身長よりも高かったのだ。
先生に言われた通り、ステージの上へ行き、自分の名前を呼ばれ、マイクの前で話し始めたころには私の目は、涙でいっぱいになっていた。
いきなり600人の前は、きつかった。
私にとって「人前で泣くこと」は、「おもらしバレた」並みの破壊力があった。事件だった。
幸い、クラスの友だちは私を冷やかしたりはしなかった。なんなら1年生だし、ちゃんと見ていなかったのかもしれない。けれど、私はみんなが忘れたと思って安心しきった、事件の2年後に、
「あ、新学期の抱負で泣いてた子じゃん!?」
と、初対面の部活の先輩にからかわれるのだ。

 

こんな記憶のせいで私はいつでも簡単に、発表となると小学1年生の自分に戻ってしまうのだ。ほんと、いらない特技だと思う。大人になってもこの状態は、正直自分でも情けない。それに、
「変われないのは、自分にとってそれが都合がいいからなんじゃない?」
って、友だちに言われたことがある。
発表できないって言えば発表しなくて済む、誰かが代わってくれる、なんて甘えがあるのかもしれない。
でもそういう他力本願なところを変えたい、そう思った。

 

私は「発表してもらえませんか」という話を受けることにした。
自分のしてきたことを上手く伝えられる自信はさらさらないけれど、やってみることにした。
私には、「本」があるじゃないか!!
なぜだか、そう思えたのだ。

 

すぐに思い浮かんだのが、
「1分で話せ」
だ。著者の伊藤羊一さんはトークイベントでお話を聴かせてもらったことがあり、人柄の良さが印象に残っている。きっとこの本が自分に力を貸してくれるはずだ。
1分で話すことを普段求められていない私がこの本を手にしていたのは不思議だ。けれど、救いだ。
私に与えられた発表時間は5分。
単純だけど、「1分×5=5分」で行こう。

 

そんな風に思ったものの、発表依頼があってからの約2週間、私は仕事や趣味など、もともとあった、はずせない予定に追われていた。あとでお願いされた「発表」を、ほかの予定を押しのけて優先することはできなかった。だから、この「1分で話せ」という本を手にした私は、かなりせっぱつまっていた。
助けてください!!
という気持ちでいっぱいだった。
けれど、「あさって発表しなきゃだけど、どうしたらいいかわからない」なんて人は、私以外にも世の中に大勢いるはずだ。そんな「今、まさに困ってます!」という人間にサッと手を差しのべてくれるのが、「ビジネス書」なのではないだろうか。
すると案の定、この「1分で話せ」は目次のページの段階で、すでに私を助けてくれる言葉であふれている。
本の全部を読んでいる時間も気持ちの余裕もなくても、これだけは、という結論が書いてあるのだ。
私は、「この発表のゴールは何か?」「相手は何を自分に求めているのか?」を考えた。
自分に自信がない。それでも期待されたということに自信を持って、シンプルに伝えてみようと思えた。本を読んでいるうちに、勇気も湧いてきた。
話す内容を決めると、ストップウォッチを使って、5分で話せるように練習した。
当日は、緊張はやっぱりしたけれど、自分のためではなく聴く人のために、を意識して話した。
すると思いがけず、
「ありがとう」「参考にしてみるよ」
という言葉をたくさんもらえた。
他人から見るとたった5分。けれど私は、なんとか自分がやりきれたということがうれしくて、自分で自分をほめてあげたい気持ちになった。

 

これまで私は、発表というと敵陣に乗り込むような気持ちで挑んでいた。
実際、敵意とまでいかなくても、主張を崩そうとする質問を投げかけられることは多かった。刀1本で100人を斬っていくイメージ。それくらい、発表するときは胸が苦しくなった。
けれど、ほんとうは違った。伊藤羊一さんのおかげで気づけた。
私の事例発表は、刀じゃなくて、階段だ。
私が小学1年生のとき、ステージの上に行くのに使った階段みたいなものなんだ。
誰かを斬るんじゃない。
誰かが、もっと高いステージに上がるための、ステップにしてもらうんだ。
だから、すごくなくていい。届いて、考えるきっかけになって、その人の行動の役に立てばいい。寄り添って行ければいいんだ。
ようやく、私はそのことに気づけた。

 

発表に限らず話下手な私は、これからも何度もこの
「1分で話せ」
という本に助けてもらうだろう。
そのときの状況によって、響く言葉も変わってくるだろう。だから何度も、何度も読もうと思う。
そうしていつかまた伊藤羊一さんに会うようなとき、
「この本で私は変わりました! 伝えることが楽しくなりました!!」
と言えるくらいの自分になっていられるように。
話すこと、伝えることへの希望と一緒に、
「1分で話せ」
という言葉を心に、刻みこんでおきたいと思う。

 
 

❏ライタープロフィール
みずさわともみ(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

新潟県生まれ、東京都在住。
大学卒業後、自分探しのため上京し、現在は音楽スクールで学びつつシンガーソングライターを目指す。
2018年1月よりセルフコーチングのため原田メソッドを学び、同年6月より歌詞を書くヒントを得ようと天狼院書店ライティング・ゼミを受講。同年9月よりライターズ倶楽部に参加。
趣味は邦画・洋楽の観賞と人間観察。おもしろそうなもの・人が好きなため、散財してしまうことが欠点。
好きな言葉は「明日やろうはバカヤロウ」。

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2019-03-19 | Posted in 週刊READING LIFE vol.24

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