週刊READING LIFE vol.44

ラジオを愛しすぎた人々の6月5日~感動の山里良太の結婚会見に隠された、もうひとつの感動ドラマ~《 週刊READING LIFE Vol.44「くらしの定番」》


記事:坂田幸太郎(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 

「私、結婚致しました」
ラジオから聞こえる彼の声はいつもの気丈な明るい声だった。しかしあの日だけは彼の声が凛々しくも聴こえたのである。
 
実家を出て丸2年。テレビっ子だった私がテレビを見なくなった。
全く見ない日もある。
理由は家事の妨げになるからだ。
料理、洗濯、掃除。
よくテレビをBGMとして聞きながしながら家事を行う方がいると思う。
私にはそれができない。
テレビをつけているとどうしても観たくなってしまうのだ。
テレビが家のBGMであるといろいろ非効率極まりないことに気づいてしまった私は極力テレビを点けないことにした。
元テレビっ子の私にとって苦渋の決断だ。
親離れは簡単だったが、テレビ離れは辛かった。
 
テレビを観ることを禁止にした私だが、やはり一人暮らしの生活音は寂しいものだ。
なにかBGMになるものはないかと探していたところ、ラジオの存在を思い出した。
ラジオは学生時代から聞いており、社会人になっても通勤のお供として楽しんでいた。
馴染みがあるラジオを家事の時に聞き流すことが毎日の定番になったことで、楽しみながら作業が出来るようになった。
 
私がよく楽しませてもらっている番組は、TBSラジオで平日の深夜1時より放送されているJANKだ。
ラジオといえば「JANK」という方も多いのではなかろうか。
日本を代表する番組といっても言い過ぎではない。
曜日ごとにパーソナリティーは変わる。
「月曜JANK 伊集院光の深夜の馬鹿力」
「火曜JANK 爆笑問題カーボーイ」
「木曜JANK おぎやはぎのメガネびいき」
「金曜JANK バナナムーンGOLD」
そうそうたる芸人さんたちが週替わりで番組を受け持ち深夜にトークを繰り広げるのだ。
おそらく、ラジオほど芸人の本音を聞ける媒体は他にないだろう。
特にJANKはパーソナリティーのラジオ愛が強すぎる。
だから、時にネットニュースの餌食になるのだ。
「太田光、ラジオで激白!」なんて記事を何回みただろうか。
それだけ愛情が強いし、リスナーもそれに負けないラジオ愛があると思う。
先日、そんなラジオ愛が互いの高まり、重なった瞬間が私の最も古くから聴いている番組「水曜JANK、山里亮太の不毛な議論」で起こった。
パーソナリティーは南海キャンデーズの山里亮太。
山里亮太といえば、女優の蒼井優と結婚し、世間を賑わしたことは記憶に新しい
と思う。
6月5日は、朝のニュースからお昼のワイドショー、夜の報道番組まで、彼の話題一色であった。
ネットでは「ドッキリなのではないか?」などこのニュースを疑う書き込みやつぶやきも多くこの日は様々な意味で世間を賑わせた。
私も突然の結婚報道に驚き半ば、冗談かとおもった。
しかし、カレンダーを見てフェイクニュースではない事を確信した。
なぜならこの日が水曜だったからだ。
水曜日に結婚発表をした意味をリスナーは全員読み取ったに違いない。
「全てはラジオで話す」という山里なりのサインを。
 
いつも過去のラジオを拝聴できるアプリで聴いている私だが、この日ばかりはリアルタイムで彼の第一声を聴くことに決めていた。
リアルタイムの方が少しでも近い距離で彼の声を聴けるような気がしたからだ。
そして、深夜1時。
「私、山里亮太、女優の蒼優さんと結婚しました!水曜JANK、山里亮太の不毛な議論」
第一声は明るく気丈ないつもの山里の声だったが、この日は心なしかいつもの山里の声が清々しくも、凛々しくも聴こえた。
 
まず初めに、山里は、この第一声をラジオでいうのが夢だった事と語った。
自分の人生において、重要な出来事はリスナーに聴いてもらおうとラジオが始まった
当初から決めていたそうだ。
彼もまたJANKとリスナーを愛しすぎている芸人なのだ。
 
「不毛な議論」はネットニュースを書くライターにとって一番の標的であったにちがいない。
クズ芸人としてのキャラクターも相まって、彼のラジオで発する発言は、度々ネットを騒がせた。
ラジオが始まって間もない頃は人の悪口、嫉妬、恨み辛みを包み隠さずラジオで放出し、山里のSNSが常に炎上していた記憶がある。
炎上してもラジオでは本音を伝えるという彼なりの思いが当時から、あったのだろう。
決して綺麗事を並べたラジオではない。人の恨み、悪口、下ネタは常套手段。
クズ中のクズの内容だ。そんなクズ芸人のラジオを聴くリスナーは当然のように曲者だ。
 
リスナーからラジオへ宛てられたメールは、どこかネジが外れているものが多い。
だが、そのネジが外れてしまっているメールこそが超絶に面白のだ。
「このメールを送ったリスナー、社会不適合者なんじゃないか」と心配してしまうこともあるが、山里が今まで実際にイベントなどで会ったリスナーは、いたって真面目な好青年が多いという。
いつもサイコパスなメールを送るリスナーの職業が公務員だったとか、際どい下ネタメールをおくってくるリスナーは小学校の先生だったなど実生活とラジオとのギャップが凄い人が多いらしい。
リスナーも実生活で出せない自身の密かなるサイコパス感や変態感情をラジオで隠すことなくぶつけて笑いとして消化してるのだ。
山里の本音とリスナーの本性が作り上げた番組、それが「不毛な議論」なのだ。
 
山里とリスナーの絆は深い。
結婚発表したこの日も「おめでとう」よりも、山里の結婚イジりメールが多かった。
きっと、山ちゃんは「おめでとう」よりイジってあげた方が喜ぶと思ったリスナーが感じ取ったのだろう。
きっと山里に送りたいメッセージなんて5文字で足りるはずなのに。
まったく、性格が曲がったリスナーが多いラジオだ。
でも、そのリスナーの気遣いはどんなお祝いコメントよりもメッセージ性が強く愛情がこもったメッセージであることは間違えない。
 
番組は終盤に差し掛かり、山里は「結婚が怖かった」と告げた。
ずっと幸せの人を妬みで笑いを取ってきた自分が幸せになることでリスナーが離れてしまうことが怖かったそうだ。
でもあるリスナーが「山ちゃんの不幸だけでラジオを聴いていないですよ。リスナーは、山ちゃんの幸せを祝う準備はできています。」と言ってもらって結婚する決心がついたという。
今日もたくさんのメールをもらい、「俺たちは、山里の不幸だけを楽しみにラジオを聴いていないぞ」と言う声が聞こえたという。
それは紛れもなくリスナー一人一人の声だ。
 
ラジオを聴き終えた深夜3時。私は一粒の涙をこぼした。
まさかラジオで泣くとは。しかも不毛な議論に泣かされるとは。
6月5日、その日は山里と蒼井優の結婚に日本中が賑わった日であった。
しかし、不毛リスナーにとっての6月5日は山里とリスナーの絆が固く強いものだと改めて感じることができた特別な日であった。
 
ラジオはパーソナリティーの温もりを一番近い距離で感じられるコンテンツだ。
パーソナリティーの思いに触れ共感し、いい番組をリスナーと共に作り上げる。
私は、5年間「不毛な議論」に支えられ続けてきた。
仕事で辛い日があっても水曜日を楽しみに、なんとか生きてきた節がある。
水曜日は、山ちゃんといつものリスナーに会えるような気がした。
きっと全てのリスナーがラジオを心の支えにしている。
だから山里を今回は祝福しようとおもったのだ。
こんなこと、リスナー全員思っていること。
だが、誰一人として口にはしない。
まったく、本当に捻くれたリスナーが多いラジオだ。
 
動画が昔より簡単に観られる時代。
そんな時代だからこそ私はラジオをおすすめしたい。
音だけで人を笑わせ時に感動させるラジオはシンプルだからこそ人の温もりが近い距離で通じるコンテンツなのだ。
あなたの生活にもラジオを。
きっと聞けばパーソナリティーやリスナーの仲間たちが見えてくる。
 
ちなみに前回の不毛な議論は山里がカメラマンについて怒りをぶちまけていた。
やはり、山里のクズっぷり結婚しても健全のようだ。
全く、いいんだか、わるいんだか。

 
 
 
 

◻︎ライタープロフィール
坂田幸太郎(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

26歳
東京生まれ東京育ち
10代の頃は小説家を目指し、公募に数多くの作品を出すも夢半ば挫折し、現在IT会社に勤務。
それでも書くことに、携わりたいと思いライティングゼミを受講する
今後読者に寄り添えるライターになるため現在修行中。。。

 
 
 
 
http://tenro-in.com/zemi/86808

 


2019-08-05 | Posted in 週刊READING LIFE vol.44

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