週刊READING LIFE vol.128

つまらないものには、メーン!《週刊READING LIFE vol.128「メンタルを強くする方法」》


2021/05/17/公開
記事:丸山ゆり(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「つまらないものですが」
 
子どもの頃、母が誰かにお礼の品を渡すとき、決まってそう言いながら贈っていたのが印象的だった。
 
「お母さん、そのお菓子、ウチでみんなが、メッチャおいしいって言ってるヤツやん」
 
そんな思いを抱きながら、母の顔を見上げていた。
なのに、どうして相手の人には、「つまらない」って言うんだろう、そのやりとりが不思議で仕方なかった。
その時、その疑問を母に確かめたかどうかは忘れたのだが、いつも頭にはクエスチョンマークが浮かんでいた。
 
「つまらないもの」は、贈るときもあれば、わが家にやってくるときもあった。
 
近所のおばさんが、「つまらないものですが」と言いながら、家族みんなが大好きないちごをたくさん持ってきてくれるのだ。
 
「全然、つまらんことないんやけど」
 
大人のやり取りは、不思議この上なかった。
 
やがては私自身が大人になり、周りの人たちとのお付き合いにおいて、贈り物をする機会が増えて行った。
すると、御多分に漏れず、私自身も「つまらないものですが」と言うようになったのだ。
なんだかおかしなものだが、ずっとそんな言葉を聞いて育ってくると、それがマナーのような、正しいことだと思い込んでしまうようだ。
子どもの頃、あんなにも不思議に思っていた言葉だったのに、自らも使うようになっていたのだ。
でも、絶対に言えるのは、その私が選んだものは、自分の中では最高に美味しいものに決まっている。
そうでないと、選ぶはずがないから。
そうなんだけど、いつも口をついて出てくる言葉は、「つまらないもの」だ。
 
言葉とは不思議なもので、そんな言葉を何度も繰り返し使っていると、本当に気持ちまでもそうなってくるのだ。
人様に対して、何かしらお礼のものを贈るとき、自分のチョイスはセンスがなく、「つまらない」ランクのものだ、と思い込んでしまうのだ。
それは、自分よりも目上の人生の先輩だったり、私がいくら背伸びをしても追いつかないくらいセンスの良い友人だったり。
必然的に、引け目を感じてしまうシチュエーションもあるのだが、それにしても必要以上に気持ちが萎えてしまうのだ。
そもそも、「つまらないものですが」なんて言いながら、贈り物をする人種は日本人くらいだろう。
こういう言葉は、元々は謙虚な姿勢としての言葉として始まったのか、いわゆる日本人としての心を尽くしたマナーなのか。
それでも、これぞ、日本人の奥ゆかしさとか言われたら、むずがゆくて仕方ない。
 
自分が選んだものを、胸を張って相手に渡す前に、もしも相手の好みでなかったら、受け入れられなかったら、という場合の擁護のように思えて仕方ない。
なんだか、そもそもの意味合い、お礼を伝えたいという思いは一体どこへ行ってしまったんだと、訳がわからなくなってしまう。
関西人なので、吉本新喜劇が日常にあるのだが、そこで繰り広げられる茂造じいさんの言葉を借りて、
 
「つまらないものには、メーン」と杖でたたき落としたくなる。
 
「つまらない」とあなたが思うようなものを持ってくるなよ、と。
 
こういう言葉のやり取りは、作法という奥ゆかしさよりも、メンタルを落としてゆく原因の方に大きく作用しているように感じてならないのだ。
よく、日本人はメンタルが弱いと言われるが、古くからしきたりのように身についている、こうした言動の一つひとつも要因になっている気がして仕方ない。
 
例えば、スポーツ界でも、オリンピックなどの国際試合では、練習量の多さは世界一と言っても過言ではないのに、本番で力を発揮しきれないケースが多いと言われる。
 
練習量=メンタルの強さ、ではないことがわかる。
なので、近年、オリンピックなどの国際試合の代表選手には、メンタルのトレーニングも強化されてきていると聞く。
特にスポーツなどでは、「心・技・体」のバランスが大事だとされている。
ところが、実際は「心」がやられてしまうと、トレーニングで培ってきた「技」と「体」のパフォーマンスは大幅に低下してしまうと言われる。
確かに、心、メンタルが全てを左右している。
一流のスポーツ選手が必要と言われるメンタルと、日常生活で活かされるメンタルは少し違うかもしれないが、メンタルが強いことに越したことは無いと思う。
 
それには、やはり日々の言動が大切だと思う。
 
「私、〇〇さんみたいに上手くできなくて、全然ダメなんです」
 
「これ、つまらないものですが良かったらどうぞ」
 
「今はまだ力不足で、なかなか戦力にはなれませんが」
 
結構、こういう種類の言葉を平気で使っているものだ。
自分を奮い立たせるのは、やっぱり自分自身でしかない。
それには、まずは言葉のチョイスから変えてみると良いと思う。
 
大人になって、周りの人とのお付き合いで贈り物をした際、「つまらないものですが」と言っていた私も今ではその言葉を変えるようになった。
 
「これ、私が好きなおまんじゅうなんです。甘味が強くなくて後味もさっぱりしていていくらでも食べられるところが気に入っているんです。良かったら、お味見してみてください」
 
そんなふうに、しっかりと自分の思いを伝えつつ、良いと思うものの、良いところを伝えて贈っている。
 
「つまらないものには、メーン」
うん、やっぱりそう思う。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
丸山ゆり(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

関西初のやましたひでこ<公認>断捨離トレーナー。
カルチャーセンター10か所以上、延べ100回以上断捨離講座で講師を務める。
地元の公共団体での断捨離講座、国内外の企業の研修でセミナーを行う。
1963年兵庫県西宮市生まれ。短大卒業後、商社に勤務した後、結婚。ごく普通の主婦として家事に専念している時に、断捨離に出会う。自分とモノとの今の関係性を問う発想に感銘を受けて、断捨離を通して、身近な人から笑顔にしていくことを開始。片づけの苦手な人を片づけ好きにさせるレッスンに定評あり。部屋を片づけるだけでなく、心地よく暮らせて、機能的な収納術を提案している。モットーは、断捨離で「エレガントな女性に」。
2013年1月断捨離提唱者やましたひでこより第1期公認トレーナーと認定される。
整理・収納アドバイザー1級。

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2021-05-17 | Posted in 週刊READING LIFE vol.128

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