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週刊READING LIFE vol.128

大豆田とわ子と面倒臭い人生《週刊READING LIFE vol.128「メンタルを強くする方法」》

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2021/05/17/公開
記事:秋田梨沙(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
*ドラマのネタバレを含みます。
 
 
ここ最近、ずっと泣いている。
通勤電車の中も、会社の休み時間も、帰ってきて夕飯を作っている時さえも。さすがに仕事中は泣かないようにしているけれど、ふとした瞬間にその時の感情が湧き上がってしまって困っている。随分と捕らわれてしまったものだと思う。四六時中そのことを考えているのだから、当然、脳みそも疲れてきた。なのに考えてしまう。あのセリフの意味を体に溶かし込むようにして、じっくり味わっている。スルメのように噛み締めているのではない。口の中でチョコレートが溶けるのを待つように、その甘さと苦さをただぼんやりと感じている。
 
私にとって、ドラマ「大豆田とわ子と三人の元夫」は、そういう存在だ。
 
大したきっかけはなかった。松たか子が好きだし、出ている俳優さんも良さそうで、面白そうだからちょっと見てみようと思ったのだ。楽しみにしていた割には当日すっかり忘れて、慌てて翌日TVerで追っかけて見た。通勤電車は片道約20分なので、往復でちょうど1本見られるし良いだろうと、気軽に再生ボタンを押したのが運の尽き、職場の最寄駅に着く頃には、すっかり心を掴まれてしまっていた。泣く泣く一時停止して、落ち着かない気持ちで午前の仕事をやり過ごし、昼休みは泣きながら続きを見た。そして、帰りの電車で、私は再び「始めから見る」のボタンを押していた。それから、1週間毎日、第1話を繰り返し見続けたのだった。こんな事は、未だかつて無い。
 
ドラマの内容を簡単に説明すると、松たか子演じる主人公「大豆田とわ子(おおまめだとわこ)」が、ひょんなことから再会した3人の元夫たちに振り回されながらも、自身の幸せを諦めずに日々奮闘するという話だ。「東京ラブストーリー」や「花束みたいな恋をした」の坂本裕二が脚本を手がけている。音楽もとても良く、オシャレ偏差値の低い私は第1話の冒頭から「なんだ! この美味しいパン屋さんで流れていそうな曲は!」と、心鷲掴みであった。さらにはドラゴンボールED「ロマンティックあげるよ」を全力で熱唱してくれる松たか子を拝むこともできる。第4話ではポケモン世代には堪らない「ニャースのうた」まで歌ってくださった。懐かしい上に、言うまでもなくお上手なので、耳が喜んだ。とわ子と元夫達が歌うドラマのED曲もとにかくカッコいいので、偏差値の低い私の説明なんかより、とにかく聞いてみて欲しい。各話ごとに物語を反映させた異なるラップパートが流れて、なんとも言えない余韻を残すのである。
 
もちろん、登場人物にもそれぞれ魅力がある。主人公「大豆田とわ子」は、3人の元夫がいるわけだから、当然3回結婚して、3回離婚している。おまけに中学生の娘がいるシングルマザーで、建設会社の社長をしている。一見すると強そうな肩書が満載なのだけれど、ドラマの中のとわ子は、とても「普通」だ。ラジオ体操が他人とズレたり、AirPodsをうどんの中に落としたり、お会計でQRコードを出すのに手間取ったりする。そのちょっと残念な様子に共感して、つい愛おしくなる。3人の元夫たちも、それぞれに残念で、愛おしい。優しすぎるが故にモテすぎて困る最初の夫・田中八作(松田龍平)、
器が小さすぎる2番目の夫・佐藤鹿太郎(角田晃広・東京03)、ひねくれ者で不器用な中村慎森(岡田将生)。とにかく全員面倒臭い。けれども、離婚した理由が明かされるにつれて、それぞれが抱えている後悔や葛藤に共感する。バカだなぁ……と残念に思いながら、自分にもそういう一部があることに気づいてしまうのである。
 
前半そのテンポのいい会話劇にひたすらクスクス笑わされ、すっかりほぐれたところに、後半で心に突き刺さるセリフの数々が飛び出すのである。武装解除しているので、心のど真ん中がえぐられる。TVerで夢中になったあの日、会社のデスクでも構わず涙腺崩壊してしまったので、初回の失敗以降は人気のない場所でひっそり見るようにしている。
 
何がそんなに私の心に響くのか、この時はまだ分からなかった。ただただ、「面白い」としか表現の方法がなく、誰彼構わずオススメして回った。優しい友人が何人か感想を返信してくれたのだが、その度に「何か違う」と感じた。そのシーンも確かに良かった。あのセリフも間違いなく良かった。でも、そこじゃないんだ。私が言いたかったのはその時の、とわ子のセリフの方なんだ……。なんとなく消化不良の気持ちのまま、第4話を見た。そして、誰もが感動しているであろうシーンで、私はとてつもなく怒っていた。
 
第4話はとわ子の友人である、かごめがひと騒動を起こす。幼少期から社会に上手く馴染めないかごめが親族とトラブルを起こし、失踪しかけたところで、とわ子に発見されて戻ってくる。そして、かごめは一念発起して、子供の頃二人で目指していた漫画家を再び目指すのだと宣言する。とわ子は喜んで、私も手伝いたいというが、かごめに、これは私1人でやるのだとキッパリ断られてしまう。そこでの2人の会話がこうだ。
 
「ジャンケンで一番弱いのはルールがわからない人。私にはルールがわからない。会社員もできない。要領が悪いってバイトもクビになる。みんなが当たり前にできていることができない。あなたは違うでしょう」
そう話すかごめに、とわ子は、そんなに上手く社長業ができているわけじゃない、私だって辛いんだと答えるも、
「でもできてる。それは、すごいことだよ」
と肯定されてしまう。とわ子のような人がいると言うだけで、私も社長になれると小さい女の子の希望になるのだと、かごめは続ける。
「それは、あなたがやらなきゃいけない仕事なの。私には何もない。だから、上手く行こうが行くまいが、やりたいことをやる。1人でやる」
 
腹の底からムカムカが止まらなかった。世間の「普通」に馴染めなくて、生きづらさを感じている人たちがいることは理解できるし、否定もしない。かごめが、この時、やりたい何かを見つけて、前に進み始めたことは、応援すべきことだ。ただ、こんな残酷なセリフを親友に正面から突き付けられたとわ子はどうしたらいいんだろうか。「普通」にできるからと言って、「平気」な訳ないじゃないか。辛いことも悲しいことも、嫌になることもある。けれども、頑張ったら何とかなってしまう。そんな、「普通」に生きれちゃった人は、まだ我慢を続けなくちゃいけないのか、まだ頑張らなくちゃいけないのか。そう思ったら居た堪れなくなった。
 
第1話でのとわ子のセリフが蘇ってくる。
 
「楽しいまま不安。不安なまま楽しい」
 
多分、とわ子というより、私がそう思っている。自分の行動に自信なんか無い。ちょっと頑張って、1日1日を必死に過ごしてきたら、結果的に、たまたま、今が悪くないだけなのだ。だから余分に感情移入して、怒っている。私自身、母が早くに亡くなったり、育休から職場復帰したところで父の介護生活が始まったり、辛いことも悲しいこともたくさんあった。けれど、どうにかこうにか頑張って、日々を「普通」に楽しく生きている。別に不幸自慢がしたいわけじゃない。誰もが言わないだけで、静かに病気と戦っていたり、結婚・妊娠、親族との関係に悩んでいる。実はみんな、1つや2つの大きな傷を抱えて生きている。細かい傷まで数えたらキリがない。だけど、もう大人だから、わざわざ言わないで頑張っている。「普通」に生きれちゃっている。仕方ないよねと、今日も大丈夫なふりをして、片目をつむって歩いている。それだけだ。
 
まっすぐ前を向いている人を見ると、つい思う。強くて、眩しくて、誰の助けもいらないように思う。自分もあんな風にメンタルが強ければいいのにと思う。けれど、よく見て欲しい。それが片目をつむった、大丈夫の「ふり」だという事を。頑張る、我慢するが「普通」になって、本人も気が付いていないのかもしれない。ちょっとが積み重なって、よく分からなくなっているのだ。ちっとも大丈夫なんかじゃない私を早く見つけて欲しい。誰か手をつないで欲しい。そんな小さなサインを出しながら、「普通」に生きれちゃっているだけなのだ。そんな一生懸命な大人が、貴方の周りにもたくさんいるはずだ。そして貴方自身もきっと、そのひとりなのだと思う。
 
ドラマはまだ前半を終えたところだ。こんなに次週の放送を心待ちにしているドラマは何年ぶりだろうか。私は、とわ子に自分を重ね合わせて、とわ子が救われる未来を期待している。ついつい大丈夫な道を歩いてきてしまった彼女に、納得できる未来が訪れるようにと願っている。でもきっと、最後はやっぱり、ちょっとの無理をして「普通」に生きていってしまうのだろう、とも思う。生き方なんて、そうそう変えられるものではない。そんな不器用な私の生き方を否定しないで、肯定して欲しい。そんな、ワガママな願望も抱えている。あー、なんて人間って面倒臭い生き物なのか。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
秋田梨沙(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

愛知県出身。
2020年8月から天狼院書店のライティング・ゼミ受講。2020年12月よりREADING LIFE編集部ライターズ倶楽部参加。頑張る誰かの力をそっと抜いてあげられるような文章を書けるようになることが目標。

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2021-05-17 | Posted in 週刊READING LIFE vol.128

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