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週刊READING LIFE Vol,95

コレさえ出来たら、死んでもいい! ~自分を好きになる方法~


記事:千神 弥生(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
ずっと記憶のなかにある、見たくない過去。
誰にでも、1つくらいはあるのではないでしょうか。
 
それは、いつも、自分の真上にうっすらとかかる雲のようで、足元に翳を落とします。
 
小学校低学年の頃だったと思います。
 
近所に、まさこちゃんという女の子が住んでいました。
 
まさこちゃんは、いわゆる障がいを持った、年下の女の子でした。
 
細くて元気がなく、目だけがキョロキョロとしていました。
全然喋らなくて、「なんだか他の子と違う気がする」、そんな認識でした。
 
私と言えば、当時からとても気が強く、活発な女の子でした。
 
男の子を田んぼに突き落としたり、女の子をイジメている男子には年上でも文句を言いに行ったりと、元気いっぱい。
 
近所の小さな子供たちがいつも私と遊びたいと言って集まってくるので、その子たちをまとめるリーダー役もしていました。
 
大人たちから見ると、子供たちとよく遊んでくれる勝気な女の子、という印象だったと思います。
 
ある時、どういうわけか、まさこちゃんと私が二人きりでいたことがあります。
遊んでいたのか、たまたまそういう流れになったのか、今でもよく分かりません。
 
まさこちゃんが、私の前で、小さな子供用のイスに座ろうとしました。
 
私は、その瞬間、その小さなイスを、スッと後ろに引いたのです。
妹や友達同士でするような、ちょっとしたイタズラのつもりだったんです。
 
まさこちゃんは、スローモーションのようにゆっくりと後ろに傾き、尻もちをつきました。
 
その時、私の方を向いた大きな瞳は、驚きによって見開かれていました。
 
ハッと、我に返りました。
 
「ごめんね! ごめんね! 大丈夫!?」
 
慌ててすぐにイスに座り直させました。
 
まさこちゃんは、何事もなかったかのように、微笑んでいました。
 
私はホッとしたのですが、まさこちゃんと遊んだのは、それが最初で最後だったと思います。
 
あのまん丸い瞳を見た瞬間、大きな罪の意識を感じたことだけは、ハッキリと覚えています。
 
この記憶は、特に誰かに話す機会もなく、ただ、しっかりと覚えたまま大人になりました。
 
30才を過ぎた頃です。
 
生まれて初めて、友達からこんな質問をされました。
 
「ねえ、自分のこと、好き?」
 
私は、即座に答えました。
 
「え、嫌いだよ」
 
友達は、なぜ嫌いなのかを、私にしつこく尋ねました。
その子自身もまた、自分のことが嫌いだったようで、それで私の理由に興味があったようです。
 
私は、たくさんの自分の嫌いなところを伝えました。
 
目がぱっちりしていない、鼻が低い、肌がキレイじゃない、足が臭い、毛深い、髪がキレイじゃない、足が短くて太い、お尻が大きい、声が低い……など、あらゆる自分を嫌っている部分を挙げました。
 
でも、一番大きい理由は、本当の自分は意地が悪く、汚くて、良い人間ではないということでした。
 
まさこちゃんのことだけではありません。
多くの出来事をとおして、「私は良い人間ではない」と思ってきたからです。
 
「こんな自分を、好きでいられるわけがない」
 
ここから、私の「自分を好きになる旅」が始まったのです。
 
セラピーやカウンセリングなど様々な手法を使って、自分を好きになる努力をしてきました。
 
そして、知りました。
 
あの、まさこちゃんの大きな瞳と目があった時、私の心は深く傷ついたのです。
 
しかも、やってはいけないことをやってしまったのは紛れもなく、この私自身。
私は、誰かから傷つけられたのではなく、自分で自分を傷つけていたのです。
 
人は誰でも、生まれてから今日までの間に、たくさんの傷を心につけてきています。
そして、その傷こそが、「自分を好きになれない」原因でもあります。
 
その傷ついた心を、時が癒してくれることは、残念ながら決してありません。
 
特に、その人の人生にとって「重要なテーマ」に関わっている傷は、自分自身で癒す必要があるからです。
 
その証拠に、もう何十年前のとっくに終わった出来事に、今でも思い出したら怒りを感じることはないでしょうか。
 
ふとした、とりとめのない小さな出来事に、今でも心がざわつくことはありませんか?
 
それは、その人の人生にとって、「重要なテーマ」だからこそ、傷は癒えずに残っているのです。
 
その傷から逃げようと思っても、逃げられません。
むしろ、逃げれば逃げるほど、追ってきます。
 
具体的に言えば、その時の出来事と本質的に同じことが、表面上違う顔して、繰り返し起こるのです。
 
私の話で言えば、その後、小学校4年生のときです。
 
転校生のみきちゃんは、男子から「メガネザル」と呼ばれて、いつも泣いていました。
私を含めた女子は別に何とも思っておらず、普通に仲良くしていました。
 
ある時、みんなで集まって何かを話している時に、一人の男子がみきちゃんをからかいました。
 
私も調子に乗って、同じようにからかおうとしたその時、遠くから担任の先生が私たちの様子をジッと見ていることに気がつきました。
 
私は、とっさに、からかうのを止めて、みんなが笑うようなジョークに持っていきました。
思惑どおり、みんなが笑ったので、みきちゃんはそれ以上からかわれずに済みました。
 
その後、担任の先生が私を呼び、こう言ったんです。
 
「さっき、みんなを見ていたんだけど、あなたはとても爽やかな振る舞いで、素晴らしかった」
 
また、罪の意識を感じました。
 
私は、普通の友達とからかい合うのと同じように、普通にみきちゃんをからかおうとしていた。
でも、「メガネザル」と言われていつも泣いているみきちゃんをからかうことは、いけないことなんだと先生の視線から悟った。
 
みきちゃんをからかおうとした事実、それをごまかしたこと、さらに褒められてしまったこと、二重にも三重にも罪の意識を感じました。
 
こうやって、「良い人間ではない」自分をさらに思い知らされ、またもっと自分を嫌いになったのです。
 
それからも何度も、「良い人間」であるかどうかというテーマが、繰り返し訪れました。
 
だから、いくら他の人が私を褒めてくれても、「ありがとう」と言いながらも、心の中ではちっとも嬉しくありませんでした。
とても居心地が悪かったのです。
 
それは、自分では気づけないほどのうっすらとした薄い翳ではあるのですが、今振り返っても、確実に、私の中に在り続けたのです。
 
そう、逃げても逃げても、「心の傷」は追ってくる……。
 
もちろん、逃げて続けてもいいと思います。
誰だって、追って来られると恐いものなので。
 
でも、その「自分を嫌い」だと思う心の傷がある限り、やがてそれは未来をも脅かします。
 
それが、今、あなたが抱いている、漠然とした未来に対する「不安感」や「恐れ」です。
 
表面上は、お金や仕事のことだったり、子供の将来のことだったりすると思います。
でも、その「不安感」や「恐れ」の正体は、「過去についた心の傷」なのです。
 
ずっと逃げているうちに、やがてもう疲れ果て、立ち止まる日がくると思います。
というより、立ち止まらざるを得ないと思います。
 
もうどうしようもない苦しさによって。
 
そして、後ろを振り返って、過去と対峙する時がやってきます。
 
そのとき、恐れ続けていた「追手」が、傷つきボロボロになったままの自分自身だと分かったとき、こう言われるでしょう。
 
「ずっと向き合ってほしかった」
 
逃げるということ。
それは、過去を否定して、未来をも同時に否定すること。
 
逃げないということ。
それは、過去を赦し、未来を希望の光で照らすこと。
 
今、私は、人のお悩みの相談に乗る仕事をしています。
その目的は、過去に負った心の傷を癒しながら、自分を好きになってもらうためです。
 
まさこちゃんが今、どうしているかは全く分かりません。
 
でも、1つ、確実に分かることは、彼女は役目を果たしてくれた、ということです。
 
私が自分を嫌いになることで、それがどれだけ苦しいか、どれだけ幸せを手に入れても満たされないままなのか、未来への漠然とした不安が消えないのかを知ることができました。
 
その経験を生かして、誰かの傷を癒すサポートをする仕事に就くことができました。
 
あまりにも多くの人の心が傷ついていることを、彼女は生まれながらに知っていたのだと思います。
 
多くの人が、意地が悪く、汚く、醜い心を持っています。
良い人間なんかじゃありません。
 
そういう自分を見たくなくて、無視したり隠そうとしたり、良い人になろうと努力してみたりします。
 
普通に生活しているだけで楽しいことや嬉しいこと、時には悲しいことなんかもあり、それだけで十分に、「嫌っている自分」と向き合わずに済みますしね。
 
でも、誰もが知っているはずです。
 
自分だけが知る、「心の傷」を。
「自分を嫌う」という、一番悲しいことを。
 
だから、もし、これを読んでくださっている方で、過去に何か傷つくことがあったり、自分を嫌いだと思う方がいたなら、以下を考えてみてください。
 
その出来事に関わった自分自身と、相手がいると思います。
傷つけられたのかもしれないし、自分で自分を傷つけたのかもしれません。
 
どちらにせよ、その出来事に関わった相手は、どんな役割を果たすためにそこに登場しているのでしょうか?
 
また、その後に(その前かも)繰り返し起きている出来事や感覚は、どんなものですか?
共通点が、あります。
 
その出来事で学ぶべき本質、あなたの「人生のテーマ」が、必ずあります。
 
それを見つけ出した時、やっと、はじめて、その出来事でついてしまった、心の傷が癒え始めます。
 
心の傷が癒え始めたときの1つの目安は、涙です。
 
もし、涙が流れてきたら、それは遠い過去に、置いてけぼりにしたままの「嫌ってしまった自分」「闇に葬られた自分」が、やっと逃げずに向き合ってくれる「今の自分」と出逢えた瞬間なのです。
 
そこで、過去の自分のことを(相手のことを)赦せたら、こんな感覚があるはずです。
 
「自分のことを少し好きになれた気がする」
 
そして、足元をうっすらと暗くしていた雲が晴れ、その先に続く道が明るくなっていることに気がつくはずです。
 
後ろを振り返ると、あんなに曇りだらけで暗かったはずの風景は消えていて、明るい光に包まれた自分自身が、笑って手を振っています。
 
「何があっても、自分自身からは逃げないでね! 絶対……!」
 
そんな声を時々聞きながら、私たちは生きていくのだと思います。
心の傷と向き合いながら。
 
死ぬ瞬間まで、自分のことを好きになってあげる努力だけは、惜しまないように。
 
それが、人間が、人間として生まれてきた「最大のテーマ」であるとともに、光と闇の両方の自分を持って生まれてきた所以でもあるように……!
 
 
 
 

□ライターズプロフィール千神 弥生(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
言葉で人を生(活)かすストーリーテラーとして生まれてきた。
クライアントの過去から「人生のテーマ」を導きだし、親子、男女の絡まった糸を結び直しながら、悩みを根本から解決していく「時空力コンサルタント」として活動中。

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2020-09-07 | Posted in 週刊READING LIFE Vol,95

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