素人投資家いちねんせい

薄給の音大講師だった私が遺産相続し国債やアメリカ株も買っちゃったお話≪素人投資家いちねんせい実況中!≫


記事:安光伸江(READING LIFE公認ライター)

「遺産相続すると身を持ち崩す人、多いんですよね〜」

2016年に父、2018年に母をたてつづけに亡くした私に、某銀行の担当者はそう 言った。父の時は母の名義にほとんど書き換え、今度は私の名義に書き換える ことになった金融資産。相続税がかからない額だから世間的に見ればたいした ことはないけど、私にとってはかなりのまとまった金額だ。

何せ東京時代は音楽であまり芽が出ず、音大の非常勤講師は薄給だった。うつ 病が悪化して後期が始まる直前に休職し、東京の住まいを引き払って実家に帰 った1週間後にリーマンショックが起こった。「家賃分だけでも助かるやろう がね、帰ってきなさい」と母に説得され、迎えに来た父の判断で東京から撤退 することになったのだが、それまで東京じゃないとできない仕事だとしがみつ いていたので茫然自失になった。仕事が、できない。精神科では「軽い」と言 われて入院は免れたものの、両親の保護&監視下におかれることになり、家で 寝てばかりいた。ところが東京で働いていた頃より親の庇護下にあって何もし なくなってからの方が生活が楽になった。親も永年資金援助してくれていたので、その分がなくなって楽になった。皮肉なものだ。ワーキングプアそのものじゃん。

その後何年かして、母が圧迫骨折を起こしてほぼ寝たきりになった。料理も何 もできなかった私が朝ご飯だけ卵焼きを作るようになり、晩ご飯はゆめシティ のお惣菜で乗り切った。そして元気の塊だった父が出先で転倒して頭を打った のが原因で亡くなり、私が乳がんになり、自分の闘病と母の介護でなんだかん だいって仕事ができない日々が続いた。家でできる仕事がしたいなぁ、と、天狼院のライティングゼミに入って書くことを勉強し始めたら、母の具合が悪くなった。 吐くようになってわけがわからずパニックを起こしていたのだが、病院に入れたら腫瘍が見つかった。検査するとがんだとわかった。余命3ヶ月と言われたが、入院してひとつき半ほどで亡くなった。もうすぐ亡くなるとわかってからは銀行や郵便局、証券会社に相談して、証券会社の口座を作るなどの手続きを事前に行っていた。

そんなこんなでばたばたと相続手続きをした。幸い兄はちゃんとした仕事をし ていて家もあるので、仕事ができない私に家と株、そして金融資産の大半をく れることになった。というか今まで両親と私の3人暮らしで同一家計だったの で、おうちにあったお金のうちなにがしかをおにいちゃんにあげる、という感 覚だったけど。父の時は代表相続人が母、母の時は代表相続人が私になった。 同居の未婚の娘というのは手続きが非常に楽だ。戸籍も住民票もいっしょだから、血のつながりの証明が簡単なのだ。父の時はまだ私の具合が悪くて兄が主に手続きをしてくれたのだが、母の委任状が必要など大変だったようだ。

そして銀行の人に言われたのが冒頭の言葉である。今まで見たこともないよう な金額のお金を急に手に入れると、ぱ〜っと使っちゃって身を持ち崩す人が多 いらしい。なのでちゃっちゃと個人年金みたいな、何年かお金を預けておいて5年に分けて受け取る、というのに資金を移すことになった。ひとまず数年後からはお金が入ってくる、という安心感が得られた。残りのお金で数年は十分暮らせる。もともと薄給の非常勤講師だったから、幸か不幸かそんなに贅沢する習慣がない。といってもiPad Proを買ったりセラピスト養成講座を受けたり天狼院のゼミをたくさん受けたりKindle書籍や紙の本をたくさん買ったり、自己投資と称するお金はずいぶん使っちゃったけど。あとゆめシティのフードコートとレストラン街とスタバにもずいぶん貢いだなぁ。いきなりステーキなんて開店1ヶ月ちょっとでゴールドカード (通算3kg)になったもんなぁ。

さて証券会社である。
東京から帰ってきた頃、母がケーブルテレビで日経なんとかの番組を見て終値 をチェックしていたので、株をやっているのは知っていた。父にも「伸江が e メンバーになってパソコンでやってくれたらええんやけどのぉ」などと言われ ていた。リーマンショック直後のある日、母がしくしく泣いていたので、私が 帰ってきたのがいけんかったんやろうか、と悩んだけど、どうやら株が下がっ たのが悲しかったらしい。その後ショックを受けるからか母はテレビを見るのをやめてしまった。パソコンで私が操作するという話もなんとなく立ち消えになって、株は何年も放置されているような感じだった。

父が亡くなった時、証券会社から何やら書類が来た。面倒くさいからほったら かしにしておいたけど、何やら父の死亡診断書のコピーと母の身分証明書のコ ピーを送れば簡易相続できるらしい。同じ証券会社に両親とも口座を持ってい たからだ。父の死後1年以上たってから書類を送ったら、ちゃっちゃと手続きが完了した。

そうか、口座があれば相続が楽なのか。じゃぁ私も同じ会社に口座を持っちゃ おう。そう思ったけど、早く作ると母が早く死んじゃうような気がして延び延 びになってしまった。母ががんでもはや治療ができないとわかってから、母の見舞いの後にバスで証券会社の窓口に行って手続きをした。eメンバーになれば口座管理料がかからないということでそれに入り、でも素人でよくわからないから担当はついた方がいいよね、ということになった。両親とも生きていた時の担当のおじさんから父の死後若いお姉さんに代わったけれど、母の担当だった人が引き続き私の担当になった。

母が亡くなってしばらくすると、証券会社のお姉さんからじゃんじゃん電話が かかってくるようになった。遺産を投資しましょうよ、という話らしい。そん なこころの余裕はまだなくて、じゃんじゃん送ってくる目論見書などは無視し ていた。別の銀行で年金を受け取る予約をして利率のいい定期預金をしたけれ ど、投資にはまだ及び腰だった。

お姉さんはけっこう強引だった。キャンペーンがあるということで 10年ものの国債を買うことになった。まとめて入金すると現金がなにがしかもらえるというキャンペーン。某銀行の定期預金よりはいいですよ、という話だったけど、 定期預金は翌年も利息がつくのにこれは一時金だ。10年国債だけど、1年たったら解約もできるらしい。

その後もお姉さんの攻勢は続く。まだないかもっとないか、という感じで、あ の手この手で資金を吸い上げようとしている感じだった。私は内心警戒してい た。個人年金みたいなのがある、と言われたけど、もう別のところでやっちゃ いました、と断った。

そしてある夏の日、お姉さんが家にやってきた。なにやら説明の書類を見せて くれて、アメリカ株を買いませんかという話をされた。 デビューキャンペーンで、なにやら手数料がキャッシュバックされるそうだ。相続した株は、父 が定年まで勤めていた会社の株となぜかdocomo株、そしてよくわからない投資 信託の類いがあった。そのよくわからない方の株を払い戻して買うんだったらいいよ、ということにしたら、それを売るのに今は様子を見た方がいいから、別にお金を入れられないかと言われた。悪いことに某銀行の残高がまだだいぶあったので、新たにお金を入れることになった。

勧められた株はアマゾン・ドット・コムとビザ。ビザはカードの審査にも落ち ちゃうイメージがあったのでパス。アマゾンはプライム会員だしめっちゃ使っ てるけど、私が使っているのは日本のアマゾン、.co.jpであって.comじゃない。う〜ん。イマイチだなぁ。

と思ったら、一覧表のいちばん上に、「アップル」という文字がある。え〜、 え〜、アップル株なら欲しい! ということで、アップル株を買った。にこに こ。にこにこにこにこ。この私が、小規模ながらもアップルの株主だよ! うれしい! その後アップル株はさらに上がり、リッチな気分に浸っていた。

そしてひとつきくらいたっただろうか、9月半ばにまたお姉さんから電話があった。アップルの新製品発表会がイマイチだったからたぶん株も下がる、アップルはものを作る会社で、アマゾンの方がいい、と力説する。iPhone XS などの発表を見て「イマイチだな」と思っていた私は、よくわからないままアマゾンに買い換えることを承諾してしまった! 思えばこれがいけなかった。

アマゾンの株価はいちばん高い時期だったんじゃないだろうか。その後アマゾ ンはがが〜〜〜〜〜っと下がった! アップルは自社株買い? だかなんだかの おかげか? あまり下がってない。損益、マイナス数十万円。

……ぷち

血管、切れた。というより、パニックを起こした。
ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!! これじゃ損切りもできないじゃないかぁぁぁぁぁぁぁ!!!!! お金、返して〜〜〜〜!!!!!

アップル株を持っている時は、ああ愛するアップルの株主になるなんて、私は 幸せだわ〜、とリッチな気分に浸っていたのだけど、アマゾンにはそんなに思 い入れはないから、株価が下がって損益マイナスうん十万円となるとぶち切れ た。証券会社のお問い合わせのところに文句を言って、電話もしたら、 担当のお姉さんの上司である課長さん(女性)から電話がかかってきた。
私はアマゾンとアップルの株を元に戻して欲しいとずぶの素人丸出しのことを 言ったのだけど、それは法律上できないらしい。そりゃそうだ。そんなことが できるなら、株で損する人はいない。

しくしく
しくしく

でもお姉さんに対する不信感はMAXになっていたので、担当者を替えてもらうようお願いした。悪いのはお姉さんではないかもしれないけど、でもこの人ともう取引したくない気持ちが強かった。

そして白羽の矢がたったのが、今の担当であるにぃちゃんだ。いきなりステー キのゴールドカードを持っていてiPhoneユーザーであることに親しみを感じた。それに、いろんなことをよく説明してくれる。というかようしゃべる。お姉さんの時はわけがわからないまま言われるがままだったけど、にぃちゃんの話を聞いていたら、何を勉強しないといけないか少しずつわかってきた気がする。デスクに電話したらすぐ折り返してくれて、聞いてないことまでいろいろ説明してくれて、わからないことがあったらいつでも何でも聞いてください、と言ってくれる。そうだよ手数料高いんだから、こうやって相談に乗ってくれないといけないよ。なんてことも思った。父が定年まで勤めていたところの株は、もっと条件のいいところはあるけど、父が働いていたという証しだから持っておきましょう、というので意見が一致した。

そうだよ担当者ってのはこうやって話ができなくちゃ。

その後、にぃちゃんも十分強引だしやり手だし、お姉さんが悪かったわけでは ないんだろうな、というのがわかったけど、それはまた別のお話で。

そんなわけで今日の教訓:証券会社の担当者とは、信頼関係を作ろう!

株式投資ってのはメンタルな面が強いんじゃないかな、と初心者は思うのであった。

つづく。

❏ライタープロフィール:安光 伸江(READING LIFE 公認ライター)
山口県下関市出身・在住。下関西高、東京大学卒業、東京藝術大学大学院修了。
大学卒業後は東京で声楽・器楽の伴奏ピアニストや音大非常勤講師などの音楽活動をしていたが、2008年9月に病気療養のため実家に帰る。その後2016・2018年と両親を看取る。2016年乳がんの全摘手術と抗がん剤を体験した乳がんサバイバーでもある。ライター、セラピストの卵、ブロガー、素人投資家。
天狼院メディアグランプリ 21st season 総合優勝。週間1位複数回。

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2019-02-11 | Posted in 素人投資家いちねんせい

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